炎の錬金術師と鋼のゴーレム!
王国の運命は揺れていた。
ジェイズは大賢者に導かれ、古代遺跡の奥で“竜殺しのゴーレム”と出会う。
その頃、アルビンの村には恐ろしい影が迫っていた――。
一方その頃――ギルド本部。
受付嬢のリアとマリアは、追跡用の魔導コンソールの前に座っていた。
しかし、なぜか水晶画面には――ハートが飛び交う「あへがお」顔と、甘い嬌声を示す擬音が映し出されていたのだ。
――えっ……。
マリアは半ば引きつった笑顔を浮かべながら、ぽつりとつぶやいた。
「……ま、まあ……少なくとも生きてはいるみたいね。」
リアは髪をくしゃくしゃにし、完全に諦めたようにため息をつく。
「ええ……生きてるわね……ふふふ……。」
「おいっ! 一体どうなってるんだ!」
奥の席で作業していたギルド職員が、事情を知らぬまま困惑して叫んだ。
――
その頃、王城の客室。
夜も更け、ジェイズは眠る王女を抱きしめながらまどろんでいた。
だが、不意に扉を叩く音が聞こえてくる。
「……え、また誰か?」
眠そうに目をこすりながら、彼は扉を開けた。
そこに立っていたのは――大賢者コルネウスだった。
「な、なんだよジジイ!? こんな時間に!」
「もう十分休んだだろう。……確認してほしいことがある。ついて来い。」
「え、ああ……わかった。でも着替えくらいさせてくれよ、今は下着姿だし。」
「そうか、では部屋に入って待たせてもらおう。」
「ちょっ……! 外で待っててくれ! 頼むから!」
(ダメだ! もし姫様をベッドで見られたら……俺、間違いなく殺される!!)
「……なるほど。まあよかろう、ここで待つ。」
「ありがとうジジイ!」
「“大賢者”だ!」
大賢者は一度咳払いすると、急に真剣な目つきになった。
「正直に言おう。王女殿下は……お前に惹かれているようだ。」
「……!」
「今は絶望の中で、一縷の希望にすがろうとしている。お前が光に見えたのだろう。だが――決して王女に惑わされるな。」
低く重い声が響く。
「殿下は王位を継ぐ身。身分の違う者が手を出せば、国そのものを揺るがしかねん。……いや、心配しているわけではない。あの子を娘のように思っているだけだ。」
ジェイズは冷や汗を流しながら、無理やり笑顔を作った。
「……ははっ、準備できた! さあ行こうぜ大賢者様! 時間は金なりってやつだ!」
「ふん、やっと正しく呼んだな。……よし、ついて来い。」
大賢者は満足そうにうなずく。
(……俺、絶対バレたら死ぬわコレ……!)
――
二人は城の外へと出た。そこには巨大な飛行生物のための搭乗場が広がっていた。
翼を広げた大鷲のような魔獣が、鞍を装備されて並んでいる。
二人はその一体に乗り、谷を越え、断崖を降り、遠く離れた地へと降り立った。
そこに待ち構えていたのは――太古の遺跡。
「ここだ。」大賢者が告げる。
「ここって……?」
「一万年以上前の文明が残した神殿跡だ。わしが発見し、研究を続けている。……本当に見せたいのはこの先だ。」
石造りの大扉には、光を放つ巨神の浮彫が刻まれていた。
「では開けよう。下がっていろ、若き英雄よ。」
大賢者が手を掲げ、荘厳な詠唱を始めた。
一方その頃――ギルド本部。
受付嬢のリアとマリアは、追跡用の魔導コンソールの前に座っていた。
しかし、なぜか水晶画面には――ハートが飛び交う「あへがお」顔と、甘い嬌声を示す擬音が映し出されていたのだ。
――えっ……。
マリアは半ば引きつった笑顔を浮かべながら、ぽつりとつぶやいた。
「……ま、まあ……少なくとも生きてはいるみたいね。」
リアは髪をくしゃくしゃにし、完全に諦めたようにため息をつく。
「ええ……生きてるわね……ふふふ……。」
「おいっ! 一体どうなってるんだ!」
奥の席で作業していたギルド職員が、事情を知らぬまま困惑して叫んだ。
――
その頃、王城の客室。
夜も更け、ジェイズは眠る王女を抱きしめながらまどろんでいた。
だが、不意に扉を叩く音が聞こえてくる。
「……え、また誰か?」
眠そうに目をこすりながら、彼は扉を開けた。
そこに立っていたのは――大賢者コルネウスだった。
「な、なんだよジジイ!? こんな時間に!」
「もう十分休んだだろう。……確認してほしいことがある。ついて来い。」
「え、ああ……わかった。でも着替えくらいさせてくれよ、今は下着姿だし。」
「そうか、では部屋に入って待たせてもらおう。」
「ちょっ……! 外で待っててくれ! 頼むから!」
(ダメだ! もし姫様をベッドで見られたら……俺、間違いなく殺される!!)
「……なるほど。まあよかろう、ここで待つ。」
「ありがとうジジイ!」
「“大賢者”だ!」
大賢者は一度咳払いすると、急に真剣な目つきになった。
「正直に言おう。王女殿下は……お前に惹かれているようだ。」
「……!」
「今は絶望の中で、一縷の希望にすがろうとしている。お前が光に見えたのだろう。だが――決して王女に惑わされるな。」
低く重い声が響く。
「殿下は王位を継ぐ身。身分の違う者が手を出せば、国そのものを揺るがしかねん。……いや、心配しているわけではない。あの子を娘のように思っているだけだ。」
ジェイズは冷や汗を流しながら、無理やり笑顔を作った。
「……ははっ、準備できた! さあ行こうぜ大賢者様! 時間は金なりってやつだ!」
「ふん、やっと正しく呼んだな。……よし、ついて来い。」
大賢者は満足そうにうなずく。
(……俺、絶対バレたら死ぬわコレ……!)
――
二人は城の外へと出た。そこには巨大な飛行生物のための搭乗場が広がっていた。
翼を広げた大鷲のような魔獣が、鞍を装備されて並んでいる。
二人はその一体に乗り、谷を越え、断崖を降り、遠く離れた地へと降り立った。
そこに待ち構えていたのは――太古の遺跡。
「ここだ。」大賢者が告げる。
「ここって……?」
「一万年以上前の文明が残した神殿跡だ。わしが発見し、研究を続けている。……本当に見せたいのはこの先だ。」
石造りの大扉には、光を放つ巨神の浮彫が刻まれていた。
「では開けよう。下がっていろ、若き英雄よ。」
大賢者が手を掲げ、荘厳な詠唱を始めた。
「……よし。」
大賢者は両手を掲げ、古代の言語で呪文を唱え始めた。
ジェイズの腕時計型翻訳機は、ひとつの音節すら解読できない。
(……古代語か。翻訳がまったく追いつかない……)
呪文が終わると同時に、大地を揺るがす轟音が響き渡り、巨大な石の扉がゆっくりと開いていく。
そこから解き放たれるのは、圧倒的な古代の気配――。
「す、すげぇ……! やっぱりただのジジイじゃねぇな!」
「これを開くために、私は長い年月を研究に費やしたのだ。」
大賢者は得意げに頷き、先へと進むよう促す。
暗くも荘厳な神殿の内部。
長い回廊には古代の文字と像、祭壇が並び、まるで忘れ去られた神話がそこに描かれているかのようだった。
その奥――大広間に辿り着いた二人を待っていたのは、一体の巨大な影。
「紹介しよう、若き勇者よ……これが我らの最後の希望だ。」
玉座に腰掛けるように鎮座していたのは、鋼鉄の巨人。
「……ゴーレム、か?」
「その通りだ。だがこれはただのゴーレムではない。古の《鋼鉄の戦闘ゴーレム》。しかも胸に刻まれた銘文を解読した結果――」
ジェイズの目が輝く。
そこに刻まれていたのは、光を放つ文字。
《ゴーレム・ドラゴンスレイヤー》
「なっ……ドラゴンを……殺すゴーレムだと!?」
「そうだ。だが問題は……今まで一度も動かせなかったことだ。」
「動かせなかった……?」
「呪文も、儀式も、すべて試した。だが反応はなかった。――ただ一つ、仮説がある。」
大賢者の視線がジェイズへと注がれる。
「……炎の錬金術師であるお前なら、あるいは。」
「な、なんだってぇ!? 俺が動かすってのか!?」
「胸部には人の形をした操縦席のような空間がある。これは錬金術の力を扱う者のための器に違いない。」
「……なるほどな。」
ジェイズは大きく息を吸い込み、拳を握りしめる。
「よし! 俺がやってみる。――このゴーレムを、俺の炎で動かしてみせる!」
「頼んだぞ……若き英雄よ。」
大賢者の合図で胸部装甲が開き、ジェイズは中へと飛び込む。
内部はまるで古代の錬金ラボのように、魔法陣や光る回路が複雑に張り巡らされていた。
「……すっげぇ……何だ、この感覚。初めてなのに……懐かしい……?」
正面には二つの水晶球が浮かび、淡く光を放っている。
ジェイズは両手を重ね、炎の錬金力を注ぎ込んだ。
次の瞬間――。
神殿全体が震え出す。
壁の紋様が眩い光を帯び、ゴーレムの身体を走る古代文字が次々と点灯していく。
「こ、これは……!?」
驚愕に目を見開く大賢者。
「封印された力が……動き出している……。まさか、本当に……!」
ゴーレム内部から、ジェイズの雄叫びが轟いた。
「すっげぇぞジジイィィィ!!!
ゴーレム全体に炎の力が流れ込んでいくのが分かる!」
その直後。
バンッ! と金属音を響かせ、操縦席が自動で閉ざされた。
巨体の瞳にあたる部分が、光を放ちながらゆっくりと点灯する。
低く重い振動音が大地を揺らし、鋼鉄の巨人がついに立ち上がった。
「……奇跡……いや、これは運命か。」
大賢者の目には涙が浮かんでいた。
「姫様……本当に、奇跡は存在するのです……!」
神殿を包むのは、ただ一つの事実――。
今ここに、《ドラゴンスレイヤー》が目を覚ましたのだ。
ゴーレムは微動だにしなかった。
内部からジェイズの声も聞こえない。
大賢者の表情に不安が走る。
「……若き勇者よ、聞こえるか?
返事をしてくれ……。おい……少年……!
からかうのはやめろ!」
二分が過ぎた。
――静寂。
「まさか……。
私が早まったのか……?
まだ時期尚早だったのか……?」
大賢者は膝をつき、絶望に顔を歪めた。
「頼む……返事をしてくれ……!」
その時。
金属的な反響を伴い、ゴーレム内部から声が響いた。
「うるせぇな、ジジイ!」
「……! 少年か!?」
「当たり前だろ。誰だと思ってんだ? ……もうボケたのか?」
「まったく……! 人を心配させおって!」
大賢者は涙を拭い、安堵の息を吐く。
「で、どうなったんだ? 心配させやがって!」
「よく分からねぇが、このゴーレムと完全にシンクロしたみたいだ。
俺が動けば……こいつも動く!」
その瞬間、巨大な鋼の体がギシリと音を立てて動いた。
「ほらな、見ろよ!」
ジェイズは操縦席の中で調子に乗り、無意味にパンチやキック、腰を振るようなダンスまで披露する。
ゴーレムはその動きをぎこちなく真似し、石造りの神殿で大暴れ。
「……ば、馬鹿な真似を……! だが……素晴らしい!」
大賢者の瞳が輝く。
「よし、これを姫様に見せるぞ。新たな戦力だ!」
「けど、どうやって城まで戻す? 崖を登るのか?」
ジェイズはニヤリと笑い、両手を前に突き出し、スーパーマンのポーズを取る。
ゴーレムの目が強烈に光り、床を揺るがす振動音が響き渡った。
次の瞬間――。
ドゴォォォンッ!!!
「なっ……!? 飛んだぁぁぁ!!」
大賢者は目を剥き、口を開けたまま硬直する。
ゴーレムは凄まじい推進力で宙へと舞い上がり、廃墟の空を切り裂いた。
上空に達したジェイズはスタイリッシュに旋回し、片手を差し出して大賢者を迎え入れる。
「さぁ、ジジイ! 一緒に帰るぞ! 姫様に見せてやろうぜ!」
「……まったく……やはりお前は私をジジイ呼ばわりするのか。」
それでも、大賢者は誇らしげに微笑んだ。
場面転換 ――アルビンの村・暗黒の影
一方その頃、アルビンの村は闇に覆われていた。
村の一角は瓦礫と化し、住人たちは捕らえられ、広場に押し込められている。
彼らを支配していたのは――子爵デモント。
その背後には、巨大な黒竜が横たわり、静かに眠っていた。
「ドラカリス……起きろ。」
「……うるさい、ジジイ。眠いんだ……。」
竜は苛立たしげに身をよじり、目を開けようともしない。
「兄弟なら周囲を探検してる。だから黙ってろ。」
デモントの顔に怒気が走る。
「貴様らは私があの地獄から解放してやったのだ! 忠誠を誓うのが筋だろう!
私こそが、お前たちを縛る呪縛を解除できる唯一の存在! 敬意を払え!」
暗黒の気配が広場を包み、村人たちは震え上がった――。
黒き巨竜は片目をうっすら開き、鋭い視線をデモントに投げつけた。
「……騒がしいぞ、下らぬ老人。」
その言葉に、デモントは歯を食いしばり拳を震わせる。
分かっていた。――黒竜たちは、彼の魔術ですら到底敵わない存在だ。
だが、この苛立ちをぶつける相手は必要だった。
ゆっくりと、彼は村人たちの群れに振り返る。
捕らえられ、怯え切った人々。
「……あの化け物には手が出せぬ。だが……貴様らであれば、別だ。」
指先が一人の男を指し示した。
妻と幼い娘を必死に抱きしめている青年だ。
「お前だ。――実に、都合がいい。」
「や、やめてください! お願いです、どうか!」
男は必死に叫ぶ。
だが、デモントの冷笑がその声をかき消す。
「……女に愛され、娘に慕われる男……。私はそういう輝きが、心底気に食わん。」
「夫にだけは……どうか……!」
妻は涙ながらに地面に頭を打ち付け、必死に懇願する。
幼子もまた震える声で「やめて……」と叫ぶ。
だが、デモントの手は無慈悲に彼女を引きずり出した。
無数の視線の前で、その尊厳を粉々に踏みにじった。
広場に満ちるのは、絶望の叫び。
父の絶叫。娘の泣き声。
見守る村人たちの心を打ち砕くような光景。
やがて、冷笑を浮かべたまま、デモントは吐き捨てるように言った。
「……実にくだらん。期待外れだ。」
地に倒れた女の肩を足で押し退けると、彼は夫へと向き直る。
「さて……次は貴様だ。」
「――やめろォォ!!」
男の怒号が響いたその瞬間、デモントの掌から黒い魔術が迸った。
皮膚が爛れ、肉が崩れ落ちる。
生きたまま腐敗していく苦痛に、男は断末魔を上げた。
「や、やめて……お願い……!」
女はかすれた声を絞り出すが、力尽きてその場に崩れ落ちる。
「お父さん!!!」
娘の絶叫が夜空を裂いた。
だが黒竜ドラカリスは、動くことすらしなかった。
ただ鋭い瞳で人間たちを見下ろし、やがて静かに目を閉じる。
(……やはり、人間は醜い。吐き気がする……。)
彼女の心に浮かんだのは、ただ冷ややかな軽蔑だけだった。
続く….
鋼鉄の巨人が目覚め、炎の錬金術師は新たな力を手にした。
だが同じ時、遠く離れた村では悪夢が始まろうとしていた。
続く。




