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第一話

おはようございます。新作第一話のお届けです。森川チロ暗黒青春小説シリーズ第六弾。今回は大阪焼肉旅行編!お楽しみに!


 「焼肉焼いたら最高!」

       (第一話)


        堀川士朗



昔を思い出すと

疲れる。

だが、思い出して

やらないと

もっと疲れる。


細かい事をよく覚えていると思われるかもしれない。だが、たいがいの事は忘れてしまった。


過去へ。



※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



品川由紀夫さん演出の時代劇『濡れた近松』大阪旅公演でスタッフについていた金井由麻ちゃん。

公演中に良い仲になり、何度も僕が泊まっているホテルに遊びに来てあーだこーだあれやこれや楽しんだ。

由麻は小柄な子で、クラビット・リニーみたいな爆裂な髪型をしていた。

公演が終わると、僕は当然のごとく冷たく彼女を置いて東京に帰り、しばらく一年くらい連絡もしていなかったけど、こないだ電話があって「大阪に遊びに来ない?また森川チロくんに会いたい」とお誘いがあった。

何だよ嬉しいじゃないか。


時期的にはキンモクセイが香る頃で風も涼しく心地よい季節だった。

僕はどれ旅にでも出てみるかという気分になっていた。

二泊三日くらいで旅をしようかな。

旅費にも困らなかった。

ちょうど自分の劇団、インマヌエラ夫人の公演が終わって、お客様がすごくいっぱい来て芝居の上がりがたくさんあったからだ。

黒字も黒字だった。

それに宿泊先はホテルは取らず、由麻の家に泊まれるみたいだから節約出来る。


「大阪。ぜひ行くよ」


僕は快活に答えた。



大阪旅行初日。

二泊三日の旅なので旅行カバンではなくスポーツバッグに着替えだけ入れてきた。

僕は行きの新幹線の中で、男のサガについて考えていた。

僕はその頃、金井由麻の他に東京に本妻的な彼女が一人と、あと遊びで付き合っている女の子が二人いた。

まあ、青春だからしょうがないって事で。性の怪物って事で。

あれ?喉が痛いし咳も出る。風邪を引いているな。でもまあ良いか。



大阪着。

在来線を乗り継いで。

生野区桃谷のコリアタウン。

住宅街であり、商店街がいくつかあるようだ。

キンモクセイは大阪でも香っていた。

コリアタウンにあるボロい二階建ての一軒家。

由麻には彼氏がいた。

そこが金井由麻と彼氏の同棲する住居だった。

鍵は、穴の空いた玄関のガラス戸に腕を突っ込んで施錠、解錠するスタイルだった。

無用心極まりない。

一階は六畳が二間で台所がついていて雑然としたゴミ屋敷だった。

陰惨ではないが、すさんだ部屋である事に間違いはない。。

風呂はついていなかった。

電気代を節約しているのかな。

はだか電球で生活していて、全体的に暗い家だった。


金井由麻は在日韓国人三世で、本名はキム・ユンジャといった。

由麻とのキスはちょっとキムチの味がしたのでそうじゃないかと思っていたんだ。

民族特有の味というかな、何かそんな感じ。

日本人だってきっとしょうゆの味がするんだろう。


由麻の彼氏。たかちゃん。

たかちゃんは27歳の日本人の青年で、フリーで服飾デザイナーをしていた。

たかちゃんは紫色のパーカーをいつも着ていて長髪だった。

そのパーカーは自分でデザインして縫製してプリントしたものだった。

たかちゃんにとてもよく似合っていた。

もうすぐニューヨークに移住する事になるたかちゃん。

由麻とは別れるらしい。由麻はそれをひどく寂しがっていた。


二階のたかちゃんの部屋を見せてもらった。

部屋の中央に大型のミシンが二台と、その周りは自分でデザインして縫製した服がいっぱい飾られていた。

部屋の隅っこに布団があって、そこでからだを小さくして寝ているらしかった。


初日の夕飯は韓国の辛いカップ麺だった。

由麻は普段調理もせず、金がないのかもしれない。


一階。金井由麻とこたつに入って寝た。夜中、足で由麻の股関をグイグイやったら、


「チロくん、やめてや」


と静かに怒られて拒絶された。

何だよ。

たかちゃんは二階で寝てるじゃないかよ。

ケチ。

ケチってこたないか。


「チロくん明日は焼肉食べに行こうな。風邪気味みたいやからスタミナつけんと」

「うん」


すきま風だらけ。

玄関の割れたガラス戸から冷たい夜の秋風が入ってきてからだが冷える。

持ってきたスポーツバッグを枕にした。

咳も出て苦しいので大阪旅行初日は無理矢理眠った。



           つづく



ご覧頂きありがとうございました。また来週土曜日にお会いしましょう。

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