宮地徹という男
「名前は」
「ミヤジトオル、31歳」
「職業は」
「研究所勤務」
「……放火殺人を認めるのか?」
警察官が顔をあげて宮地徹を見る。
「認めます。私がやりました。」
警察官は呼吸を整えるように調書にペンを走らせる。
「動機は。」
「言えません。」
警察官は3人。
「……事件当日の行動について聞かせてください。」
「朝、6時に家を出ました。」
警察官が書面をめくっている。
「家は阿佐ヶ谷のこの家で間違いないか?」
宮地はその紙を一瞥すると「間違いありません」と言った。
「放火に使ったガソリンはどうやって入手した?」
「レンタカーに満タン給油して、研究所の駐車場でポリタンクに移し替えました。違法だとは知っていました。」
「いや、放火殺人認めてるなら、もはやガソリンの取り扱いで何か言われることは無いと思うな。ポリタンクはどこで入手した?」
「前日にホームセンターで買いました。」
「うん……調べの通りだ。」
警察官はうんざりした顔で紙をめくっていく。すべて調べてある通りだ。隠ぺいする気も無いらしい。その調子で行動を聞き出していく。
「計画性もアリ。精神的に参ってたわけでは無い。このパターンだと本官が知る限り……極刑になるよ?」
「仕方がないでしょう。」
宮地はさらりと答えた。その目からは感情が読めない。
「今日、もう一回だけ質問させてもらっていいか?」
「どうぞ。」
警察官はあきらめ顔で
「動機は?」
と尋ねた。
「言えません。」
と宮地は答えた。