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君がくれた無垢な愛を僕は今日も抱きしめる  作者: あさの紅茶


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6.君がため_02

家を飛び出し夜道を歩くことでほんの少し頭が冷えた気がする。けれど自宅に戻ろうとは微塵も思わなかった。


今日は亮平は仕事が忙しいと言っていた。陽茉莉は早番だったし、時間が合わないということでまっすぐ家に帰ったのだが、まさか自分が家を飛び出すことになるとは陽茉莉自身驚いている。


ずっと我慢していたのだ。


(そう、私は我慢していたのよ)


本当にそうだろうか?

母を悲しませたくない、弟が亡くなったときの母の泣き顔をもうみたくない、その一心で取り繕ってきた。


(取り繕ってきた……?)


わからない。

自分が今までどんな気持ちで過ごしてきたのか、まったくわからなくなった。


忙しいと聞いていたのに衝動的に亮平に電話をかけた。コール音が耳に響くたび、そうだ忙しいから出られないかもしれないなと、冷静になっていく。そしてずんと気持ちが重たくなっていくのを感じる。


結局留守電に切り替わってしまったため、陽茉莉は携帯電話をカバンに突っ込んだ。


思えば貴重品の入ったカバンだけで家を飛び出してきてしまった。亮平の家に泊まると豪語しておきながらこの様だ。


一人ぼっちの夜道は寂しくて仕方なかった。

肌に触れる空気は暖かいのに、行き場を失った陽茉莉の心は酷く冷え切っているかのよう。


どれくらい時間が経っただろうか。

時間の感覚がなくなるほどに、陽茉莉はぼんやりと空を眺めていた。


薄暗い公園のブランコに座り、少し揺れるたびキィっと小さく音が鳴る。公園の前は道路で、向こう側へ渡るための横断歩道がある。


陽茉莉の弟、陽太はこの横断歩道でトラックにひかれた。陽茉莉と同じで明るく真面目な子どもだった。


もし陽太が生きていたら、母は陽茉莉と亮平のことを認めてくれただろうか。それとも、関係なく障がいに嫌悪感を持っているのだろうか。


「そっか、そういうこともちゃんと聞いてないもんなぁ……」


母に認めてもらえるよう頑張ると言ったけれど、特段話し合ったり努力したりはしていない。多分無意識に、その話題に触れないようにしていたのかもしれない。


突然携帯電話が鳴り出し、陽茉莉はビクッと肩を揺らす。きっと母からの電話だと思いつつも渋々カバンから取り出せば、画面に表示されている名前は【水瀬亮平】で――。


「亮平さん!」


『ごめん陽茉莉、電話くれてたみたいだけど。今仕事が終わったんだ。どうかした?』


「亮平さん、あのね……」


きっと亮平は遅くまで仕事をして疲れている。明日も仕事があるし迷惑はかけられない。そう思うのに、気持ちが止められない。


「今日、亮平さんのお家に……泊まってもいい?」


『うん? 泊まり? いいけど、陽茉莉は大丈夫なの? 泊まることできないんじゃなかった?』


「うん、そうなんだけど……。亮平さんに今すぐ会いたい」


『うん、わかった』


亮平は深くは聞かなかった。

そうやって無条件に受け入れてくれることに、陽茉莉は胸がいっぱいで泣きそうになった。

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