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「そういうわけで、この近くにある沼には近付かない方がいいんだってさ……」

 また一つ、明かりが消えた。使っているのがろうそくではなくアルコールランプなので、炎は揺らぐことなく、一瞬にして蓋をかぶせられ、酸素を失い、消える。まるで人が顔にビニール袋をかぶせられて窒息死したみたいだ。

 私の番はとっくに過ぎていた。急に始まったこともあったし、当たり障りのない、どこかの本で読んだような話を聞かせた。それなりに反応はよかったと思われる。

 残る炎は、一つだけだ。本来百物語をするのなら百個ランプを用意しなければならないものだが、さすがにそんな数は無かったし、こちらだってそこまで怪談話を持ち合わせているわけでもない。

 だから、今ここにいる人数――四人分。肝試しのオプションとして付いてきたものでもあるし、丁度よいだろう。

 じゃあ、次はアカネの番。

 後一つだね。

 そうだね。

 何か起こるのかな?

 何が起こるのかな?

 もうすぐだね。

 楽しみだね。

 くすくす笑いが響き渡る。

「あのね、この学校が建てられる前って、実は大きなお屋敷だったの」

 小さな声でアカネが話し始める。

 その屋敷の者はよくある怪談話の様に没落。さっさと逃げ出す使いの者達、風呂場で手首を切るプライドの高い女性。首をつる男性。やがて、生きているものはどんどん減っていった。

 最後に残ったのは、三人の子供たちだけだった。その頃にはもう屋敷には塩しか残っておらず、子どもたちはそれをなめて命をつないでいた。外に出ることなんてできなかった。プライドだけを信じて生きてきた親を見た彼ら彼女らに、そんな選択肢はなかった。

 しかし、そのうち塩もなくなり、とうとう子供たちは死んでしまったという。お腹をすかせ、食べ物を求めたまま――。

「だから、本当はこの学校による来ちゃいけないのよ。彼らに塩なんて効かないんだから……」

 最後の明かりが消えた。

 闇が体にまとわりつく。私に沁み込もうとしているみたいだ。真黒になり、小さな子供に壊れた笑顔でなたを振るわれる自信を想像して、人知れず体が震える。

「……早く帰ろうよ。もう階段も終わったんだし、十分涼しくなったよ。ほら」

どこにかえるというの(・・・・・・・・・・)?」

 突然、アカネの声ががらりと姿を変えた。大人びたそれが、どこか幼さの感じられる、トーンの高いものになる。

 そこで私は、今更のように気がついた。

「アカネって……誰?」

「きづくのがおそいよ」

無邪気な声が真っ暗な世界に響く。

「ケンちゃん? サキ? ゴンくん? ……アミ(・・)?」

仲間の名を呼ぶ。しかし返ってきたのは、小さな女の子のような、しかし明らかにひび割れた声。

「あー、アミちゃん、だったか。あぶないあぶない。でもまあ、ひっかかってくれたんだからいいよね」

つぎからはきをつけなくちゃ。

 くすくす、くすくす。

 背後から、幼い男の子のような笑い声。

 声にあふれているのに、明らかにその空間は異質だった。

 まさか。

 まさか。

 そういえばあの縄梯子、どこから出てきたの?

 白くて、少し固い、ふぞろいな、あれ。

 そもそも。

 学校に、天井裏なんてものは無い。あるのは上の階、もしくは屋上だ。

「ここは……どこ?」

 限界はすぐに訪れた。

「――――――――――――っ!」

 声にならない声。

 手をつき、膝をつき、どこかへと這い始める。立ちあがることなんかできない。 

 ……そっか!

ポケットの中に手を突っ込み、入っていた白いそれを投げつける。

「だから、むだだっていったじゃん」

 ナツ、フラグじょうずだね。わたし、もうそのことばおぼえちゃったよ。

 ふっとアルコールの香りがして、光が現れる。そして―――

目の前には、頬がくぼみ、髪が抜け、目だけがぎょろぎょろと激しく動き回る顔が半分崩れたそれ(・・)が――

「おとうとたちのためなんだから、よろしくね、ナツ」

赤く、そして黒い世界の中で、年頃の女の子のように、にっこりと笑った。

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