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炎の錬金術師は裁かれるのか?

読者の皆様、お待たせしました! ついに至高の皇女アレリスが登場です。 しかし、事態は最悪の方向へ……? 片腕を失った貴族ジョナサンの怒りと、捕らえられたジェイズ。 絶体絶命のピンチかと思いきや――まさかの展開が!? どうぞお楽しみください!

挿絵(By みてみん)


ざわめきの色が、変わった。


介入しなかったことを恥じてうつむく者。敬意と困惑が入り混じった瞳でジェイズを見つめる者。 アリスは剣を滑らかに鞘に納め、張り詰めていた息を吐き出した。ドラカリスは腕を組み、危険な笑みを浮かべてジョナサンを見下ろしている。言葉など必要なかった。


静寂に耐えかねたように、オーケストラが再び演奏を始めた。 細く、頼りない旋律が、窒息しそうだった広間に酸素を送り込む。 ウェイターが包帯を求め走り回り、顔面蒼白の警備兵が自分の足にもつれて転んだ。 だが、誰も笑わなかった。


ジョナサンは椅子にもたれかかり、再び悲鳴を上げそうになるのを歯を食いしばって堪えていた。失われた手首を見つめ、ジェイズを睨み、そして少女リンを睨む。 その表情には憎悪、屈辱、恐怖が渦巻き、もはや貴族としての仮面を保てていなかった。 誰も彼を助けようとはしない。彼の取り巻きたちは、床で呻き声を上げているだけだ。


ジェイズはもう彼を見ていなかった。 彼はただ、腕の中の少女の呼吸が落ち着いているかを確認し、風から蝋燭を守るように、彼女を騒ぎの中心から遠ざけた。


アリスはその背中を目で追った。彼女の唇には、誰にも気づかれないほどの、小さく親密な笑みが浮かんでいた。ドラカリスも一瞬だけ、その厳しい表情を緩めた。


***


騒動から数分後。 広間にはまだ、激流のようなざわめきが残っていた。ジョナサンは顔面蒼白で震えながら、治癒魔法と応急処置を受けている。血の錆びた匂いが漂う中――


パパパパーンッ!!


突然の魔法のファンファーレが、全ての雑音を塗り潰した。 空気そのものが凍りついたかのように、広間が一瞬で静まり返る。貴族も、商人も、冒険者も、全員が一斉に入り口へと向き直った。


よく通る声が、朗々と響き渡る。


「至高の皇家、万歳! 南の帝国における絶対権力者、アレリス・ヴァルタリア皇女殿下の御成りッ!」


張り詰めていた空気が、ガラスのように砕け散った。 その場にいる全員が、例外なく最敬礼をする。空気さえもが平伏へいふくしているようだった。


煌びやかな鎧を纏った精鋭騎士団に囲まれ、アレリス・ヴァルタリアが現れた。その傍らには、誰もが直視することをはばかる腹心、ジョセフィーナ・グランドチェスターが付き従っている。


若き皇女は、神聖な舞踏のように正確な足取りで進む。 神々が織り上げたかのような金糸の刺繍が施された帝国のドレスは、光の川のように流麗だった。広間の視線はすべて彼女に釘付けになり、誰も目を逸らすことができなかった。


「……アレリス様」


秘密を打ち明けるような弱々しい声が漏れた。


「数日も会えていないのよ、ジョセフィーナ……彼に会いたいわ。この式典に来たのも、ただそれだけのためなのに」


ジョセフィーナは背筋を伸ばしたまま、眉をひそめた。


「まさか、あの平民のことではないでしょうね。確かに彼には借りはありますが……住む世界が違います。どうかご自覚を、アレリス様」


その瞬間、皇女の厳粛な仮面が崩れた。


「会いたいのーッ!!」


まるで駄々をこねる子供のように、アレリスが叫んだ(小声で)。


「子供のような振る舞いはおやめください!」


ジョセフィーナは表情一つ変えずに、鋭くたしなめた。


その時、一人の近衛騎士が最敬礼をしてジョセフィーナの前に跪いた。


「ジョセフィーナ様、至高の皇家の大口取引先より申し入れがございます」 「申せ」 「ジョナサン・ダークストーム殿が、皇女殿下への謁見えっけんを希望しております。実は彼もこの会場におりまして……」


ジョセフィーナは興味なさそうに顔を背けた。


「殿下は休息のために来られたのです。政治や商談の話は――」 「失礼ながら!」


騎士はさらに深く頭を下げた。


「彼は先ほど、この会場で負傷いたしました……片腕を失うほどの大怪我です」 「ほう?」


ジョセフィーナが片眉を上げた。ようやく興味が湧いたようだ。


「ジョナサン殿ほどの有力者に手を出すとは……どこの命知らずかしら?」


それまで黙っていたアレリスの声が、中央の席から響いた。


「ジョセフィーナ……今日は何の気分でもないのだけれど」


彼女の瞳は虚空を見つめながらも、深い輝きを宿していた。


「でも、わが皇家に連なる者に手を出すような不届き者に見せしめを与えるのも……悪くないかもしれないわね。少しは気晴らしになるかも」


ジョセフィーナは、微かに共犯者の笑みを浮かべた。


「承知いたしました! 直ちにジョナサン殿をお連れせよ! 事の次第を彼自身の口から聞こうではありませんか」 「ハッ!」


騎士が慌ただしく去っていく。 アレリスは憂鬱そうに頬杖をつき、誰にも聞こえない声で呟いた。


「この『瞳』……時々、いらなくなるわ」


***


一方、我らが英雄のチームに割り当てられたテーブルでは、嵐の前の静けさが漂っていた。


アリスがグラス片手に、ジェイズに身を寄せた。


「あんなことをしておいて、ずいぶん落ち着いているのね。怖くないの?」


少年はあっけらかんと肩をすくめる。


「別に。俺は正しいと思ったことをしただけだ。あんな獣みたいな奴に、あの女の子が殺されそうだったんだぞ? 黙って見てられるかよ。後悔なんてしてないさ……それで指名手配犯になるなら、上等だね!」


アリスは微かに微笑み、優しい眼差しを向けた。だがその空気は、聞き覚えのある声によって破られた。


「アリスさーん! アリスさーん!」


振り返ると、彼女の部隊の若手メンバーたちが駆け寄ってくるところだった。 いつも元気なレオが口火を切る。


「アリスさん、全員揃いましたよ! 一緒に行きましょう!」


だが彼が言い終わる前に、仲間のライラが脇腹に肘鉄を食らわせた。


「バカ……」


ライラは唇だけで囁く。


「アリスさんが『例の人』と一緒にいるのが見えないの? 邪魔するんじゃないわよ!」


レオは瞬きをして、ゴクリと喉を鳴らした。


「あ……なるほど」


ライラは引きつった笑顔でアリスに一礼した。


「アリス様、失礼しました。彼との会話を続けてください。私たちはあっちのテーブルにいますから。楽しんで!」 「え、あ……うん、わかったわ」


アリスは少し戸惑いながら答える。 レオがガッツポーズをした。


「アリスさん、ファイトです! いけますよ!」 「え?」 「行くわよ、バカ!」


ライラはレオの耳を引っ張り、文句を言う彼を引きずって去っていった。


「あだだだっ! 引っ張るなって、痛いぃぃ!」


笑いを噛み殺しながら、ジェイズがアリスに言った。


「部下たちに愛されてるんだな」 「……ええ、私もあの子たちが大好きよ。この数ヶ月、いろんなことを一緒に乗り越えてきたから……守らなきゃいけないの」 「俺は……約束したことは守る主義なんだ」


ジェイズは不意に、真剣な瞳で言った。 アリスがカッと赤くなる。


「え? いや……あれは忘れて。大会は中止になったし……優勝も何もないんだから……」


だが、二人の会話は重厚な足音によって遮られた。 近衛騎士たちがテーブルを取り囲む。


「そこの少年。同行を願おう。質問は無用、抵抗もするな。ただ従え」


アリスが弾かれたように立ち上がった。


「ジェイズ、貴方を連行しに来たのよ!」


少年は手で彼女を制した。


「落ち着いて……俺一人でいくよ。騎士様たち、このしがない人間に何のご用で?」 「理由は明かされていない。ただ、抵抗せずについて来いとのことだ」 「そうですか」


ジェイズは静かに立ち上がった。


「わかった、抵抗はしない」 「私が凄腕の弁護士を探すわ!」


唇を噛むアリスに、ジェイズは穏やかに微笑んだ。


「あんまり役に立たないと思うけど……大丈夫だって、なんとかなるさ!」


一方、別のテーブルでは。 重苦しい空気などお構いなしに、ドラカリスが肉を貪り続けていた。


「おい小娘。お主、怪しいのう。さっきまで死ぬほど腹が減ってるとか言っておったくせに、あるじの方ばかり見ておるではないか。惚れたのか? まだ早かろうに」


リンは真剣な表情で、連行されていくジェイズを見つめていた。


「恩人が……あの兵隊さんたちに連れて行かれちゃう!」


ドラカリスは肉を放り出して憤慨した。


「あん? どういう了見じゃ!? 主よ、ここで全員ペシャンコにしてやろうか!?」 「いや、落ち着けって。俺が自分で解決するから、大丈夫だって」


ジェイズは苦笑いで首を振る。


「全部私のせいだわ!」


リンは叫び、ジェイズの腰にしがみついた。


「恩人を連れて行かないでぇ!」


少女の悲痛な叫びが広間に響く。騎士たちも無表情を装っているが、多少の動揺は見え隠れしていた。


「恩人をいじめないで……この人はとってもいい人なの!」


ジェイズは屈み込み、彼女の頭を優しく撫でた。


「いい子にして待っててくれ。な?」


そして、彼は堂々とした足取りで連行されていった。 アリス、ドラカリス、そしてリンは、無力感の中でその背中を見送るしかなかった。


***


【貴賓室】


煙のように濃密な緊張感が漂っていた。 やつれた顔で包帯を巻いたジョナサンが、皇女の前で平伏している。


「……と、いうことが起きたのです、陛下」


玉座のアレリスは、底知れぬ瞳で彼を見下ろしていた。


「つまり、その少年は貴方から金を盗もうとしたコソ泥の少女を庇った、と言うのですね?」 「さ、左様でございます! 私はただ自分の財産を守ろうとしただけです。あの卑劣な泥棒猫……そしてあの人殺しが! 私の手を切り落としたのです! こんなことが許されていいはずがありません。正義の裁きを!」


アレリスは沈黙した。暖炉の火が爆ぜる音だけが響く。


シャンデリアが黄金の光を落とす貴賓室は、香の匂いと鉄の匂い、そして怨嗟えんさの気配で満ちていた。


騎士が進み出て、深く一礼した。


「ジョセフィーナ様、ジョナサン殿に危害を加えた少年を連行いたしました」


ジョセフィーナは静かに振り返った。だが、犯人の顔を見た瞬間、彼女の唇が驚きで開いた。


「まさか……貴方なの?」


連行されたジェイズは、悪びれもせずニカッと笑った。


「よう、久しぶり!」


ジョセフィーナは額に手を当てて溜息をついた。


「よりによって……貴方だなんて。これは皇女殿下にとって、感情的な大事故になるわね」


騎士たちが困惑して顔を見合わせる中、ジョセフィーナは表情を引き締めた。


「とにかく、殿下の御前に連れて行きます。処分は殿下がお決めになるでしょうが……最悪の事態だわ」 「へいへい! 皇女様に会えるなら光栄だよ」


ジェイズの足音が、貴賓室の大理石に響く。 両脇に並ぶ貴族や騎士たちが息を呑む中、彼は不敵なほど落ち着いて進み出た。


ジョナサンが、汗ばんだ顔で即座に彼を指差した。


「あの野郎だ! 私の手を切り落としたのはあのゴミクズだ! 最も重い罰を! 四肢切断の刑に処すべきだ! 我が家の名にかけて、地獄を見せてやる!」


貴族たちのざわめきが蜂の羽音のように広がる。「無礼な平民め」と嘲笑う者、眉をひそめる者。緊張は嵐のように膨れ上がった。


その時、クリスタルのような声が騒音を切り裂いた。


「静粛に!!」


アレリス・ヴァルタリアの一喝は雷鳴のようだった。 場が凍りつく。わずか十五歳の少女だが、その身から放たれる『至高』の覇気は、周囲の者の呼吸さえも支配した。


陰りのある表情で、皇女はゆっくりと玉座から立ち上がった。


「ジョセフィーナ、ジョナサン、そして被告人以外……全員ここから退出しなさい!」 「へ、陛下、しかし……」 「聞こえなかったのですか?」


アレリスが視線を向けるだけで十分だった。騎士は顔面蒼白になり、深々と頭を下げた。


「は、ハッ! 直ちに!」


扉が重々しい音を立てて閉まる。 残されたのは重苦しい沈黙と、暖炉の音だけ。


ジョナサンは傲慢に笑った。


「さあ……どうなるか知らんが、私に逆らったことを後悔させてやるぞ、平民」


ジェイズは動じない。挑発するかのような不敵な笑みを崩さない。


アレリスが階段を降りる。 ヒールの音が大理石を叩く。カツ、カツ、カツ。 彼女の呼吸が荒くなる。心臓の音が聞こえるようだ。 ジョナサンは勝利を確信し、胸を張った。


「そうです、陛下。奴に死の報いを!」


だが、あり得ないことが起きた。


途中まで歩いていたアレリスが、突然走り出したのだ。 ジョナサンは驚愕で口を開け、ジョセフィーナでさえ反応できずに固まった。 南の帝国の絶対権力者、至高の皇女が、何のためらいもなく――ジェイズの胸に飛び込んだのだ。


「あなたぁぁぁぁッ!!」


頬を涙で濡らしながら彼女は叫んだ。


「たった五日よ!? でも、すっごく会いたかったんだからぁぁッ!!」


時が止まった。


ジョナサンは目玉が飛び出しそうなほど見開き、顎が外れるほど口を開けていた。 それはまさに、某海賊漫画の雷神が見せた驚愕の顔芸そのものであった。


「いったい何がどうなってるんだぁぁぁぁぁッ!?」


(続く)


挿絵(By みてみん)

「ええええええ!?」 ジョナサンの叫びが聞こえてきそうなラストでしたね(笑)。 あのクールな皇女様が、ジェイズの前ではデレデレな乙女に大変身。 このギャップこそがアレリスの魅力です。 そして、あの驚愕の顔……皆さんの脳内でも再生されましたか?


【お願い】 「スカッとした!」「アレリス可愛い!」「続きが気になる!」と思っていただけたら、 下にある ☆☆☆☆☆(評価) や ブックマーク登録 をしていただけると嬉しいです! 次回の「ざまぁ」展開にご期待ください!

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