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混沌の宇宙船と、光の都ヴァル・キュリア

挿絵(By みてみん)

宇宙の旅は、標準時間で5日間続いた。 タニアの工学的調整のおかげで、『エックス・コーション号』は何のトラブルもなく超空間ハイパースペースを航行していた。


しかし、船内キャビンの状況は……カオスだった。


「ちょっと……」 ジェイズが窒息しそうな声で訴えた。 「離してくれないか? パーソナルスペースが必要なんだが!」


彼は共有ルームのソファに文字通り埋もれていた。 右からはドラカリスが愛情過多なボアコンストリクターのように巻きつき、左からはリンが怪力で腕にしがみついている。


「お兄ちゃん!」リンが可愛いが殺傷力のある拗ね顔で叫ぶ。「そのトカゲ女に離れろって言ってよ! お兄ちゃんを独り占めしようとしてズルい!」


「誰がトカゲじゃ、小娘」 ドラカリスが片目を開けて蔑んだ。 「オヌシはまだ子供じゃろ。妾と主が愛し合ってするようなことはできんのじゃよ? なあ、ダーリン?」


「お兄ちゃん!」リンが腕を揺さぶる。「私にもそれして! ……何のことか分かんないけど、同じことして!」


ジェイズは青ざめた。 「リン、頼むから分からないことを言わないでくれ! それとドラカリス、子供の前でややこしいことを言うな!」


「主よぉ……」ドラカリスは叱責を無視して喉を鳴らした。「妾はただ愛でて欲しいのじゃ! ナデナデしてくれ! 今すぐ!」


「人が見てるだろ!」


操縦席で、ヤミルが背後の騒ぎを聞きながら深く溜息をついた。 「静かにしてくれないか……」 嫉妬を隠そうともせずに言う。 「くそっ、腹が立つよジェイズ。僕の女神ドラカリスが君しか見ていないなんて。資源の無駄遣いだ」


エンジニア席のタニアは、ホログラム画面に猛烈な勢いで入力していたが、その青い瞳はソファに向けて短剣のような視線を投げていた。


「ふんっ」 タニアは振り返り、ジェイズに「べーっ」と舌を出した。 「ジェイズお兄ちゃんのバカ……大バカ!」


「なんで君まで怒ってるんだい、女神ディーバ?」ヤミルが眉を上げる。


「アンタには関係ないでしょ!」タニアが顔を赤くして言い返す。「それよりエネルギーレベルを見てよ! 墜落したらアンタのせいだからね!」


ヤミルは呆れて目を回した。 「君は天才メカニックだけど、結局のところ……面倒くさい女だな」 「なんですって?」タニアがレンチを掴んだ。


ジェイズは物理的・精神的圧迫から逃れようと立ち上がろうとした。 「あー、もう。この旅はストレスが溜まるな……リラックスするために熱い風呂に入りたい……」


ドラカリスの目が松明のように輝いた。 「熱いのがいいのか? なら妾が温めてやるぞ!」 彼女は口を大きく開けた。喉の奥で魔法の炎が輝く。


「ドラゴンブレス:スパ・モード!!」


「ちょ、待て! やめろおおおお!」ジェイズが絶叫する。 「きゃあああっ!」 「お兄ちゃん!」


ゴオオオオオッ!!


「制御された」火炎放射が船内を煙と悲鳴で満たした。


こうして、内部からの火の玉とパニックに包まれたまま、エックス・コーション号は雲を突き破り、惑星クル・ナイの大気圏へと突入した。


***


タニアは強化ガラスに顔を押し付けた。眼下に広がるネオンの光が、彼女の青い瞳に反射して輝く。


そこにある都市は、建造されたというより、金属と光で培養されたかのように見えた。 白いクリスタルの塔が空へと数キロメートルも伸び、それらを繋ぐ光のハイウェイを、反重力車両が機械神の血液のように流れている。


「わあ……!」 タニアは目を見開き、構造をスキャンした。 「これがヤミルの住む街? すごい! 輸送網のエネルギー効率が神がかってる!」


ヤミルは操縦席で胸を張った。 「そうさ。これがヴァル・キュリアだ。王家の統治と『先駆者アンセスター』の技術により、この惑星で……いや、この星系でも最も繁栄している都市だよ」


ジェイズも窓に近づき、口笛を吹いた。 「へえ、大げさじゃなかったな……」 錬金術師は認めた。 「中央ギルドの都市とは比べ物にならない。技術レベルが光年単位で離れてるぞ」


「もちろん、アレリス王女の至高惑星には及ばないけどね」ヤミルは外交的な謙遜を付け加えた。「それでも、ヴァル・キュリアはこのセクターの宝石さ」


リンは足をぶらつかせながら、無関心に都市を見ていた。星の誕生や次元の崩壊を見てきた彼女の目は、ほとんど瞬きもしなかった。


(これくらいで驚くの?) リンは退屈そうに思った。 (高次元領域じゃ、お姉ちゃんと私は砂の城にしか見えないような奇跡を見てきたのに)


無意識に、彼女は声に出した。 「いつか見せてあげるね」


ジェイズが振り返った。 「え? 何を見せてくれるんだ、リン?」


リンは硬直した。「可愛い妹」の仮面が剥がれかけた。 「あっ! 何でもないよお兄ちゃん!」 彼女は無邪気に笑った。 「意味のない独り言! 子供の戯言だよ!」


ドラカリスが爪を研ぎながら嘲笑した。 「その貧相な胸を見せる話じゃないだろうな、小娘?」 ドラゴンは憐れむように見た。 「見る価値もないからのう」


「お兄ちゃん!」リンがトカゲ女を指差して抗議する。「なんか言ってる!」 「ジェイズ!」タニアも加勢する。「何とかして!」


「ドラカリス、頼むよ……」ジェイズはこめかみを揉んだ。「それとリン、トカゲって呼ぶな」 「トカゲだもん!」 「ふん、妾の方がデカいしな!」ドラカリスが豊満な胸を強調する。「のう、主よ?」


「頼むから二人とも黙ってくれ!」 ジェイズは神経衰弱寸前だった。


「着陸態勢に入るぞ……」 ヤミルは背後のカオスを無視して告げた。 「準備しろ!」


エックス・コーション号は静かに降下し、王宮のプライベートプラットフォームに着陸した。 蒸気が晴れ、ランプが降りる。


ヤミルが最初に降りた。 整列した制服姿の使用人たちが彼を出迎えた。その中で一際目立つ、狐耳とフサフサの尻尾を持つ少女が駆け寄ってきた。


「ヤミル様!」 セレナだ。尻尾を興奮で振っている。 「予定よりお早いのですね。トーナメントはどうでしたか? ハミール様の代わりに強い戦士をたくさん見ましたか?」


ヤミルは溜息をついた。あの大惨事を思い出して表情が曇る。 「ニュースは届いているはずだぞ、セレナ。悪魔の襲撃でイベントは中止だ。だが今はそんなことはどうでもいい」 ヤミルは船を指差した。 「クララに伝えてくれ。母上を治療する。助っ人を連れてきた」


セレナは首をかしげ、耳をレーダーのように動かした。ヤミルの背後を覗き込む。 タニア、リン、威圧的なドラカリス……そしてジェイズを見た。


彼女の目が皿のように丸くなり、尻尾の毛が逆立った。


「あの方々は……」 言いかけて、彼女はジェイズを指差して絶叫した。


「あああっ! 貴方は!」


ジェイズはタラップで凍りついた。 「俺?」


「トーナメントの変態だ!!」 セレナは衛兵や使用人全員に聞こえる大声で叫んだ。 「銀河テレビ中継で教会の『聖剣』の胸を揉みしだいた人だ! あの変質者!」


ポカッ!


乾いた音が響いた。ヤミルが狐娘の頭にゲンコツを落としたのだ。


「あだっ!」 セレナは頭を抱えた。コミカルなタンコブができている。 「な、何するんですかご主人様! 痛いです!」


「口を慎め、バカ者!」ヤミルが叱りつける。「彼らは私のゲストだ。女王陛下を救うために来てくれたんだぞ! 失礼なことを言うな!」


ジェイズは地面(あるいはプラットフォームの金属板)に埋まりたかった。 (ここまで噂が広まってるのかよ……) 彼は敗北感に打ちひしがれた。


ドラカリスが通り過ぎざまに、意地悪な笑みで背中を叩いた。 「ほほう、主よ……銀河規模の有名人じゃな……」 ウインクして舌を出す。 「『変態マスター』としてな! 誇らしいぞ!」


「ドラカリス……」 ジェイズは顔を覆った。恥ずかしさで爆発しそうだ。 「一瞬でも俺をそっとしておいてくれないか?」


「くくく……断る!」 ドラゴンは腰を振ってヤミルについて行った。


「彼らはVIPだ!」 ヤミルの声が威厳を取り戻した。 「最上級のもてなしをせよ!」 「はい、殿下!」 使用人たちの声が大理石のホールに響いた。


その壮麗さは圧倒的だった。 つい最近まで研究室と工房しか知らなかったタニアは、世界に押しつぶされそうな感覚を覚えた。無意識に両手でジェイズの腕にしがみつく。


「なんか……緊張しちゃう」 タニアは囁いた。 「こんな王族だらけの場所初めて。場違いな気がする」


ジェイズは彼女の手の震えに気づき、安心させるように微笑んだ。 「大丈夫だ。必要なことだけ済ませればいい」 彼は小声で言った。 「皇太后様を助けたら、あの新しい船でギルドに帰ろう。ちょっと遠出しただけさ」


タニアは顔を上げた。青い瞳が、恐怖と決意の入り混じった色で彼を見つめる。


「うん、でも……」 タニアは腕を強く抱いた。 「帰ったら、パパのところに置いていかないでね? また研究室に閉じ込められるのは嫌。……貴方と冒険がしたいの」


声が少し震えたが、彼女は続けた。 「私を正式にパーティに入れて! 約束する、きっと役に立つわ。船の修理だけじゃない……もっと色々できるから。お願い!」


ジェイズは彼女の熱意に驚いた。 連れて行くのは危険だとは分かっていたが、その目の輝きを否定することはできなかった。


「分かった……。全部終わったら、真剣に話そう」 「うん!」 タニアは重荷が取れたような、輝く笑顔を見せた。


◇◆◇


一方その頃。【地球 —— 遠征の森(アノマリー・ゼロ地点)】


冷たい風が木々の間を吹き抜け、三人の女戦士の髪を揺らしていた。 彼女たちは、アンテナだらけの奇妙な装置を操作する老人を見守っていた。


「ふむ……」 ルドルフ博士がホログラム画面を調整しながら唸った。 「興味深い。タキオン粒子の変動を検知した。確かに、ここには活発で飢えたダンジョンが存在する」


ラファエラが前に出た。 「博士……『次元穿孔機ベール・ピアサー』を使うのね?」


「その通りじゃ、お嬢さん」ルドルフはデータから目を離さずに答えた。「それが唯一の鍵じゃよ」


シャルロットが首をかしげ、周囲を見回した。 「『穿孔機』って、あの研究室にあった巨大なリングのこと? ……持ってきてないみたいだけど。あんなの運ぶにはトラックが必要よ」


ルドルフは青く光る眼鏡を直してクスクスと笑った。 「ご名答。だが、あの防護室にあったのは『物理筐体』じゃ。ここにあるのは……」 彼は小さなリモコンを持ち上げた。 「『座標指定機』じゃよ」


博士は何もない空間を指差した。 「この装置がバリアの周波数をスキャンし、ラボに信号を送る。ラボにある本体から次元ビームが照射され、ここに穴を開けるんじゃ。距離など関係ない。科学に不可能はない……まあ、限度はあるが、この距離なら朝飯前じゃ!」


リタがリモコンを驚嘆の目で見た。 「おもちゃみたい……。博士ってクリエイティブですね」


「創造性こそ生存の母じゃよ」 ルドルフは真顔になった。 「時間は無駄にできん。起動するぞ」


空気が重くなった。 「ちょっと怖いかも……」シャルロットが唾を飲み込んだ。「でも、ワクワクもする!」 「私もよ……」ラファエラが筋肉を強張らせる。


ルドルフは赤いボタンを押す前に手を挙げて制止した。 「待て。警告を忘れるな。この装置は実験段階で、ダンジョン内の時間の流れは完全に未知数じゃ」


指を一本立てる。 「シナリオ1:時間停滞ステイシス。外の時間は普通だが、中では生物学的時間が凍結する。何年修行しても歳をとらない。完璧な現実ハックじゃ!」


二本目を立てる。影が伸びたように見えた。 「シナリオ2:逆行性拡張。外の時間は止まるが、中は加速する。若くして入り、こちらでは5分しか経っていないのに、80歳の老婆になって出てくるかもしれん」


ルドルフは眼鏡越しに彼女たちを見据えた。 「理解してくれ。青春を失うか、あるいは二度とこちらの現実に戻れないかもしれん。その覚悟はあるか?」


森に静寂が落ちた。枝のきしむ音だけが聞こえる。 リタは俯き、杖を白くなるほど握りしめた。


「みんな……」 リタの声が震える。 「私一人で行くわ……」


「何をおっしゃいますか、博士!」 ラファエラが友人の言葉を遮り、力強く叫んだ。


彼女は一歩踏み出し、リタの迷いを無視してルドルフを睨みつけた。 「『イエロー・ライトニング』の新リーダーとして、そして無二の親友として……」 彼女は拳で胸を叩いた。 「何があろうと、この旅に同行します!」


シャルロットもすぐに続いた。ラファエラの隣に立ち、決意を込めて博士を見た。 「そうです! 親友が助けを求めているのに見捨てるわけないでしょ? 命や若さを失うことになっても、一緒に入ります!」


リタが顔を上げた。二人の背中が彼女を守り、運命に立ち向かっているのが見えた。涙が溢れ出した。 「ありがとう……二人とも……!」


三人は一瞬見つめ合い、言葉なく頷いた。そしてルドルフに向き直った。準備はできた。


博士は疲れた顔に、優しく父性的な笑みを浮かべた。 「勇敢な娘さんたちだ。その友情が、君たちを遠くへ連れて行ってくれるだろう」


彼はスイッチを押した。


ズオオオオオン!


彼女たちの前の空間が裂け始めた。


(続く)


挿絵(By みてみん)

「逆行性拡張」。 老婆になって帰ってくる可能性……恐ろしすぎます。 でも彼女たちの友情は本物ですね。 次回、クル・ナイの王宮でジェイズを待つものは? そして病床の皇太后を救えるのか? 物語は核心へと進みます!


【お願い】 「友情パワーに感動!」「セレナちゃん可愛い!」と思ったら、 下の ☆☆☆☆☆ で評価をお願いします! リタたちの無事の帰還を祈って!

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