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その後

 

 僕はどうやら、あの戦い以来丸一日目を覚まさなかったようだ。

 しかも、身体中激しい筋肉痛に襲われて外に出歩くことができない状態である。学校にこのことを説明したところ、もう一日は寮室で安静にするように、と先生から連絡がきた(戦いについてはうまくごまかしている)。


「はい、あーーん」

「……自分で食えるわ…」

「なんだ貴様、せっかく私が看病してやろうと思っているのに」

「いや、病気じゃねぇし」


 ヘラは昼食を僕に『あーん』してきた。昼食と言っても、昨日僕が作り置きしておいた物だが。あ、昨日じゃなく一昨日か。どうにも時差ボケが治っていない。


「……なぁ、昨日……じゃなくて一昨日の事なんだが…」

「奴らは、私を狙っていたようだな」


 ヘラは僕の質問を読んでいたのか、即答でそう言った。


「ヘラ、お前僕とはぐれている間何もなかったか?」

「おい、その言い方じゃあ私がはぐれたみたいじゃないか。私じゃなくて貴様(・・)がはぐれたんだ」

「いやいや、それはおかしい。明らかにお前が俺から離れて行ったじゃねぇかよ!」


 飯を食べ歩きにな!


「ふん、はぐれた奴はそうやって人に責任を擦り付ける。あーあー、これだから人間は」

「……その言葉をそっくりそのままお前に返してやるよ…」


 そんなことより!


「で、何も無かったのか?」

「何も無かったことはない。途中、不審な男2人組につけられていた」


 僕は昼食のウインナーを口に運ぶ。もぐもぐと咀嚼しながら次の言葉を待った。


「どうやら奴らは捕らえられた私をスーツケースに入れて運んでいた連中らしい」

「…! あいつらがまた……?」


 僕は確かに覚えている。

 その日はヘラと出会いを果たし、従者が出来た衝撃的な日でもあったからな。


「まぁ、わざと人通りの少ない場所へ行っておびき寄せた上で懲らしめてやったけど。そこで私は察して、カナトに危険が及んでいるんじゃないかと奴らに問い質した。すると奴らは痛いのが嫌いだったのか、ペラペラとカナトが襲われている事を喋ったよ」

「……つまり、あの仮面の男と何かしらの絡みがある……。てことは、男が言っていた、『人に頼んだ』っていうところの"人"ってのはその2人組のことか」

「それは?」

「ん、ああ。あの広い公園であんなに暴れたのに人1人来なかった。それはあの仮面の男が誰か人に頼んで来ないように仕向けたらしい。僕はそれを、その2人組じゃないかと言ったんだ」


 するとヘラは僕が手に持っているフォークを奪い、最後の1本のウインナーをひょい、と口に運びやがった。


「あっ!」

「んー、美味いね」

「この…! 最後の1本を…!」

「……それは違うね」

「違くねぇよ!! どー見ても最後の1本だったろうが!」

「そーじゃなくて、その『人に頼んだ』っていうところの"人"のことだよ」

「あ…。そ、そうなのか?」

「奴らは確実に下っ端だったし、私はそいつらを殺していない。殺すほどの脅威が無かったからね。それとは別の人間が協力してたんだろう」

「な、なるほど……。…ってか、なんであの公園に全く一般人が来なかったんだ?」


 ヘラは僕の座っているベッドの向かいのソファに座っていた。そのソファから腰を上げ、トスンと僕の隣に座って来た。


「それは、人が入れなくなる『バリア』を張っていたからだね」

「バ、バリアァ?」

「もちろん、従者の能力だろう。防音能力もあったろうし、"人避け"の魔術もあっただろう」


 人避け。

 僕でも知っている有名な魔術だ。このタイプの魔術は、魔術に長けた従者しか使えない代物である。その能力は人に一切感知されなくなるというもので、国家機密等を隠すのによく用いられる。しかし、その高い能力故、滅多に使用できる従者はいない。


 つまりは、そのバリアとやらで、公園の存在を一時的に一般人から認識されないように工夫されていたという訳だ。


「あれほど広範囲にバリアを張り巡らせることが出来るのは相当だ。しかも、私の魔力を反発する特殊な魔術まで組み込まれていた」

「あ……。それ、なんか僕が戦ったモンスターも同じような魔術を使っていたぜ……?」

「アスタロトはそんな魔術を習得していない。自我を失っていた事から、何らかの技術で組み込んだのだろう。どうにも、その魔術だけが気にかかる…」

「……ちなみに、あのモンスターとヘラの関係は?」


 ヘラは一瞬間を置いてから言った。


「アスタロトは、魔族であり、私の部下の1人だった」

「魔族……」

「『魔将』の名で通っていて、本当は言語を発することも出来たし、知能も高く戦闘のエキスパートだった」


 ヘラは自分の右掌を見つめ、言葉を紡ぐ。


「同族として……助けてやりたかった…」

「ヘラ……」


 柄にもなく悲しげな顔を浮かべるから、僕はどうすればいいのか分からなかった。


「……私らしくないな」


 ヘラはそう言うと、いつも通りの表情でこう言ってきた。


「そんなことより! カナト! 貴様、あのブラッド・レイは一体何だ!?」

「えっ…?」

「貴様が放った所を一瞬見たけれど、あれじゃあアスタロトに殺られていてもおかしくなかったぞ!」

「い、いやぁ……僕も正直何が起こったのかよく分かんなくて……」


 ヘラは偉そうに腰に手を当て、胸を張ってこう言った。


「簡単な話だ、『魔力切れ』を起こしたんだ!!」

「ま、魔力切れ…?」

「ああ。あんなに無理矢理に魔力を使ってブラッド・レイを抑えても、そりゃあ魔力切れも起こすよ」

「うーん……別に魔力を使ってたっつー感覚は無かったんだがなぁ……」

「……あれだけ煌々と雷をほとばしらせておいて、よくそんな事が言えるね……」


 ヘラが言うには、僕は無意識の内に魔力を身体から放出していたのだという。と、言うのも、僕が憑依状態になった時のあの雷は魔力そのもので、あれが常に出ているという事は魔力を常に放出しているのと同じなのだそうだ。

 つまり、僕は"憑依状態になっているだけ"で絶えず魔力を使い続けていたのだ。


 更に、最後のブラッド・レイに関しては魔力で腕力を強化したことにより、その魔力消費に拍車をかけたということなのだという。

 いくら魔王の半分の魔力を憑依させるとはいえ、あれだけ使い続けていれば流石に魔力切れも起こすのだと。


「魔力切れを起こしてしまえば意識も失ってしまうし、最悪命に危険が及ぶ。それは、憑依状態だろうと関係ない」

「……でも、確かに、ヘラがあのモンスターと戦ってる時は最小限の雷だったよな……」

「戦いというのは燃費が重要! 覚えておきなさい」

「は、はぁ……」


 と、言われてもまだ最初の課題である、『魔力を馴染ませる』というステップを踏めていない。それなのに燃費とか考えてる暇なんかないよ……。


「とりあえず、あのマスクの男に逃げられた以上警戒は必要だな」

「あの男はなぜ私を探していたんだ?」

「わからん。けど、あいつは僕に出会ってまもなく、『人間は滅びるべきだ』と言った。しかも、あいつの手は人間の物じゃなかった」

「ふむ、どうりであの男から魔力を感じる訳だ。しかし、アスタロトと契約を結んでいたところを見ると、人間じゃないわけがないのだが……」


 謎は多い。僕はテーブルの上に置かれたマスクの破片を見つめる。


「……とにかく、今はヘラが狙われている。今後は出来るだけ別行動とか、はぐれたりとかは注意しよう」

「まぁ狙われても魔王である私が簡単に捕まるとは思えないけどな」

「一回捕まってるやつが何言ってんだ」

「あれは弱ってたからで……!」


 その時、玄関のドアが叩かれる音がした。


「カナトくん、いますか……?」


 女の子の声が聴こえた。


「ん? 誰だ……?」


 僕は軋む身体を動かし、時間をかけて玄関へと向かった。

 扉を開けると、そこにはウェーブのかかったセミロングの茶髪が特徴の美少女が立っていた。


「おお、サナミじゃないか」


 サナミは僕の元クラスメイトであり、隣の寮室に住んでいる友達でもある。

 この寮は男子寮と女子寮が真っ二つに分かれているのだが、その境に僕とサナミが住んでいるため、隣同士になるというわけだ。


「久しぶり…。あの、身体が動かないって聞いたから来たんだ……」

「ありがたいことだが、授業は…?」

「今昼休みなんだ」


 僕は後ろを振り返り時計を見た。確かに針は上を指しているため、丁度昼休み時だ。


「そんなわざわざ、本当にありがとう」

「うん。あ…それと、これ」


 サナミはそう言って、手に持っていた紙袋を渡してきた。


「急いで買ったからつまんない物なんだけど……果物」

「まじか! 本当にありがとう! 良かったらお茶でも飲んでくか?」

「い、いいよ! そんな、迷惑かかっちゃうし……」


 サナミは何故か顔を真っ赤にしながら否定した。


「遠慮なんかいらねぇぞ?」

「で、でも……」


 サナミがもじもじしていると、僕の背中からヘラの声が聞こえた。


「おーいカナト、長いが一体誰なんだ?」


 ひょこりとヘラが顔を出す。

 瞬間、サナミの全身が石のように固くなってみえた。


「お、おい……サナミ?」

「あ、あ、カカ、カナトくん……そ、その女の…子は……?」

「ん? こいつはだな……」


 するとヘラはニンマリと笑う。


「私、カナトくんのガールフレンドなのぉ!!」

「……は? 何言ってんのお前?」


 ヘラはキャラブレブレの気持ち悪い声でそう言った。

 僕はヘラの冗談だと、サナミに伝えようとした。しかし、サナミはまるで魂が抜けたかのように、真っ白になっていた。


「お、おい? サナミ? 大丈夫か?」

「は、はは……だい…ひょう…ぶ…」

「ど、どうしたんだよ!?」


 その後しばらくほっぺたをぺちぺちと叩いていると、ようやく正気に戻った。そして誤解を解いているとあっという間に昼休み終了間近の時間となっていた。


「あ! わ、私そろそろ戻るね!」

「おう! わざわざありがとうな!」

「うん! じゃあ……またね!」


 サナミは眩しい笑顔を見せると、駆け足で去っていった。


「あの女は?」

「俺の元クラスメイトだ」

「……カナトはなかなか鈍感系らしい」

「はぁ?」


 わけのわからないことを。

 サナミは僕の数少ない友人であり、泥組に落ちた今も接してくれている大切な人だ。

 彼女自身はAクラスで、最優秀クラスに属している。

 髪は派手な茶色だが、性格は温厚かつ非常に他人思いな子だ。


「いつつ……。身体も痛いし、もう一眠りするか……」

「何を言っているんだカナト。これから特訓だぞ特訓」

「……は?」


 ヘラは僕に向かって指を指し、顔をキメてこう言ってきた。


「昨日のような醜態をはらさんためにも、今から魔力の扱いの特訓じゃああああ!!」

「はああああ!? 身体痛ぇよ!!」

「んなもん知らん! 甘えるな! たかが筋肉痛だろう!!」


 その後僕は数時間にわたって、みっちりヘラの特訓を受けるのだった。

この物語の世界観は、現代社会とほぼ同じです。

ですので、食べ物や警察など、ほぼ変わりないものと思ってください。


世界観は現代社会に近いものですが、物語の地形や生態系などは全く異なります。細かな設定で多少の違いはありますが、それらをご理解した上で、読んでいただければ幸いですm(_ _)m

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