取調室という場所
「菱尾が研究してたのはこれだよ。英語では『デザイナーグレーン』と書いてある。遺伝子組み換えで病気に強い抵抗力を持つ穀物だ。」
ジュンの作業机には1か月にもわたる奮闘の痕跡が残されている。山積みになった紙束に印刷されているのは顕微鏡写真だろうか。
「データエラーで読めない場所もあるが、9割以上復旧した。あとはあんたらの仕事だ。」
内山をはじめとする捜査員たちはジュンに深々とお辞儀をすると、復旧されたデータディスクをもって捜査本部へ向かった。そこには多摩中央署のケルベロス堀口巡査をはじめとした農学クラスタが待っている。
「12時間下さい。このデータは臭います。」
堀口は細いメガネの内側の目を細めてそう言うと、急造の自分のデスクに向かった。久谷はデータを凝視する堀口から離れると内山に近付いた。
「課長……」
内山は首を振った。
「だめだ、まだ宮地には黙っておく。情報が少ない状態で宮地と戦ってはダメだ。」
「宮地との『戦い』ですか。」
内山は取調室の扉を見ながら言葉をつづけた。今は宮地はいないが、そこには宮地の鬼気迫る決意の残滓があるように感じる。
「宮地は何かと戦っている。その敵になってあげられるとしたら、それは私たちだ。」
「敵に『なってあげられる』ですか。」
午前1時ごろ、研究データの解析班から内山に連絡が入った。