無双の女竜と計り知れない特異点
規格外(SSS)のあとに、測定不能が来た。 ドラカリスの評価で盛り上がったのも束の間。 謎の幼女リンが引き起こした、前代未聞のトラブル。 「宇宙の測定限界を超過」って、一体何者なんでしょうか(棒読み)。 ジェイズの胃痛がマッハで加速する第39章です!
前触れもなく、ドラカリスはジェイズに覆いかかり、情熱的なキスをした。 時が止まったような静寂の中、唇が離れる。 「我が愛しき主よ……」 彼女は熱っぽい瞳で囁いた。 「心から祝福するわ……愛してる!」
スローモーションの落雷のような衝撃が走った。 「ちょ、ちょっと何が起きてるの!?」 マリアが目を剥いて叫んだ。 「リア! なんであの娘がジェイズとキスしてるの!? 止めなくていいの!?」 リアは視線を逸らし、もじもじと指をいじった。 「えへへ……ちょっと複雑な事情がありまして……あとでゆっくり説明しますね?」
マルコスはハンカチを噛み締め、血涙を流さんばかりだった。 「ありえない……あんな絶世の美女からキスだなんて! 俺なんて夢の中でさえ無視されるのに! チクショーッ!」
ヴァレンティナは腕を組み、溜息交じりにその光景を眺めていた。 「まあ、ラブロマンスは十分見せてもらったわ。さて、メインディッシュの評価といきましょうか……準備はいい、ドラゴンさん?」
ドラカリスは、ジェイズの頭によじ登って髪を噛んでいるリンを引き剥がそうとしながら、誇らしげに笑った。 「よく分からぬが、主が望むなら異存はない」 ジェイズは、頭上の凶暴なコアラ(リン)にバランスを崩されそうになりながらも頷いた。
「よし」マルコスが気を取り直して宣言した。「準備完了です。いつでもどうぞ」
ドラカリスが堂々と進み出る。彼女がシリンダーの中に足を踏み入れると、装置は自動的に起動し、油圧音と共にロックされた。 ヴァレンティナは期待に目を輝かせた。 (さあ、見せてもらうわよ。貴女の正体を……)
空気が張り詰める。数秒後、機械が振動し始めた。 最初は微かな電子音。だがすぐに、コンクリートの床を揺るがすほどの激震へと変わった。 「何だコリャ!?」 ジェイズは倒れないようにパネルにしがみついた。 「俺の時はこんな揺れなかったぞ!」 「チ、チーム長……!」 マルコスが青ざめて叫ぶ。 「止めますか!? こんな数値見たことない! センサーが限界です! 何かおかしい!」
ヴァレンティナは眉をひそめたが、声は冷静だった。 「落ち着きなさい。続けさせて。結果が見たいの」
バチチチチッ!! 異音は耳をつんざくような金属音に変わり、強烈な閃光が視界を白く染めた。 「チーム長! マジでヤバイです! 爆発しますよ!!」 マルコスが耳を塞いで絶叫する。
ヴァレンティナは答えなかった。全員が本能的に顔を覆ったその時――
ドォォォォォォォンッ!!
時が凍りつくような轟音が響いた。 その後の静寂は、あまりに深かった。 ヴァレンティナは眼鏡の位置を直し、静かに笑った。 「終わったわね。マルコス、データを出して」
蒸気の中から、ドラカリスが姿を現した。傷一つなく、まるでスパから出てきたかのように優雅に髪をなびかせている。 「ドラカリス! 無事か!?」 ジェイズが駆け寄る。 「ええ、我が愛しき人よ」 彼女は満面の笑みで答えた。 「とても暖かくて……日光浴のようで心地よかったわ」
ジェイズは安堵の息を吐いた。 「よかった……心配させやがって」 「主よ、貴方は本当にお優しい!」 ドラカリスは目をハートにして彼を抱き上げ、窒息しそうなほど抱きしめた。
「チーム長! こ、これを見てくださいッ!」 マルコスの悲鳴のような声が響く。
ヴァレンティナは自信満々に近づいたが、画面を見た瞬間、その余裕は崩れ去った。 「ありえない……」 彼女は目を見開いた。 「強いとは分かっていたけど、これは……前例がないわ。このギルドだけじゃない、地球の観測史上でも!」
全員がモニターに殺到した。 「ちょっと、見せてよ」 マリアが覗き込む。マルコスは震える指で画面を指差した。 「あ……あ……あ……トリプル……!」
リアは両手で口を覆った。 「夢……これは夢ですよね……?」 ジェイズは瞬きを繰り返した。 「俺の予想を遥かに超えてる……」
リンだけが片隅で、全てを知っているような瞳で微笑んでいた。 ヴァレンティナが両手を天に突き上げた。 「クックック……アーッハッハッハ!! やった! やったわ! 私のギルドに! 私のギルドにぃぃぃッ!」 「史上初の『SSS』ランク冒険者が誕生したわ!!」
一瞬の静寂の後、爆発的な歓声が上がった。 ドラカリスは自分が何をしたのか理解していない様子で、ジェイズを見つめた。 「主よ……腹が減った。飯はまだか?」
「あのー、水を差すようで悪いんですが……」 マリアが現実的な声で割り込んだ。 「ウチのギルドに、そんな化け物クラスを雇う金はありませんよ? Bランクの依頼を取ってくるのがやっとなのに……」
ヴァレンティナの狂喜が霧散した。彼女は椅子に座り込み、頬杖をついた。 「痛いところを突くわね、マリア。クソッ。中央ギルドにバレたら、即刻引き抜かれて王室直属の特殊部隊行きよ……」
バンッ! ドラカリスがテーブルを叩き割る勢いで叩いた。 燃えるような瞳がヴァレンティナを射抜く。 「何度も言わせるな! 妾の望みは主と共にいることだけじゃ! 誰にも引き離させはせん! 王だろうが神だろうがな!」
リアが冷や汗を流して言った。 「で、でもドラカリスさん……高ランク者には最低報酬額が法律で決まってて……ウチの年間予算が吹っ飛ぶレベルなんです! 法律的に無理なんです!」
ドラカリスは不機嫌に唸った。 「耳が遠いのか? 金の問題なら、妾の報酬は主の側にいることだけでよい! 紙切れになど興味はない!」
「えっと……待てよドラカリス」 ジェイズが苦笑いで割って入った。 「タダ働きってのはさすがに……」
ヴァレンティナが目を細めた。その顔に、商人の邪悪な笑みが浮かぶ。 瞳の奥に「¥」「$」「₿」のマークが回転していた。 「あら、あらあら……」 彼女は猫撫で声を出した。 「本人が愛のためにタダでいいって言ってるのよ? 私たちが邪魔するのは野暮ってものじゃない? 愛は宇宙最強の力なんでしょ?」
「マスター?」 ジェイズは疑いの目を向けた。 「めっちゃ悪徳業者の顔してますよ?」
「失礼ねジェイズ!」 ヴァレンティナは胸に手を当てた。 「私はただ、恋する乙女を応援したいだけのロマンチストよ!」
(大当たりの宇宙クジだわ! SSSランクへの指名依頼……王族、大統領、皇帝からの依頼料は天文学的数字! それをタダで雇えるなんて……神様ありがとう! 私は大金持ちよ!)
ヴァレンティナは立ち上がり、高らかに宣言した。 「よし、決定! ドラカリスは『エックス・コーション』の正式メンバーとする! 給料は……ゼロ円で!」 「マルコス、契約書用意!」
「イエス・マム!」マルコスが猛スピードでキーボードを叩く。
ジェイズは深いため息をついた。 「本当にいいのか、ドラカリス? 搾取されてるぞ」
「構わん。主といられれば、人間の金などどうでもよい」
ジェイズは少し考えた。 (あー……待てよ。こいつが無給だと、俺にも金が入らない。しかもこいつの食費は……俺の財布が死ぬ。……交渉だ)
「マスター、異議あり」 ジェイズは真顔で手を挙げた。 「ドラカリスが報酬を辞退するのは勝手ですが……」
「あ? 何よ?」 ヴァレンティナは計画が崩れるのを恐れて警戒した。
「こいつの面倒を見るのは俺です。こいつ、マジで20人分くらい食うんですよ! 破産します! 一週間で路頭に迷います!」
リアが頷いた。 「ジェイズの言う通りです。ホテルでの食事量……あれは災害レベルでした」
ヴァレンティナは腕を組んで舌打ちした。 「チッ。で? どうしたいの?」
「ドラカリス経由で入るSランク以上の依頼報酬の、最低40%を俺にください。彼女の食費と……俺の手数料として」
「ふざけんじゃないわよ! 20%!」
「30%。でなきゃドラカリスに専業主婦になってもらいます」 ジェイズは不敵に笑った。
ヴァレンティナは呻いた。 「くっ……分かったわよ! 30%で手を打ちましょう!」
「よっしゃあああ! これで金欠から解放される! ヒャッハー!」 ジェイズは子供のように飛び跳ねた。
ドラカリスは首をかしげた。 「主よ……何がめでたいのじゃ? 腹が減ったぞ」
その時。 空気が重く澱み、超低周波の振動が空間を支配した。 照明が激しく明滅し、不吉な青い光がホールの奥から溢れ出す。 測定機が再び唸りを上げ、ルーン文字が暴走したように輝き始めた。
「何っ!?」 マリアが悲鳴を上げた。 「なんで勝手に動いてるの!?」
「マルコス! 切って!」
「やってます! でも制御不能です! 誰かがハッキング……いや、内部から!?」
ジェイズは本能的な恐怖を感じて振り返った。 そして顔色を変えた。 「リンは!? リンどこ行った!?」
リアが震える指で、ガラスのシリンダーを指差した。 「あそこ……! あの中! 女の子が中に入ってる!」
「なっ!?」 ジェイズは弾かれたように駆け出した。 「いつの間に!? リン!!」
ヴァレンティナが血相を変えた。 「設定がドラカリスのままよ! あの強度は人間の子供じゃ耐えられない! 魔力を吸い尽くされて死ぬわよ!」
「止まらないんです! システムが乗っ取られてます!」 マルコスが絶叫する。
「リン!」 ジェイズは強化ガラスを叩いた。 「リン、出ろ! 危ないぞ! 早く!」
シリンダーの中で、幼女はゆっくりと目を開けた。そして微笑んだ。あまりにも静かな、超越者の笑みで。 「意識がある!? ……リン! 出てくれッ!!」
突如、重力が反転した。空気が鉄の味を帯びる。 少女は光の中で浮き上がった。青と金の光の渦が彼女を包む。それは科学ではなく、純粋な『奇跡』の輝きだった。 ドラカリスの時よりも遥かに濃密で、古のエネルギー。
「な、何なのこれ……!?」 ヴァレンティナは神々しい光に目を焼かれまいと腕で顔を覆った。
ズガガガガガガァァァァァッ!!!
音のない雷鳴が全員の脳髄を貫いた。 世界が白に染まる。
***
数分後。
「うぅ……」 ジェイズは咳き込みながら目を開けた。煙が充満している。 「な、何が起きた……?」
視界が晴れていく。測定機のシリンダーは消滅していた。蒸発したかのように。 その中心で、リンがふわりと舞い降りた。
「お兄ちゃん……」 彼女は羽根のように着地し、心配そうに彼を見上げた。 「大丈夫?」
(この目……どこかで見たことがある……夢の中で……)
ジェイズは迷わず彼女を抱きしめた。 「リン! 無事か……! 寿命が縮んだぞ、もう二度とするな!」
背後で仲間たちが起き上がり始めた。 「いってぇ……」 リアが頭のタンコブをさする。 「爆発……したんですか?」
「わけがわからないわ……」 ヴァレンティナはよろめきながら眼鏡を直した。 「あの子が入った途端に……全てが吹き飛んだ」
「チーム長!」 恐怖に震えるマルコスの声。 「こ、これを見てください! コンソールだけ生きてます!」
ヴァレンティナは瓦礫を乗り越えて画面を見た。そして絶句した。 「何これ……? システムエラー?」
「見たことありません……こんなメッセージ……」
黒い背景に、赤い警告文が点滅していた。
【致命的エラー(FATAL ERROR)】 データ収集不能。 原因:対象のエネルギー量が既知の宇宙の測定限界を超過しています。 【リソース不足】
ヴァレンティナはゴクリと唾を飲み込んだ。 恐る恐る振り返り、ジェイズの腕の中で無邪気に笑う幼女を見た。
「今日はいったい……どうなってるの……?」
凍りつくような沈黙の中、測定機の残骸が火花を散らした。 それはまるで、神を測ろうとして爆死した愚か者の末路のようだった。
(続く)
マシン「解せぬ」。 測定機さん、お疲れ様でした。 SSSランクまでは耐えましたが、神様は無理だったようです。 これで「エックス・コーション」の戦力は、 Cランク(隊長)、SSSランク(嫁)、測定不能(妹?)となりました。 バランス崩壊もいいところですね(笑)。
【お願い】 「リンちゃん強すぎ!」「ヴァレンティナさんの守銭奴っぷりw」と思ったら、 下の ☆☆☆☆☆ で評価をお願いします! 測定機の修理代にします!




