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きょうこのごろ 1

夏も過ぎ、夕暮れには鮮やかな野外コンサートが奏でられる今日この頃。

少しずつ日の暮れもはやまり、1年も上半を終えたことを否応にも自覚する。

ところで、今の時間帯は表通りが学生達であふれかえり、規模が縮小気味だと言われている昔ながらの商店街にも潤いがもたらされている。

早い話が、周辺高校の下校時間の真っ只中なのである。

帰宅部はもとより、清掃を終えた生徒達も校門を抜け出し、なけなしの小遣いを浪費するのにいとまがない。

いつも通りであり、せわしない。

そんな今日この頃。



「やっぱり、ウチは変だと思うの」


「…………」


開口一番、こんな事を口にしてみると、はす向かいの彼女は呆れた目線をこちらに送ってきた。


「いやはす向かいでなく真正面だし、呆れたでなく憐憫だからね」


返答が無くモノローグ気味に脳内で相槌を打つと、それを読むがごとく真後ろの彼女が言葉を返した。


「どれだけ暇なのあなたは……あと真正面ね」


やれやれと頭を抱える仕草が見えるような声音で、真下の彼女が「あうちっ!」


「いい加減になさい。全く、いったい私は何人姉妹なのよ」


「あはは……ゴメンナサイ」


諫めるような声と、私の眉間にヒットした煙草に似たお菓子(なんて名前なんだろう。いまだに知らない)の箱を合図に、私は正面に向き直る。正直、眉間でなくおでこにして欲しかったけど、そこは私もふざけすぎたということで反省しよう。


「普段からそれくらい殊勝な態度でなさい」


「重ね重ね申し訳ございません」


目下の乱雑な机の上に両手の平と額をつけ、土下座のていでもって謝罪する。


「そこまでしなくていいわよ。あなたは極端なの」


呆れ混じりな声が聞こえ、私は頭を上げる。

……うん、今日も綺麗だメシがウマ「のぉう!」


「……つぎはチョークが飛ぶわよ」


どうやら微妙なラインの発言だったようで、先程までくわえていた煙草に似たお菓子(今度調べてみよう)がおでこにヒットした。

まあ、ほっぺたに朱がさしてるから満更でもないご様子で……



そんなことを考えていると、おもむろに彼女が席を立つ。

置いてけぼりはいやなので、行き場所は知らないが、私も随伴してみることにした。


「お客さん、どこまで?」


タクシーの運ちゃんよろしく、低音をきかせて質問してみた。


「ちょっと黒板の方まで」


返ってきたのは、冷たいナイフだった。


「スタンダードな白と、情熱の赤、どっちがいいかしら」


「調子に乗ってすみませんでした」


凄まじくいい笑顔な彼女に対し、私は泣きっ面で謝るのだった。



「で、結局なんの話なの。まさか私は変人です、ってカミングアウトするわけ」


「きょうちゃんや、その言いぐさは酷すぎない……?」


時は変わって場所変わらず。

相も変わらず正面にいる彼女は、相原今日( あいはらきょう)という、私の同級生であり、親友であり、愛すべきラマンで「あるぅっ!」


「……正妻はいったい誰なのかしら」


……特技は、スローイングと読心術だったりする、よき親友であります。

私は額に張り付いた消しゴムをはがし、赤く色づいているであろうそこをさすりながらトークを再開する。


「まあそれはまたの機会に。

それでね、ウチの学校って、変人が多いと思うの」


そう打ち明けると、きょうは(面倒くさいのでまのびした呼び方ですが)分からないとばかりに首をかしげる。

「……例えば」


「例えばって……いっぱいあるでしょそういう話。

明らかに小学生な子とか教師とか委員長とか男の娘とか双子とかその他もろもろを制覇したと噂の1年のハーレム青年。

もう卒業した先輩だけど、神様とつきあっていると噂の女子大生。

心が読めるとか人を操れるとか噂の2年。

いつまでも卒業しないと噂の小学生なみの女子と長身の男子の3年。

恋愛を通り越して、もはや片方が尽くすだけ、片方が尽くされるだけの灰色の関係と噂の1年とか色々」


「……全部噂じゃないの」


息を切らして伝えた熱い情熱も、切れ味鋭いきょうのつっこみに、返す言葉もない。


「だってさ……こんな噂ばかり聞いてたら、なんか見るの恐いじゃん」


ふてくされたように口をとがらせ、八つ当たり。コモドだなー、わたし。


「いつから私の親友はハ虫類になったのよ……まあともかく、今挙がった噂は、私も聞いたことくらいはあるわね。

どれもこれもフィクションじみてるから、気にしてなかったけれど」


どこかやんちゃな子供をあやすのに疲れた表情で溜め息をつくきょう。現実主義なのは長所であり短所だね。もうちょっと夢見がちなら可愛い女の子なの「にぃっ!」


「……話が脱線してるわよ」


「ごめんごめん。で、まあ私自身そこまで信じてないのも確かなのね」


おでこの分度器をはがし、話を再開する。


「でもさ、さっき言ってて気付いたんだけど、3年の二人組はさ、私らと同学年でしょ?」


「当たり前ね。そんなことも気付かなかったのかしら」


「親友の辛辣さが痛いです……で、その二人組なら調べられるかなぁって」


私はそこで言葉を切って、きょうの出方をうかがう。

正直なところ、きょうにあしらわれて一人で行くしかなくなるのがこわい。

表向きはああだけど、もっとディープな噂もあったし……

内容は……まあ、しいて言うなら、青年誌で掲載不可な領域とだけ……


きょうは少し悩む素振りで、目線を机に下ろしている。

そして唇に人差し指をあて、ちいさくうなる。どうやら熟考しているらしい。

口では突き放していたが、好奇心もあったとみえる。

これは勝算あり、と踏んでもいいのかな?


そうして2分がたった頃。

きょうはちいさくうなずき、私のほうを向いた。


「まあ、同学年のよしみで情報くらいはつかめるでしょうね。いいわ。付き合ってあげる」


少し前の切れ味を忘れるほど、やわらかく微笑んで共闘のむねを伝えてきた。

私はきょうがいっしょに来てくれるという、その事実が嬉しくてつい興奮してしまい。


「もう、素直じゃないんだから!」


ついつい、はしゃいでしまい。


「このむっつりさんは、ひねくれものなんだから!」


きょうのおでこをつついたり、調子に乗ったりと、ハメを外しすぎてしまい。


「正直に、いいなさいよ! この私と、いっしょに、いきたいって、いいなさいよぉうっ!」


結果。

私のおでこには三角定規(二等辺)がストライクしたのでした。

人間、調子にのりすぎはあかんのですね。

「ところで、一ついいかしら」


「なぁに、きょう?」


「この話……まだ調査段階までいってないわよ」


「うっ……」


「…………」


「……じ、次回! 次回はちゃんとやるから!」


「…………」


「ため息つかないでー!」


つづく。

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