Episode.4 お嬢様には熱血男子……?
地元で噂のお嬢様学校、白峰学園高等部。
そこに在籍するのは名のある企業やグループの令嬢達ばかり。
そして、九瀬霧亜も例外に漏れることなくそうだった。
いつものように幼なじみの少女、夢前えりると一緒に登校する朝の通学路。途中で彼女と別れ、残りの道を先程までのえりるとの会話を思い出し余韻を楽しんでいると、ガスっと鈍い音がして後ろを振り向けば、件の男、田沼翔太郎が躓いて転びそうになっていた。
霧亜は彼の名を財力と権力を用いて探し出し、雪空学園に通う男子高生だと知った。もちろん、名前から本人のまつわるエピソード、経歴や学歴などの事細かなものまで調べられることは粗方は洗い出した。
見るのも平凡、語るのも平凡だが、妙に気になる……ような気がして仕方ない彼に対しての想いを持つ霧亜。
「またわたくしを付け回していたのですか?」
こちらを見て苦笑気味にへらへらしている翔太郎に侮蔑の目を向けて、少しばかり上から目線で対応する。
「あ、いや……声を掛けようとして、油断して足を引っ掛けてしまいまして……あはは」
本当は二人で仲良くして楽しそうにしている霧亜に声を掛けるのが申し訳なくて、一人になるのを待ってタイミングを見計らっていた翔太郎なのだが、先日と同じ所の看板に足のつま先をぶつけてしまってつんのめってしまったのがことの真相だ。
どうにか適当に言葉を見繕って言い訳めいて嘯いた翔太郎は最後のごまかしに笑ってみせた。
それが霧亜に対してイマイチな印象なのは別として。
「何度来ても同じことですわ。大人しく帰ってくださいまし」
「いや、それはできない。なぜなら、俺はあなたに伝えたいことがあるんだ……!」
少々、というか大分暑苦しい翔太郎だが、それに対して霧亜はというと、
「どうしてあなたみたいな底辺野郎に持つ耳をわたくしが付けていると思いですの?ヘドが出ますわ」
罵倒の言葉と侮蔑の目線で翔太郎に台詞を返した。
耳が少しだけ赤くなっているが、それに翔太郎は気付かずに続ける。
「お願いだ!一度でいい……俺の頼みを聞いてくれ!」
その台詞と共に土下座までしかねない深々としたお辞儀をするという、暑苦しさと豪快さを混ぜて頼む。
「……そこまで言うのなら、聞いて差し上げもなくないですわ」
ツン、とそっぽを向きながらも頬を少しばかり赤くさせる霧亜。
翔太郎はそれを聞き、喜んで内容を伝える。
「俺と一緒に……遊園地に行ってください……!」
「……へ?」
その予想外の内容に数秒間呆けていたが、理解すると耳を熟したトマトみたいに真っ赤にさせて霧亜は翔太郎をキッと睨み付ける。
「なら、今度の日曜日が空いてますわ。その日でどうかしら?」
「ありがとうございます!」
罵りでも毒でもない、嬉しい返事が霧亜の口から出て翔太郎は感謝感激で大声のお礼とお辞儀を深々とする。
そんな二人の様子を近くの曲がり角から覗く影が一つあった。
「……考えって、あれのこと?なんか萎えるわ……けど、面白いことにはなりそうね。これはいい土産ができたわ……ふふ」
ニヤリと口元を吊り上げて梅岡奈緒はその場をあとにした。
どうも、宛です。
今回は別の視点での絡みが出てきましたね。
ここからどうなるのか、楽しみしていきたい所です。
蒼穹先生共々、宜しくお願いしますm(__)m