駆け上がり蹂躙
僕が今何をしているかわかりますか?
そう、僕は崖登り・・・ではなく穴登りを敢行しているのです。
もちろんスパイダーネットは貼り付けられたままです、避けるの難しすぎる!
フレアウルフの放ってくる炎の玉を避けながら、壁から生えている突起を蹴り駆け上がる。
「よっ、はっ、とっ」
時空属性の空間固定(上級魔法)とか、盛り上がる土錐(中級魔法)とかが使えればもっと楽に登れるのにと心の中で愚痴る。
そんなことをしなくても元々の身体能力と異世界人となった時の強化、さらにゾーン状態に入ればどんなところからでも生還する自信があるけど。
惜しいのは鍛錬をしたことがないという一点に限る。体術は柔道・空手・中国拳法・合気道etc.。それらを動画や本、アニメやマンガなども含む物の知識から得た僕なりの理解を体現したに過ぎない。
もっとも元の世界では不完全なものであったし、威力もスピードもなかった。だが、異世界人として強化されたこの肉体であればそれも可能となるのだ。
基本装備のゾーン状態に物を言わせ壁を駆け上がる。途中、岩ごと落ちてきたスパイダーネットに引っかかりそうになった時は焦ったが。
体術しか使えない僕はフレアウルフとは戦えない。触れたところで燃え上がるのがオチだ。
背後から迫り来る脅威の炎を、横に飛んでかわしては上へと飛ぶ
数十秒かけて落とし穴を脱出した僕はキョウへ無事を知らせる。
「生きてるよ」
笑いかけてやると、絶望に染まった表情が一変して柔らかくなる。
確かにキョウのミスではある。だが・・・。
「気にしないように!僕がしっかりつかんでれば良かったし、落とし穴じゃないほうへ走ればよかったし、僕が隠蔽魔法を使えればよかった。ifをあげても仕方ないけど僕にも落ち度はある。それに、あとは蹂躙するだけだ」
その時の黒い笑みはキョウが僕のことを畏怖する原因となるのだが、それはまだまだ先のことである。
「パーティーの始まりだよ?」
その後、中級魔法(+初級魔法)の嵐を食らったフレアウルフは原形を残さずに挽肉となった。もちろん水属性の魔法は一切使用しておりません。
え?全範囲の火炎放射?穴の中は燃えてましたけどこちらには届きませんよ。無駄な足掻きです。