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ハミル vs ジャコズ

挿絵(By みてみん)


【廃墟と化した農家】


瓦礫がくすぶる中、ジャコズは気絶したダイスケの背中にドカッと座り、ソファ代わりにしていた。 手には兵士の通信機があり、それを馬鹿にしたように見ていた。


『もしもーし。使い方が分からねぇな……ま、いいか』 『誰? ダイスケはどうしたの?』


「隠れてると思ったか?」 ジャコズは通信機に向かって鼻を鳴らした。 「言ったろ……ここで待ってるってな!」


彼は通信機をダイスケの胸に放り投げ、指を鳴らした。 「じいさん、パーティの続きだぜ」


埃が落ち着き始める。ジャコズは鼻歌交じりに爪の手入れをしている。 「なぁ、坊主……」 祖父が崩れた柱に寄りかかって溜息をついた。 「無茶ばかりしおって。相手を見て喧嘩を売れ。『銀河最強の男』の部下を椅子にする奴があるか!」


「知ったことか」ジャコズは大あくびをした。「俺の家を壊す奴は、俺が壊す」


「まあ、そうじゃが……」 祖父の声色が急変し、真剣なものになった。 「のんびりしとる場合じゃないぞ、可愛い孫よ。……もう着いた」


「あ?」ジャコズが眉をひそめる。「早すぎだろ。変身の反動も抜けてねぇってのに!」


着陸音はなかった。ただ、太陽の光がかげっただけだ。 音もなく浮遊する黒い宇宙船から、一人の男が降り立った。


ブーツが地面に触れた瞬間、空気が鉛に変わった。 重力が80倍になったかのような物理的なプレッシャー。小石が振動を始める。


「来おったわ……」祖父が糸を構える。「覚悟せい!」


だが、言葉が終わるより早く、ハミールは消えた。 速度ではない。純粋な脚力が生む瞬間移動だ。


ドゴォッ!


ハミールは既にジャコズの目の前にいた。予備動作なしの前蹴りが、胸板に突き刺さる。


「がはっ!」 ジャコズは反応すらできなかった。 ミサイルのように弾き飛ばされ、音速を超えて森を貫通し、数百メートル先へと消えていった。


「ジャコズ!!」祖父が叫ぶ。


ハミールはゆっくりと足を下ろし、倒れたダイスケを見下ろした。 「私の部下を辱めることは許さん」 氷のような声だった。


祖父は凍りついた。その鎧。その紫のオーラ。『戦争の皇帝』だ。 (マズい……これはマズいぞ)


だが、家族愛が恐怖を凌駕した。 十本の指が高速で動き、深紅の閃光が走る。 「おい……お前のような男がワシの孫に何の用じゃ!」祖父が叫ぶ。「答えろ!」


「貴様には関係ない、老人」 ハミールは背を向け、ダイスケを抱き上げた。 「手出し無用だ。後悔することになるぞ」


「そう言われてもな……」祖父が歯を食いしばる。「大事な孫の話じゃ! 死んでも通さん!」


「赤蜘蛛のレッド・スパイダー千刃牢サウザンド・プリズン!」


祖父が両手を突き出す。レーザーのように鋭利な数千のマナの糸が、全方位からハミールに殺到した。


ハミールは動かなかった。ただ、息を吐いただけだ。 オーラが爆発的に膨張する。


キィン! キィン! キィン!


鋼鉄をも切断する糸が、ハミールの皮膚に触れて安物の木綿糸のように弾かれた。


「なっ……!?」 「鬱陶しい」


ハミールが振り返りざまに裏拳を振るった。 拳圧による衝撃波が、10メートル離れた祖父を直撃した。 老人は転がったが、糸をアンカーにしてバネのように跳ね起きた。


「ナメるな!」 祖父は年齢を感じさせぬ動きで拳圧を回避し、巨人の腕に糸を絡ませた。 「秘技:巨人殺し(タイタン・ストラングル)!」 全力で引く。腕を折るか、体勢を崩すために。


ハミールは拘束された腕を見た。 そして、羽でも払うかのように腕を振り上げた。老人が宙に舞う。


「技は良い。だが力が足りん」


ブチブチッ! 魔力の糸が引きちぎられ、ハミールの一撃が老人を暖炉の残骸へと叩き込んだ。


「ぐふっ!」 祖父が血を吐く。 (伊達に『最強』を名乗っとらんわ……化け物め) 立とうとするが、足が震えて動かない。


ハミールが歩み寄る。拳を固め、トドメを刺すために。 「終わりだ、老人。急いでいるのでな」


ヒュンッ!


甲高い風切り音がした。 遠方から、超音速で飛来した爪型の真空波がハミールの胸を直撃した。


ガガガッ!


火花が散る。破壊不能の鎧に、一本の薄い傷がついた。


「ほう……」 ハミールは傷を見た。 「あの距離から、私の装甲を削ったか」


ジャコズが土煙を上げて二人の間に着地した。 息は荒く、口から血を流し、胸を押さえているが、その目は狂気で輝いていた。


「痛ぇじゃねぇか、クソが……」 ジャコズが唸る。 「随分と遠くまで飛ばしてくれたな!」


「まだ動けるか」ハミールが眉を上げる。 「噛み付くこともできるぜ!」


ジャコズが消えた。 残りの全精力を脚に込め、灰色の稲妻となって疾走する。


ザシュッ! ザシュッ!


ジャコズは残像となり、ハミールを包囲した。上下左右、死角からの連撃。 「狼爪連撃ウルフ・フレンジー!」


ハミールはその場から動かず、防御を始めた。左腕で爪を受け、右肘で蹴りを弾く。 (速いな) ハミールは目で追った。 (変身のマナが尽きているのに、純粋な本能と身体能力だけで動いている。生まれついての戦士か)


だが、足りない。


ジャコズが咆哮し、頸動脈を狙って最後の飛び掛かりを見せた。 「落ちろぉぉぉッ!」


ハミールは防御を解いた。 ただ手を伸ばし、空中のジャコズの顔面を鷲掴みにした。 急停止。理不尽なほどの剛力。


「惜しかったな、子犬」


ジャコズは空中で暴れ、鉄の腕に爪を立てたが、金属は傷つかなかった。 ハミールは彼を見た。憎しみはない。ただ仕事をこなす冷徹さだけがあった。


「眠れ」


もう片方の拳を振り上げる。ガントレットが紫色の危険な光を帯びて歪む。


「惑星砕き(プラネット・バスター)」


拳が振り下ろされた。 今回は小細工なし。ジャコズの胸板のど真ん中に、乾いた、残忍な一撃が入った。


ズドオオオオオオオオオオンッ!!


頭の中で雷が炸裂したような轟音。 ジャコズの体は吹き飛ぶのではなく、地面に縫い付けられた。衝撃で地盤が液状化する。 彼は瞬きする間に地中深くへと沈み、煙を上げる垂直のクレーターを残して消えた。


土煙が晴れていく。


「ジャコズ!!」 祖父が必死に這いずり、底知れぬ穴を覗き込んだ。


ハミールはガントレットの埃を払い、死体を確認もせずに背を向けた。


「立つな」 ハミールが命じた。その覇気だけで老人を縛り付ける。 「奴は生きている」


祖父が震えながら止まった。 「生き……てる? あれを食らって?」


ハミールは穴を横目で見た。瞳に微かな称賛の色があった。 「他なら塵になっていただろう。奴の体は私の直撃に耐えた」 彼は認めた。 「そう簡単に死ぬ男ではない。誇るがいい、老人。孫は強いぞ」


祖父は安堵の息を吐き、地中の微かな、しかししぶとい命の鼓動を感じた。 へなへなと座り込み、笑みをこぼす。 「知っとるわ、バカ者……。わしの孫が弱いわけなかろう!」


ハミールはダイスケを軽々と担ぎ上げた。 「行くぞ。治療が必要だ」


黒い巨人は空へと去っていった。


(続く)


挿絵(By みてみん)


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