老兵の意地と、暴狼の覚醒
ダイスケは戦術バイザー越しにジャコズをスキャンし、蔑むように見下ろした。 「ふん……お前が噂の『葉っぱ野郎』か」
「ほう、俺も有名人だな」 ジャコズは不敵に腕を組み、挑発的に笑った。 「天下のハミール様率いる『トリプルS部隊』のエリートが、老いぼれ相手に何のご用だ?」
「おい!」ポーチから祖父が杖を振って抗議する。「誰が老いぼれじゃ!」
「家族漫才には興味がない」 ダイスケは溜息をつき、スーツのウェポンシステムを起動した。 「『炎の錬金術師』と呼ばれる弟はどこだ?」
ジャコズの笑みが消えた。 彼はゆっくりと老人の方へ首を回した。 「ジェイズを探してるだと? ……じいさん。あいつはどこだ?」
「えーっと……」 祖父は滝のような汗をかき、目を逸らした。 「可愛い孫も立派な大人じゃ! 夢を追いかけさせてやったんじゃよ!」
「仕事は一つだけだったろ、クソジジイ!」 ジャコズが牙を剥いて怒鳴った。 「ジェイズを全てから遠ざけること! 帝国からも、教会からも、悪魔からもだ! 親父の言いつけを忘れたのか!」
「可愛い孫の頼みなんじゃい!」祖父が子供のように頬を膨らませて叫び返す。「お前と違ってな! 女たらしで、遊び人で、変態で、アル中のバカ孫とは違うんじゃ!」
「俺の勝手だろ! で、ジェイズはどこだ!」
「おい、無視するな!」 ダイスケの額に青筋が浮かんだ。 「俺がいるのを忘れるな!」
無視されることに我慢できなくなったダイスケは、加速装置で消えた。 「喋らねぇなら、悲鳴を上げさせてやる!」
彼は二人の間に出現し、エネルギーブレードで同時に首を刎ねようとした。
「伏せろ!」祖父が叫ぶ。
手首の動き一つで、庭を囲む不可視の糸が収束する。 「糸技:鋼鉄の繭!」
単分子ワイヤーの網がダイスケに迫る。彼は舌打ちし、攻撃を中断してワイヤーを切り払った。
「安い手品だ!」 ダイスケは空中で回転し、ジャコズの頭上から踵落としを見舞った。
ジャコズは避けなかった。腕をクロスし、筋肉を鋼のように硬化させる。 ドゴッ! 衝撃で地面が陥没したが、ジャコズは揺るぎもしない。
「そんだけか? ポンコツ」 ジャコズは着地したダイスケの脚を掴み、家に向かって放り投げた。 だがダイスケは反重力装置で空中で制動をかけ、ふわりと浮かんだ。
「鬱陶しいな……」 ダイスケの両肩から小型キャノンが展開する。 「これでどうだ? 制圧射撃!」
プラズマ・マイクロミサイルの雨が降り注ぐ。
「ちぃっ!」 祖父は軽業師のように壁を走り、糸で障壁を織り上げてミサイルを逸らした。 ズドーン! ズドーン! 庭が爆炎と土煙に包まれる。
「俺を忘れてるぜ!」 煙の中からジャコズが飛び出し、半獣化した爪でダイスケのヘルメットを狙う。
「遅い」 ダイスケは紙一重でかわし、掌底をジャコズの胸に当てた。 「インパクト・キャノン」 衝撃波がジャコズを森の奥へと吹き飛ばした。
「一匹片付いた」 ダイスケは屋根の上の老人を見上げた。 「次はアンタだ、ジジイ」
祖父の指が高速で動く。 「操り人形の舞:断頭台!」 数百の糸が全方位からダイスケに襲いかかる。
だが兵士は笑った。 「防御システム起動:全方位フィールド」 青い球状のエネルギーが彼を包み、触れた糸を焼き切った。
「ゲームオーバーだ!」 ダイスケはスーツの全エネルギーを一点に集中させた。 「戦術消去!」
彼は老人ではなく、その足元の構造体――家の土台を撃ち抜いた。
「やめろぉぉぉッ!」
ドガァァァァァンッ!!
爆発は破壊的だった。木材が悲鳴を上げて砕け散り、屋根が崩落する。 数秒のうちに、居心地の良かった農家は瓦礫の山と化した。
静寂。そして、瓦礫の中から手が突き出た。
「わしの家がぁぁ!」 煤だらけになった祖父が這い出し、焼け焦げた帽子を見て泣き叫んだ。 「わしのトマト! 愛用の揺り椅子! 全部パァじゃ!」
隣の瓦礫の山からジャコズが現れ、髪についた埃を払った。 彼の顔から嘲笑は消えていた。金色の瞳が、殺意で燃えている。
「集中しろ、ジジイ」 ジャコズは血を吐き捨てた。 「相手はランクSのエリートだ。家なんざ初めてじゃねぇだろ。また建てりゃいい」
「あの椅子には思い出が詰まっとったんじゃ……」祖父がすすり泣く。
ジャコズが一歩踏み出した。空気が振動し、プレッシャーが変わる。 「本気を出すぞ……」
ダイスケがゆっくりと降下してきた。 「来いよ。退屈してたところだ」
ジャコズは目を閉じ、深く息を吸った。 骨がきしむ音が響く。 体が膨張し、服が裂け、鋼色の毛皮が皮膚を覆っていく。鼻面が伸び、爪が凶器へと変わる。
「変身:ライカンスロープ・アルファ」
祖父が心配そうに見た。 「本気か、坊主? その形態はマナを根こそぎ持っていくぞ。短期決戦で決めんと干からびるぞ」
2.5メートルの巨獣と化したジャコズが、熱い蒸気を吐き出した。 その声は地底から響くような唸り声だった。
「安心しろ、ジジイ。アンタのサポートがありゃ勝てる」
祖父は手袋を締め直した。太陽の下で糸が鋭く輝く。 「任せておけ。あの若造に、私有地侵入の恐ろしさを教えてやろう」
(続く)




