二日目 非力と上下関係と待機とスキエンティアと
「お待たせしました!!」
お店を出てから全力で駆けましたが、当然のように時間には少し間に合いませんでした。
リリィちゃんはすでに買い物を終えていたようで商店街の入口で待ってくれていました。
「すみません、ちょっと遅れてしまって……」
「いえいえ、全然待ってないですよ。私が少し早く着き過ぎただけですから」
うぅっ、リリィちゃんに気を使わせてしまうとは、申し訳ない……。
ところで今の会話なんか恋人っぽくていいですね。
……昔、どこかの読んだ本にあった気がします。
「今日は日も強いですし、早めに食事できるお店へ行きましょうか」
「そうですね。その食事できるとこってここら辺にあるんですか?」
少なくとも、ここの商店街には食材は売っていましたが、ご飯が食べれそうな場所はありませんでした。
いや、まぁパッとしか見てないんですけど……。
「ここら辺にはないですね。小さな村の不便なところの一つでしょうか、宿から見て左。ここからだとちょうど反対になるんですけど。そこにこの村唯一のお店があるんです」
反対の方ってことはかなり遠いですね。私は長旅で歩くのは慣れていますけど、リリィちゃんは大丈夫ですかね?
「それだと結構歩くことになりますね。リリィちゃん荷物多そうですけど、少し持ちましょうか?」
私の荷物が少ないっていう方が正しい気がしますが……買った荷物になりそうなもの杖くらいですし。
ちなみに、リリィちゃんは袋を二つも抱えています。私用の日用雑貨って言っていましたが……それにしては多いですよね? 一体何が入ってるんでしょう。
「すみません、ちょっと買いすぎちゃったんです。一つお願いしてもいいですか?」
「任せてください、私これでも力強いんですから」
(…………嘘つけ)
黙っててください (いや、だってお前……その小娘より力ないじゃ……) 黙れ。 (…………)
「そうなんですか? 華奢な体なのに……やっぱ旅をしているとそういうのも身につくんですね!」
「あはは……まぁそんなところですかね。リリィちゃんだってそんな力があるようにも見えませんけど、結構力持ちですね」
そういって袋を一つ受け取る。うぇっ!? この袋かなり重いんですけど!? 私これ二つ持てる気がしないんですが!!
一つ持っただけで腕がふるえてしまっています。こんな細腕でどうやってそんな持てるんですか。
「わたしは昔から宿の仕事手伝っていましたから……その影響でちょっと力がついただけです」
「十分すごいですよ。私はそんなおうちの仕事手伝ったりしていなかったから余計にそう思います」
「そうなんですか? ソラさんのご家族はなにされていたんです?」
「両親は共に冒険者でした。私はそんな戦闘はできないので手伝ったりはできなかったんですよ」
もう引退してますけどね。今はなんか使いきれないくらいの貯金があるらしく、家でそりゃもうぐうたらイチャイチャしてます。
「冒険者……!? すごいですね。冒険者で生きていけるようになるのはかなりきついって聞きましたけど」
……え? 私それ初耳なんですけど、楽して稼げて楽しそうとか思っていたんですけど!?
少なくとも私の村では、そういった稼業で食っていってる人が多いですし……。
「そんな大層なものじゃないですよ。二人ともそんな強くないですし」
「そうなんです? 実際この村でも冒険者なんて4人しかいないので……」
4人!? ここより少し大きいくらいの村でしたけど20人くらい居ましたよ……。
「それはたぶん、村の生活習慣とかの違いとかもあるんじゃないんですかね?」
「そうかもしれないですね」
私の方はそんな納得してないですけど、だって両親が強そうには思えないんですもん。
……まぁ納得してくれたのならいいですかね。
――――だいぶ時間が経ってとりあえず、宿まで戻ってきました。流石に私でもこの短時間でこの距離を、しかも結構、暑い中歩くのは少し疲れてきました。荷物重いですし。
「それじゃあ、あっても邪魔なだけですし、この荷物だけおいてきちゃいます」
「はい、私はここで待っていますね。この荷物だけ返しておきます」
正直、もう腕が限界なのです……。
リリィちゃんが平気そうな顔しててちょっと自信なくしそうです。
「すぐ戻るので、少し待っててください」
そう言ってそのまま行ってしまわれました。さて、リリィちゃんが戻るまでの間どうしましょうか?
(もう喋ってもいい?)
あ、そういえばあなたを置いてくるの忘れてましたね?
(俺置いてかれんの!? これでも神器なんだけど!? 常備してくれるとありがたいなぁ?)
いや、なんかあんま神器とかって感じしなくて……置いていっちゃダメなんです?
(いや、あの俺自分で言うのもなんだけど便利だよ? もうちょい使い道とかあるじゃん)
便利でも常に持ってると邪魔そうじゃないですか。
(なにかお得な情報を教えるから、連れて行ってもらいたい……)
とうとう物でつり始めましたよこの杖……っていうかそれ教えてもらうのも魔力吸われるんですよね?
(……マスター思ったよりも鋭いよな……だが、安心してくれ魔力は常に微量だが吸ってる)
え!? それ聞いてないんですけど!? どういうことですか。さっきあなたが言っていたのに……。
(待って、話聞いて、俺なりの優しさでもあるから! お願いだからそんなにらみつけないで!?)
まぁ、話聞くのは全然いいですけど……それで一体?
(俺の魔力の消費量、常人だと結構辛いんよ、マスターは結構魔力持ってるからそこまでの心配はなさそうだけども。んで質問によっては、一発でマスター魔力が尽きることもあるわけなんさ。それを防ぐために事前に少しもらっておこうかなと……)
……なるほど、まぁ理解はしましたが……次からそういうのはちゃんと私に言ってからでお願いしますね? 私の性格くらいは見て知っているでしょう?
(了解した。次からはちゃんとマスターに聞くよ……すまなかった。あと、俺は感情とかってのはわかんなくてさ、性格からこうなんだろうって導き出すことはできても、実際の気持ちは一切わかんねぇんだ)
わかったんならいいんです。感情は分からない……全知って言ってもそんな使えないんですね。
(我が神に与えられた全知だからな、完璧なわけではないってことなんだろうな)
まぁ、そこまでわかったならいいですかね? それじゃあ持って行ってあげるので、何か教えてください。何を教えてくれるんですか?
(なに聞くか俺に任せるって……ほんと、面白いマスターだ。あんたをマスターに選んでよかった)
単純に今、特に聞きたいことが思いつかなかっただけです。あとはまぁ、あなたが何を教えてくれるのかの方が知りたかったっていうのもありますけど。
(そんじゃ、まぁ期待に応えれるように頑張るとしますかね。そうさなぁ……マスターは集中すると周り見えなくなるタイプだろ?)
え、まぁはい。比較的そうですね。それが何かありましたか?
(それじゃ、今日だけでいいから集中しないといけない時こそ周りをよく見て見るんだ。特に手元に注意だな)
……はい? それが役に立つことなんですか? よくわからないんですけど……。
(……すぐにわかるさ。今言ったこと忘れんなよ?)
まぁ……はい、心に留めておきます。
ところで……お腹が急に減ってきたんですけど……これ欲求解放のやつですよね? そんな一気にお腹減るような内容じゃない気がするんですが……。
(まぁいいじゃねぇか、どうせ今からその欲求を満たしに行くんだからよ)
それはそうですけど……なんか納得いかないですね……。
******
しばらくの間、お腹を空かせながらスキエンティアに文句を言っていると荷物を置いてきたリリィちゃんが出てきました。
「すみません、お父さんのご飯だけ簡単に用意していたら遅くなってしましました」
「いえいえ、そんなに待ってないですよ。アザレアさんが空腹で倒れても困りますしね」
「ふふっ、そうですね。それじゃ私たちが倒れても困りますし向かいましょうか。」
軽い冗句のようなものをはさみながらも再び歩き出す。スキエンティアのせいでかなりお腹が減ってしまいましたし、この村唯一のお店の料理がとても楽しみになってきました。いったいどんなところなんでしょう。