な、なんだってー
寒いですね、こたつがかかせなくなってきましたよ
こたつといえばみかんですね、甘いのがいいのんです
毒キノコによる身体の痺れと筋肉の膨張と激しい腹痛を乗り越えると既に日は落ちていた、冬歌はその間苦しみに悶え苦しむ俺をただジッと眺めていた、何が面白いのだろうか
そういうわけでまずは寝床を用意しなければいけない、運良く今日は雲もなかったのでおそらく雨の心配はないだろう、でもさすがに草の上で寝るというのは厳しい、虫とか怖いし
何かないかと思索するも何も思いつかない、ベットのような物を作るにしても時間が足りない、それに知識もない。
「はぁ……」
考える事を放棄して近場の木に胡座をかきつつもたれかかる、少し上を見ればそれ一面に無数の光の点が広がっていた。数えきれない程の星の数に圧倒されてしまう、俺の中にある星という物はもっと少なくて弱々しいものだったからか素直に感動した。
直人の小学校の頃の頃理科の先生が言っていた、普段見ている星は周囲の光に邪魔されて光が弱く見えるらしい、この森のように純粋に光のない場所から見る星とでは違うらしい
こうまで違うのかと見惚れていると太ももに何かがのしかかって来た、見ると俺の胡座をかいた上に冬歌がチョコンと座っていた
「なんだ?」
「寝むい」
冬歌は既に限界らしい、でもどうしよう、ベットとか何もないし。仕方ない今日だけは葉っぱとかを大量に敷いてその上に寝ることにしよう
「冬歌、ちょっと悪いんだけどそこをどいt」
「おやすみ」
「え、ちょっと!」
言うが早いか冬歌の身体から力が抜けて全体重を俺に預けてきた、冬歌は少女という見た目通り重くはなかった、というかむしろ軽すぎるぐらいだ。少女というものはこんなにも軽いものなのか?と少し不安になる
寝ている少女を起こすという所業を紳士である俺が出来るわけもなく、冬歌が眠り始めてから3分で抵抗は諦めた
まあこれなら虫などは少なくとも俺に来るだろうから冬歌は大丈夫なんだろうけど
まだ眠くないので俺は少し記憶を漁ることにした、勿論直人の記憶だ。今日も感じたが直人の記憶には少し……というかだいぶ色々な物が欠落していた。直人はいつも同い年ぐらいの女の子といた、名前は布吹、元気で明るく、裏表のない子という印象だ。普段から笑顔の絶えない、日常があった、でも何かが欠落していた。それがなんなのか何回も記憶の海を漁るも何もわからなかった、その何かがわかった所で俺に何があるわけでもない、それでも一度気になってしまうと放っておけない
気づかなければよかった、と思ってしまう反面、新たな発見もあった。今日メルが言っていた魔王についてだ
ある日突然、それはなんの前触れもなく上空に現れた、それはおもむろに手をかざすと一つの街を消した、そして自分のことを魔王となのり何処かへと消えていってしまった。魔王は不思議な力を持っており、普通の兵器では傷一つつかないらしい、そんな魔王に効果があるとされている唯一の方法を訓練している組織があった、直人はその魔王を倒すための組織に所属していた
メルの言う魔王という存在がもしそれなのだとしたら、そう俺の頭のなかに一つの疑問として生まれた
「なあメル」
『はい』
「お前の言う魔王ってのは、あの街を消したあの魔王なのか、もしかして俺は」
『違います』
違う、メルはそういった。でもその言葉を信じることが俺には出来ない、なぜなら直人の記憶では魔王は最終的に倒されている、直人の手によって。もしその時の衝撃で俺の記憶が飛んでいて、魔王の力の暴発か何かで直人の記憶がその時俺の中に入ってきていたとしたら
突拍子もない考えではある、でも直人の記憶があり、そしてその直人が魔王を倒している。俺になんの関係の無いとは思えない
「メルは知ってるんだろ?俺が何者で、何をしたのかを」
『はい』
「じゃあさ、これだけは教えてくれよ。俺はそのことについて満足していたか、後悔していたか」
メルは少しだけ考えるように時間を空けた
『後悔していました』
やっぱりか、俺は後悔したまま、その後悔すらも忘れてしまったのか。まるで逃げたみたいだな、嫌なこと全てから、記憶をなくすことによって。卑怯者だな……
『確かに貴方は後悔していました、ですが逃げてはいませんでした。どんなことがあっても逃げずに立ち向かっていきました、それがどんなことであろうとも。ですのであなたは卑怯者ではありませんよ』
「……ありがとうな」
メルの慰めのような優しさが嬉しかった。昔の俺は逃げなかったという事実がもしあるのだとしたら、今の俺が逃げるわけにはいかないよな
過去の俺がどんなのであれ、それを忘れてしまっている俺にはどうすることもできない。だったら今できることをやっていくしか無い、まずはそうだな。どこかに街が無いか探してみるか、どんなところでも生きていくにはお金が必要だ、そうとなれば働かなくてはいけない。せめて食っていけるぐらいにはどうにかしくてはいけない。冬歌もいることだし、欲を言えば宿も欲しいところだけど贅沢は言えないな
何はともあれまずは職だ、睡眠不足なんかでは行けない。明日に備えてちゃっちゃかと寝てしまうことにした、この体制で寝るのは少し厳しい気もするけど仕方ない。
「おやすみ、冬歌、メル」
『おやすみなさい』
小さな声でいった言葉にメルだけが反応した
皆さんが胡座をかいて寝たことがありますか?
あれって首と腰にきますよね