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君がくれた無垢な愛を僕は今日も抱きしめる  作者: あさの紅茶


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7.祈り_03

陽茉莉の症状は外傷性くも膜下出血だった。

あのとき突き飛ばした男の子はかすり傷ですんだらしい。世間では美談にされている。陽茉莉が身を挺して守ったのだと。


けれどそんな綺麗ごとなど亮平はどうでもよかった。そんなときまで良い子な陽茉莉になるなと叱りたい。


どうして誰かをかばったんだ。

どうして陽茉莉が被害にあわなければいけないんだ。


どす黒い気持ちがモヤモヤと心をむしばむ。


陽茉莉に会いたい。

陽茉莉の声が聞きたい。

陽茉莉の笑顔が見たい。


亮平は毎日祈った。祈って祈って祈って、会いたくてたまらなくて、だが家族しか面会は許されない。その家族ですらも、一日に数分しか面会できない。


自分でさえもこんなに胸がえぐれそうな思いなのに、陽茉莉の両親の心労はいかほどだろうか。考えるだけで耐えられなく吐きそうになる。


亮平も事故で死の淵をさまよった。自分は車椅子になったけれど生きている。だからきっと陽茉莉も大丈夫、目を覚ましてくれる。


そうやって、何度もくじけそうになる心を必死に持ち上げる。


亮平だけではない。

誰もが陽茉莉が目を覚ますことを祈っていた。


母は毎日仏壇に祈った。陽茉莉を連れて行かないでと毎日泣いた。泣きはらした目で病院にも通った。両親はお互いを支え合いながら陽茉莉の回復を願った。


そうして二週間ほど過ぎたころ、亮平の元に連絡が入った。陽茉莉の父からだ。


『亮平くん、陽茉莉が目を覚ました』


「本当ですか!」


ああ、よかったと安堵のため息が漏れる。

だが――。


『すまないけど、病院に来てもらってもいいだろうか』


ずいぶんと沈んだ声に再び緊張が走る。


「なにか……あったんですか?」


『それを確かめたくて……。ああ、でもちょっと……心しておいてほしい』


それ以上、陽茉莉の父は何も言わなかった。亮平も深く追及することが出来ない。陽茉莉の父の声は動揺しているような震えているような、そんな雰囲気が漂っていたからだ。


陽茉莉が目を覚ました喜び、陽茉莉に会える喜びで胸がいっぱいになる。けれどその一方で、嫌な予感もひしひしと感じる。


なんだろうか、この落ちつかない感じは。

亮平はきゅっと口を結んだ。

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