表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/59

炎の錬金術師と、帰還の青い光と三重の口づけ

――湖で激突する二柱の“女神”。衝撃波だけで吹き飛ばされたジェイズは、命からがら城へ戻るが、そこで待っていたのは勘違いから始まる“長い夜”。翌朝、食堂に集う面々の前で明かされる真実、そして王女たちのまさかの告白――。

挿絵(By みてみん)

-------------------------------------------------------------------------------------


――ドゴォンッ!

「――ぐっ!」

ジェイズは数メートル先の地面に叩きつけられ、苦悶の声をあげた。

「衝撃波だけで…まるでボロ人形みたいに吹き飛ばされた……! 冗談じゃねえ……。

あいつら……いったい誰なんだ?」

彼は頭を振り、必死に立ち上がった。

「いや、今はどうでもいい! とにかく城に戻らなきゃ!

ここで死んだなんて言われるより、逃げ帰ったって言われるほうがマシだ!」

ヨロヨロと鋼のゴーレムに駆け寄るジェイズ。視線の先には――

まるで異界の女神のように、二人の絶世の美女が激突していた。

「……これは夢か? この世界にあんな存在がいるのか?

……でも……あの子……あまりにも美しい……。

なぜだろう……強く惹かれてしまった……。

っ、バカか俺! 『即死』って書いてあっただろ!?

二度と関わるもんか!」

「――よそ見しないで!」

リンダが力を解き放ち、声を張り上げた。

「ここで決着をつけるわ!」

「ふふ……今の、男の子だったのね。かわいらしかったわ」

ヤネットは微笑みを崩さずに答えた。

「まさか、そんな下等な存在に興味を持ったんじゃないでしょうね、お姉ちゃん?」

「くだらないこと言わないで!」

「さっき、庇ってたじゃない。

いつから人間に情なんて湧くようになったの?

ねえ、もし私があの子を殺したら――泣いちゃうの?」

「黙りなさい! あの子に興味なんてあるわけないでしょ、馬鹿!」

「アハハハ……そんなに怒らないでよ、お姉ちゃん!」

二人の戦いは延々と続いた。

空そのものが悲鳴をあげるかのように、双子の衝突が天を揺るがしていた。


その頃、城では――

「はぁっ、はぁっ……!」

消耗しきったジェイズがようやく戻ってきた。

「もう……限界だ……。部屋に戻って寝る……。

明日には自分の星に帰る……。」

城内ではまだ祝宴が続き、音楽と笑い声が響いていた。

「まだ宴会してる……好都合だ。誰にも見つからずに部屋に行ける。」

ジェイズはそっとバルコニーを登り、窓から部屋へ忍び込む。

灯りもつけずに服を脱ぎ捨て、ベッドへ身を投げた。

……だが、違和感。

「……ん? シルエット……女の人……?」

恐る恐る手探りする。

「あぁ……また王女のいたずらか……。」

彼は顔を近づけ、耳元で囁いた。

「これが最後の夜だ……。

今夜は優しくなんてしてやらないぞ……。」

その直後、部屋の外まで響くほど甘く切ない声が漏れた。


数時間後――

「……ふぅ、最高だった……。」

ジェイズは大の字に倒れ、隣のぐったりした身体を見つめた。

「気絶しちまったか……。

少しやりすぎたかもな、王女様。

……もう寝よう……。」

――コンコンッ。

「ん……? なんだよ、今度は……。」

「ご主人様、開けてください。ここにいるのは分かってますよ。」

どこにいても聞き分けられる声。

「……ドラカリスか。よりによって今かよ……。」

渋々服を羽織り、扉を開ける。

「なんだよドラカリス! もうヘトヘトなんだ!」

「ご主人様のお部屋で王女と一緒に待っていましたのに……。

匂いを追ったら――まさかの場所に辿り着いてしまいました。

……本当に限度を知りませんね、ご主人様。」

「な、何言ってんだ? 王女はちゃんとここにいるだろ……。」

「ええ、確かに『王女』はそのベッドにいますよ。

でも――あの子はカトリーヌじゃありません。」

「……は?」

「今そこに眠っているのは――第一王女、フィリア様です。」

「な、なにぃぃぃぃっ!?」

ジェイズの魂はその瞬間、凍りついた。

「扉が違っていたことに気づかなかったの?」

「い、いや……扉から入ったんじゃなくて……。

あれが自分の窓だと思ったんだ……。暗くて……だから体の感触が少し違う気がしただけで……。」

「ふふふ……ご主人様、誰にも言いませんよ。

でもその代わり……。

今夜は王女様よりも、私をたっぷり満足させてくださいね。」

「わ、わかった! だから絶対誰にも言うなよ!」

「お取引成立ですね、ご主人様♪」

「……今夜は……長い夜になりそうだ……。」


夜が明ける頃――

ジェイズは立っているのもやっとだった。

ドラカリスと王女フィリアを交互に相手にした一晩、休む間などなかったのだ。

挿絵(By みてみん)

その日の朝、女王は城の小さな食堂に皆を集めて朝食を共にすることにした。

そこにいたのは、大賢者、竜の兄妹、王族(国王は早朝から騎士たちと国務に出ていた)、そしてもちろん、完全に疲れ果てた我らが主人公である。

「お、おはようございます……陛下……。」

敗北感を隠しきれない顔でジェイズが挨拶した。

「おはよう、若き英雄よ。どうぞお座りなさい。」

女王は優しく微笑む。

「若き英雄よ、随分疲れているようだな……。昨夜は眠れなかったのか?」

大賢者が首を傾げる。

「ま、まあ……そんなところです……ははは……。」

ジェイズは引きつった笑いを浮かべた。

ちょうどその時、王女たちが食堂に入ってきた。

「おはよう! 若き英雄さん、こんにちは〜♪」

元気よく手を振るカトリーヌ。

一方のフィリアは何も言わず、顔を真っ赤にして俯いていた。

「お姉さま、どうしたの? 変よ! さっきまで一緒に朝食に行くのも嫌だって言ってたくせに!」

カトリーヌは怪しむように問い詰める。

(……全部俺のせいだ……ごめん、フィリア王女……!)

ジェイズの額から汗が滝のように流れる。

「まさか眠れなかったの? ベッドが合わなかったのかしら? すぐに新しいものを用意させますよ!」

女王は心配そうに言った。

「いえ……そういうことじゃなくて……。実は……。」

フィリアはさらに深く俯いた。

ジェイズの心臓が止まりそうになる。熱病のように全身が汗ばんだ。

「実は……昨夜は本当に素晴らしかったのです。

ベッドがあんなに気持ちよく感じたのは初めてで……。

もう二度とあんな夜は訪れないかもしれません……。」

(――この国の女は全員頭おかしいのかぁぁぁ!?)

ジェイズの顔は真っ赤に染まる。

「まあまあ、可愛い娘! あとで何をしたのか詳しく聞かせてちょうだい。私も体験してみたいわ〜♪ ホホホ♪」

女王が艶っぽく笑う。

(――お、お言葉ですが陛下! それだけはダメぇぇぇぇ!)

ジェイズは机の下に潜り込みたいほどの羞恥に襲われた。

「だ、だめ! これは秘密なの!」

フィリアが慌てて叫び、チラリとジェイズを見やった。

「……ふむ。」

カトリーヌは嫉妬を隠せずに唇を噛んだ。


その時、竜の兄弟が食堂へ入ってきた。

「おはようございます、陛下。」

珍しく揃って礼儀正しく頭を下げる。

「まあ〜! 三人とも貴族のような服装で、とっても素敵よ〜♪」

女王は嬉しそうに手を叩いた。

「さあ、席に着きなさい。」

大賢者が促す。

「ありがとうございます、大賢者殿。」

ダルゴが恭しく答えた。

「えっと……若き英雄様、隣に座ってもいいですか?」

ドラカリスは誘惑するように微笑む。

「おい! 礼儀をわきまえろ、この馬鹿妹!」

ドランサーが肘で小突く。

(……なるほど、こいつらがドラカリスの兄弟か。

竜の特徴を隠せば、ただの普通の若者に見えるな……。)

ジェイズは心の中で呟いた。

「初めまして。お会いするのはこれが初めてですよね。怪我の具合はいかがですか?」

ジェイズが丁寧に尋ねる。

「大賢者殿の魔法薬……そして竜の血のおかげで、すっかり回復しました。」

ダルゴが落ち着いた声で答えた。

「我が国の魔導士はとても優秀で、最強なのですよ。」

女王は誇らしげに胸を張った。

「いいえ、陛下。外の世界には、それ以上の存在がいます。」

大賢者は厳しい声で否定する。

「……聞きたくもねえ……。」

ジェイズは視線を逸らした。

「昨日、湖で金髪の少女に会ったんだ……。」

「――な、なんだと!?」

ダルゴが椅子を蹴って立ち上がる。

「その女……どんな容姿だった!?」

「えっ? えっと……金髪で、緑色の瞳がすごく輝いてて……髪はとても長かった。……知ってるのか?」

「間違いない……! あいつだ……!」

ドランサーが叫ぶ。

「服装は!? どんな格好をしていた!?」

「いや……湖で水浴びしていたから、全裸だったんだ……。

でも、そのあとにもう一人現れた。同じ姿をした双子の姉妹でな。そっちは体にぴったりとした……宇宙服みたいな衣装を着ていた。」

「……つまり……あの化け物は一人じゃないってことか……?」

ダルゴの顔から血の気が引く。

「化け物なんかじゃなかったけどな……。」

ジェイズは気まずそうに答えた。

「若き英雄よ。本当に正気で言っているのか?」

大賢者が眉をひそめる。

「間違いありません。」

「そいつが……俺たちを辱め……兄貴を傷つけたんだ!」

ドランサーが拳を震わせて叫ぶ。

「驚くことはない。あの力を見た。あの二人なら……国ごと消し飛ばせる……。」

ジェイズは唇を噛みしめた。

(いや……国どころか、惑星そのものを……。)


朝食会が進むにつれ、空気は次第に張り詰めていった。

「どうしてお前だけ殺されなかった? 俺たちより遥かに弱いくせに!」

ドランサーが睨みつける。

「そ、その子は……最初から俺を殺すつもりはなかったんだ。

むしろ言っていたんだ……。

『二人の男が私に喧嘩を売ったけど、実際は――逃がしてあげただけ』ってな。」

「ふざけるなあぁぁぁっ!」

ドランサーが机を叩いて立ち上がる。

「落ち着け、弟よ!」

ドラカリスが割って入る。

「若き英雄は、聞いたことをそのまま話しているだけよ!」

「……なんでいつもそいつを庇うんだ……!」

「ということは……。」

ダルゴが遠くを見据え、声を低める。

「その存在は、今この瞬間もどこかに潜んでいるということだ……。」

「確信はない。」

ジェイズは真剣な表情で首を振る。

「だが……あの子たちは宇宙のどこにでも自由に行けるような気がした。

二人目は……宇宙から直接大気圏を突き破り……隕石のように地上へ落ちてきたんだ。」

「すごい! 信じられない!」

カトリーヌ王女は目を輝かせる。

「……ふむ。」

女王は静かな声で遮った。

「その話はまた別の機会にしましょう。さあ、朝食を続けましょう。」

挿絵(By みてみん)


数時間後――

ジェイズの腕時計が青く光を放った。

ギルドへの帰還ポータルが起動したのだ。

「あぁ……もう帰る時間か……。」

ジェイズは懐かしさと安堵を混ぜた声を漏らす。

「若き英雄よぉぉ……! 寂しくなりますぞぉぉ……!」

大賢者が涙をぼろぼろと流す。

「今までありがとうございました、老人さん……。絶対に忘れません。」

「大賢者だと言っておろうがああああ!」

「陛下、王とエスカル司令官によろしくお伝えください。またお会いできることを願っています。」

「必ずや、若き英雄よ。」

女王は柔らかく微笑んだ。

「みんな……。」

ジェイズは竜の兄弟たちに視線を送る。

「これからは君たちがこの国を守るんだ。皆を頼んだぞ。」

「我らにできる限りのことをしよう。」

ダルゴが力強く答える。

「さっさと失せろ!」

ドランサーが腕を組んで唸る。

「ご主人様ぁぁ!」

涙を浮かべたドラカリスがジェイズに飛びつき、強く抱きしめた。

「連れて行ってください! ご主人様なしじゃ生きていけない……!」

「お、おい! やめろ! みんなの前だぞ!」

その光景に竜の兄弟は息を呑んだ。

「やっぱり……そういうことか……。」

ダルゴが歯を食いしばる。

その時、二人の王女も駆け寄ってきた――。

「――ジェイズ、待って! 伝えたいことがあるの!」

二人の王女は同時に声を上げ、互いを見つめ合う。

空気が一瞬で張り詰め、火花が散った。

「まさか……お姉さま、あなた……。」

カトリーヌが眉をひそめる。

「それは私が聞きたいことよ!」

フィリアが強い視線を返す。

「そんなことどうでもいい!」

二人は同時に叫んだ。

「――ジェイズ! 愛してるわ! 私たちと一緒にいて!」

「な、な、なにぃぃぃっ!?!?」

大賢者は目玉が飛び出そうな勢いで叫んだ。

「まあまあ……一体どういうことかしら……。」

女王は頬に手を当てて微笑む。

「……これは予想外だな……。」

ダルゴは唖然とするしかなかった。

次の瞬間――三人の少女は一斉にジェイズに飛びつき、彼の唇にトリプルキスを浴びせた。

挿絵(By みてみん)

「若き英雄よ、これは一体どういうことだ!?」

大賢者は震え声で問い詰める。

「す、すみません! もう収拾がつかなくて! 処刑だけは勘弁してくださいぃぃ!」

ジェイズは目をぐるぐる回しながら必死に叫んだ。

「まあ……あなたは皆の救世主だもの。」

女王は肩をすくめる。

「愛されても不思議じゃないわ。……父親さえ知らなければね。」

「な、なにを仰ってるのですか陛下ぁぁぁ!!」

大賢者は顔を真っ青にして絶叫した。

「ジェイズは私たちの許嫁よ!」

三人の少女が揃って声をあげる。

「まあまあ、落ち着きなさい……。それはさすがに無理だと思いますよ。」

女王は淡々と告げる。

「その通りだ! 狂気の沙汰だ!」

大賢者は机を叩きながら怒鳴る。

「正妻は一人だけ。……残りは側室になればいいでしょう。」

女王は平然とした顔で言い放つ。

「そ、それのほうが遥かに酷いですぞおぉぉぉ!」

大賢者は椅子から崩れ落ちそうになる。

「ジェイズ……必ず戻ってきてね……。」

カトリーヌが真剣な眼差しで見つめる。

「お前たち、全員頭おかしいだろ!? ……あんたも含めてな、女王陛下ぁぁぁ!!」

「まあまあ……。」

女王は楽しげに微笑む。

「でも……これは約束だ。」

ジェイズは笑って手を掲げた。

「戻ってきたら……三人まとめて面倒見てやる!」

「ご主人様ぁ! 愛してますっ!」

涙目で叫ぶドラカリス。

「若き英雄よ……! お前には失望したぞ!

どうして二人の王女まで堕とすような真似を……!」

大賢者は頭を抱えて怒鳴った。

ジェイズは青い時計のセンサーを押し込み、全力で叫んだ。

「――ギルドへ帰還!!」

そして、消える直前――中指を突き立てて叫ぶ。

「じゃあな、ジジイィィ!!」

「き、消えた……のか……。」

フィリアはまだ頬を染めたまま呟いた。

「ええ、そうね。」

女王は静かに笑う。

「あちらの世界には、我らには想像もできぬ技術があるのです。」

「……ジェイズ……。」

カトリーヌは胸を押さえ、小さく呟いた。

「どうか無事で……。必ず、また会えますように……。」

――こうして、我らの英雄は任務を終えたのだった。

ここまで読んでくれてありがとう! 湖での邂逅は、今後の世界スケールを示す序章。ヤネットの隕石着陸、ドラカリスの一直線な想い、そして王女姉妹の宣言――ジェイズの胃痛は増すばかりですが(笑)、次回はいよいよギルド再合流編へ。お楽しみに!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ