新たな仲間
おかしい、ここはどこだ
俺は確か泉の辺りで冬歌と寝てたはずだ、間違いない、なのに今目の前に広がるのは雲のちらつく青空でも光り輝く星空でもない。あるのは木の板の木目、それに室内を照らす明かりだ。背中に伝わる感触から木の板の上に寝ているらしい
顔を横に傾けるとその反対から声がした
「おう、起きたか」
この野太い声は……あの盗賊達の親玉だ
予想通り振り返るとそこにはあの時のごついおっさんがいた、無精髭を蓄えた渋いおっさんだ
「あ……あの、おはようございます」
「おう、おはようさん」
挨拶は大事だ、どんな相手でもこれはかかしちゃいけないな、うん
「あのよ、起きてすぐで悪いんだけどよ」
「は、はい」
起きてすぐで悪い……何を言うつもりだろうか。は、確かこいつはバイだったはずだ、まずい、俺にそっちの気はない。これは丁重にお断りしなければなるまい、下手なことをいって逆上されてしまっては俺のケツが危うい
「そいつをどうにかしてくれねえか」
「いやd……え?」
どうやら違うらしい、だけどまだ油断はできない。そいつが何を示しているのかが判明しないかぎり油断してはならない
「そいつってなんですか?」
「そいつだよ、入り口に立ってるそいつ」
親玉がそう言い反対側を指差した、そちら側を見ると開け放たれたドアがあった、そしてその向こう側には何かに怯えながら頭だけを見せている集団がいた
「あれですか?」
「違う、その下だ」
言われて視界を下にずらす、するとそこには冬歌が膝を90度に曲げる、いわゆる体育座りと呼ばれる格好をして座っていた、その目は閉じられており軽く肩が上下していた。おそらく寝ているのだろう
冬歌がここにいることに少し安心したのもつかの間、こいつらの会話を思い出し怒りが湧いてきた
「お、お前ら、まさか冬歌に何かしたんじゃないだろうな!」
「ああ、そっか。お前知らないんだよな」
怒り心頭な俺とは裏腹に疲れたように返してきた
「大丈夫だ、安心していい」
「安心?ふざけるな、お前らみたいな奴らを信用出来るわけがないだろ!」
「まあ、うん、それもそうだな」
顎に手を当てた後何かを思いついたように、その手をドアから見える頭の一つに向けた
「百聞は一見にしかずってな、おいお前、見せてやれ」
「ええ!?ちょっと待って下さいよ頭、に死ねっていうんですかい!」
言われた男が講義を始めた、その顔は汗がびっしょりになっていた、何をそんなに怯えているんだ
「大丈夫だって、他の奴らだって無事だったんだから。少しあれなだけだから」
「嫌ですって、そんなら頭がやればいいじゃないですか!」
「なんで俺がやらなきゃいけないんだ!こういうのはお前らの担当だろうが!」
「なんですか担当って、聞いたことないですよ!」
何事かわからないけど凄い嫌がっている、大の大人が何をそんなに取り乱して、恥ずかしくないのだろうか
「じゃかあしい!男なら覚悟を決めやがれ、おいお前ら、やっちまえ!」
「「「へ、へい!」」」
流石は盗賊団の親玉、他の手下に一言命令するだけでことは解決した
言われた複数の手下が講義していた男に掴みかかる
「お、お前ら、嘘だよな?嘘だって言ってくれよ……なあ……なあ!」
「く……俺だってこんなことしたくねえよ……でも……!命令なんだ、聞くしかねえだろ」
「俺はお前を信じてるから、必ず生きて帰ってこいよ……」
「そうだ、ちゃんと帰ってこいよ、それまで俺ら待ってるから」
口々に別れの挨拶がかわされていく、掴みかかる男達の顔は苦痛に歪んでいた、でもその手が止まることはない。数人の男によって身体の自由は奪われ、そして一人の男が腕を掴んだ
「せめて俺が……」
そう言って男は掴んだ腕を徐々に冬歌のもとへと近づけていった
「いやだ……止めてくれ、お願いだから!う、うわああああああああああ!!」
そしてその男の手が冬歌の肩に触れた、その瞬間、冬歌に触れた男の叫び声がピタリとやんだ
「な、何がおこったんだ……」
「いいかよく聞け、俺達がお前らを見つけた後、真っ先にあの嬢ちゃんに一人の男が触れた、その瞬間そいつは意識を失って倒れた、何人もチャレンジしたが結果は変わらず。仕方なくあんちゃんに何か聞けばわかると思ってな、あんちゃんを連れてきたんだが。嬢ちゃんまでついてきちまってな、とにかくあんちゃんならなにかわかるんじゃねえか。嬢ちゃんをどうにかしてくれ」
え、なにそれ知らないんだけど。めちゃくちゃ怖いじゃんか!
「いやいや、俺そんなの知らないんですけど」
「嘘つけ、あんちゃんは触れてたじゃねえか。俺達はしっかり見たんだぞ」
そんなこと言われても知らないものは知らないし……
「そうだそうだ、早く言えやおら!」
「お前のせいで何人の仲間がやられたと思ってんだ!」
「現に今も一人犠牲になったんだぞ!」
いや、それはあんたらが強制的にやってただけじゃんか
「と、とにかく、俺は何も知らないんですって」
「そうか、あくまで知らないっていうんだな」
「いや、本当なんですって」
「そうか、わかった。ならもうおめえさんに用はねえ、あいつらへのせめてもの罪滅ぼしだ、嬢ちゃんに触ってこい」
え?なんで俺が罪滅ぼししなくちゃいけないんですか?
「か、頭、流石にそれは……」
「そ、そうだよな……」
「流石にな……」
哀れんでか他の盗賊たちが声をだす、だがそれはまったくもって意味をなさなかった
「絶対にいやですって、今の見たでしょ!?」
「ち、お前も往生際が悪いな」
そういって盗賊団の親玉は俺の両腕をがっしりと掴んだ。なんて強い力なんだ、必死の抵抗がまるで意味を介さない
そして徐々に近づかされる、それはさながら断頭台に登らされているかのような、そんな気持ちにさせられる。扉の方には俺を憐れむような目で見てくる男達がいた
彼らの目入っていた、生きて帰って来いと。彼らとは別の形で会いたかった
そしてその時間はあっという間に過ぎ、俺の手が冬歌に触れた。ぎゅっと瞑っていた目を少しづつ開いていく、俺の手は冬歌の腕にちゃんと触れていた
「い、生きてる……俺……生きてるのか」
途端に涙が溢れてきた、見ると他の盗賊達も涙を流していた、そして俺達は熱い抱擁を交わした