Prologue はじまりはじまり
雪空学園。それなりに名の知れた私立高校で、結構な生徒数がいる。個性豊かで、生徒の自主性を尊重し、この学園を卒業した卒業生に著名な人物が何人もいる。
名前の由来はその昔この学園を建てた代表格二人名前一文字ずつを取ったものだった。二人は仲良しで、よくいろいろな話をしていた。
その二人が学校を完成させて、最後に言った言葉がこうだった。
「この学校はどんな学校になるんだろうな?」
「そうだなあ。ま、楽しけりゃいいだろう」
「違いねえ!」
笑い合って、二人は去って行った。
* * * * *
「ふふん」
とある少女が何かの冊子を読みながら、のんびりと歩いている。少女は冊子に夢中になっていて、周りが見えていない。今歩いている場所は歩道だが、間違えばほかの歩いている人や電柱等にぶつかるだろう――いや、車に轢かれるかもしれない。それほどまでにこの通りは人通りと車通りが激しい通りだった。この場所でそんなことをするなんて事故を呼び込んでいるとしか思えない。
だが、少女はそんなことを気にせず冊子を見続ける。不思議か歩道を歩いている人を見ずにうまく避けている。少女はぶつからないのが当たり前、と言う風に自信満々に歩く。
少女の名前は梅岡奈緒、高校一年生だ。といっても、入学してからしばらく経っているため、そう言う雰囲気はしない。自分が一年生だとは思っていない感じだ。
奈緒はそこそこの美人だったが、何よりも目を引くのは大きな瞳だ。好奇心に満ち溢れており、何かを見つけたときは輝いている。その瞳に似合う短い髪を振り乱すように今はスキップをしている。大きな鞄には学校で使う以外にも、何かが入っていそうだった。
奈緒が先ほどまで読んでいた冊子は、奈緒が通う雪空学園の学校紹介が載っている冊子だ。一番最初のページに書いてある、学校建設概要を熱心に読んでいたのだ。ずらずらと細かい文字が並んでいるそのページを読む人はいなかった。別にそんなことを知らなくても、どうでもいいことだったから……。
それに何より、今読んでいたことだった。入学式はとうの昔に過ぎ去ってしまっている。それをいまさら持ち出すなんて、常人ならやらないだろう。しかし、奈緒は昨日の夜ぱっと思いついたのだ。
――そう言えば、私の通う学校ってどんな経緯で建てられたのかしら?
そう好奇心に満ち溢れた目を輝かせ、部屋をごそごそと漁った。そうして見つけた冊子を今日歩きながら見ていたと言うわけだった。
「いやあ、実に興味深いわ」
そう満足して、奈緒は冊子を乱暴に鞄の中にしまいこんだ。
「あら?」
鞄の中を覗き込んだ時に携帯電話が鳴った。奈緒は着信相手をきちんと見ずに通話を拒否した。そうして何事も無かったかのように歩き続ける。
奈緒にとって、今興味がないことはどうでもよかった。奈緒とはそう言う少女なのだ。興味があることだけに関心がある。別に頭が悪いわけではない――むしろいい方だ。
「それじゃあお兄ちゃん、またね!」
「うん、千那もね」
「……ほほう」
奈緒は雪空学園の下駄箱に行くと、そんな会話が聞こえてきた。確かめるべくもない。村井千勢と村井千那だ。彼らは仲良し兄妹としてこの学園ではかなり有名だ。どうすればあんな美少年と美少女が生まれるのだろう。
しかし、奈緒にとって今の興味はそこではない。二人は――特に千那は何かが変わった。入学式当初とは……何かが違う。
「全く、これだから面白い」
奈緒は唇の端を上げ、一人楽しそうに呟く。この学園は色々なことがある。今日も面白いことが起こりそうだった。