Episode.2 恋は実に噛み合わない……?
日陰者の魅懸音幸太が張り切り、梅岡奈緒がそれを面白がっている時刻の少し前のこと。
とある学園の通学路を毅然とした態度で歩く少女と、その後をつけて不審者然としている少年の姿があった。
「……今度こそ彼女に声をかけるぞ」
とある田舎出身の田沼翔太朗は、自分に気合を入れて彼女をつけ――追いかけていた。
金髪で縦巻きロールの彼女は久瀬霧亜と言い、翔太朗が一目惚れした意中の相手だ。
つい先日霧亜が友人と思われる人物と歩いている時に一目見て惚れたのだった。つい先日、同じ学校に通う女子生徒と一緒に歩いているのを一目見て惚れたのだった。
――俺も、男だ。やる時は、やる!
そんな風に意気込み、霧亜の後姿に鼻を伸ばしながら愛のストーキング行為をひっそりとする。周りから見た翔太朗は誰から見ても不振がるものなのだが、当の本人は隠れていると信じているのである。
その行動を横で通りすがる奈緒が目撃したのがあとの話である。
翔太朗がタイミングを見て、隠れていた看板から飛び出すと――ガスっ。看板に足がぶつかり大きな音を立てた。
「……痛った……っ!」
つい声を漏らしてしまい、霧亜はその音に驚き振り向いた。
逆にそれに翔太朗が「しまった――!」と驚いてしまう。
だが、霧亜の姿を一目見ると、見入ってしまった。綺麗な金髪にキリリとした瞳、麗しく可憐な容姿は一言では言い表せないほどだ。この前見たときよりも近い位置にいる霧亜の姿に翔太朗は目が離せなかった。
「あなた」
そんな微動だにしなくなった翔太朗を見て、霧亜が口を開いた。
――これは何か幸先のいい展開が……!?
と、翔太朗は期待を胸に寄せるが。
「……もしかして、世界に蔓延る名だたる予備軍……ストーカーですの!?」
「……はい?」
大袈裟にアクションする彼女を見て翔太朗が、目を点にした。
確かにストーカーとは言えなくもないが、霧亜の世界観の広さには後をつけた翔太朗本人さえも言葉を失わせた。
「……」
「……」
「……」
無言でお互いを見つめ合う時間が続く。翔太朗はそれに耐えられなくなって口を開こうと「あの」と言いかけた。その時、
「口を開かないでくださります!?」
霧亜がすかさずそんなことを言ってきたのだ。さらにこう続ける。
「わたくしあなたと同じ空気を吸いたくありませんの!!」
「――!!?」
――もう、吸ってるじゃん!
その突込みはぎりぎりで口にしなかった。
霧亜の言葉に翔太朗は目を開いて愕然とする。地面に手をついてorzのポーズを取って「……なぜ」と落ち込む。
だが、それでへこたれていては男が廃る。そう思い根性を出して顔を上げる。
「――あ、あの!」
「ですから喋らないでくださいまし! あなたのような社会の底辺にいるごみクズとなんて関わりたくありませんの!」
根性を出して話しかけたが一蹴された。ま、まだだ。まだ諦めない。
「いや。あの」
「金ですの!? 金ならいくらでも差し上げますわ! なんならあなたの口座に振り込みます! それで宜しいでしょ!?」
――宜しくないです!
そう思いっきり叫びたい翔太朗だった。
「現金でも宜しくてよ?」
そう言う問題じゃないし、それに俺は宜しくない!
泣きながらそう懇願したい翔太朗。
好きな女に隙を見て告白しようと思って毎日ストーキー――尾行していたと言うのに、ちょっとしたミスでこの仕打ち。悲しすぎやしませんか?
────ねえ、神様?
「ようがないのなら、わたくしは行きますわ。もうついて来ないでくださいまし。あなたのような底辺のごみクズ風情が着いて来ていると思うと、気持ち悪くて溜まりませんの」
蔑みの目で言われたら、元から打たれ弱いハートがブレイクされて粉々になってしまう。もはや崩壊寸前である。
涙腺が崩壊する前に、翔太朗はもう一度だけ根性を見せた。
「あの……!」
「だから――」
翔太朗の言葉に反応して何かを言おうとするが、俺は言ったもん勝ちと思って、すかさずこう続けた。
「あなたが嫌でも、俺はこれからもついて行くのを止めないから!」
「な、何を言って……」
翔太朗の言葉に驚く霧亜。そして、心の中にある言葉を真っ直ぐぶつける。
「俺は、俺は……あなたの後ろ姿に惚れたから――!」
「――!?」
翔太朗の愛の告白に霧亜は顔を真っ赤にする。ちなみに翔太朗はもう爆発しそうなほどだ。
以外にも、彼女は心を打たれてしまったのだった。
翔太朗はというと、そのあと通いの学校とは正反対の方向に走り出してしまっていた。
「……ははは! 言えたっ、言えたぞ!あはははははは!」
思わず笑いが零れ、嬉しさのあまり高笑いをして走るのを止められない翔太朗は、知らなかった。
――──霧亜には遠回しな告白は通じないことに
「……あの人、わたくしの後姿に惚れたですって……? ご、ごみクズのくせに何様のつもりかしら。なら、わたくしには惚れていないのも同然じゃない。……まぁ、褒められて嬉しくなわけではないかしら――きゃんっ?」
別のベクトルでキュンと心を打たれた霧亜の姿は、校門の溝につっかえて転んでしまい、人の視界に入ることはなかった。
宛 幸です。
あおの蒼穹さんことそーらんと共作ということで、今回は僕が書きました。
そーらんが手を加えまして、『らしい』作品になっています。
楽しんでいただけたのなら、嬉しいです。
これからよろしくお願いしますm(__)m