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魔王は友を思いみる  作者: こまど
13/16

行動の結果

自分の持ち場に戻ってから数分が経ち、未だに変化は見られなかった

暇すぎるのでメルにこの世界についてまた聞いていた


『術式と言っても色々なものがあります、その中でも大きく分けて二つに分類されます』


二つ?火と水とかそういうのじゃなくてか?


『はい、確かにそのような分類もされますがその前です。一つは誰でも学んだり修行を行うことで、使えるようになる普通の術式。もう一つは特定の人物しか使えない、フィア術式と呼ばれるものがあります』


フィア術式……特定の人物しか使えないってことはそれだけ強力だったりするのか?


『確かに強力な物が多いです、ですが強力な物ばかりではありません。弱い効果の物も中にはあります』


なんかくじで当たりを引いたはいいけど、景品があれだったみたいな、めちゃくちゃ萎えるやつじゃんか。それ引き当てた人はかわいそうだな

まあ俺はその術式その物が使えないんだからくじを引く以前の問題だけどな


『そうですね、ですが術式なんて物は使えない方がいいのです』


なんでだ?そりゃ少し危険だろうけど、便利でいいじゃないか、火を起こすにしたってガスとかいらないわけだし


『確かにそういう面ではいいのでしょう。一つお話を聞いていただけませんか』


ああいいよ、どうせ暇だしな


『ありがとうございます。昔は術式を使える者はほとんどいませんでした、使える人間などほんの一握りです』


そうなのか、今では使えない奴なんかいないほどなんにな


『そうですね、ですがそれは双方の立場に明確な差を生んでしまうことになったのです。術士は自らを神の使いと称し、使えない者達を自分達とは対等に扱わず、それはさながら奴隷を扱うかのような立ち振る舞いだったそうです』


なんだそれ、使えるってだけで見下してくるなんて、流石にそれは調子にのりすぎだな


『当時の人々もそう考えました、ですが何もできません、彼らにはその力がなかったからです。そんな中とある事件が起きました、街の中で術士にぶつかってしまった子供がいました、術士は怒り、その子供に術式を使ってしまいました』


使ったって……その子供はどうなったんだ


『残念ながらその子供は即死でした、それを見た術式を使えない者達の理性で抑えつけられていた怒りが、爆発してしまいました。その場ですぐさま術士とそうでない者達で戦闘が始まりました、死傷者は多数に上り、双方の間には決して埋まることのない亀裂が生じました』


その時の光景を思い浮かべる、子供を殺された親は悲しんだんだろうか、怒ったのだろうか


『わかりません、ですがその事件は決定的な物になりました。その事件は瞬く間に周辺各地に知れ渡り、各地で暴動が起きました。それはそのまま戦争にまで発展し、術士達はこの戦争を聖戦と称し。戦争は激化していきました』


そ、その後はどうなったんだ。どっちが勝ったんだ


『どちらが勝ったとは言えません、結果だけ述べるなら勝者はおらず、残ったのは荒れた大地だけでした』


なんだよ煮え切らないな、どっちかが勝った訳じゃないってどういうことなんだよ。


『……わかりました、全てを話します。戦争は激化していき、どちらかが滅ぶまで終わることはなかったでしょう。それを止めるべく、術士の中でも戦争に反対だった者達は集まり、一つの大きな術式を使用しました。七日間、一睡もすることなく、術式の完成のため複数人で止めることなく、交代しながら力を込め続けました。そして最後にその場にいた術士の命と引き換えに戦争は終わりを告げました。使われた術式の効果で人々はその大戦を忘れ、戦争の原因であった差をなくし。今の世界があるわけです』


なるほど、だから勝者はおらず、残ったのは戦争の影響で荒れた大地だけってことか……

ん?皆の記憶から大戦に関することが消えたんだよな、なのにメルがそれを憶えているってことは


『はい、私はその時命を落とした者の中の一人です、もう数千年も前の話ですが』


でもそのせいでお前は死んじまったんだろ?それって理不尽じゃないか、他の奴らが戦争をしてただけなのに、それを止めようとしたお前達が死んじゃうなんて


『仕方がありません、それこそ戦争に発展するまでに止めることのできなかった、私達が悪かったんです。いわばこれは私達に科せられた罰です、止めることのできなかった罰』


で、でもそんなのって……


『いいのです、過ぎたことを言ってもしかたありません。それに今の世界が平和ならそれでいいのです』


本当にお前はそれでいいと思ってるのか……?もしそう思ってるんなら俺はもう何も言わないさ


『大丈夫です、それよりもそろそろ交代の時間ですね』


言われて気づく、日は既に傾き夕暮れをむかえていた。本当なら交代の人が来ているはずなのだが、未だに現れない。自分の番を忘れてしまったのか、はたまた仕事放棄か。どちらにせよ問い詰めねば


「冬歌、帰るぞ」

「わかった」



俺達が隠れ家に帰るとそこには縄でぐるぐる巻きにされた盗賊達と、鎧などを着込んだ人達がいた。人数は盗賊達とほぼ同じぐらいだ

いまいち状況が飲み込めないでいると薄緑のマントを羽織った男がこちらに歩み寄ってきた

逆立ちぎみの茶色の短髪、バイスさんとは違いひげは綺麗に剃られている。筋肉もゴリゴリとしていおらず、細マッチョという感じだ

その男は近寄ってきたかと思うと腰から短剣を抜き去り俺に向けた


「……へ?」

「貴様も奴らの仲間だろ、大人しく投降しろ、そうすれば危害は加えない、だがもし不審な行動を取った場合、実力行使をさせてもらう」


突然のことに頭が真っ白になる、うまく思考が回らずにただ呆然とするだけだ。

なけなしの理性をかき集め、短剣を向けられてから三十秒かかってやっと脳が動き始めた。まずは対話だ、話が通じるのならそれが一番現状を理解できる


「と、とr」

「夏目に何するの」


俺の言葉を遮ったのは冬歌だ、俺と男の間に立ちふさがり、ガンのくれあいをしている。なんて勇ましい子


「じゃなくて、危ないから下がってろ冬歌」


俺が冬歌をどかそうと、冬歌に手を伸ばす、その瞬間俺の視界は反転した


「いっで!」

「不審な動きをするなと言ったろ、まあいい、このまま拘束させてもらう」


冬歌に手を伸ばした行為が敵対行動と判断されたのだろう、柔道の寝技にある……名前はよくわかんないけど。うつぶせにさせられ右腕を真後ろで拘束された。一瞬のことすぎて気づいた時には既に身動きがとれなくなっていた

なんとか抜け出そうとするが、少し動くだけで肩に激痛が走ってしまう


「今からお前の両腕両脚を縛る、余計な抵抗をするなよ」

「くそ……!」


ローブの中から取り出した縄が俺の腕に巻かれていく、完全に腕の身動きが取れなくなってしまった、そしてそのまま足の方にまで手が回ってきた


「ねえ、私を一人にするの?」


冬歌がポツリと口にした、その言葉は震えていて珍しく感情がこもっていて、見ると両手が強く握られ小刻みに震えていた

そんな冬歌の横を走り抜ける子供がいた


「ちょっと何してるんですが!?その人は違います!」

「邪魔をするな、こいつはそこにいる奴らの仲間なんだぞ!」

「だから違いますって、その人が僕を助けてくれた人なんです!」

「え……!?」

「だから早くその腕の縄ほどいてください!」

「あ、あぁわかった」


男は俺の腕の縄を解き拘束を解いてくれた、多少痛む腕を擦りながら立ち上がる、瞬間腹部に衝撃が走った


「ぐふぅ!」


冬歌が全速力で飛び込んできたのだ、いい具合に鳩尾に入ったせいでめちゃくちゃ痛い、だがそんな小さな身体が微かに震えているのがわかった。そんな冬歌の後ろで申し訳なさそうにしている男、それに新しく少年が立っていた

見たことのない少年だ、だがその声には覚えがあった


「もしかしてあの時木の中に隠れてたやつか?」

「はい、あの時はありがとうございました」

「いやいや、別にいいんだけどさ、これってどういう状況?」

「それは俺から説明しよう」


申し訳なさそうに男が説明をかってでた


「さっきはすまなかったな、悪気はなかったんだ、ただ盗賊の仲間の一人かと思っちまってよ」

「あ、あの、まあ」


仲間ではないけど罪悪感がはんぱない、情が生まれてしまっている、俺はただのお手伝いさんだ、あいつらの仲間じゃない。いうなれば商売相手だ、こっちは俺の労働力を、向こうは衣食住をお互いに提供していただけなんだ……よし、もう大丈夫だ、あいつらは他人だ


「それで何がどうなってるんですか?よく状況がつかめないんですけど」

「ああそうだったな、その前に俺達は【ダイアス】っつう傭兵会社だ、俺はそのダイアスのデミアだ。よろしくな」

「こちらこそ、俺は夏目、こっちの抱きついてるのが冬歌です」

「へえ、こっちじゃ見ねえ名前だな」


まあそりゃね、俺はこっちの世界の人間じゃないわけだしな


「昨日の夜このボウズが俺達の所まで来てな、話を聞いてるうちに俺達の会社に依頼をしてきた商人達の子供だってわかってな。俺達が派遣した奴もろとも捕まっちまったことを聞いてな、それの救出のために来たわけだ、情けねえ話だけどな。んでその時お前のこともきいたのさ」

「なるほど、それで盗賊達は皆捕まえたんですね」

「そりゃ当然、なんたって俺が出向いてるんだからな、失敗するわけねえ」


デミアさんは自信げに胸を張った、既に失敗しているんですけどね、なんて都合の良い頭なんだ

そんなデミアさんの後ろには複数の傭兵と思わしき集団に、縄で拘束されて捕縛されている盗賊達がいた、その中には当然バイスさんの姿もあった

少しすると向こうも俺に気づいたらしく目が合ってしまった、何か口をパクパクさせ始めた。だが俺には何を言ってるかわからず、魚にしか見えなかった


『俺達のことは気にするな、お前は自分のことを考えて動け。と言っています』


すげえな、メルって口の動きだけで何言ってるかわかるのか。なんて有能な秘書なんだ


『秘書ではありません』


いやわかってるから、本気にしないでいいから。そんなことよりも、バイスさんに返事しなくちゃだな

俺は同じように口だけで返した


い わ れ な く と も そ う し ま す


バイスさんは少しはにかむと、顔を伏せてしまった

捕まってるのにあの余裕は凄いな、素直に感心しつつ俺はデミアさんに向き直った


「いつまでここにいるんですか?」

「ん、そうさな、俺達は他に取りそこないがないかの確認をしていただけだからな、どうやらいないようだし、多分そろそろ出ると思うぜ。街に着くのは日没になっちまうけどな」


確かに今は日が傾いてるし、今からでは夜になってしまう、明日を待ってからの出発にした方が安全だと思うが、何か考えがあるんだろうし言わないで置こう


『日没の方が安全だからです』


でました博識メル先生、説明の程よろしくお願いします


『魔物の中には夜行性の者もおります、人間は魔物と違い夜目は利きませんが、それは魔法でカバーできますので夜でも特に問題はありません。それ以前に夜行性の魔物は存在します、ですが、この森には夜行性の魔物はいませんので。魔物と戦闘になる確率はほぼありません』


わかりやすい説明ありがとうございました


「その、街まで俺達も連れていってもらえませんか。道がわからなくって」


ついでだから送って言ってもらおう、だめって言われたらこっそりついて行こう


「ああいいぜ、最初からそのつもりだったしな」

「ありがとうございます」


やったぜ、これでこの森からもおさらばできる、さまよってから数日で盗賊に捕まったり、初の魔物と人間の戦闘を見たりと、短いようで長い森暮らし生活が今日、終わりをつげたのだ


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