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異相の理  作者: 赤鰯 はこぼれ
第二章 その渇きは癒えることなく
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第十四話 みえない被害者

 翌日。

 午前中の雑務を片付けていると、執務室の扉がノックもそこそこに開き、真田さんが顔を覗かせた。その顔には相変わらず疲労困憊の文字が刻まれているようで、昨日よりも更に疲れが見えている。


「おい、御子神、栗花落。ちょっといいか」


 御子神さんが椅子を回転させ、にやりと笑う。


「仕事早いっすね、刑事課」

「皮肉はやめろ。徹夜で資料を洗ったんだよ……俺は帰りたいのに……」


 真田さんは俺たちを軽く睨んだあと、特案の執務室の向かいにある会議室に来るように俺たちに告げる。

 会議室の椅子に腰を下ろすと、彼は手際よく机に数枚の資料を並べた。


「三人目の被害者、塚野大和(つかのやまと)。こいつは生活安全課が随分前からマークしてた。未成年を使った会員制風俗店の運営に関わっていた疑いがあったらしい。それに加えて、被害者はどいつも塚野と接触があったことも判明した。つまり、店の利用者だったってわけだ」

「やっぱり」


 思わず呟くと、真田さんは眉間を指で揉みながら続ける。


「お前たちが言った通りだったわけだ。それで、幸いなことに裏は出てこなかった。組織の関与もなし。経営者は完全に単独」

「単独でよくもまあ……」

「一般人がこんなことってできるんですか?」

「そういう奴もいるんだよ。妙に客を掴むのが上手いタイプ。今回は未成年絡みってこともあって、生安はこのまま摘発に動くらしい。一応、お前たちにも共有しておこうと思ってな」

「その店の場所、教えてもらえません?」


 唐突に口を挟んだ御子神さんに、真田さんが怪訝な目を向ける。


「……まだ何かあるのか」

「何ってわけじゃないですけど、そちらが動く前に、こちらで色々見ておきたいので。あ、もちろん摘発の際も同行させていただけると助かるんですけど」

「お前がそう言う時は碌なことがねえんだが……」

「大したことじゃないですよ」



 真田さんが訝しげな表情を浮かべたまま、御子神さんを睨む。が、彼はそれを意に介していない様子だ。

 しばし沈黙し、真田さんは諦めたように肩を落とした。


「……もう好きにしろ。ただし、本当に余計なことはするなよ。摘発前に逃げられでもしたら――」

「大丈夫ですって。俺が言うんだから」


 そう言って、御子神さんは満面の笑みを浮かべる。


「はあ……あとで資料は渡す」

「助かります~。ちなみに、生安は何時頃動く予定なんですか?」

「そうだな。今日、明日にでも令状を請求して……早くて四日後ってところか」

「摘発まで結構早く動けるんですね」

「今回のパターンは稀だ。元々マークしてた男が姿を消して、生安の方でも嗅ぎ回っていたらしいからな。まさか、死んでるとは思ってなかったみたいだけどな」

「そりゃそうだ」


 御子神さんが鼻で笑った。


「じゃあ、動き出すタイミングで俺らも同行させてください。でないと被害者、増えるかもなんで」

「おいおい、この期に及んで怖いこと言うなよ」


 真田さんは物凄く嫌そうな顔をする。


「冗談だよな?」

「さあ?」

「おい、栗花落も何とか言えって」

「え、俺ですか? ……えっと、冗談ですよ、多分」


 急に振られて反射的に答える。

 御子神さんの冗談は、冗談ではない時があるので、そうとしか言いようがない。


「曖昧な感じで言うなよ、余計に怖え」

「冗談か否かはさておき――動くときは連絡くださいね、真田さん」


 御子神さんがそう言うと、真田さんは「分かったよ」と疲れ切った表情で肩を落とした。


「あー、あと、ここだけの話なんだが……」


 会議室から出ようとしたところで、真田さんが声を潜めて俺たちに耳打ちする。


「今回の事件、”特案にも上げられていない被害者”が一人いるらしい」

「は? どういうことですか」


 御子神さんが眉間に皺を寄せた。

 蓮原署内の管轄で起きた事件情報は、全て特案にも共有されることになっている。それはどんな事件であれ、例外はない。だというのに、開示されていない被害者がもう一人――。


「詳細は俺たちにも開示されてない。その被害者だけ、刑事課ではなく一課の一部の人間だけが対応していた。これは俺の推測だが、もしかしたら相当厄介な事件なのかもしれない」


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