戦士の希望
一方その頃、最強の男ハミールは…… ジェイズが美女たちと楽しんでいる裏で、銀河の彼方では悲劇が幕を開けようとしていました。 母を救うため、危険な惑星から「奇跡の植物」を持ち帰ったハミール。 彼の希望は、眠れる女王を目覚めさせることができるのか? 科学と願いが交錯する、シリアスな展開にご注目ください。
さて、物語は少し場所を移す。 南の銀河で最も広大で繁栄した惑星の一つ。 そこは、「最強」と謳われる男の故郷であった。
◇◆◇
その星の名は『クル・ナイ』。 ハミールとヤミールの母星であり、星系でも屈指の強大な文明を誇る場所だ。
三つの月が夜空を照らし、世界を銀色の光で満たしている。 磨き上げられた鋼のように輝く広大な金属平原。希少鉱物を湛え、紫色の光を放つ海。そして天空を貫く摩天楼群。
首都ヴァル・シャールでは、白亜の塔が槍のように空へ伸び、その根元には壮大な宇宙港が浮かんでいた。そこにはアルミラ女王と、その子供たちであるヤミールとクララが住まう城がある。王国の心臓部だ。
クル・ナイは対比の世界だ。 古代のクリスタルで彫られた寺院と、エネルギーを脈動させる最新鋭の知性化ガラスビルが共存している。人々は名誉を重んじると同時に、革新を求めた。子供から老人までがホログラム・インターフェースを操り、星々に届く理論を語り合う。
経済はエネルギークリスタルの採掘、医療技術、そして最先端兵器の貿易で支えられていた。市場は眠ることなく、公用通貨「クラン」は銀河外でも通用するほどの信用を持つ。
だが、全てが光り輝いているわけではない。 30億の人口の中には格差もあった。過酷な労働を強いられる鉱山都市クラブノス。若き学者たちが競い合う学園都市エリンドラ。そして闇市と違法研究所がひしめく辺境都市ゼラス。
クル・ナイは単なる先進惑星ではない。 伝統と科学が衝突し、強大な王国と貴族たちが歴史を奪い合う舞台。 そして今、ハミールとヤミールという二人の兄弟の運命が、ここで書き換えられようとしていた。
◇◆◇
王国の巨大な城郭。 青い誘導灯が輝くプラットフォームに、一隻の宇宙船が降り立とうとしていた。巨大ではないが、ハミールが属する王家特注の最新鋭モデルだ。
シュゴォォォォ……。 金属的な咆哮と共に、船は着陸した。ハッチが開き、ハミールの堂々たる巨体が現れる。
「お帰りなさいませ、ハミール王子殿下! お待ちしておりました!」
忠実な家臣たちが一斉に頭を下げ、城内へと彼を導く。
その中に、狐の耳と尻尾を持つ一人の少女がいた。ロビタやウサギタと同じ亜人種だ。 医療用の白衣を纏った彼女の名はセレナ。軽やかなステップでハミールに駆け寄った。
「ハミール様ぁ! おかえりなさーい!」
彼女はピョンピョンと小刻みにジャンプしながら言った。
「遠征はどうでした? 成功しました?」 「ああ。目的の植物は見つかった。任務は成功だ」
ハミールは重低音の声で答えた。
「やったぁ! クララ様もきっと喜びますよぉ!」
セレナはまだ跳ね続けている。
「ああ……そういえばクララはどこだ? 出迎えに来ていないようだが」 「だってハミール様、誰にも連絡してないじゃないですかぁ!」
彼女は息を切らしながらもジャンプをやめない。
「それに護衛もなしで一人で帰ってくるなんて! もー、大変だったんですよぉ!」 「あの船は大勢乗せるようにはできていない。一刻も早く戻りたかったのだ」 「ホントですかぁ……? うぅ、疲れるぅ……」
ハミールは額に汗を浮かべた。
「セレナ……なぜ俺の前で跳ね続けるのだ? やめてくれないか?」 「はぁ、はぁ……」
彼女は困ったように笑った。
「だってハミール様、背が高すぎるんですもん……私、話す時は相手の目を見たいタイプなので……うぅ、しんどい!」 「疲れるならやめろ。狐ではなくウサギに見えるぞ」
セレナは悪戯っぽく舌を出した。
「えへへ……すみません、私バカなんで!」
ハミールは視線を逸らし、クリスタルの回廊を進んだ。
「それで……科学者のルドルフから返答はあったか?」 「いえ、まだですぅ……」
セレナはその場にペタリと座り込んだ。狐耳がしゅんと垂れる。
「あの方、すごく忙しいみたいで。なんか娘さんを亡くされたとかで……」 「フン……まあいい」
ハミールは溜息をついた。
「もはや最優先ではない。ここには優秀な専門家がいる。私が持ち帰った『奇跡の植物エーテリス』があれば、十分だ」 「あっ!」
セレナの目が輝いた。
「それって噂の奇跡の植物!? 神レベルの治癒力があるっていう……! 生物が住めないような過酷な場所にしか生えないって聞きましたけど、どうやって見つけたんですか!?」 「ああ、困難だったと断言しよう」
ハミールは頷いた。
「だが私には力と意志がある。惑星Z-1515に突入し……手に入れたのだ」 「Z-1515……!?」
セレナが青ざめた。
「あの侵入不可能な惑星!? 人智を超えた化け物がいて、超酸性雨が降ってて、猛毒の嵐が吹き荒れてるっていう……そこに入ったんですか!?」 「そう言っただろう」
その時、回廊の扉が開いた。 生まれたばかりの赤子のように無垢で、繊細な美しさを持つ水色の髪の少女が現れた。 クララ。ハミールにとってかけがえのない宝物だ。
「お兄様! 帰ってきたのね!」
彼女はハミールの胸に飛び込んだ。
「クララ……」
ハミールは優しく彼女を抱きとめた。彼の厳格な顔に、珍しく温かい色が差す。
「可愛い妹が出迎えに来ないとは、どうしたことかと思ったぞ」 「いじわる!」
クララは頬を膨らませた。
「連絡してくれないお兄様が悪いのよ」 「急いでいたんだ。遠征は成功した。今回こそ、きっと上手くいく」 「えっ、本当に?」 「ああ。また母上の声が聞けるぞ。奇跡の植物を持ち帰ったんだ」 「まぁ!」
クララが顔を上げた。瞳に希望の光が宿る。
「それは私が聞いた二つ目の朗報だわ、お兄様!」 「二つ目?」
セレナが首を傾げる。 ハミールも興味深そうに尋ねた。
「一つ目は何だ?」 「ヤミール兄様からよ」
クララは花が咲くように笑った。
「もうすぐ凄いニュースを持って帰るって。秘密だから、準備ができたら教えてくれるって言ってたわ」 「ほう……」
セレナが口元を押さえた。
「もしかしてヤミール様も何か見つけたんでしょうか?」 「驚きはしないな」
ハミールは認めた。
「あいつの知能は並外れているからな。よし、母上が目覚める準備を進めよう」 「うん……!」
クララは涙をこらえた。
「本当に愛してるわ……私のお兄様たちは、最高よ」
ハミールは一度だけ頷き、医師の方を向いた。
「セレナ!」 「ハッ! 了解です!」
彼女は敬礼した。
「オペ室の準備、滅菌室の稼働、チームへの招集! すべて完璧に整えます! 今回こそ……成功させましょう!」
三つの月が奇跡の前兆のように昇る中、彼らの足音がヴァル・シャールの回廊に響き渡った。
◇◆◇
数時間後。 ハミールは母、アルミラ女王の部屋へと向かった。 そこは夢のような場所だった。壁からは花の香りが漂い、小さなせせらぎが心地よい音を立てている。部屋の中に作られた小さな楽園。 その中央で、アルミラ女王は眠っていた。神々しいまでの美しさを保ったまま、穏やかに。
(母上……あと数時間です。またあの笑顔が見たい。あなたの温かい抱擁が恋しいのです)
ハミールは強く拳を握りしめた。
さらに数時間後。 科学者たちは植物の成分を抽出し、強力な新薬を完成させた。事前の臨床試験では、投与された被験者全員が奇跡的な回復を見せていた。 植物の力は本物だった。
「お兄様」
クララが震える手でタブレットを見ていた。
「有効性は99.99%だって。本当に奇跡の薬よ!」 「王家の力って凄すぎぃ!」
セレナが舌を巻いた。
「たった数時間で新薬作って結果出すなんて、チートですよ!」 「勘違いするな」
ハミールは真顔で言った。
「これは金や権力ではない。人類の進化がもたらした科学の力だ」 「はいはい、カガクですねぇ」
セレナは唇を尖らせた。
「カガクが世界を回してるなら苦労しませんけどねー。やっぱお金ですよ」 「ハハハ……痛いところを突くな、子狐め」 「お兄様が笑ってる……」
クララは唇を噛んだ。
(母上のことがあってから、お兄様があんな風に笑うなんてなかったのに) 「どうした、クララ?」 「ううん、何でもない……ただ嬉しいだけ」
◇◆◇
そして運命の時。 女王アルミラへの投与準備が整った。 ハミールたちは強化ガラス越しに見守っていた。消毒液と金属の匂いがする無機質な部屋。モニターの電子音が規則正しく響く。
『準備完了。バイタルチェック開始!』 『脈拍、その他数値正常。安定しています』 『脳波、正常』 『投与開始します。……科学と奇跡の融合、頼むぞ!』 『イエス・サー!』
南の帝国最強の将軍、ハミール王子の必死の努力。 すべての希望がこの瞬間に集約されていた。
『投与完了』 『バイタル監視継続』
数秒が過ぎた。一分。二分。 モニターの電子音は変わらない。期待していた劇的な変化――数値の上昇が起こらない。 室内の空気が重く澱み始めた。
科学者たちが必死にキーボードを叩く。センサーの故障か? 何かの間違いか? 奇跡はどこだ? だが、残酷なジョークのように、何も起きなかった。 女王は永遠の眠りの中にいた。神の薬が血管を巡っても、彼女は目覚めなかった。
数時間が鉛のように過ぎ去った。 反応なし。モニターの線は平坦なまま。 無だ。
主任科学者が眼鏡を外し、首を振った。
『……申し訳ありません、殿下。女王陛下の病状は……我々の能力を超えています。神の薬をもってしても……』
ガクッ。 クララがその場に崩れ落ち、声を上げて泣き出した。セレナが涙目で彼女を抱きしめる。
ハミールは叫ばなかった。ガラスを叩き割ることもなかった。 ただ石像のように固まっていた。 魂が抜け落ち、抜け殻だけがそこに立っているようだった。 両手の拳を握りしめすぎて、爪が皮膚を突き破り、鮮血が床に滴り落ちていた。だが彼の表情は能面のままだった。
目覚めることを拒むかのような、母の静かな寝顔を見つめ続けていた。
「セレナ……」
低く、死んだような声だった。
「は、はい……うぅ……」 「クララを部屋へ連れて行ってくれ」 「まだヤミール兄様がいるわ!」
クララが泣き濡れた顔で叫んだ。
「兄様がきっと何か見つけてくる! だから諦めないで!」
ハミールは優しく妹を見たが、何も言わなかった。彼の瞳から光は消えていた。
全員が去り、ハミールは一人残された。 静寂が重くのしかかる。
彼の心が、音を立てて砕けた。 ベッドの脇に膝をつき、冷たい母の手を握りしめる。
「母上……」
大粒の涙がこぼれ落ちた。
「会いたいよ、母上……俺のせいで、貴女は……」
ズズズズ……ッ。
突如、部屋の空気が歪んだ。照明が明滅し、古の邪悪な気配が黒い潮のように部屋を満たした。
「な……何だ?」
ハミールは涙を拭い、警戒して立ち上がった。
「誰だ?」
『哀れだなぁ、人間というのは!!』
壁を震わせるような轟音が響き渡った。
(続く)
「哀れだなぁ、人間というのは!!」 科学も、奇跡さえも、女王を救うことはできませんでした。 絶望の淵に立たされたハミールにかけられた、謎の声。 心が折れた最強の戦士の前に現れたのは、果たして何者なのか?
次回、その声の主が明らかになります。 そして物語は、取り返しのつかない闇へと加速していくことに……。
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