水玉はじけて輝くひかり―1―
オーディオドラマを小説化しよう! 第二弾です。私がお世話になっているサイトで配信中のオーディオドラマ『水玉はじけて、輝く晶』の小説化です。興味のある方はそちらも併せてどうぞ! オーディオドラマとは違った側面がみえて面白いと思いますよ! ではでは季節感まるで無視のお話の世界へ、誘われてください! http://y-s-produce.secret.jp/
夏。
例年より蝉の数が多いのではないのかと、そんな錯覚すら覚えるほどの蝉の大合唱が聞こえる。よく晴れたある日、修二と佳帆はカフェでお茶をしていた。何するわけでもなく、他愛もない話に花を咲かせ、笑い合う。二人にはそれだけで幸せな時間だった。修二が何気なくカフェのガラス越しから外を眺めた。釣られて佳帆もそれに倣う。
遠くで雨でも降ったのだろう、ビルの隙間から微かに虹が見えた。陽炎に揺らめき、ただでさえ不安定な存在が余計儚く見える。修二は眼を細めた。ガラス越しにでも聞こえてくる、蝉の声。道行く人は大抵汗まみれで、団扇を扇いでいる。日陰に退避した人々も、熱気にやられベンチから一歩も動かない。それらを見るだけで想像しなくても外の暑さは十分伝わってきた。
「暑そうだね、外」
佳帆も同じことを考えていたのだろう、修二が見ると薄手のシャツの胸元を開き、風を送っている。すぐに視線を外すと、修二は落ち着かない様子で手元のグラスに入った氷をストローで回し始めた。そんな修二に気づかないまま、佳帆は持っていた雑誌を捲る。そして、星座占いのコーナーを見つけた。真剣に読み進め、次第に笑顔になっていく佳帆。きっと自分の占いに、いいことでも書いてあったのだろう。修二は微笑ましく佳帆を見守っていた。
彼らにとってそれが日常。
少しばかり暑く、少しばかり蝉の多い夏の、平凡な日。
何も変わらない毎日が、そこには在った。
「ねえみて! 今週の星座占い、私一位だったよ! 日毎占いだと……今日とてもハッピーなことが起こりそうな予感、だって……なんだろ!? ラッキーアイテムは……」
熱心に読む佳帆を見つめ、可愛いなぁと微笑む修二。佳帆は占いがとても好きで、自分でも占いをするほどだ。反面修二は占いはほとんど信じていない。嫌いではないが、占いにそこまで執心はない。占いは占いであって、物事を決めるのは結局自分自身なのだ、占いなんて、意味がない。なんて事を言ったら佳帆にドライ過ぎる! と頬を膨らめ怒られたことを過去を修二は思い出す。笑いを堪えたが、修二はたまらず吹き出した。
「どうしたの?」
修二が突然笑い出したので、不思議そうな顔で聞いてくる佳帆。当然の事だ。
「なんでもないよ」
その時の膨れた佳帆の顔が可愛いのと面白いのと、思い出して笑ったとはとても言えない。修二はなんとか笑いを堪えなんでもないとはいったが、余程面白かったのだろう、まだ少し、口の端に笑いが残っていた。
「ふーん。あ、ねえねえ! 今朝私も自分でタロット占いしてみたの! 今日起こることは私にとって良好なことであるって出たんだよ! これってさ、占いのセンスあるのかな?」
センスも何もそれが仕事の要だと思うのは自分だけか? と心でツッコミを入れる修二。
「ある意味、センスのみの仕事だよな」
そのまま口に出し、顔を伏せる。いくらなんでも直球すぎるだろう。恐る恐る佳帆に視線を戻すと、頭に花でも咲いたかのような満面の笑みで照れている。これなら笑らっていても文句は言われまい。そう決断した修二は笑いながら顔をあげた。
「えへへ。ねえそろそろ出ない? 修二君のお部屋行こうよ。エアコンあったでしょ?」
そういって佳帆は上目遣いで修二を覗き込む。堪らず修二はそっぽを向いた。
「あるけど、日中は使うなってハウスルールがある」
「何それ面白い。あ、わかった! 茜お姉さんが決めたんでしょ?」
「そう正解。おかげでこっちはいい迷惑だよ。節電もいいけど、財布の中身も節約させろってのな」
そうだね、と笑う佳帆。向かい合う席で座ったのに、佳帆は身を乗り出して話をしている分修二に近い。体が暑いのは、きっと夏の所為だけではないと、修二は思う。
「でも互いにせっかくバイト休みなんだし、何かしたいよね?」
確かに、と頷く修二。夏休みに入ると同時に互いにバイトを始め、休みはあるもののこうして休みが重なるのは珍しかった。だからこそこうして会っているのだが、このままカフェで時間を潰すのはあまりにも勿体無い。勿体無いのだが――
修二は外を見、それに合わせて佳帆も外を見る。蝉の大合唱と、燦々と照りつける太陽の下を無言で歩く人の群れが見えた。お世辞にも、楽しそうには見えない。
「外に出たいと」
「思えない……ね」
二人はため息を漏らす。
「どっか行きたいところないの?」
できれば外には出たくないのだが、ここで話しているだけというのも味気ない。どこか行きたいところがあるのなら、連れて行ってあげようと、修二は提案する。佳帆は人差し指を顎に当て、なにか考えているような素振りを見せた。佳帆はぶりっ子でもないし、男に媚を売るような性格でもないが、蠱惑的な仕草が多い。天然なのだろうが、同性に敵を作りやすそうだ。もちろん、自分の同性にも敵は多いが。
以前高校のクラス内で付き合っていることがバレた時、男どもの怨嗟の声が聞こえたことを思い出し、身震いする修二。少し体が冷えた気がするのは気のせいではないだろう。
「修二君の家に行っても涼しくないなら、別のところかなー。どこがいいかな―」
未だ考え続けいている佳帆に、修二は疑問を投げかける。
「俺んち行ったって、なんも遊ぶもんないぞ。逆になんでそんなに行きたい訳?」
カフェ内で来客を告げる鐘が鳴った。大方外の暑さにやられた負け組だろうと修二は思う。かくいう修二と佳帆もその負け組の一員なのだが。
「あのね、ちょっと気になることが、あってね」
歯切れの悪い喋り方をする佳帆に修二は話を進める。
「気になること?」
「うん、あのね、外からだったからよくわかんなかったけど、修二君のお部屋の窓際に、水晶が――」
「あれー! 修二に神之木! こんなとこでなにしてんの?」