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婚約破棄された悪役令嬢「では、私からも婚約破棄させてもらいます」(改稿版)

作者: ふたーなる
掲載日:2026/09/26

 「すまないが、君との婚約は破棄させてもらう」


 部屋が静まり返る。


「いや、・・・その前に私が破棄させてもらいます」


 先程の静寂に、更に静寂が重なる。

 あと二つ重なれば、静寂のカルテットだ。


「先に言うのはずるいです。私が先に言いたかったのに」


 部屋にいる私と彼の家来たちの間をほとばしる空気が張り詰める。


「でも、ボクにだって男としてのプライドがあるんだ。ここは、ボクの方から言わせてもらいたい」


「でも、」


 そういって、私はきゅっとつばを飲み込む。


「私だって、ずっとこの気持ちを我慢してきたのです。自分の気持ちにウソをついて、このままでいいのかって何度も葛藤したのですよ」


「・・・そんな思い詰めさせていたのだね。・・・すまなかった」


「いいのです。でも、この気持ちだけは伝えさせてください。私と、婚約破棄してください!!」


 私は、今までずっとうちに秘めていた思いが溢れ出し、涙が失禁する。


「ボクも、ずっとそう思っていたんだ。ボクたちの運命は交わることはなかった。初めて君のことを見たときから、ずっとそう思っていたんだ」


「そんな、そうだったのですね。私たち、そんなにも、」


「泣かないでくれ!もう、泣かなくていいんだよ。ボクが、ちゃんと責任を持つ!!」


 私は、彼に一歩二歩と倒れ込むように近づく。


「夜寝ても、あなたのことばかり考えていました」


「奇遇だな。ボクもだ」


「少し、お聞きしてもいいですか?」


 彼は私の肩を優しく触りながら「何でも聞いてくれ」と言った。


「本当は、私の気持ちにすでにお気づきだったのではないですか?」


 すると彼は、「フフ、そんなことないよ」と言う。


「ボクも、ずっと不安だったんだ。怖かった。君がそう思っていないんじゃないか、と思うと胸が締め付けられるような気持ちになったんだ」


「そんな、・・・私は、なんと罪深いことを、」


「気にしないでくれ。もう、大丈夫だ。ボクは、君の本当の気持ちが聞けてよかった」


「私も、あなた様のお気持ちが聞けて、本当に嬉しいですわ」


「なかなか、勇気が出なくてな」


「私こそ、・・・まだ、恥ずかしいです。顔が赤くなっていないでしょうか、もう、手から汗もすごくて、」


「そういうところが嫌いだったのだ」


「そんな、・・・やめてくださいよ」


「ハハハ、嫌いだったんだ」


「私だって、・・・その、・・・あなた様の口の悪いところとか嫌いでした」


 彼の瞳孔がキュっと開く。

 そして、耳まで真っ赤に染まる。


「あなた様こそ、赤くなっておりますよ」


「そ、ししし、仕方ないじゃないか。・・・その、突然で驚いているというか、・・・ボクだって嬉しい気持ちでいっぱいなんだ」


 そういって、彼は私の耳を触ってくる。


「私、婚約を破棄したらやりたいことが沢山ありまして、」


「実はボクも色々考えていたんだ」


 私たちは「フフフ」と言って笑い合った。


「婚約破棄したら、もっと素敵でお金持ちな男性とお付き合いしたいと思って、」


「実はボクも、もっと上品で胸の大きい子と結婚したいと思っていたんだ」


「私たち、似た者同士ですわね」


 そういってまた「ハハ」と笑い合った。


「実は、・・・渡したいものがあるんだ」


「え?そんな、・・・、私なんかのために、いいのですか?」


「ちょっと、そこで待っててくれないか?」


 そういって、彼は部屋から出ていった。

 一体、何を持ってくるつもりなのだろうか。

 感情の汗腺が、ギュルギュルと音を立てて緩む。

 私は膝をこすり合わせて、なんとかこのモヤモヤとした感情をすり合わせる。


 すると、彼は小さな箱を持って部屋に戻ってきた。

 彼の世話をしているメイドが、部屋の扉を丁寧に閉める。


「ちょっと、こっちを見てほしいんだ」


 私は赤らむ顔を手で覆いながら、彼の方を向く。

 すると、彼が私の目の前で片膝を床につける。

 そして、両手を差し出した。その手の中には、先程の小さな箱があるのだが、見覚えがある。


「もしかして、これって、」


 彼がヒュンと顔を上げる。


「これは、君との婚約の証として君からもらった、王族に代々伝わるダイヤの指輪だ」


「ええ、そんな、私、・・・いいんですか、」


 私は口に手を当てて、そして、こぼれ落ちる涙を拭う。

 油断すると、ヒックヒックと情けない音が鳴りそうになる口に、きゅっと力を込める。


 すると、彼は膝をついたまま箱の蓋を開けた。


「ボクと、婚約破棄してくれませんか!!!」


 彼が下を向いた状態で叫ぶ。


「その、・・・一旦顔を上げてもらってもよろしいでしょうか?」


 彼が、ギギギと顔を上げる。


 彼と目が合う。


 相変わらず、いやらしい顔だ。


「そ、さっきも聞きましたよ」


 彼は「フフ」と笑ってから、「改めて君から聞かせてほしいんだ。ボクと、婚約破棄してください!!!」と言った。

 もちろん、

 私は彼の両手を包み込むように、握る。

 そして、彼の手の上にひらりと乗っていたダイヤの指輪をひょいと投げ捨てる。

「もちろん、・・・・ありがとうございました」


 周りの家来たちから、拍手喝采が巻き起こる。


「おめでとうございます!!」「これは、国王様にお伝えしなければ」


 私は彼の方をまっすぐと見る。


「ちょっと、目をつぶっててもらえますでしょうか?」


 彼だってもうわかっているだろう。

 彼が、ギュっと目をつぶる。

 そして、私は思い切り右手を振りかぶって、彼の頬を思いっきりビンタした。

 周りから歓声が起こる。

 そして、彼はビンタされた場所をよしよしと撫でながら「やりましたね」とこっちを見て笑う。


「私たち、今日から他人ですね」


 そういって、私は彼に微笑みかけた。


「・・・なんか、少し照れますね」


 そういう彼の表情は、なんだかぎこちなかった。


「では、私お父様にご報告しないとですので、」

 

「そういえば、ボクもお伝えしないと。ここは、一緒にお伝えさせてもらってもいいですか?」

 

「別に、婚約破棄の知らせくらい、一人でできますよ」

  

 彼は「いいえ」と首を横に振ってから「ここは、直接お伝えに行きたいのです」とまっすぐとこちらを見つめてくるので、私は「そんなに言うなら、」ということで、二人でこの国の国王である私の父に挨拶に行くことになった。










□□□□

 「入りなさい」


 扉の向こうから父の厳粛な声が聞こえてきた。

 私たちは息を合わせて「失礼します」と言って、中に入った。


 父は腕を組んで椅子に座っていた。

 そして私たちに、「とりあえず、ここに座りなさい」と低い声で言い放った。


「失礼します!」


 彼は少し緊張した様子で、椅子に座る。

 彼と父が対面する形だ。私は、彼の横に座った。

 なんだか、いつもよりも父のことが大きく感じる。


「あの、娘さんと婚約破棄させてください!!」


「なんでうちの娘を物みたいに扱わないのだ」


「そ、その、娘さんはボクにはいりません!!!」


「・・・・・もう遅いよ。君に娘との婚約は破棄させんよ」


「お願いします。お父様と呼ばさせて頂く予定だった方!!」


「君にお父様と呼ばせて頂く予定だった方なんて言われる筋合いはないよ!!」

 

 そういって、父は彼に持っていた王冠を投げつけた。


「お父様、私と彼の気持ちは本物なんです。もう、ずっと、婚約破棄したいと思ってたんです」


「娘さんは、ボクを不幸にしてしまうんです!!だから、」


 そういって、彼は床に頭をこすりつけた。


「だから、婚約破棄させてください!!!!」


 父は彼のことをじっと見下ろす。


「お父様、私からもお願いします。もう、彼と一緒にいるのが耐えられなくて、ほんとに、辛くて、」


 私はそう言って涙を流した。


「・・・・・まあ、顔を上げなさい」


 彼が、顔を上げて、恐怖からなのか、ギュッと目をつぶる。

 私も、少し行儀が悪いかもしれない、と思いつつも両手を合わせてただただ神に祈った。


「・・・わかったよ。しっかりと、君の覚悟が伝わったよ。それでは、」

 

 父が私の方を見てから床に座っている彼に「娘を頼まないよ」と言った。

 彼は地面に座ったまま、今度は「ありがとうございます!!」と言って土下座をした。


「・・・もう、彼のことを不幸にするんじゃないよ、」


「わかっていますよ。お父様、」


「キミも、これからは好きに生きなさい!!」


 彼が目をうるませながら今度は父の顔をしっかりと見ながら「あ、ありがとうございます」と言った。


「これで、お互いに好きに生きられるわね」


 私はにこやかにそう返した。


「じゃあ、行こうか」


「そうですわね」


 私たちは父の部屋を出た。

 そして、部屋を出てすぐに、私は彼の頬にビンタをした。


「痛いじゃないかっ」


 そういって彼が私のことをビンタしてこようとしたので、それを屈伸して避けてから、もう一度彼にビンタをした。


「ハハッ、相変わらずだね」


 そういって、二人で「あはは」と笑いあった。

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