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「謎のX隊、そして――私の宝に触るな!」

挿絵(By みてみん)

クル・ナイ星。

着陸プラットフォームでの会話は、すぐに重苦しいものへと変わった。

使用人たちがエックス・コーション号から荷物を降ろす中、狐耳のメイド、セレナがヤミルにここ数日の悲劇を説明していた。


「じゃあ……本当なのか?」

ヤミルは信じられないという声を出した。

「あの伝説の薬草……入手不可能と言われていたものを、兄上が本当に持ち帰ったというのか?」


「はい、ヤミル様……」

セレナは両手で顔を覆い、溢れる涙を堪えきれなかった。

「でも……全て無駄だったんです! その薬草はあらゆる病や痛みに効く奇跡の薬で、医者たちも驚愕していましたが……大皇太后様には全く効きませんでした! 何の反応も……。あんなに絶望されたハミール様を見るのは初めてです!」


重い沈黙が一行を包んだ。ジェイズとタニアは心配そうに顔を見合わせた。


「それで、兄上はどこへ行ったんだ?」ヤミルが眉をひそめる。「あんな大失敗の後で、母上を放り出してその辺の任務に行くような人じゃない」


セレナは手の甲で涙を拭い、恐怖の混じった真剣な顔になった。

「実は……皇太后様のお部屋から出てこられた時、今まで感じたことのないような恐ろしいオーラを放っていたんです」

狐娘は震えながら声を落とした。

「クララ王女でさえ気づくほど、ハミール様は激変していました。何か……極めて緊急で、暗い目的があるかのように急いで出て行かれて……。とても心配です! あんなに……取り乱しておられるなんて!」


ヤミルは拳を握りしめ、事態の深刻さを悟った。

クル・ナイの揺るぎない柱であるハミールが取り乱しているとすれば、問題は想像以上に根深い。


「分かった……」ヤミルが呟く。「クララはどこにいる?」


「あの日からお部屋に引きこもったままです」セレナが悲しそうに答えた。「もう何日も塞ぎ込んで、誰にも会おうとしません」


「すぐに会いに行こう」

ヤミルはジェイズを振り返り、目に少しだけ光を取り戻した。

「母上を目覚めさせられるかもしれない人物を連れてきたと知れば、希望を取り戻すかもしれない」


ヤミルが使用人たちに指示を出している間、ジェイズの手に命綱のようにしがみついていたリンが、ふと視線を逸らした。

普段の無邪気な瞳が、皇太后の塔がある方角を冷たく、絶対的な零度で見据えていた。

ただの人間には感知できないが、彼女にとっては耳をつんざくような重圧が、その壁の向こうから放たれていた。


(何を企んでいるの……? お姉ちゃん!)

小さな女神は、治癒を阻む神聖なエネルギーの痕跡を認識し、心の中で毒づいた。


◇◆◇


【ヴァル・キュリア王宮 —— 回廊】


ジェイズは手にしがみつく小さな少女を見下ろした。

見知らぬ敵対的とも言える環境の中で、リンは自分の世界に入り込んでいるようだった。


「大丈夫だよ、リン」ジェイズは優しく見つめた。「まだ早い時間だ。用事を済ませたら、街を見物に行こう。どうかな?」


少女の目が輝く。

「うんっ!」愛らしい笑顔で答える。「楽しみ、お兄ちゃん!」


「よし。ここでヤミルを待とう。すぐ戻るはずだ」

リンは頷き、ジェイズの手を強く握った。

だが、その無邪気な仮面の下で、女神の頭脳はフル回転していた。


(お兄ちゃんは本当に優しいね……)

錬金術師のエネルギーの奔流を分析しながら、リンは思う。

(でも、もっと深く調べてみる必要がありそう!)


突然、ドラゴンの嗅覚が反応した。

ドラカリスが鼻を高く上げ、猟犬のように空気を嗅ぐ。


「主よ、こっちに来るのじゃ……」

ドラカリスは口の端からよだれを垂らしながら囁いた。

「食べ物が山ほどある厨房の匂いがするぞ!」


ジェイズが止める間もなく、ドラゴンはリンを引きずって脇の廊下へと消えていった。


◇◆◇


【王宮東翼】


ヤミルは王家の紋章が彫られた巨大な木製ドアの前に立った。

深呼吸して制服を整え、軽く三回ノックする。

コン、コン、コン。


「気分じゃないの……」

中から消え入りそうな女性の声がした。

「後にしてちょうだい!」


ヤミルは少し切なく微笑んだ。その悲しげなトーンには聞き覚えがあった。

「僕だよ、クララ……。帰ってきた。開けておくれ」


一瞬の完全な沈黙。


「お兄ちゃん……?」声が震えた。「本当に、帰ってきたの?」


ドタバタと急ぐ足音がドアに近づき、鍵が外され、勢いよく扉が開いた。

美しい水色の髪の少女が、弾丸のように兄の胸に飛び込んできた。


「お兄ちゃん! お兄ちゃん!」

クララはヤミルの胸に顔を埋めて叫んだ。

「予定より全然早いじゃない!」


ヤミルは彼女を受け止め、力強く抱きしめた。

「実験船を使ったんだ!」頭を撫でながら満面の笑みで答える。「一刻も早く帰りたくてね!」


クララは体を離し、可愛らしく頬を膨らませた。

「あの船は危険なのよ! 突然爆発したりするんだから! 死んじゃってたかもしれないのに!」


ヤミルは苦笑して後頭部を掻いた。

「言わないでくれ……。幸い、凄腕のエンジニアを連れてきたんだ。僕の知識じゃ足元にも及ばないけど、彼女が全て完璧に保ってくれた」


クララは小さな涙を拭い、不思議そうに兄を見た。

「お客様を連れてきたの?」

彼女の表情が、恐る恐る希望を抱くものに変わる。

「まさか、私の考えてることじゃないわよね……」


「その通りだよ、妹よ」ヤミルは彼女の肩を掴んだ。「母上を目覚めさせられる人物を連れてきた。99%確実だ」


クララは優しく笑い、首を横に振った。

「バカね……残りの1%が絶望的なのよ」


「科学ってのはそういうもんさ。100%とは絶対に言わない」ヤミルが冗談めかす。「ともかく、会いに来ておくれ。彼らは謙虚で優しい人たちだよ!」


兄妹は楽しげに語り合いながら大階段を降りた。

しかし、ゲスト用の廊下に着いた彼らを待っていたのは、絶対的なカオスの光景だった。


一人のメイドが、紙のように青ざめた顔でヤミルに駆け寄ってきた。


「ヤミル様! ヤミル様!」メイドが叫ぶ。「大変です! 二人の女の子……小さな子と角の生えた女の人が、メインキッチンに侵入しました! どうしましょう!?」


ヤミルは瞬きし、リラックスして答えた。

「ああ、問題ない。僕の客だ。好きなだけ食べさせてやってくれ。長旅だったからな」


後ろから別のメイドが、ドラマチックなパニック顔で空のトレイを持って現れた。

「殿下、分かっておられません!」女は悲鳴を上げた。

「たった数分で……今夜の王室晩餐会のメニューの70%を平らげてしまったのです!!」


ヤミルは立ち止まった。

「……は? あの晩餐会は100人以上を想定して準備されていたはずだぞ……? 物理的にどうやって?」


クララは怒るどころか、口元を押さえて笑いを堪えていた。ここ数日で初めて、彼女の目が楽しげに輝いた。


「あははっ! その人たちに会ってみたいわ!」


◇◆◇


【王室厨房】


そこはハリケーンが通過した後のようだった。

綺麗に舐められた皿の山が隅に積み上がっている。


ジェイズはリンとドラカリスの前に立ち、顔を真っ赤にしてこめかみを揉んでいた。


「お前ら、俺にこれ以上恥をかかせないでくれ!」

ジェイズは消えた食べ物の山を指差した。

「まるで生まれてから一度も飯を食ったことがないみたいじゃないか! 俺が飢えさせてると思われるだろ!」


彼は、七面鳥の丸焼きを丸ごと飲み込んでいる竜女を睨んだ。

「ドラカリスは分かる。黒竜だから人間離れした代謝をしてるんだろう……。だがリン! お前みたいな小さな子供が、どうしてそんなに食えるんだ!?」


リンはケーキで頬をパンパンに膨らませたまま唇を尖らせ、フォークでドラカリスを指した。

「お兄ちゃん! 私はトカゲ女がやってることを真似してるだけだよぉ!」

ごくりと飲み込む。

「これは勝負なの!」


「それが無限の胃袋の理由になるか!」


ドラカリスは平らな腹をポンポンと叩き、満足げに笑った。

「主よ、落ち着くのじゃ……」


ゲップゥゥゥゥ!!


洞窟のモンスターかと思うような轟音のゲップが美女の口から放たれ、壁に掛かった鍋がビリビリと震えた。


「なんてマナーだ!?」ジェイズは卒倒しそうだった。


突然、水晶のように澄んだ笑い声が厨房に響き渡り、緊張を断ち切った。


「あははははは! あははははは!」


全員が押し黙った。使用人も料理人も、信じられないものを見る目で入り口を見た。


クララ王女だった。お腹を抱えて大爆笑している。


「あははは……!」クララは涙を拭い、息を整えようとした。「すっごく面白い人たち! ああ、お腹痛い!」


隣にいたヤミルは、恥ずかしそうに手で顔を覆いつつも、妹が笑ってくれたことに安堵していた。


「お兄ちゃん……」クララは息を弾ませながら、ジェイズと奇妙な一行を見た。「この人たちが、お母様を救ってくれるの? あははは!」


ヤミルは諦めたように溜息をついた。

「……そうだよ、妹よ。彼らだ」


【王族専用プライベート・ダイニング】


しばらく後。リンとドラカリスの「美食のハリケーン」が収まると、一行はマホガニーの長いテーブルについていた。

雰囲気ははるかに文明的になっていた。ヤミルとクララ王女が上座に座り、セレナや使用人たちがワインや紅茶を注いで回る。


すっかり落ち着きを取り戻したクララは、好奇心に満ちた瞳でテーブルの上で両手を組んだ。


「遠いところから私たちを助けに来てくださって、本当にありがとうございます」

王女は柔らかく誠実な声で言った。

「兄は……少し直情的なところがありますから、皆様が来てくださって本当に心強いです」


ジェイズは謙虚に頭を下げた。

「お気になさらず、王女殿下。お役に立てることは我々にとっても名誉であり、喜びです」


ドラカリスは(野性味を残しつつも妙にエレガントな手つきで)爪楊枝で歯を掃除しながら、小声で呟いた。

「嘘つきな主じゃのう……。報酬目当てのくせに、慈善事業みたいに言いおって」


ジェイズは笑顔を崩さず、テーブルの下で彼女の足を密かに踏んづけた。


「教えてください」クララが続ける。「皆様の部隊の公式な階級クラスは何ですか? 中央ギルドではどのアルファベットで呼ばれているのでしょう?」


常に論理的なタニアが、架空の眼鏡を押し上げる仕草をして指を立てた。

「ええと、技術的に言えば、私たちのキャプテンがCランクなので、論理的に『C-コーション』になるはずなんですが……」


「違うよ、タニア」

ジェイズが飲み物を一口すすって遮った。

「俺たちの公式名称は『エックス』だ」


クララはパチクリと瞬きをした。

「エックス? 『エックス・コーション』ですか?」王女は首をかしげる。「でも……標準システムにそんなランク呼称はありませんよね?」


テーブルの空気が変わった。

ヤミルがグラスを静かに置く。カチャッという音が響いた。彼の表情は暗かった。


「間違っているよ、妹よ」

ヤミルは1オクターブ低い声で言った。

「前例はあったんだ。ギルドの規定から外れた呼称を持つ部隊が存在した。……一つの『異常アノマリー』だ。彼らは現在、世界的なA級犯罪者と見なされているが、どこにいるのか……生きているのかどうかさえ、誰も知らない」


クララの目が魅惑されたように見開かれた。

「まあ! すごく興味深い話ね、お兄ちゃん。もっと教えて!」


ヤミルは周囲の使用人たちを一瞥し、誰も聞いていないことを確認してから口を開いた。


「上層部で極秘指定されている、一部の者しか知らない情報だ。その部隊の真の力は『トリプルS』に匹敵したと言われている。彼らは、3000年前の『大戦』の裏にある“真実”を発見してしまった。噂では、四大帝国にとって致命的な何か……パワーバランスを崩しかねないアーティファクトか秘密を盗み出したそうだ。それを手にした帝国が……全てを支配すると言われている」


「私が生まれる前の話?」クララが尋ねる。

「ああ。確か17年ほど前のことだ」ヤミルはジェイズを横目で見た。「同じ『異常なアルファベット』を持つ新しい部隊が今現れるなんて、奇妙な偶然だ。人生ってのはミステリーだね」


ジェイズは沈黙し、琥珀色の液体が入ったグラスを絶対的な静けさの中で回していた。


ドラカリスはじっと彼を見つめ、共犯者のような笑みを浮かべていた。リンもまた、見かけ以上の何かを知っているかのように優しく微笑んでいる。


しかし、タニアだけは完全に混乱していた。

「でも……意味が分からないわ」エンジニアが眉を寄せる。「ジェイズ、どうしてその事務的なミスを直してもらわなかったの? 存在しない文字なんて、支払いの妨げになるし、任務の分類もめちゃくちゃになるじゃない。ヴァレンティナ支部長がなんでそんなお役所仕事を放置したの?」


ジェイズはグラスを置き、深く溜息をついた。

彼の視線はワインの反射の奥に沈んでいた。


「ミスじゃないんだ、タニア。俺がそう望んだんだ」

「どうして?」彼女は食い下がる。


ジェイズが顔を上げた。その目には、滅多に見せない重い感情が宿っていた。


「俺の父親と母親が……その伝説の部隊のキャプテンだったからだ。四大帝国が血眼になって探している『犯罪者』は、俺の両親なんだ」


墓場のような静寂が落ちた。針が落ちる音さえ聞こえそうだった。


ガタンッ!


ヤミルが勢いよく立ち上がり、椅子が後ろに倒れた。顔から血の気が引いている。


「おい、おい、おい……!」

王子は冷静さを失い、しどろもどろになった。

「冗談だろ!? ヤバすぎる! そんな情報をペラペラ喋るな! 死にたいのか!? もしお前がここにいると帝国に知られたら……!」


「構うもんか」ジェイズは無関心に話を遮った。「親父たちの名前は歴史から消された。公式には存在しないことになってる」


ジェイズはテーブルの上で拳を握った。

「この旅はただの冒険じゃない。親を探す旅でもあるんだ。親父から説明してもらわなきゃならないことが山ほどある……。まあ、いいさ」


ジェイズは立ち上がり、重苦しい空気を振り払うように頭を振った。

「今は俺の過去を語る時間じゃない。皇太后様に会いに行こう!」


ジェイズが力強い足取りで出口へ向かう中、クララは座ったまま頬を薔薇色に染め、瞳をキラキラと輝かせていた。政治的な危険など完全に無視している。


(素敵……)

王女はため息をついた。

(禁じられた暗い過去を持つ英雄……。完璧だわ!)


その後ろで、ドラカリスとリンが同時に硬直した。背筋に悪寒が走る。


((脅威(メス猫)を検知))


二人は同時に思い、王女のうなじを殺意の籠った目で睨みつけた。


「よし、これ以上時間を無駄にするべきじゃない」ヤミルが厳粛な顔を取り戻して宣言した。「母上に会いに行こう」


ジェイズと並んで歩きながら、クララは胸の前で手を組み、静かに祈るようなポーズをとった。水色の瞳が、切実な決意で輝いている。


「ジェイズ様……」王女は一瞬立ち止まり、囁いた。「もし貴方のおかげでお母様が目覚めたら……私、このご恩を自分の命に代えてもお返しします!」


ジェイズは立ち止まり、少女の嵐のような感情を落ち着かせるように温かく微笑んだ。

「そんな極端なことは必要ありませんよ、王女殿下。ヤミルと俺は、すでにお互いに都合のいい取引を済ませています。貴女が犠牲になる必要はどこにもありません」


「グルルルルル……!」


背後から地鳴りのような唸り声がハモった。

リンとドラカリスが、クララの背中を親の仇のように睨んでいる。


((この展開は絶対に許さない!))

二人は空気中に漂う危険なロマンスの匂いを嗅ぎ取り、心の中で叫んだ。


◇◆◇


数分後、一行はエネルギーシールで補強された重厚な扉の前に到着した。狐娘のセレナが優雅な足取りで前に出る。


「お客様、こちらが皇太后様のお部屋です」セレナが軽く頭を下げる。「どうか、最大限の配慮をお願いいたします」


「安心しろ、セレナ」ヤミルが自信ありげに言う。「彼らならちゃんと振る舞ってくれるはずだ。そうだろ?」


ヤミルは最後の念押しをしようと振り返り……顔面を硬直させた。


ドラカリスの口には巨大な豚の骨付き肉がくわえられており、リンは両手で丸焼きのチキンを持ち、今にもかぶりつこうとしていた。


「部屋への食べ物の持ち込みは禁止だ!!」

ヤミルは一瞬でキレた。


「ごめんなさーい!」

二人は頭を下げ、戦利品おやつを背後に隠した。


ヤミルは咳払いをして威厳を取り戻そうとし、妙に甘い声でドラゴンを見た。

「申し訳ありません、我が女神ドラゴンよ……ですが、これは宮殿の規則なのです」


ヤミルがホログラムパネルに秘密のコードを入力すると、重い機械音が回転し始めた。


「すごい……本当に高度な技術ね」タニアが分析的な目でパネルを見た。「あのセキュリティは99%破れないわ」

「僕は100%だと言いたいね」ヤミルが王族の誇りを見せる。


タニアはクスッと笑った。

「そうは思わないわ。パパが開発した技術だもの……私なら10秒以内にハッキングできるわよ!」

「わあ! タニアさんってすごいんですね!」クララが純粋に感心する。


油圧の音と共に扉がスライドし始めたその時。

一人の使用人が、自分のローブの裾につまずきながら廊下を全力で走ってきた。


「ご無礼をお許しください!!」

男は顔面蒼白で叫んだ。

「緊急事態です!」


「どうしたの?」セレナが身構え、狐耳をピクピクと動かした。「何でそんなに騒いでるの?」


「オ、オフィーリア様です!」男が喘ぐ。

「ものすごく不機嫌なご様子で、殺気を放ちながらこちらへ向かっておられます!」


セレナの背筋に電流が走り、全身の毛が逆立った。瞳孔が収縮する。

「あの女……! あのイカれ女が来たっていうの!?」


ヤミルが心配そうに眉を寄せる。

「彼女がそれほど急いで来るなんて、何か深刻な事態が起きたに違いない。兄上のことで悪い知らせでなければいいが……」


「何事だ?」ジェイズが尋ねた。空気の圧が急激に変化したのを感じる。「オフィーリアって誰だ?」


その瞬間。

氷のように冷たく、刃のように鋭い女の声が、廊下の天井から響き渡った。


「今から貴方の首を刎ねる女よ……炎の錬金術師!」


ドラカリスのドラゴンの本能が危険を告げ、即座に反応した。

「クソッ!」彼女が吠える。「なんで妾の探知に引っかからなかった!?」


不可能とも思える攻撃体勢で天井に張り付いていたのは、神秘的な美しさと氷の瞳を持つエルフの女だった。彼女の手はすでに、不気味な霊光を放つ刀の柄にかかっていた。


「オフィーリア様、お待ちを……!」クララが止めようとする。


だが、言葉を挟む余地はなかった。

オフィーリアは虚空へと身を投げ、銀色の残像と化した。人間の視界を置き去りにする、瞬間移動ブリンクの技術だ。


「来る……!」

影の動きをかろうじて捉えたタニアが囁いた。


ガギィィィンッ!!


金属の激突音が廊下全体に鳴り響き、使用人たちが耳を塞ぐ。鋭い風の衝撃波が吹き荒れた。


オフィーリアは空中でピタリと停止していた。振り下ろされた剣が、空中で止められている。


「あら……」

エルフは首を傾げた。その冷たい声に、微かな好奇心が混じる。

「私の霊剣を素手で受け止めるなんて、面白いモンスターがいるのね。お名前は?」


オフィーリアの刃は、ジェイズのうなじから数センチのところにあった。

錬金術師は、死神の鎌が首筋を撫でたことを、ようやく処理できたところだった。


ジェイズと刃の間に、ドラカリスが割り込んでいた。

彼女の黒い爪がオフィーリアの剣の刃をがっちりと掴み、その口からは濃密な黒煙が漏れ出し、鋭い牙を剥き出しにしている。


「妾の名はドラカリス」

壁を震わせるような低い声でドラゴンが唸る。

「そして、オヌシが殺そうとしているその男は……妾の愛する宝物じゃ!」


(続く)


挿絵(By みてみん)

「私の霊剣を素手で……」。

最強のエルフ戦士と、最強の黒竜が正面衝突しました。

ジェイズの首の皮一枚繋がりましたね。

勘違いから始まったオフィーリアの襲撃ですが、この後どう収拾をつけるのでしょうか?

そして、ヤミルの母(皇太后)を救うことはできるのか?

次回、女たちのプライドを懸けた戦いが始まります!


【お願い】

「過去の秘密が熱い!」「ドラカリスVSオフィーリア楽しみ!」と思ったら、

下の ☆☆☆☆☆ で評価をお願いします!

クララ王女の恋の行方もお楽しみに!

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