内山という警視
内山は見事に農学系の警官をかき集めてきた。
「多摩中央署にもすごい奴がいるらしい。農大のエリートだそうだ。2時間後には合流してくれるらしい。」
「なんでそいつ警察入ったんですか?」
久谷に突っ込まれて内山が立ち止った。そして、再び無言で歩きだす。分からなかったのだろう。滑り込むようにして入った部屋には「M社研究所放火殺人事件捜査本部」と書かれた紙が貼ってある。何で警察に入ったのか分からない、警視庁が日本に誇る農大出身の警察官が増強されている。
「ここまで捜査は非常に順調だった。まず礼を言いたい。だが、知ってのとおり動機が全く見えていない。容疑者宮地徹に対する取り調べも、交友関係など身辺捜査も継続するが、本日より捜査を研究室で行われていた研究内容に拡大する。助っ人として農学に詳しい人員を増強した。普段見ない顔ばかりになるがよろしく頼む。」
人員の配置が発表されて質疑が起こる。
「M社の研究内容、『耐病・抵抗品種の研究』ですが、イネですか?それ以外の作物ですか?」
「全く分からん。」
会議室にため息が漏れる。ため息をついているのは農学畑の連中だ。久谷は乾いていない髪をハンカチで押さえながらその様子を見ていると、内山に突かれた。
「手ごたえあるぞ。やってくれそうな気がする。」
そういったのも束の間、会釈しながら部屋に入り、後ろの方の席に座ったリュックサックの男がいた。
「久谷、来たぞ、あいつだ。堀口巡査。多摩中央署から来たエリート。交番勤務。農学博士。ドクターだよドクター。」
内山が指し示すそのリュックサックは細いシルバーフレームのメガネをかけている。内山は席の間をすり抜けて、その堀口の横に腰かけた。
「キミがホリグチ巡査だね?私、内山。一応課長なの。キミには本当にすっごく期待してる。ほりぐち博士って呼んでいい?」
こうして農学クラスタが野に放たれた。