Vol.1:始まりは唐突で
なに、ここ。
それがオレの第一声だった。
いや、実際には声に出してはおらず、思っただけだが。
目の前にででんとそびえる、傾きかけた(本当に傾いていたのかもしれないが……少なくとも゛チャウダー゛と書かれた看板は右に30℃は傾いていた)いかにも蜘蛛の巣が張っていそうな古い教会を見れば、誰だってそう思うだろう。多分。
昼間だと言うのに、この教会の周辺だけ不気味なオーラが漂っている(気がする)。
いかにもなにかがでてきそうだ。
ここなら、白昼でも本格的な肝試し大会ができるだろう。
きっと、右隣りで突っ立っている、シスター・ミステインもそう思っているに違いない……
そう思って、オレは唖然としているであろうシスターの方へ顔を向けた。
が、その瞬間、オレは逆に唖然とさせられたのである。
シスターが、微笑んでいる。
キラキラという効果音が付きそうなくらい、満面の笑みで。
オレは、思わず口をあんぐりと開けてしまった。
なんでこの状況で微笑んでいられるんだ?
可愛い弟子の研修先がこんなお化け屋敷だってのに、なんとも思わないんですか?
あれか!?
そんなにオレが嫌いなのか!?
自分で勝手な想像をして自分で勝手に傷ついていたオレに、あごを外させたいんじゃないかと思うような、信じられないシスターの言葉が耳に入った。
「テノ、あなたは運がいいですね。こんなに素晴らしい教会なんて、めったにあるものではありませんよ」
……はい?
「本当に素晴らしい。内部から神聖な空気が溢れ出していますわ」
神聖な…?
邪悪な雰囲気の間違いでは?
「テノ、頑張って研修をしてくるのですよ。真のクレリックを目指して、修行に励みなさい」
オレのあごは、本格的に外れそうだった。