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♯ソラノート  作者:
旅の始まり
2/45

一日目 宿とお風呂と手料理と後悔と


「お恥ずかしいところを……お見せしてすみません……」


 客人用のソファなのでしょう。玄関を入ってすぐ右の場所に少し広い空間があり、そこにあるそのソファに腰掛け、待って暫くすると、リリィ・ヴァイオレットが着替えを終え、顔を真っ赤にしたままやってきました。

 少女の着ていた服は、私服、というよりかは仕事用と思える服でした。

 この暑い季節に長袖の茶色を基調とした少し地味目な服に、下は青というよりかは紺色に近い膝下までのびたスカート。服はこれといって華々しさはありませんが、逆にそれが素材の良さを高めているように思えます。

 それにしても、相当焦っていたんでしょうね。髪は生乾きのままですし、服も少し乱れています。


 しかし、改めて見ても可愛いです。腰ほどまである髪は、風呂あがりということもあってか、さらさらのつやつやですし、顔も撫でまわしたいくらい可愛い絶世の美少女です。

 ただ、服は裕福ではないからでしょうか、自分で縫合した跡が残っていたり、ほつれていたりしてしまっているみたいです。


「いえいえ、こんな時間に急に押し掛けたのは私の方ですので、それで、宿の方は大丈夫ですか? この時間からですと、ご飯とかの準備とかもありますよね……?」


「えっと、部屋に関しては全部空いてるので好きなところを使っていただいていいんですけども、ご飯とお風呂がちょっと……明日の朝の分はなんとかなるのですが、今日の分が……今からだと用意が出来なくって」


 うん、そうですよね、……すみません。

 っていうか全部屋空いてるのって宿屋としてダメなのではないですか?普通に営業できてないじゃないですか。


「それでなんですけど、私と父の分のご飯を今から作る予定だったので、それに合わせて一緒に従業員用として作る形でならご用意できるのですが……」


「全然それで大丈夫ですよ。むしろ、無理を言って申し訳ないです。それじゃあ、とりあえず一晩、お願いします」


 まともなご飯食べられるだけで全然いいのに、まさかこんな美少女の手料理が食べられるとは思っていませんでした。まぁ、宿ですし、お金はかかりますけど。


「……そういえばお風呂の方はどうしましょう?」


 そう尋ねながら、受付のような場所へと行くと、とりあえずで色々と記載された紙とペンを渡される。どうやらこれに書けばいいみたいです。

 ここ最近は、魔法による水浴びしか出来てなかったので、出来るなら入りたいです。匂いとかは問題ないとは思いますが、個人的になんか嫌なんです。


「一応大浴場があるんですが……沸かせてないので、えっと、私が先程まで使っていた従業員用の小さいお風呂でしたら、すぐにでも準備できますけど……」


「えっ……?」


「ああっ……すみませんっ!! ほんとっ……宿屋なのに何もできなくてっ……!」


「……えっと、リリィさんが使っていたお風呂を貸していただけるんですか?」


「そうですね……そういう形になります」


 えっなにそれ、最高ですか!? あ、いや、私はそんな変態じゃないです。変なことは考えてないです。ちょっと使ってたタオルとかないかなとか思っただけですから。


「はい、料金の方は少しサービス致しますので、ご了承頂けると助かります」


 追加料金発生してもいいんですけど……? ついでに追加料金払ったらなにかついてきませんかね? 洋服(使用済み)貸出とか……。


「……いえ、料金はそのままで大丈夫ですよ。それでは、お先にお風呂借りますね」


 お代は銀貨5枚、普通の宿だと金貨一枚(銀貨10枚)はいっていてもいいというのに、ただでさえお客さんがいないのにこんなに安くては宿屋としてやっていけないのでは、と不安になりますね……。

 受付を済ませると、リリィちゃんから部屋の鍵を受け取って、一番近くの部屋へと向かう。近いところがいいと言ってここの鍵をもらいました。


 鍵を差し込み扉を回し中へと入っていく。

 部屋の中は、狭いということはなく、むしろ、一人用とは思えないくらい広々としていました。

 これは……とても快適そうです。

 置かれてあるものは簡素なものばかりですが、大きなベッドと簡素な棚、それと、大きな窓ガラスの横に木製の丸机と椅子が置いてありました。

 どこか高級宿と間違えているんじゃないかと思ってしまうほどの設備です。決してお高そうなものとかを使っているわけではないのに、一つ一つがとても丁寧に手入れをされているのがよくわかります。

 照明は上に魔石ランタンが一つと棚とベッドに一つずつそれぞれ置いてあり、特に不自由することもなさそうです。

 重い荷物などはありませんが、ポーチや上着などは邪魔なので、部屋に置いていきましょう。まぁ、他にお客さん居ないみたいですし、盗まれたりはしないでしょう。

 部屋を出ると、先ほど説明された道を辿って脱衣場へと入る。流石にここを漁りだしたら、人として終わりな気がするので我慢です。

 私だって、一応女の子ですし、顔だっていい方ですからね。白髪、碧眼の美少女なのに、私のいた村の人は皆して


「顔と頭はいいんだがねぇ……」


 ……とか、ひどいと思うんですよ。ちゃんと外では礼儀正しくしてるのに……。

 ちょっと可愛い娘を愛でてるだけだというのに、誰だって可愛い子を愛でたりとかするじゃないですか。


「それにしてもお風呂久しぶりですね……」


 服を一枚、また一枚と脱いでいき、生まれたままの姿になった私は、そのまま戸を開けてお風呂場に入る。どうやらここら辺の地方は湯船に浸かって入るみたいで、そんな広くはないようです。従業員用といっていましたから一人用なんでしょう。

 ちなみに私の故郷はシャワーでした。王都は湯船に浸かるお風呂だったので、入ったことは何度かありますけど、恐らくは相当久しぶりになるんじゃないですかね?


「はああああぁぁっっ……」


 掛け湯を済ませ、湯の張ったお風呂に足を入れていく。

 何度か味わっても、このお風呂に入る瞬間のぞくぞくする感覚は慣れませんね……。

 特に今日はずっと外を歩いていたこともありますし、体が冷えていたのでお風呂のこの暖かさが体に染みてきます……。


「ずっと入っていたい……出たくないです……」


 やっぱり、旅をするにもこういった、体を休ませるものが必要なんでしょう。むしろお風呂や食べ物、睡眠などをよりよく味わうためって人も多そうです。

 とりあえずはこの暖かいお風呂をたっぷりと味わうことにしましょう。





******


「のぼせました……」


 実は、私はもともと熱がそこまで得意ではないです。普通の人と比べるとかなりのぼせるのが早いほうだと思います。

 そのせいで、まだ本当にちょっと入っていただけだったんですけど、頭から足まで真っ赤っかになって湯気が出ちゃってます。とりあえず、お風呂場からは出て、今は脱衣場でタオルを巻いたまま寝転がっていました。

 このまま動けないのもいやですし、仕方ないですね……。


「冷やしてくださいっ、氷の風(アイスウィンド)


 熱の籠りやすい場所に冷風を当てて、熱を逃がす。流石にタオル一枚で脱衣場にいつまでも寝転がってるのは倫理的にも社会的にもまずいです。


「ああ……やっぱ冷たい方がいいですね……」


 実は、こんなことになっているのは私の種族のせいなんです。

 私は、いわゆる種族的分類をすると人間ではありません。私の祖母にあたる人が精霊であり、その血を継いでいるため、二半混血種(クウォーター)となる。祖母は氷を操る妖精であったため、私はうっすらですけどその傾向が残ってしまっているようで、このようになってしまっています。


「……うぅ、まだポカポカします……」


 まだ少し身体が熱を帯びていますが、とりあえず動けるようになったので、さっさと服を着て部屋へと戻りましょう。このままの状態を見られてしまうとかなり変な人っていう扱いを受けてしまいますから。

 服を着ると、まだ熱の冷め止まぬ身体をなんとか動かして部屋に戻ってくる。

 さっきは見てませんでしたけど、どうやら、備え付けで各部屋にトイレがあるみたいです。


 ボフンッ


 大きな、二人くらいなら寝られそうなベッドへと身体を沈める。本当に設備は良いようで、ベッドやトイレ含め部屋の物はとてもしっかりと手入れされています。このベッドのお布団も、とてもふかふかであったかいです。もうこのまま寝ちゃえそうなくらい……。

 残念ながらまだ、ご飯も食べていませんし、寝るわけにはいかないんですけどね。

 

「もうそろそろ……ご飯できましたかね……?」


 さて、そろそろどれくらい時間がたったか確認しませんと。

 私の左手についている小さなものは魔力で動いてくれる時間を刻む時計で、一応、私が持ってきた数少ない私物の一つであり、お気に入りの一品です。

 時計はチェックインしてから半刻ほど経った時間を指していた。そろそろご飯の準備が完了していてもいい頃です。魅惑のベッドから離れたくはないですけど、可愛い少女の手料理の為にも行かねばなりません。


「うぅ……さらば愛しきベッド……しばしのお別れです」


 そう言い残すと、ベッドから降りて、乾ききっていない髪から水がこれ以上こぼれるのを防ぐためにも部屋の入り口に置かれていた小さなタオルを手に取り、髪を軽くたたきながら部屋の外へと向かう。

 さてと、どこへいくんでしたっけ……? そういえば場所を聞くのを忘れていましたね。とりあえず、さっきの受付カウンターの辺りに行ってみますか。部屋を出てすぐですし。


「さて、来たのはいいものの……リリィちゃんは見当たりませんか……」


 どうしましょう、先に何処にいけばいいか聞いておけばよかったです。

 そんな適当なことを考えて少し周りを見ながら立っていると、後ろからパタパタッという足音と共に少女の可愛らしい声が聞こえてくる。


「あっソラさまっ……よかったぁ……すみません、場所を伝えるのを忘れていて……」


 少女は先程とは違い、服の上から白いエプロンを身に纏っていました。質素な服ともとても合っていて、村娘って感じがすごいです。最高です。


「私も聞き忘れちゃってて、あと……そのソラ様っていうの、なんか慣れないんで、やめてもらってもいいですか……?」


「えっと……しかしお客さまですので」


「それならなおさらです、お客様からの要望ってことでお願いします」


「……っ! は、はいっ、えっとソラ……さん?」


「うんっ! なにかな? リリィちゃん」


「ちゃんっ……!!??」

 

 一瞬にして顔が火が出そうなくらい真っ赤になってしまっている。駄目でしたかね? 勝手にそう呼んでいたんですけど……。

 慌てている姿もかわいらしいんですけど、流石に嫌だと言われたら止めるしかないですか……。


「すみません、いいかなと思ったんですけど……」


「いえっそうじゃないんですっ……! ただっ、ちょっと……そんな風に呼ぶ人なんてこの村の人くらいだったので……おっ、驚いただけですっ」


「そっか……よかったです。嫌がられちゃったかと思いました……。それじゃあご飯食べに行きましょうか、リリィちゃんっ」


「えっあの、そのまま……なん……ですね。ううっ……恥ずかしいですっ」


 反応を楽しむために少し弄ったんですけど……予想以上の反応をしてくれて私は大満足です。リリィちゃんは一緒に居ればいるほど可愛い一面をみることができて私の心がどんどんと満たされていきます。


「とりあえず、ご飯の準備は終わってるので、そこの椅子に掛けて待っていてください」


 部屋に案内され、机の前につく。どうやら従業員用の部屋かなにかみたいで、隣の部屋が調理場になっているみたいです。

 リリィちゃんは隣の部屋から順番に料理を運んでくる。私の故郷の村と食文化が違うらしく、パンやスープ、サラダといったものが主となっているらしいです。一応少ないですけど、お肉も添えられてありました。普通だったらもっとお肉はあるらしいんですけど、従業員用の方はこんなもので済ませているそうです。

 それにしても、あまりに違いすぎます。お風呂の時もそうでしたけど、食事も含めて私のいた村と差がありすぎます。そんな遠いわけではないと思うのですけど……。

 もしかして、私かなり遠いところまで来てしまっているんでしょうか? ここまで文化が違うと不安になってしまいます。


「リリィちゃんっ……この村の位置を知りたいので……王国のマップを借りてもいいですか?」


「……はいっ、大丈夫ですよ。食後でよろしければ、説明しますね」


 そうこうしているうちにリリィちゃんの手によって料理が机の上に並べ終わっていました。

 湯気が立っているスープやパンの良い香りが食欲を刺激してとてもお腹がすいてきます。あまり食べないものばかりだからでしょうか、どれも気になってしょうがないですっ。

 それに、リリィちゃんが作ってくれたものだからですかね、とっても美味しそうです。


「それじゃあ……いただきますっ」


「……なんですか? それ……?」


 きょとんとした顔で聞かれる。しまった……つい癖で言ってしまっていました。


「これは料理を食べる時に、その食材に感謝の意を表す挨拶らしいです。私の兄はそういってました」


 結構な本を読みましたけど、そんな記述がある本は知らないので適当に言ってたんじゃないですかね。 正直信じてはいないのですが、ずっと使われているうちにいつのまにか普通に使ってしまっていました。


「そんなものがあるんですね……えっと……いただきます」


 それを聞いてか、かわいらしく両手を合わせ同じように挨拶をする。なんて律儀で可愛いんでしょう。 私の魔力はもう満タンまで回復してしまいました。

 挨拶をし終えると、すぐにパンを手に取り、口の中に運んでいく。

 もうお腹が減ってしまって我慢なんてできません。あっ、思ったよりも固いです……。

 そのままの動きで、私の前に並んでいる料理をどんどんと食べ進めていく。

 あまり食べることも無いものばかりなので、新鮮でとても美味しいです……手が止まりません。


「んくっ、はぁっ……そういえば……リリィちゃんの家族の方はいらっしゃらないんですか?」


「…………」


 その言葉を聞くとリリィちゃんの動きが一瞬硬直する。

 あっやばいです。そりゃそうですよね。特に考えず適当に聞いちゃいましたけど、誰だって聞かれたくないことだってありますし、そもそも家族のこととか、その代表的な例ですもんね……!?


「……あのっ、もちろん言いたくなければ言わなくていいですので……ただ、さっき父の分と言っていたので気になっちゃって……」


 ああっ……くそぅっ言わなければよかったです! 雰囲気が微妙すぎます……。

 なんで私はわざわざ空気をぶち壊していったんでしょう。


「いえ、それは問題ないんです。……ただ、ソラさんにその件で一つ相談があるんです……。いえ、旅人さんに話すようなことではないんですけど……」


「……相談ですか?」


 えっ……なんですか、その思わせ振りな言い方は、怖いんですけど? 私一体なにを言われるんです……?


「えっとまず、私の父はこの村の村長であり、この宿屋の主人なんです」


「……そうみたいですね」


「この村は元から過疎っていた村だったんですけど、先月、私含めて三人しかいない若者のうち二人が、王都へ行ってしまって……父は、俺たちだってまだまだ現役だ、って言って無茶をして、足腰を悪くしちゃったんです」


「それで今は、ベッドから動けなくなっちゃって……」


「そうだったんですか……あ、おかわりもらっていいですか」


 病気で目を覚まさないとか、そういう重たい話だと思ったので怖かったですけど、怪我で動けなくて困ってたんですね。決してよくはないんですけど、あまり大事じゃなくて少し安心しました……。


「あ、よそいますね、座っていてください」


「ありがとうございます。それにしても美味しいですね、これならいいお嫁さんになれますよ」


 私とか空いてますよ?


「いえいえ、そんなことないです、これくらいだったら誰でも作れますよ……それでソラさんにお願いしたいのが……この村の復興なんです」


 くっ……話を逸らせたかと思いましたが、そんな簡単には行きませんか……。

 えっ? なんで逸らそうとするかですか? 簡単ですよ、どう考えても面倒ごと押し付けられる奴じゃないですか、これ。


「……復興っていっても私、ここの村のこと知らないんですよ?」


 さっきここについたばっかりですし、そんなこと言われても私なにかできるわけでもないですよ? 

 ……そもそも単なる旅人ですし。


「わかってはいるんですけど……最近は旅人さんだって一人も来てくれなくて……このタイミングでソラさんが来たのも何かの縁だと思うんですっ! ……といいますかもう、無理を承知で頼むしかないんです!」


 若干の涙目で訴えかけられる。特に今やることも決まってないですし、とりあえず王都行きますか的な感じだったので別にいいんですけど……やること多そうですし、めんどくさそうなんですもん……。


「お願いしますっ! この村のために協力してくださいっ……私に出来ることならなんでもしますからっ……!!」


「――――私に任せてください。この村を国レベルまで発展させることくらい容易です」


 ……じゃないですよっ!!!!???? 何を口走ってるんですか私っ!? くそぅっ、餌が大きすぎました。とりあえず今からでも訂正をしないと!!


「あっ……そのっ、今のは言葉のあやと言いますか……つい口が勝手にと言いますか……」


 ……あっ駄目です、すっごい目輝かせちゃってます。やめてください、そんな目で私を見ないでください……断りきれなくなっちゃうじゃないですか。


「ほっほんとですかっ! ありがとうございます! ソラさんっ!」


 ぎゅっと抱きしめられる、こんな事情でなければめちゃくちゃ嬉しい筈なのに、嬉しく感じれないです……とりあえず匂いと感触は堪能しときますけど………。





 私わかりましたよ。リリィちゃんに頼まれると断れないです、これ。

 はぁ、もうどうにでもなってください……。




ノベルバの方の設定が変わっちゃったのでこっちに投稿していこうかと思います。

こんな作品ですが呼んでくれた皆々様、心からありがとうございます。

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