M社という企業
M社には既に他の警官が到着していた。
「今、研究データの提出の協力を取り付けているところです。」
先に到着していた捜査員が久谷に経過を報告する。
「久谷さん、私が思ってる通りの企業なら、そう素直には出して来ないと思います。」
「なるほど。」
結構な人数の私服警官がうろつくM社ロビーは何やら異様な雰囲気になっていた。そこを通りがかった若い男性が急に怪しい動きをする。
「原田さんお久しぶりです。」
「ほ、堀口!なんでここに!?」
原田という男はここの職員らしい。
「何しに来たんだよ!別にやましい研究とかしてないよ!」
「放火殺人の事件で来たんですよ。警察に就職したので。」
「え?」
とりあえず、自分の番だと思った久谷が会釈して警察手帳を出した。
「堀口が?」
「こちら久谷警部です。私は堀口巡査。」
「堀口巡査ァ?」
原田は拍子抜けした顔をしている。
「放火殺人事件に関連して、事件のあった研究室で研究されていた内容を調べています。」
久谷がそういうと原田は堀口の顔を見直した。
「やっぱり研究内容探ってるんじゃん!マジかよ!警察になってまでそんなことしてるのかよ!」
「たまたまです。普段は交番勤務してます。」
久谷はもしかすると堀口はイヤな奴なのかもしれないと思い始めていた。
「久谷さんこっちにデータセンターあるはずなんで、ちょっと見に行きませんか?」
「おう」
「ちょっと!部外者立ち入り禁止です!」
「勿論、任意ですよ。原田さんご協力願えますか?」
「いや無理だよ!データセンター室長の許可が無いと。」
そう言われると堀口はじっと原田を見つめている。久谷はそんな二人を交互に見ている。
「分かったよ……」
ため息をつきながら、原田がデータセンターの扉を開けた。カードキー方式のようだ。
「ご理解いただけて何よりです。久谷さん少し寒いですよ。」
堀口の言う通りデーターセンターは冷房がガンガンに効いている。中では何人かのスタッフが焦った様子で何か作業をしている。
「原田!お前何……うわ!堀口!!」
「もしかして、警察に提出するデータの編集作業ですか?そのまま出していただいても結構ですよ?警察には守秘義務がありますから、特許になりそうな情報とか洩らしませんし。」
原田が泣きそうな顔をしている。
「堀口、刑事になったんだって……」
堀口が反論した。
「巡査です。普段は交番勤務です。もしかして、また兵器に転用できるかもしれない杜撰な研究してたんですか?」
「もうカンベンしてくれよ……」
久谷は腕をさすって肌寒さに耐えていた。