少女の名前
りんごって食前に食べると良いって聞いたことありますけどなんでですかね
ふしぎです
日が暮れる頃まで探しまわった結果、木の実は意外と沢山集まった、でもなぜだか見たことのない物ばかりだ。まあいいや
布がないので大きな木の葉の上に取ってきた木の実を広げる。うーん、とりあえずカラフルなのは横に避けて行こう
赤っぽいりんごみたいな物は……まあ大丈夫だろ。青いマンゴーのような物……まあこれも大丈夫だろ。次は……
全てを仕分け終えて気づいた、全部大丈夫な物のところにある……
「僕って天才?」
カラフルなのも見ようによっては食べられそうだし、どうやら僕にはサバイバルの才能があるみたいだ、大丈夫なものしかないなんて
さて、後はこれをどうやって料理するかだな……
「ん……おはよ」
「おう、おはよ」
「何してるの?」
「ああ、今これをどうやって料理しようかと思って」
あれ?僕今ナチュラルに会話してるけど誰と喋ってるんだ?
声のした方に目を向けると眠そうに瞼をこすっている少女がいた
「お、起きたんだ」
「うん」
「えっと……初めまして」
「初めまして?」
不思議そうに小首をかしげる少女、ぐぅぅ、かわいい
「ってそうじゃなくて、君の名前はなんていうの?」
「名前?わたしの名前は夏目が付けてくれたんじゃないの?」
夏目が付けてくれたって言われても……ん、もしかして
「その夏目ってのはもしかして……僕?」
「それ以外に誰がいるの?」
どうやら僕の名前は夏目というらしい、夏目……
「君は僕のことを知ってるの?」
「僕?なんか夏目変」
僕はどうやら昔の僕は使っていなかったようだ、ということは俺って言ってたのかな?願わくばわたしとかでは無いと嬉しいな……
「そ、そう?」
「前は俺って言ってた」
よかった、当たりを引いたようだ。
でもこれは不幸中の幸いだ、この少女は僕のことを知っているようだし、事情を話して色々聞いていこう
「実は今ぼ……俺は記憶がないんだ、だから君のこともよくは知らないんだ」
僕の持っているこの子の情報は俺の持っているこの記憶の持ち主の直人と面識があるってことぐらいだ
「そう……メルクリウスはなんて?」
「メルクリウス?」
『何か御用ですか?』
「うわ!」
突然頭の中に女性の声が聞こえた、何か機械のような喋り方をしている。どこかに声の主がいないか探してみるも見つけることが出来ない
「ど、どちらさまでございますか?」
『私はメルクリウス……といっても今はわからないでしょう』
「あ、はい……」
『私はあなたの首に取り付けられている機械を通してあなたとリンクしています、なので私を視認することは不可能です』
首に手を伸ばしてみるとつるつるとした何かがついていた、これを通しているってことは少女には聞こえないのか
『いえ、彼女は契約をしています、なので私の声は彼女にも届いています。それと少女ではなく冬歌です』
契約?それに言葉にだしていないのに返答をしてきた、よくわからないことばっかりだけどこの少女の名前は冬歌というようだ。冬歌はこの名前を俺がつけたと言ってたけど……俺ってネーミングセンスないのな……
『わたしは好きですよ』
「あ、それはどうも」
好きと言ってもらえて少しうれしかったりする、まあとにかく俺について聞いてみなくては
『あなたは術式の発動の代償として自分という存在を忘れてしまっています』
おうふ、まただ、俺の心を読んでいるかのような……
『ような……ではなく読んでいます』
「え、そうなの?」
『はい、だだもれです』
「だだもれなの?」
『がばがばです』
がばがばって少し隠微な響だよね
『……』
「ごめんなさい」
『続けます、私はあなたは今代償として自分という存在を忘れていると言いました。ですがこれには少し語弊があります、正確にいえばあなたという存在が封印されているのです』
封印……なんていうか……ファn
『封印を解くには鍵が必要です、鍵は人によってことなりますので私にはどうにもできないということは理解してください』
まだ俺が(心の中で)話しt
『私があなたについての情報を与えるのは許されていません、なので自力でどうにかしてください』
こいつさては俺にはn
『ただ一つ言えることがあります』
もう諦めまs
『これはあなたを知る故で大切な言葉になるでしょう』
……
『……』
……
『……』
わかったからすねてないk
『あなたは魔王です』
流石に俺もキレるぞなめんなごらぁぁ!!
「って……え?今なんて?」
「夏目は魔王って」
メル……なんだっけ
『メルクリウスです』
ながいな、メルでいいや。メルの変わりに冬歌が答えてくれた
「え、えええええ」
そして何がなんだかわからない俺はただええと言っていた
「いやいや、ないないない」
『なぜですか』
メルの無機質な声が頭のなかに響く、なぜこいつが冷静なのかを俺は知りたい。ここはいったんこちらも冷静になって事を考えていかなければ
数分の熟考の上俺は一つの答えにたどり着いた
「さてはお前ら、俺をk」
『からかっていません』
「……」
おこですよ、流石の俺もおこですよ
「なんだよさっきから!人の言葉をいちいち遮ったりしてきやがって!どうせあれだろ、記憶喪失の人に向かって、"あ、俺お前にお金貸してたんだけどさ"ってのと同じk」
『違います』
「だから遮んなって!!」
人の話をきかないやつだな本当に!それにこんな嘘に騙されるわけ無いだろってんだよ!
『からかってしまいすみませんでした』
どうやら俺が本当に怒っているとわかってくれたのか、素直に謝ってきた。ま、まあ、謝るっていうのなら許さないでもないけどさ
『ですがこれだけは信じてください、あなたは魔王でした』
またそれか、これは一度論してやらんといかんな
「いいか?魔王ってのはな、ファンタジーの世界の生き物なんだよ、そして魔王って名前、呼んで字のごとく"魔"の"王"なんだよ。わかる?人間には無理な職業なんだよ」
職業?まあいいや。さっきはスルーしたけど術式にしたってそうだ、それだってファンタジーの世界にしか無いものだ
『いえ、あなたが創造している魔王とは異なります、そしてあなたはファンタジーと言いましたが。貴方が言うファンタジーの世界とはここのことです、厳密には少し違いますが』
「どういうことだよ」
『まず魔王ですが、貴方は魔王を引き継いだ人間の二代目魔王です。そして今貴方がいるこの世界は貴方のいた世界とは別の世界です、ですが同じ世界でもあります』
「なんだよそれ、世界が違うって」
『私が言えることはここまでです、これ以上は理に反します』
ここまで来て教えてもらえないとか、一番気になるやつだこれ。聞かなきゃ良かった
『そうですね、知らないほうが良いかもしれませんね』
「知らない方がいい?なんでだよ、仮にも自分のことなんだぜ、知らないで損することはあっても、知ってて損することはないだろ」
『損得ではありません、これ以上を知りたいのであれば……御自身で答えをみつけてください』
自分で見つけろって言われてもな、俺の場合は記憶喪失ってよりも、記憶が封印されているわけだし、時間が経てば治るってこも無いだろうからな。
メルは鍵が必要と言っていた、だけどその鍵がどんなものなのかは俺にはわからない。本当に鍵のようなものなのか、はたまた形状は鍵とは全く別のそれなのか……
あれ?これって詰んでるな
「まあいいや、考えるのは後だな。自分が魔王とか言われてもしっくりこないし、思い出すときは思い出すだろう」
「うん」
『そうですね』
「そうとなればまずはこの腹の虫を沈めるとしよう」
さっきからちょくちょくお腹がなっている、俺の空腹メーターは振り切っているのだ。さっそく木の実を食べるとしよう、味付けなどは一切せず、素材本来の味を楽しもうじゃないか
とりあえず赤いリンゴっぽいのから頂こう、この森はところどころに湖があるのでそれで軽く洗い直してからかじりついた
「うん、うまい!」
なんて形容していいのかわからないけど、食感は限りなくりんごに近い、だがその甘さはりんごであってりんごにあらず。溢れ出る果汁が顎から地面へと滴り落ちていく
その旨さにむしゃむしゃと軽く一つ食べ終わった所でメルが喋り出した
『それ、毒がありますよ』
「あ……そうなんだ……次からは食べる前に教えてね……」
『……』
「……」
「……」スッ
「やめなさい冬歌食べちゃダメだから!」
皆さんも森などにある植物や果実はむやみにたべないようにしましょう