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君がくれた無垢な愛を僕は今日も抱きしめる  作者: あさの紅茶


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4.君という独占欲_01

陽茉莉は元々パティシエとして採用されたため、人手の足りないときは厨房に入る。


「悪いね、矢田さん。今週はこっちで頼むよ」


「はい、了解です。それにしても災難でしたね。右手首の捻挫だなんて」


陽茉莉はエプロンをきゅっと締めながら、店長の隅田の痛々しい包帯に顔をしかめた。

隅田は休日に子供と公園でサッカーをして石に躓き、とっさに手をついたときにグキっと捻ってしまったらしい。利き手のため何をするにしても不便だ。


「治るまではできる事だけやらせてもらうよ。本当に申し訳ない」


「いいえ、私、作るのも大好きですから、お任せください。ね、長峰くん」


「店長~、この貸しは大きいですよ」


陽茉莉の後輩にあたる長峰遥人(ながみねはると)は軽口を叩きながら持ち場に入る。陽茉莉もふふっと笑いながら後に続いた。


「よいしょっと……あっ」


業務用の小麦粉を棚から下ろそうとすると、すっと横から手が伸びてきて陽茉莉の手からするりと抜き取られた。


「さっすが~。背が高いといいね」


遥人は身長180cmで155cmの陽茉莉は見上げてしまう。たいてい高い所にあるものは遥人が取ってくれるのだが、遥人はやれやれとため息をついた。


「だいたい、危なっかしいんっすよ、矢田さんは」


「そうかな? 結構しっかりしてると思うけど」


「小麦粉ぶちまけた人がよくいう……」


「先輩の失敗を蒸し返さないの」


ぷうっと膨れるが遥人は軽く受け流す。

生意気な後輩だ。


陽茉莉はケーキにクリームを塗りつつ、誕生日プレートにチョコで文字を書いていく。店内からは厨房の様子がよく見えるように1カ所だけ大きなガラス窓がついており、そこからパティシエの様子を見ようとよく子供たちが群がっていた。


陽茉莉はそんな子どもたちに手を振りながら、どんどんケーキを完成させていく。


「おねえちゃん、バイバーイ」


「はーい、また来てね~」


ニコニコと愛想を振りまきながら仕事をしていると、ふいに長峰と目が合う。


「子供にはよく好かれますね」


「にはって、どういう意味よ」


「同類ってこと」


「もう~、長峰くんの意地悪」


ぷくうと頬を膨らませていると、ショーケースに並べるケーキを取りに来た結子がニヤニヤと長峰を突く。


「長峰~、残念だったわね」


「何がです?」


「陽茉莉ちゃんはもうツバ付けられてるからね」


「えっ? 誰にですか?」


「んもう、車椅子の君よ、車椅子の君!」


「はい?」


遥人は意味がわからないと眉間にしわを寄せる。結子はお節介にも、車椅子の君が陽茉莉の憧れで推しである、店の前をよく通る人物だと説明した。


「ふうーん、矢田さんって物好きっすね」


「どういう意味?」


「だって自ら苦労を買って出るわけでしょ」


「長峰、言い方!」


結子が遥人に軽く蹴りを入れながら咎める。遥人はぎゃっと悲鳴を上げるが、二人のやり取りに陽茉莉は首を傾げて再び問う。


「……どういう意味?」


本当にわかっていない様子の陽茉莉に、遥人は言いかけた言葉をのみ込んだ。純粋無垢な彼女に現実を突きつけるのは忍びないと躊躇してしまったからで――。


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