「炎の錬金術師と奈落の咆哮」
「星々が瞬く広大な宇宙――南銀河。
魔法と科学が交錯するこの世界で、運命の歯車が動き出す。
それは、無自覚に愛され、無自覚に世界を揺るがす、ひとりの少年の物語。
彼の名はジェイズ。
その『炎』は、全てを焼き尽くすのか、それとも……?」
ヤマトは、ホセフィーナを救うため、まさに土壇場でそこへ辿り着いていた。
「アキレス」
ヤマトは拳を握りしめ、その眼光を剣のように鋭く細める。
「下級ランクが悪魔の誘惑に負けるという話は聞いていたが……まさか、二重Sランクのお前までが操られるとはな。情けない。もう後戻りはできんぞ。ここで俺が止める」
「ジジイ……お前は何もわかっちゃいねぇ」
アキレスは低く唸りながらにじり寄り、血走った目で睨み返す。
「任務に従った結果、嫁と子どもに捨てられる気持ちがわかるか……? あげくに、誰からも感謝されねぇんだぞ。クソみてぇな話だろうがよ!」
ヤマトの表情には、一片たりとも容赦がなかった。
「お前は昔から怠け者だ、アキレス。仲間を踏み台にして、その地位まで登りつめただけ。家族が出ていったのも、お前の傲慢さに耐えられなかったからだ。いつだって楽な道ばかり探して……悪魔どもに付け入る隙を与えただけの話だ」
「ジジイ、さすがにそれは言いすぎだろうがよ……!」
アキレスは怒号とともに魔の力を噴き上げ、両腕をどす黒く変形させていく。
「ここでぶっ殺してやるよ、テメェも、ヴァレンティナのあのメスもな! そんで、姫の首を持って、上の連中に献上してやらぁ!」
「来い」
ヤマトは一歩前に出て、片腕を前に突き出すように構えた。
「好きなだけかかってこい」
ちょうど、その瞬間――
ドゴォォォォン――ッ!
大地を揺るがす、凄まじい爆音が世界を引き裂いた。空そのものが軋みを上げてひび割れたかのような衝撃。地面は激しく震動し、あちこちで瓦礫が弾け飛ぶ。
「な、何……今のは……?」
ヴァレンティナはよろめきながら、どうにか体勢を立て直そうとする。 遠く離れた崩壊した街並みの中から、炎をまとった影がゆっくりと姿を現した。
ラウルだ。黒い炎に全身を包まれ、完全に堕ちきったその男は、高笑いを響かせている。
一方その頃――ジェイズたちは、ホセフィーナの展開した巨大な光の障壁の内側に守られていた。
「今のは、本当に危なかったですね……」
侍女は額に汗を浮かべ、両手を高く掲げたまま呟く。
「あの男……どれだけ力を手に入れたんですか……」
「助かったわ。命の恩人ね」
ラファエラが礼を言いながら、素早くリタの傷を治療していく。
「ジェイズ、今の見た!?」
アレリスが目を輝かせて指をさす。
「今の、口からすごいビームが出たわよ!」
「見たさ……だけど、今の俺たちは怯える必要はない」
ジェイズは拳を握りしめ、決意を込めて言う。
「俺たちなら、あの瘴気だって“中和”できる! ――一緒なら、やれる」
「ハハハハハハハ!! 素晴らしい! 最高だ!」
空の彼方から、ラウルが狂気じみた笑い声を上げる。
「今の俺には……力が溢れてきやがる!」
離れた場所から、その姿をヤマトが静かに見つめていた。
「……あれが、英雄の血を持つと言われた少年か」
「よそ見してんじゃねぇぞ、ジジイ!」
アキレスが吠え、無数の黒い棘を弾丸のように撃ち放つ。 だが、その凶弾の嵐は――すべてヤマトの肉体に命中しながらも、音を立てて弾かれた。皮膚は傷一つ負っていない。
「な、なんだと……?」
アキレスは思わず後退る。
「あの皮膚の硬さは……何なんだよ、マジで。化け物が……!」
「卑怯者が」
ヤマトは低く言い放つ。
「敵が別の方を見た途端、背中から撃つ……お前は昔からそうだ。何一つ、変わっちゃいない」
再びアキレスが飛びかかろうとした、その刹那――
シャアアアアッ!
地面が裂けるような音とともに、無数の根が激しく飛び出した。暴れ狂う蔦は蛇の群れのようにアキレスの身体に巻きつき、全身を何カ所も貫いていく。怒号は悲鳴へと変わり、彼の身体はその場に縫いとめられた。
「こ、この根っこは……!」
ヴァレンティナは目を見開き、驚愕を隠せない。
「あのレベルで自然を操れる人は、一人しかいない……! アレクシア嬢……!」
戦場の少し離れた場所から、一人の女が堂々と馬――いや、重装甲の灰色の大熊へ跨がって現れた。 彼女の周囲では、複数の魔獣たちが、気絶したままの“憑依者”たちをその牙で運んでいる。
「このお祭り騒ぎに、私だけ参加しないなんて思った?」
アレクシアは嘲るように笑い、悠々と熊から降り立つ。
「ありえないわね。いつもいつも全力を出す許可なんてもらえないんだから……こういう時くらい、遠慮なく暴れさせてもらうわよ。こいつらは所詮、悪魔に踊らされたゴミだもの」
「状況はどうだ」
ヤマトは目を細めながら尋ねる。視線はなおも、古きライバルの動きを追い続けていた。
「ほとんど片づいたわ」
アレクシアは少しだけ警戒を解き、肩を竦める。
「ギルド長たちや他の冒険者たちも、どうにか対処方法を見つけたみたい。――少なくとも、今はね」
「奴らの狙いは至高姫よ」
ヴァレンティナが眉を寄せて割って入る。
「あの方が持つ“何か”を……悪魔どもは欲しがっている」
「すぐにでも、姫さまの元へ向かわねばならん」
ヤマトは歯を食いしばる。
「これ以上、好きにはさせん」
「簡単には行かせないさ」
アキレスが歪んだ笑みを浮かべる。身体は今なお根に貫かれたままだが、その肉体には濃い闇の力が渦巻いている。その眼差しには、憎悪と殺意だけが宿っていた。
───
同じ頃。 不安定な門を通じてギルドの世界と繋がった、並行位相の向こう側――
そこから戦場を見下ろしている、二つの禍々しい影があった。アクロンとネクロン。今回の混沌の黒幕たちである。
「保持できるエネルギーが、もう残り少ない……」
アクロンはポータルの際に身を寄せ、その顔を影で覆いながら唸る。
「この位相に留まれるのも、あとわずかだ……」
「チッ……」
ネクロンは苛立たしげに歯ぎしりした。
「ラウルが手間取っている。あの少年……炎の錬金術師……! ミアズマを打ち消し、浄化しているだと!? あり得ん……そんなことができるのは、本来なら――!」
「何者だ……あのガキは一体……」
アクロンは忌々しげに眉を歪める。
「ラウル! あの子どもを、ただちに殺せ!」
───
一方その頃――ラウルは完全に魔へと堕ちきった姿で、何度も何度もジェイズたちへ猛攻を仕掛けていた。
放たれる一撃ごとに大地が震え、爆炎と衝撃波が辺り一帯を吹き荒れる。 ホセフィーナは必死に魔力を注ぎ込み、巨大な防御障壁を維持し続けていた。
「この結界……そう長く持ちません……!」
彼女は息を荒げながら叫ぶ。
「攻撃のたびに、威力が増している……!」
ジェイズは逡巡する暇すら惜しんで、即座にバイクの方へ向き直った。
「姫さま、こっちへ!」
「奴の狙いは俺たちだ。だったら――俺たちがおびき出せばいい! こっちに引き離せば、他のみんなは巻き込まれずに済む!」
「きゃああ、サイコーじゃない!」
アレリスは目を輝かせ、その言葉を聞くや否や迷いなくバイクへ飛び乗る。
「モンスターに追いかけられながら、イケメンの背中にしがみついて逃げるなんて……これぞ人生って感じよね!」
「ここは遊園地じゃありません、姫さま!」
ホセフィーナは思わず怒鳴る。
「もう少し状況を――真剣に受け止めてください!」
そう吐き捨てた後で、彼女は大きく息を吐き、諦めたように目を伏せた。 そして、ふとジェイズの方を見やる。その瞳には、普段とは違う色が灯っていた。
「……姫さまを、お守りください」
それは、祈りにも似た低い声だった。
「あなたに託します……」
「違うさ」
ジェイズはエンジンをかけながら、頼もしい笑みを浮かべる。
「護るのは俺たちだけじゃない。姫さんと“一緒に”――ここにいる全員を護る。な? 姫さま」
「もっちろん!」
アレリスはこれ以上ないほどの笑顔で頷く。
「こんな胸が高鳴る状況、そうそうないもの!」
「……姫さまは、まだお子さまですね」
ホセフィーナは額に手を当てて小さく溜め息をつく。
「――いいです。奴をここから引き離してください!」
時間を惜しむように、ジェイズはアクセルを全開に捻った。
獣の咆哮のようなエンジン音とともに、バイクは光の障壁を抜け、夜の街道へ向かって飛び出す。アレリスはしがみつく腕に力を込め、嬉々として声を上げる。
「逃げるつもりか……?」
高空から戦場を見下ろしていたラウルが、ぎらぎらと赤く光る両目を細める。
「いいだろう。――遊んでやる」
魔の脚力を爆発させ、ラウルは地面を蹴った。その足音は雷鳴さながらに鳴り響き、その速度は高性能のバイクにも匹敵する。
「もう追ってきてるわ!」
アレリスは振り返りながら悲鳴に近い声を上げる。
「でも、すっごく速いわよ、愛しの人!」
「今、何て言った?」
ジェイズは一瞬だけ素で聞き返した。
「なぁ~んでも♪」
姫は舌を出してごまかす。
「とにかく、もっとスピード上げないと追いつかれちゃうわよ!」
「大丈夫だ」
ジェイズは前方から目を逸らさない。
「目的は、あくまで街から引き離すことだ。少しでも被害を減らす……しっかり掴まってろ!」
バイクは中央ギルドの外縁部へとコースを取り、そのまま偶然にも、まだ激戦が続いているアキレスの戦場を横切った。
「今の……ジェイズと、至高姫……?」
凄まじい速度で駆け抜けていく二人を横目に、ヴァレンティナは思わず呟く。
「見間違い……よね?」
「いいや、見間違いじゃねぇよ」
アキレスは、なおもアレクシアの根に拘束されたまま低く唸る。
「ということは――そろそろ、遊びも終わりってことだ」
次の瞬間、アキレスの全身から爆発的な暗黒の力が噴き出した。
堕ちた悪魔の肉体が黒い霧となって膨張し、アレクシアの根を内側から破壊していく。圧倒的な爆散とともに拘束は吹き飛び、アキレスの身体は黒い流星のように空へ打ち上がった。目指すのは、ジェイズと姫の進行方向。
「拘束を……破った!?」
アレクシアは一歩後ずさる。
「逃がすな!」
ヤマトが即座に反応し、追撃に移ろうとする。 しかし――その背後に、巨大な影が音もなく降り立った。
「ジジイ……」
歪みきった声が、耳元にまとわりつく。
「どけよ。今、俺は“獲物”を追ってるんだ。邪魔すんな」
ヤマトは反射的に振り向く――そして目を見開いた。
そこに立っていたのは、完全に魔へと変じたラウル。常軌を逸した体格と、灼け狂う暗黒の炎をまとった異形の怪物。
「こいつは……」
防御の構えを取るより早く、ラウルの拳がヤマトの首元を叩きつけた。
骨が砕ける音が、雷鳴にも似た轟音となって響きわたる。
「ば、馬鹿な……!」
ヴァレンティナは絶望を滲ませて叫ぶ。
「あのジジイの筋肉は、ダイヤモンド並みに硬いはず……!」
ヤマトの体は大地に叩きつけられ、そのまま動かなくなった。 圧倒的な力の前に、伝説の男は一瞬で沈められてしまったのだ。
「これ以上、好きにはさせないわよ!」
アレクシアは悲鳴まじりに叫び、大地から再び根を呼び起こす。 だが、ラウルはちらりと目を向けただけだった。
「虫ケラにかまってる時間はねぇ」
振るわれた腕から吹き荒れた暗黒の衝撃波が、根を紙のように引き裂く。続けざまに放たれた闇の光線が、アレクシアの愛馬――装甲熊ムクロの胴体を貫いた。
「ムクロ……! こらえて……! お願い……!」
アレクシアは膝から崩れ落ち、血に染まる毛並みへと手を伸ばした。 ヴァレンティナは胸の締めつけられる思いで一歩前に出る。震える手で剣を構え、彼女と仲間たちを守るように立ちはだかった。
「……」
「止めようってのか」
ラウルは横目で彼女を一瞥し、無感情に呟く。
「なら、迷わず殺す」
ヴァレンティナの喉が引きつる。恐怖で脚がすくみ、声が出ない。 彼女はただ、暗黒の鬼が自分を無視し、そのまま炎を撒き散らしながら遠ざかっていく背中を見送るしかできなかった。
───
同じ頃、ジェイズとアレリスはギルド外周の道を全力で駆け抜けていた。
「また別の悪魔が追ってきてるみたいね」
アレリスは肩越しに後方を覗き込みながら言う。
「でも、さっきのやつよりは……ちょっとだけ弱そう?」
「そろそろ限界だな、姫さま」
ジェイズはインジケーターを一瞥し、バイクを減速させる。
「この機体、エネルギー残量がほとんどない」
「じゃあ、ここまでね」
アレリスは自然な動きでジェイズの背中に腕を回し、楽しそうに微笑む。
「――ここで戦いましょう」
「どうして、そこまで俺を信じられるんだ?」
ジェイズは思わず問い返す。
「別に、あなたを信じてるわけじゃないわ」
アレリスは首を傾げて笑う。
「私の“眼”を信じてるだけ」
「変わった姫さまだな」
ジェイズは苦笑する。
「よく言われるわ」
彼女はくすくすと笑い、その腕にさらに力を込めた。
「でも、それでいいの」
ちょうどその時――前方の道の上に、一つの影がゼェゼェと息を荒げながら現れた。
「ふぅ……ふぅ……」
アキレスは肩で息をしながら、ニヤリと口角を上げる。
「いいな、その乗り物。……俺も一台ほしくなってきたぜ。あれだけのスピードを出せるなんてよ」
その目が、ゆっくりと暗く、卑しさを宿した光へと変わっていく。
「だが――ここで終わりだ、ガキども」
アキレスはねっとりと笑いながら続けた。
「坊主、お前はここで殺す。それから、そっちのお嬢ちゃんも……。いや、その前に、ちょっとだけ“遊ばせて”もらうか」
視線は露骨に、アレリスの体を舐めるように上下する。
「……最低だな」
ジェイズは一歩前に出て、拳を握りしめた。
「心底軽蔑する」
「今の俺は悪魔だからなぁ」
アキレスは肩をすくめる。
「悪魔ってのは、こういうことをする連中なんだろ? それに――俺は昔から、ふんぞり返ってる“特権階級”ってやつらが大嫌いでね。……その中でも、あの姫は頂点中の頂点だ。俺がどれだけ憎んでるか、想像もつかねぇだろ?」
「結局、お前はただの“拗らせた負け犬”だ」
ジェイズは冷ややかな目を向ける。
「自分では何もしないくせに、欲しいものだけは全部ほしがる。……何も変わってないな」
「説教までしてくれるのかよ、坊主」
アキレスは鼻で笑い――次の瞬間、両腕から黒い棘の群れを一斉にぶっ放した。 だがジェイズは即座に応じた。
全身を包むように炎の錬金術を起動させ、その身を紅蓮の焔で覆う。
フウウウウッ!
迫りくる棘は炎の渦に触れた瞬間、次々と浄化され、煌めく粒子へと変わって消え去っていく。
「ほぉ……こりゃ驚いた」
アキレスは思わず一歩退く。
「ミアズマを浄化しやがった。――そうか。だから悪魔どもは、真っ先にお前を殺せって命令したわけか」
「姫さま」
ジェイズは双剣――炎を宿した“太陽”と“月”を呼び出しながら言う。
「後ろへ。こいつはラウルほどじゃない。……俺がミアズマを打ち消せるってことは――勝機はある!」
「なるほどねぇ」
アキレスは嗤う。
「Eランクの坊主が、二重Sの俺を止めるってわけか。……ハハッ、現実認識がズレてるにも程があるぜ」
「もしお前が悪魔なんかに魂を売らず、そのまま英雄で居続けていたら――」
ジェイズはまっすぐ敵を見据える。
「俺なんかじゃ、一生勝てなかっただろうさ。でも、お前は自分から“ミアズマ”を選んだ。だから今の俺とは、相性最悪ってわけだ。……つまり――俺たちはお前の“天敵”だ。舐めるなよ、バカ悪魔」
その言葉が、アキレスの怒りに火をつけた。
「ガキがぁぁぁ――ッ!! 誰に向かって口を利いてると思ってんだ!!」
咆哮とともに、アキレスは獣のように飛びかかった。血のように赤い瞳は、憎悪でぎらついている。
だがジェイズは、冷静にその突進をいなした。素早く身を滑らせると同時に、“太陽”の刃へ炎の錬金術を集中させ、一閃。
ザシュッ――!
黒煙を撒き散らしながら、アキレスの右腕が宙を舞った。
「バ、バカな……!」
アキレスはふらつきながら後退る。
「俺の腕が……斬られただと!? くそ……再生しねぇ……! なぜだ、なぜだぁッ!!」
切断面から立ち昇るのは血ではない。濃いミアズマが、炎に焼かれるように霧散していく。 本来ならば瞬時に再生されるはずの魔の肉体が、まったく元に戻ろうとしない。
「上出来だな」
ジェイズは剣を構え直し、真っ直ぐに前を見据える。
「――これなら、勝てる。……姫さま、準備はいいか? もう一度行く!」
「いつでもいいわよ、ダーリン!」
アレリスは満面の笑みで応じる。 アキレスは、そんな彼女の姿をじっと睨んだ。
その表情には焦りと、不穏な警戒心が浮かぶ。 (あのガキ……何か“加護”みたいなものを使ってやがるのか……?) (まずは、あの少年から片づける必要がある……)
そう考え、一気に間合いを詰めようとした――まさにその時。 背後から、死の影が音もなく覆いかぶさった。
「……何をしてる」
耳元を這うような、低く歪んだ声。
「俺の“獲物”を、横取りしようってのか?」
全身の血が、瞬時に冷えた。アキレスはゆっくりと首を動かす。
「な、なんだよ……お前……」
言葉を最後まで紡ぐ暇もない。 ラウルは、完全に魔と化した怪物の姿で――
アキレスの背後から両腕を回し、易々と持ち上げた。まるで玩具を掴むかのように。 そのまま――熱々のピザでも貪るような勢いで、彼の身体へと噛みついた。
「じ、自分の仲間を……食べてる……!?」
アレリスは口元を押さえ、目を見開いて叫ぶ。 ジェイズは無言だった。ただ、重い表情でその光景を見つめている。
「クソ……こいつ、頭がおかしい……! ぐ、うわあああああっ!!」
アキレスは必死に暴れる。だが、凶悪な顎が肉と骨を容赦なく食い破っていく。
ラウルは獣そのものだった。一口、また一口と、残酷な咀嚼音を響かせながらアキレスを貪り食う。噛み砕かれた肉片が飲み込まれるたび、彼の身体には新たな黒い紋様が刻まれ、その炎はさらに黒く、激しく燃え上がっていく。
やがて――最後の一片まで飲み込んだラウルは、ゆっくりと舌なめずりをした。
「フフ……ハハハハハ……」
彼は口元を拭い、満足げに笑う。
「二重Sの力……悪くない。実に愉快だ……身体の奥から、沸き上がってくる……!」
そして、ゆっくりと――ジェイズとアレリスへと赤い視線を向ける。
「さて……どこまで話したんだったか?」
「姫さま、下がってください!」
ジェイズは即座に前へ出る。
「さっきよりさらに強くなってる……!」
「えええぇぇ!? さ、さすがにまだ勝てるって言ってよね!?」
アレリスは涙目で叫ぶ。
「わからない……」
ジェイズは眉をひそめ、鼻から深く息を吸う。
「さっきまでのミアズマと違う。……血の匂いがする」
「クソガキが……」
ラウルはゆっくりと歩み寄りながら言う。
「お前には、思いつく限りの地獄を味わわせてやる……。まずは手足を一本ずつもぎ取ってから――最後に、その頭を踏み潰してやる」
「何があったかは知らない」
ジェイズは真っ直ぐにラウルを見上げる。
「でも、お前は“英雄”だったはずだ。なのに、どうして悪魔なんかと手を組んだんだ」
「全部……全部お前のせいだろうが、クソ虫がぁぁッ!!」
ラウルは狂気じみた目で怒鳴る。
「お前が……お前が、一番大事なものを奪ったんだ……! 俺の女たちを――お前が俺から奪った!! それだけは絶対に許さねぇ!!」
「はぁ?」
ジェイズは本気でわけがわからないといった顔をする。
「何言ってんだアンタ。俺は誰も奪ってねぇよ!」
「死体と話しても意味がねぇなぁ!」
ラウルは唾を飛ばしながら叫んだ。
「その口、すぐに閉じさせてやる!!」
――続く。
「奈落の咆哮は静まり、戦場には静寂が戻った。
だが、これは終わりではない。
英雄の堕落、悪魔の嘲笑、そして神々の視線――。
炎の錬金術師が背負う運命は、まだその序章にすぎないのだから。
次なる舞台へ。物語は続いていく。」




