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017 孤児院


「ジンー! お昼ご飯出来たよ!」


「今行くー!」


 快晴の陽の下でジンと呼ばれた一人の少年が声の主の下へ向かう。

 そこでは既にジンと同じ年ごろの子供たちが何人もそれぞれの席に座っていて、その前にはパンとスープが並んでいる。

 ジンは空いている席に勢いよく座ると、他に空いている席は無くなった。


「それじゃあ――」


「「「いただきます!!!」」」


 子供たちの中で一人だけ初老の女性が手を合わせると、子供たちは一斉にそう叫んだ。




「ふわぁ、暇だなぁ……」


 ジンは欠伸を噛み殺しながら呟く。

 周りでは子供たちが部屋の中で各々に楽しそうに遊んでいるが、さすがにいつも同じ遊びばかりではジンも飽きてしまった。

 今は誰とも関わることなく、部屋の隅で寝転がっている。


 ジンはいわゆる孤児だ。

 小さい頃に色々な事情で親元を離れなければならなかった子供たちが集められ、孤児院の中で自立できる年齢まで育てられることになっている。

 質素な生活ではあるものの、それなりに満足の出来る生活は子供たちも満足げだ。

 基本的に孤児院から出ることは禁止されていて、少なくとも十歳を超えるまでは大人しくするように言いつけられていた。

 まだ七歳のジンは、あと三年も待たなければろくに孤児院の外へ出ることも出来ないのである。


 ジンも孤児院の中で友達がいないわけではない。

 日々一緒に生活していれば、気心も知れてくるというものだ。

 だが限られた空間から抜け出したいと思ってしまうのは仕方のないことだろう。

 ここ最近では部屋の中でも暇そうに寝転がることが増えた。


「じゃあ皆もしばらく自由に遊んでいいよー」


「はーい!」


 そんなジンにも楽しみはある。

 それは午後の自由時間の途中にある。

 この時間では孤児院の敷地内であれば庭に出てもいいということになっており、普段外で遊べない子供たちは我先にと外へ飛び出していく。

 ジンはそんな彼らから一歩遅れて外へ出ると、目的の場所へ向かう。

 高い塀に囲まれて外へは出れないようになっている孤児院だが、ジンは偶然にも抜け道を見つけてしまった。

 それからというもの、自由時間に誰にも知られず密かに孤児院を抜け出すのがジンの楽しみになっていた。


「よし、誰にもばれてない」


 ジンは辺りを見回し誰もいないことを確認すると、穴を通り抜ける。


「……っ」


 孤児院を抜け出した先には、色々な店が立ち並び、たくさんの人々が行き交っている。

 見たこともなければ、聞いたこともないような物が売られている商店街はジンにとってまさに夢のようなもの。

 ジンはそんな非現実的な感じが堪らなく好きだった。


 孤児のジンはお金などは一銭も持っているわけもなく、店の物には手を出せない。

 しかしジンは店の物を大人たちが取引していたりする風景を見るだけでも、十分に刺激的だった。


「き、今日はどっちに行こうかな」


 もっと商店街を見ていた気もするが、時間も有限だ。

 自由時間の終わる前までには孤児院にも戻っていなければならない。

 ジンは早速、この非日常を探索することにした。




「まだ時間は大丈夫だよね……?」


 正確な時間を知る術などジンにはないが、体感的にもまだまだ時間はある。

 今、ジンは商店街から少し離れた路地裏までやって来ていた。

 人通りの少ないこの道は薄暗く不安を煽るが、今のジンはそれ以上に高揚を隠せない。


「……ん?」


 路地裏を歩き進めていくと、ふと緑の壁に行き止まった。

 見上げてみると、ジンの身長よりも高い草木が綺麗に切りそろえられている。

 

「あれ、なんだこれ」


 ジンはその中に不自然なでっぱりがあるのを見つけた。

 近づいて見てみると、そこには緑の壁の奥に繋がる抜け穴があった。

 ちょうど孤児院のそれと似ている。


「もしかして、ここも孤児院なのかな……?」


 ジンは首を傾げながら呟く。

 もしそうだとしたらぜひ一度は覗いてみたい。

 自分と同世代の子供たちを孤児院の中でしか知らないジンは、他の子供たちと話せるかもしれないという期待は大きかった。


「す、少しだけ……」


 孤児院のシスターにばれたら問題になるかもしれない。

 だから少しだけ……そう思い、ジンは抜け穴に近付く。


「きゃっ!?」


「う、うわっ!?」


 しかしジンが抜け道を通ろうとした瞬間、逆に壁の向こうから誰かがやって来る。

 まさか誰かいるとは思わなかったジンは驚きの声をあげるが、それはどうやら相手もそうだったようで、小さな悲鳴をあげた。


「あ、あなたは誰……?」


「き、君こそ誰なの……?」


 ジンの視線の先では一人の女の子が尻餅をつきながら、ジンを見上げてきている。

 しかし初めて見る孤児院以外の同世代に、ジンは動揺を隠せない。

 

「わ、私はユミルよ」


「ぼ、僕はジン」


「じゃあジンは、どうしてこんなところにいるの?」


「僕は少し歩いてたらここに来てただけだよ」


 ユミルと名乗った少女の質問にジンは答えていく。

 今気づいたが、ユミルはジンとは違って綺麗な服を着ている。

 もしかしたら凄い孤児院なのだろうか、そうだったら羨ましいななどと思いながら、今度はジンが質問する。


「ユミルはこの中から出てきたんだよね? どこかに行くつもりだったの?」


「うん、そうだよ。なかなか出してもらえないから、こんな風にこっそり抜け出してるの」


「そ、そうなんだ」


「ただこの先の道から中々抜け出せなくって、いっつも途中で帰ってるの」


「確かにここの道はちょっと複雑だったかも」


 どうやらユミルも抜け穴を使って、孤児院を抜け出しているらしいと分かったジンは、自分と似た境遇に親近感を覚える。

 それに加えて、同世代の新しい友達が出来るかもしれない。

 ユミルと仲良くしようと思うには十分だった。


「じゃあ僕が案内してあげるよ。ちょうど今来たばっかりだから、道も分かるし」


「え、ほんとっ!?」


「うん。道を抜けたら色んなお店もあって凄いんだ」


 目を輝かせるユミルにジンは嬉しくなる。

 ジンはユミルの手を握ると、そのまま今来た道を引き返した。


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