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アリス対ラウル、再戦!

聖女アリスと堕ちた英雄ラウル――運命の再戦が始まる。

「――ああ、たしかにだ、美しいお嬢さん」ラウルは口元をゆがめ、ねじれた笑みで応じた。

「君は期待を裏切らない。盲目でありながら、ここまで明晰に見通すとは……実に感心だ」


 


アリスは剣を掲げ、緊張を宿した表情で言う。

「これは――私たちの決着、というわけね?」

「でも、あなたの中に“何か”がある。私の祝福の効果から回復するのが不自然なほど早い……内側で黒いものが渦巻いている。――何をしたの?」


 


ラウルは嘲るように、ほとんど狂気じみた笑いを漏らした。

「ハハハハ! やはり素晴らしい女だ。いつだって的確だ。そうさ、清算しに来た。だからこそ、君をここに誘い出した。君と僕には未決の因縁がある――それを、今夜終わらせる」


 


「戦うというのなら、私はいつでも構わない」アリスは一歩も退かずに告げる。

「でも、彼らを解放して。関係のない子たちよ」


 


「いや――」ラウルは歪んだ口元で首を振った。

「彼らはごちそうだ。君を壊したあと、一人ずつ味わうさ。だが、すぐには殺さない……いいや、まずは脚を折って、生かしたまま、彼らが喰われていく悲鳴をたっぷり聞かせてあげよう」


 


「……もう、人間じゃない」アリスは静かに囁く。聖なる光を帯びた刃がきらめいた。

「感じるわ。あなたの内にある、背徳的で不自然なものを」


 


ラウルの身体が、目の前で歪みはじめる。

骨がゴキリ、ゴキリと不快な音を立て、皮膚は灰色に痩せ、突っ張っていく。

肌をまとうように黒い瘴気が絡みつき、まるで世界のマナそのものが彼を拒絶しているかのようだった。


 


「グルルル……!」歯の隙間から低い唸りが漏れ、顔は地獄の仮面へと変貌する。

「味わわせてやる、あの屈辱の報いを、聖女め! 覚悟しろ!」


 


空気が重く淀む。

周囲の草木はしおれ、澱んだ闇の衝撃波が林間の空き地に炸裂した。


 


戦いが始まる。


 


森は濃い霧に包まれていた。

枝々が風にきしみ、湿った土の匂いに、薄い瘴気の名残が混じる。

その暗く歪んだ景色のただ中で、アリスは構えを崩さず、相手との間合いを測っていた。


 


(――彼らから引き離さないと)

アリスは柄に力をこめ、握り直す。


 


ラウルが魔槍を構え、矢のように投げ放った。

アリスは紙一重で剣を合わせ、火花を散らして受け止める――ズシン、と衝撃が全身を走り、数歩ぶん押し戻された。


 


「……ッ、なんて力……! 短期間で、彼に何が……」


 


息を継ぐ暇もなく、ラウルが狂気じみた速度で目前に現れる。

引きつった笑いを口いっぱいに広げ、瞳には病的な光。


 


「ここだ、聖なる剣士。君の力など、この“英雄”たる僕の前では塵だ。ハハハハ!」


 


「――そんな……!」アリスは思わず目を見張る。


 


ラウルの拳がうなりを上げ、アリスの顔面めがけて叩き込まれた。

ドゴォッ! と爆ぜる音。

アリスの身体は数メートル吹き飛び、背後の大木に激突して粉砕する。


 


「――っあああああ!」

地面に転がり、口の端から血が散った。


 


「……無茶はできない。次は絶対に食らえない。鎧がない今の私は脆い……ッ。――怪物……!」

歯噛みしながら、よろめき立ち上がる。


 


ラウルは口を大きく開け、狂った道化のように笑いながら突進してくる。

「ハハハハハ! どうした? その誇りはどこへ行った? さっきまで見下ろしていた女はどこだ? 細胞の一つ残らず踏み潰してやる、雌犬め!」


 


アリスは剣を強く握り、すっと掲げた。

「――『トゥテラ・カエリ』!」


 


彼女の前に、聖なる護りの盾が展開する。

直後の体当たりを、ぎりぎりで受け止めることに成功した。


 


「へえ……悪くない手札だ、女」ラウルが低く唸る。

「だが無駄だ。君の持ち札なんて、全部、僕が叩き割る」


 


アリスは守りの隙を見逃さない。

身をひるがえし、展開した盾を自ら貫くように剣を突き出す――聖光が槍のように延び、ラウルの胸板を穿った。


 


「グ、ウアアアアッ! クソッ……痛ェな!」

ラウルがたたらを踏む。


 


「今――!」アリスは荒い息を整え、視線を鋭くする。

「“メデューサの祝福”を使う」


 


「ようやく分かったわ。どうして私の祝福の影響を振りほどけたのか」

「――あなた、自分の魂を“何か”に差し出したのね。胸から漏れているこの瘴気が証拠。あなたは今、何者かに“憑かれている”」


 


「クク……バレたか」ラウルは嗤う。

穿たれた傷口から、黒い煙がふつふつと湧き、みるみる塞がっていく。

「そうさ。僕は“機会”を得た。僕を見下したすべてに復讐する機会を! この僕を――英雄たる僕を!」


 


「哀れね。安っぽい“英雄”だこと」

アリスは静かに一歩踏み込み、剣先をわずかに下げた。

「でも、安心して。あなたを“石”に変えてから、聖剣で魂を浄めてあげる」


 


(――みんなからは十分に離れた……。“スンマ・ペトリフィカティオ”を使えば即時に決められる)

(たとえその後、マナをすべて使い果たして倒れてしまっても――みんなを救えるのなら、悔いはない)


 


アリスの前で、怪物と化したラウルの肉体はすでに完全に再生していた。


 


「どうした、早く来いよ」狂気を孕んだ声でラウルが嘲る。

「もう手札は尽きたか?」


 


アリスは深く息を吸い――ゆっくりと、両眼を覆っていた包帯を外した。


 


「ラウル……“メデューサの祝福”を、ほとんど純然たる形で用いるのは数えるほど。まさか堕ちた英雄に向ける日が来るなんて思わなかった……でも、運命がそう告げている。――覚悟しなさい」


 


ラウルはなおも狂人めいた笑いを噴き上げ、さらに醜く体躯を歪める。

「来いよ、準備はできてる! お前の全部を叩き潰してやる! 教会の“聖剣”が僕より上だとでも? 笑わせるな!」


 


アリスは答えない。


 


風が止んだ。

鳥のさえずりも消える。

森全体が、彼女から放たれ始めた圧に沈黙でひれ伏した。

包帯の下に隠されていた瞳が、濃い金色に灼く。

神性のマナが奔流となってアリスの身体を包み、光の颶風が巻き上がる。


 


ラウルは本能的に一歩退いた。

「こ、こいつ……称号にふさわしい……! マナの流れが桁違いだ!」


 


アリスの背後に“それ”がそびえ立つ。

メデューサ――荘厳にして畏ろしい幻影。

その周囲では蛇が舞い、圧の波だけで枝が折れ、地が微かに震えた。


 


そして、アリスは厳かに、力ある声で宣した。


 


「――『スンマ・ペトリフィカティオ』」


 


世界が止まった。


 


時間が凍り付く。

絶対の静寂がすべてを支配した。

ラウルでさえ、筋肉が金縛りに遭ったかのように動かない。


 


「くっ……この圧……! ほとんど動けない……!」ラウルが歯を食いしばってうなる。


 


“メデューサの祝福”の極致。

半径二十メートルのすべてが石化の運命に呑まれる。

木々も、虫も、近くを飛ぶ鳥さえ――誰一人、何一つ、逃れられない。


 


(……この一帯の森には、悪いけれど)

(今は――選べない)


 


石化が進むたび、ラウルは断末魔を上げた。

「グッ……アアアアアッ! この力……! また石に――くそ、くそォ……!」


 


やがて、怪物の英雄は完全に動きを止め、岩の牢へと封じられた。


 


アリスは荒い息を吐き、石と化した森の中に立ち尽くす。

「はぁ……はぁ……終わった……」

「みんなを……助けに行かないと……でも、もうマナが……」


 


膝が震え、視界がかすむ。――その時。


 


闇の奥で、不穏な音が響いた。

ドクン……ドクン……ドクン……。


 


心臓の音。

黒く、醜悪な――なお脈打つ心臓が、石化したラウルの胸の内で蠢いている。


 


「ば、馬鹿な……! まだ心臓が動いてる……!」


 


石像にひびが走る。

紫色の瘴気が、亀裂からどろりと漏れ出した。


 


「どうして……今ので仕留め切ったはず――!」


 


石の内側から、声が木霊する。

「ウゥゥゥ……! ハハハ! いい……実にいいぞ、この力! お前の祝福は僕を傷つけられない! ハハハハハ!」


 


アリスは思わず一歩退いた。

「嘘……まだ生きてる……!」


 


石化は、殻のように粉砕された。

そこから現れたのは、もはや人ではないもの。

顔は原形を失い、眼は血に染まり、皮膚は黒い鱗で覆われた、完全なる異形。


 


「ハハハハハ! 見ろ! お前の祝福を木っ端微塵だ! 絶望に沈む顔を見せろよ、聖女ぁ!」


 


アリスは膝をつき、力なく崩れ落ちる。

「みんなを……守らないと……」


 


「いいや、ダメだ」ラウルが咆哮した。

「今からお前は苦しむ! 死を願うほどにな!」


 


――だが、その刹那。

怪物の頭蓋の内側で、鐘が鳴った。


 


「グ、グワアアアッ! な、何だこれは――!?」


 


冷たい声が、彼の脳内に直接、響いた。

「――時だ。すべて整った。ギルドに戻れ。今夜、“至高姫”が有する『運命の眼』を奪う」


 


「そんな目なんてどうでもいい! 俺が欲しいのは復讐だ! あの女を、裏切り者どもを……それから、あの出しゃばりのガキも――皆殺しにしてやる!」


 


「理由など興味はない。いまのおまえは、我らの“破壊の道具”だ――英雄よ」


 


「やめろォォ! 俺の頭から出ていけぇぇぇ!!」


 


ラウルの背後に、暗黒の門が裂けるように開いた。

獣の叫びを残し、彼の身体はその闇に呑み込まれていく。


 


そして、再び――森は静寂を取り戻した。


 


アリスはひとり、力尽きて地面に崩れ落ちた。

「い……行った……。みんなのところへ……行かないと……」


 


そのまま、意識は闇へと沈んだ。


 


* * *


 


月はすでに高く、ジェイズたちが部屋へ戻る頃、廊下の魔導灯はやわらかく瞬き、ひんやりとした夜気がギルドの建物を包んでいた。


 


「今日はみんなと過ごせて本当に楽しかったです。次はどこへ行きましょうか?」

リアが甘い微笑みを浮かべる。


 


「海にも寄ってみたかったな」ジェイズはどこかいたずらっぽく言った。

「この星のビーチはすごく綺麗だって聞いたし」


 


シャルロットが疑わしげに目を細める。

「ふーん? 要するに、私たちのセクシーな水着姿が見たいだけなんじゃないの?」


 


「ち、違うって! そ、そういうつもりじゃ……!」

ジェイズはあわてふためく。


 


「もう、からかっただけよ」シャルロットは片目をつむってみせた。

「むしろ私なら、ちょっと大胆なのを見せてあげてもいいけど?」


 


「はしたないことを言わないで」ラファエラが小さく咳払いし、頬を染める。

「自分を大切にしなさい」


 


「何言ってるの?」シャルロットはいたずらっぽく肩をすくめた。

「ここにいる面々、もう彼と“そういう関係”になってるでしょ。今さら取り繕う必要ある?」


 


「わ、わたしは……!」リタは両手で顔を覆い、しどろもどろになる。

「あ、あれは事故みたいなもので……狙ってたわけじゃ……」


 


「はいはい」シャルロットはからかう調子を崩さない。

「その後、彼を全然休ませなかったの、ちゃんと気づいてたからね?」


 


「シャルロット!」リタは恥ずかしさに耐えきれず、つい笑ってしまう。

頬は真っ赤だ。


 


「それで、リアは? 前から彼を知ってるんでしょ……ついに初めてを捧げたわけね?」


 


リアは小さく身を縮め、はにかんだ。

「は、はい……でも、思っていたのと少し違って。彼、ちょっとだけ乱暴で……その、頭がおかしくなるかと思いました……。もっと、ろ、ロマンチックなのを想像していて……」


 


「じゃあ“清らかなエルフ”のお嬢さまは?」シャルロットは猫のように笑う。

「あなたも結局は楽し――彼の持久力は人間離れだし、その……サイズも――」


 


「そこまで! 黙りなさい、馬鹿!」

ラファエラは耳まで真っ赤にして叫んだ。

「そういう下品な話はやめなさい!」


 


「きゃはははは!」

みんなは一斉に笑い出した。


 


対してジェイズは――完全に諦め顔だ。

「ねえ、聞こえてるからね? 僕、ここにいるからね? ――あの、みんな? 僕にも感情ってものが……いや、恥じらいも……ちょ、ちょっと、聞いてる!?」


 


そのとき、唐突に乾いた音が響いた。

ドサッ。

何か重いものが、彼らの目の前に倒れ込んだのだ。


 


「な、何の音……?」リタが一歩退く。


 


「下がって!」ジェイズは双剣を展開し、前に出る。

「俺が確認する」


 


廊下の薄闇の向こうから、女の影がよろめき出てきた。

ひどい傷を負い、腕には血に染まった外套に包まれた誰かを抱えている。

足を一歩進めるごとに、大理石の床へ赤い滴が連なった。


 


「見つけ……た……」

かすれた声が漏れる。

「彼女が、あなたのもとへ……連れていけって……。あなたなら、守れるって……」


 


ジェイズは目を細め、その声色を探る。

聞き覚えがある――。


 


「君は……“至高姫殿下”の護衛だな!」


 


「何ですって?」ラファエラも顔を上げ、女の素顔を認めて目を見開く。

「ヨセフィナ……?」


 


「お、お願い……」女は残る力を振り絞って言った。

「守って……あげて……。ホテルにいた者は……全員……死んだ……」


 


「まさか、腕に抱えているのは――」

シャルロットが口元に手を当て、青ざめる。


 


誰もが息を呑んだ。

そして次の瞬間、一斉に叫ぶ。


 


「――至高姫殿下!!」


 


――つづく。

光が消え、闇が動き出す。

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――つづく。

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