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『炎の錬金術師と英雄たちの旅』

炎の錬金術師は、新たな旅路へと足を踏み出した。

英雄と呼ばれる者たちとの航海は、一見仲間の絆に見える。

だがその裏には――嫉妬と敵意が静かに潜んでいた。


挿絵(By みてみん)

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――出発当日。

主人公ジェイズは、勇者ラウルのパーティーメンバーとともに、新たな冒険へ向けて出立の時を迎えていた。

彼らが乗り込んだのは、広くて近代的な宇宙船。個室は五部屋、バスルーム三つ。リビング、レクリエーションエリア、訓練室、食堂、そしてキッチンまで完備されている。

「うわ、俺の家より装備が豪華じゃん」ジェイズが感嘆する。

隅に立つラウルは、彼を冷ややかに見やった。

挿絵(By みてみん)

(所詮は貧乏人、ってことは否定できまい。ギルド長はこいつのどこを気に入ったんだ?)と、傲慢に心中で吐き捨てる。

「ところでさ、この船は誰が操縦するんだ?」ジェイズが興味津々に尋ねる。

「無知を晒すな」ラウルは片眉を上げた。「この船はオートだ。操縦士は不要。座標を入力すれば目的地まで勝手に運んでくれる」

「おおお〜っ! すげぇ!」

「まるでこういう船に乗ったことがないみたいね」ラファエラが、ややからかう口調で言う。

「実は……宇宙船での外宇宙は初めてなんだ」ジェイズは後頭部をかく。

「えっ? じゃあどうやってアルタリウスR50星まで行ったの?」ラファエラが首をかしげる。

「それが“ギルド長の嘘”の証左だな」ラウルは腕を組む。

「テレポート装置を使ったんだ。数秒で目的地に飛ばされた」ジェイズが説明する。

「私はあの星の生まれよ」ラファエラが身を乗り出す。「どこを回ったの?」

「観光じゃなかったからな……でも、王女カテリーネの城にはいた」

「カテリーネ……。第二王位継承者ね。勇敢な子だって聞くわ」

「知り合いなのか?」ジェイズがたずねる。

「噂だけよ」ラファエラはどこか懐かしむように微笑む。「私の住んでいたのは王国から遠い、エルフの集落。うちの国とは仲が良かったってことくらいかしら」

「なるほど……」

ラウルは腕を組み、挑発めいた笑みを浮かべた。

「さて、新人。話を変えるが、少し腕前を見せてみろ。錬金術師の実演ってやつを、俺はまだ見たことがない」

「いいじゃない、興味あるわ!」とシャルロット。「錬金術って、無から有を生み出す――みたいな“奇跡”もできるんでしょ? ねぇリタ、気になるでしょ?」

「え、あ……うん、まぁ……」リタはどこか上の空。

(あぁ……みんな可愛い……)ジェイズは思わず見惚れる。

「“無から有”は無理だよ」ジェイズは軽く手を振る。「必要なのは等価交換。作りたい質量・物質に見合うものが要るんだ。

俺の得意分野は“炎”。

鉄や金、いろんな金属を成形できる……。

でも――今は実演は遠慮したい。ごめん!」

「ちぇっ、つまんない〜」シャルロットが頬をふくらませる。

「無理強いは良くないわ」リタがジェイズの肩を持つ。

だがラウルは引かない。

「おいおい……俺の“女の子たち”に失礼だろ。彼女たちが見たいと言うなら、見せるのが筋ってもんだ。

――訓練室へ行こうか。

そこで軽く手合わせでもしよう。力量把握は普通のプロセスだ……そうだろ、“相棒”?」

――

「本当にやるつもりか?」ジェイズが平板な声で問う。

ラウルは顎を上げ、自信たっぷりに頷いた。

「当然だ、坊や」

一行はそのまま船の訓練室へ向かった。

そこは広々としており、最新のトレーニング機器や戦闘用ツールが揃い、中央には巨大なドーム型の模擬戦フィールドが鎮座している。

「よし、着いたな」ラウルは展示された武器に目を走らせる。「見ての通り、選択肢は多い。

俺は槍使い――いわゆるランサーだ。……で、お前の得物は?」

「同じ武器で対等にやるためにな」

「――剣。俺は剣が好きだ」ジェイズは即答した。

「結構。ならそれでいこう」

(コイツ、俺を“自分の女たち”の前でコケにするつもりだな……。だが関係ない)ジェイズは棚から練習用の剣を二本、無言で抜き取る。

(錬金術は使わない)

「準備できた、勇者様」ジェイズは静かな眼差しで告げる。

挿絵(By みてみん)

「よし。お前の実力、見せてもらおう」

訓練室の空気がピンと張り詰める。

シャルロット、ラファエラ、リタの三人は、模擬戦フィールドの縁から息を呑んで見守っていた。

「――始めッ!」シャルロットの張りのある号令。

ラウルが猛然と踏み込み、初太刀。

ガキンッ――剣がぶつかり合い、衝撃が空気を震わせる。

互いの一撃ごとに、相手の間合いと癖を測り合う。

ラウルは豊富な実戦経験を土台に、外科手術のように無駄のない精密な攻め。

対するジェイズは、身のこなし軽く、流れるように避け、受ける――ただし、どこかブレーキを掛けている。

「多少はやれるようだな」ラウルは斬り結びながら吐き捨てる。「だが、それだけだ」

ジェイズは平静を崩さない。手にした剣は軽く、速い。……だがラウルは動きを容易に読んでくる。

秒を追うごとに圧が増していく。

(この剣じゃ足りない……“ソル”と“ルナ”が要る)

(間違いない……こいつは本物のランクBだ)

「どうした、坊主?」ラウルが嘲る。「ギルド長がベタ褒めする“逸材”は、その程度か」

ラファエラは腕を組む。

「時間の無駄ね……ラウル様が完全に押してるわ」

だがリタは不安げに眉を寄せた。

「全力じゃない……気がする。ジェイズさん、どこか抑えてる」

「抑えてる?」ラファエラが片眉を跳ね上げる。「冗談はやめて。ラウルが隙なんて与えてないでしょ」

「ご、ごめんなさい……」リタは小さく肩をすぼめた。

その最中、ラウルが巧妙なフェイントでジェイズの剣を弾き飛ばす。

ヒュン――一本が宙を回転し、ドスンと防護壁に突き立った。

ラウルは優越感を隠しもせず、一歩踏み込む。

「がっかりだ、相棒。もっと楽しませてくれると思ってたが……」

「悪いね」ジェイズは作り笑いを浮かべた。「所詮ランクEは、ランクBには敵わないさ」

ラウルの目が細くなる。

「俺を馬鹿だと思ってるのか?」

「え?」

ラウルの声色が陰る。

「力を使え。

お前は錬金術師だ。

自分の力で“武器”を作れ。

力を使え……その剣じゃ、お前には足りん」

さらに一歩。声音は純然たる脅しに変わる。

「今ここで全てを出さないなら――“侮辱”と受け取る。

――この場で、お前を殺す」

「また始まった……相変わらずワガママ」シャルロットがうんざりとため息。

ジェイズは口の端を悪戯っぽく吊り上げた。

「わかったよ、望みどおりにしてやる――あとで“女の子みたいに泣いたり”すんなよ!」

「それでこそだ! いくぞッ!」ラウルが高揚を隠さず吠える。

次の瞬間、ジェイズは錬金術を起動。

閃光の収束――彼の掌で、二本の愛刀が鍛成されていく。

「ソル」と「ルナ」。

彼を包む気配が一変した。立ち姿は揺るがず、動きはさらに鋭く速く――いまや、一切の出し惜しみはない。

「ハハハ……そうだ、それでいい! ようやく“本当の戦い”になった!」ラウルが歓喜をあらわにする。


ラウルが〈身体強化〉を起動した。

刹那、全身がきらりと閃き――全ステータスが10%上昇。

(――動きが目で追いきれない……。だが、今度は負けない)ジェイズは心を静める。

「どうした、驚いたか?」ラウルは猛攻を止めず、嘲るように笑う。

**ジェイズは冷静さを崩さない。**いなし、下がり、機をうかがう――。

「錬金で作ったその剣、よくできてるな。……刀、か?」

「そう。俺、刀が好きなんだ」

「なら別れを言え。――ここで終わらせる」

ラウルが一気に畳みかけ、ジェイズを床へ押し倒す。

相手を押さえつけたまま、剣を高く振り上げ――振り下ろす。

(――今だ!)

ジェイズの双剣が、金属の双蛇のようにビヨンと伸長。

ラウルの四肢へ巻き付き、その身をぎり、と締め上げる。

「なっ、これは……!」ラウルが目を見開く。

挿絵(By みてみん)

「そうか! まだ自分の剣の金属を操れるのね!」ラファエラが息を呑む。

「ラウルを捕縛したの?」シャルロットが目を細め、

「そのようね……」リタはほっと微笑んだ。

金属の蛇はラウルの膝を地につかせる。

「辛抱強く待ったさ。楽じゃなかったぜ、相棒」ジェイズは荒い息を整える。

だが――縛られたまま、ラウルは不敵に笑った。

「……やるじゃないか」

「これで終わり、か?」

「ハハハハ! まだだ――《空間跳躍サルト・エスパシアル》!」

「え――」

ラウルの肉体が金属をすり抜け、一瞬でジェイズの背後へ。

「《血牙コルミージョ・デ・サングレ》ッ!」

剣の柄が、ジェイズのうなじを強打する。

挿絵(By みてみん)

「ぐ、うあっ――」白目を剥いたジェイズは、そのまま意識を手放した。

「これで本当に――終わりだ、坊や」ラウルはゆっくり立ち上がる。

ラファエラは腕を組み、素っ気なく言う。

「当然の結果ね。剣の経験が足りないわ」

「部屋へ運べ。当分は目を覚まさない」ラウルが命じる。

「わ、私が運びます!」リタが勢いよく手を上げた。

ラウルは片眉を上げる。

「おいおい、どうしてそんなに張り切る?」

「えっと……」リタは頬を染める。「治癒魔法をかけてあげたくて……」

「二人で運ぶわよ」ラファエラが割って入る。「あなた一人じゃ無理」

「やれやれ……」ラウルは苦笑した。「見知らぬ新人にそこまで親切だと、妬けるな」

「私たちはあなたの女よ。心配いらないわ」シャルロットが自信満々に微笑む。

「わかってる、冗談だ。……俺は風呂、そして一眠りだ。シャルロット、来い。――君たちは坊やを頼む」

「了解」ラファエラが頷く。

三人はジェイズを客室へ運び、丁寧にベッドへ寝かせた。

「さっきのは緊張したわね……でも、彼、悪くなかった」ラファエラが感想を漏らす。

「うん……」リタもうなずく。「ラウルが苛立つのも、少しわかる気がする。いままでは彼と私たちだけだったから……」

「しかも、若くて――可愛い。そう思わない?」

「ラウル様、やきもち焼いてるのかな?」

「さぁ、どうかしら。あの人、誇り高いお馬鹿だもの。……でもね、私、この子――ちょっと気になるの。あなたは?」

「な、何言ってるの! そんなのラウル様への裏切りよ!」

「ハハハ……怒ると可愛いじゃない。じゃ、私は行くわ。彼のことは任せた。あとは脱がせるだけだから。ばいば〜い」

「ちょ、ちょっと待って……!」

ラファエラはさっさと部屋を出ていき、リタは――新人英雄と二人きりになった。

「ど、どうしよう……このまま放っておく? ――だ、だめよ。ラファエラの言うとおりに……き、着替え、だけでも……。で、でも――は、恥ずかしい……!」

逡巡ののち、リタは震える手でジェイズのズボンのホックにそっと指をかけ、勇気を振り絞って下ろしはじめた。

――そして、目に入った光景に硬直する。

「――――――きゃああああああっ!!!」

リタは全力疾走で部屋を飛び出し、**バタン!**と扉を叩き閉めた。

「え……なに……?」ジェイズは飛び起きる。

一瞬の静寂。

「そっか……またラウルにやられたんだ。まあ当然か。俺はランクE、向こうはランクB。力の差がありすぎる……」

ふと視線を落とす。

「ん? ズボンが半分まで脱がされてる……。だ、誰かが俺にえっちなことしようと――?」

脳裏に、いやらしい顔をしたラウルがのしかかってくる妄想がよぎる。

全身を悪寒が走った。

「ぎゃあああああああ!! キモすぎる!! ……寝直そ……」

そのころ、ラウルは自室でシャルロットと戯れ、ラファエラは船のメインラウンジで読書にふけっていた。

「……トイレ、行こ」ジェイズはそっとベッドを抜け出す。「どこだっけ……」

廊下を歩きながら、ぽつり。

「この船、家みたいに居心地いいな……今もとんでもない速度で飛んでるのに」

そのとき――かすかな嬌声が、近くの個室から漏れてきた。

「……誰かいる?」

ジェイズは半開きの扉から、そっと中を覗く――そして、卒倒しかける。

「え、え、えぇぇッ!? あの子、な、なにして――ま、マ、マスタ……!?」

そこにいたのは、清楚で純真なはずのリタ。

なぜかベッドの上で一人、頬を真っ赤に染め、胸元に手を添えながら、びくりと小さく身を震わせている――。

ジェイズには、それがただただ壮観に映った。

「す、すご……。扉、開けっ放しは不用心だぞ……。でも俺には関係ない。トイレは――」

そっと背を向けかけた、その瞬間――腹の調子が裏切った。

「プルルルル……」

「……うっ」ジェイズは青ざめる。「やば……バレてないよな……」

「だ、誰……? ラファエラ? そこにいるの?」

(まずい! 逃げなきゃ。変態扱いされる!)

だが――もう遅い。

「《エレメンタル・ウィンド――われを悩ますものよ、逃がすな!》」

烈風の魔法に真正面から叩きつけられ、ジェイズは廊下へ吹っ飛ぶ。

「な、なんだよこれ!?」

「み、見たわね……!」

「ちょ、ちょっと待って、誤解だって!」

「変態ッ!!」

パニックに駆られ、ジェイズは咄嗟に飛び込んでリタの口を手でふさぐ。

「しーっ! お願い、事故だって! あのイカれ勇者に知られたら、俺、マジで殺される!」

「んむーーーっ!」

「今、手を離す。だから叫ばないで。俺はただトイレを――」

気づけばジェイズは、リタを抱き倒すように覆いかぶさっていた。

二人の体は密着し、どう見ても誤解を招く体勢。

下敷きのリタは顔を湯のように真っ赤にし、目はぐるぐる。

「……いい? 約束できる?」

「……ん、んう」リタは小さくこくりと頷く。

「助かる。じゃ、俺はトイレ行く。――で、どっち?」

手を離されると、リタははぁ、はぁと震える吐息をこぼした。ジェイズが思う以上に、さっきの状況は効いている。

「お、おい……大丈夫か? まさか――」

「リタ?」――廊下の向こうから声がした。「いま物音がしたけど、あなた?」

挿絵(By みてみん)


――つづく。



旅の始まりは、期待と緊張の入り混じる航海となった。

仲間として共にいるはずの空間で、英雄と称される者たちとの間に漂うのは、友情ではなく――嫉妬と敵意。


やがて訪れた小さな誤解や偶然の出来事が、心の奥に潜んでいた火種を刺激する。

そしてその火種は、ゆっくりと燃え広がり、彼らの未来を大きく揺るがしていくのだった。

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