盗賊
「標的は商人共のキャラバンだ、台数は三台、人数は20~30程度だ。今はここを少し行ったあたりで焚き火をして休んでいる、やり方はいつものようにやれ!」
「「「おう!!」」」
野太い男達の声が響きそれぞれが動き出した
「夏目は今日は見ていろ、もしあいつらが失敗したら追うのを手伝え、いいな」
「……わかりました」
「情けなんて物はかけるんじゃないぞ」
そう言いバイスさんは森の中へ消えていった
「冬歌はここに残っててくれ、俺は行ってくるから」
「わたしも行く」
「いや、何が起こるかわからないし。危険だからここにいてくれ」
「行く」
「たまには言うことをk」
「行く」
「……わかったよ、でも俺から離れないようにしてくれよな」
「離れない」
冬歌の強情さに負けて俺は冬歌を連れて森の中に入っていった
歩くこと数分、小さな明かりが見えた、商人達の焚き火の光だろう。そのまま木の陰に隠れるようにして近づいた
焚き火を取り囲んでいるのは大人の男8人、それにキャラバンの中から声がするあたりまだいるみたいだ
その中ふと気になるものがいた、キャラバンを引く役割を担っているのが馬ではなく馬に似た何かだった。基となっているのは馬なのは間違いないのだが要所要所が違う、大きさは普通の馬と同じぐらいだ。
まず脚だ、普通の馬よりも短くなっている、それとは正反対に太くたくましくなっている。
そして首はさほど長くなく顔は牙が鋭く2本下に伸びている。なによりも異彩を放つのが体と尾だ、体と尾は硬い鱗のようなもので覆われている
あれはなんだ、新種の動物か何かなのか?
『あれは魔物の一種で【鱗馬】と呼ばれています。比較的気性の荒くない魔物ですが人になついたりすることはありません、おそらく精神に作用する術式で使役しているのでしょう』
精神に作用する術式って何、それを使って人を操ったりも出来るのか?
『勿論可能です、ですが基本的には不可能に近いです。人間や上位の魔物のように自我を持っている者には作用しません、効果があるのは低位の魔物などの自我のない者ぐらいです』
そうなのか、少し安心した
『ですが例外もあります、術士の力が強すぎる場合、人間や上位の魔物にも作用させることが出来ることもあります』
……で、でもそんなのごろごろいたりはしないだろ、世界に数人とか
『そうですね、まず精神作用系の術式を使える者が多いわけではありません、いても数十人でしょう』
う、それでもそんなにいるのか、願わくばこの先一生出会うことがありませんように
右端の方で動きがあった、見ると他の盗賊が武器を持ち出していた、右手に持ってるのは三日月形に湾曲した剣を持っていた
周囲を確認してみても他の全員が武器を携えていた。商人達からは見えないように隠れているのだが、それでもこの手際だ、既にキャラバンを囲むように包囲網が敷かれている
これなら取り逃がすこともないだろう、俺は見ているだけで済みそうだ
『いえ、それは厳しいでしょ』
な、なんでだ?この人数で包囲してるんだし、もし戦闘になっても向こうは商人なんだろ?負けることはないんじゃないか?
『確かにこの人数です、動きも手馴れていますし負けることはないでしょう。ですが見てください、他の盗賊達の立ち位置を』
メルに言われて他の盗賊達の位置を確認した、っていっても特に違いはないように見えるんだけどな
『個体ではなく全部としてみてください、点と点を線で結ぶようにです』
再度周囲に意識を向ける、メルに言われた通り線で結ぶようにしていくと見えてきた
全員で取り掛かるように見えるが、隠れている内の三分の一ぐらいは数メートルで待機していた
全員でいくんじゃないのか?
『バジル様の夏目様に取逃がした者を追うようにと言いました、それと同じ命令を与えられた人達です。おそらく過去に商人を襲った経験があるのでしょう』
どういう意味だ?
『見ていればわかります、そろそろ動くようですので』
言われて意識をキャラバンに戻す、そして周囲の盗賊達にも目を向けてみると一人だけ立っている人がいた
。バジルさんだ、立ち上がったまま腕を振り上げ、そのまま静かにスッと前に九十度倒した。それを皮切りに盗賊達が一斉に飛び出した
商人達も最初は驚きはしたもののすぐに動き出した、すぐに火を消しキャラバンの中の仲間に盗賊が来たことを知らせた
「レイルさん頼みます!」
商人の中の一人が言うとキャラバンの中から一人の男が現れた。身なりはグレーのTシャツに少しぶかぶかのズボンという、なんともやる気のない軽装だ。無精ひげを左手で触りながら右手は腰の武器の柄にあてがっている
「おう、お前ら目つぶれ」
言うが早いかすぐさま男は腰から剣を抜き去るとそのまま体の回り360度切り払った
「【光の軌跡】!」
「うわ!」
レイルと呼ばれた男が振った剣をなぞるようにして強い光が広がった、なんの気構えもなしに見ていた俺はもろにその光を見てしまった、幸い距離が離れていたのですぐに視界は戻った
『今のは術式を発動してから振った剣の軌道が発光するという物です、殺傷能力はありません』
そんなことはいいからどうなったんだ!
『逃げられたようです』
え、あの一瞬でか!?
『最初からそのように打ち合わせしていたのでしょう、光を食らわなかった者もいましたが【鱗馬】の突撃を止めることはできなかったようです』
見ればそこにはもう誰もいなかった、残っているのは盗賊の皆と焚き火の後だけだった
「何してんださっさと追え!【鱗馬】の脚は潰して置いた、そう遠くへはいっていないはずだ」
あの一瞬でも相手の移動手段を潰すなんて凄い、流石は盗賊団の頭だ
『バイス様の実力は本物です、それよりも追ったほうがいいと思いますが』
それもそうか、他の皆が向かっている方向へ俺も向かおうとする、がそれを妨害する存在が一人
「おんぶ、走りたくない」
俺の裾を掴んで離さない冬歌
わがままを言いやがってこのちびっ子が