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炎の錬金術師とメドゥーサの加護

新人小隊の祭典が開幕。至高皇女アレリスが見守る中、対戦相手はA・コーション『暁光ルス』。隊長アリスは最稀少の**神話系メドゥーサ**の加護を持つ。逡巡するヴァレンティナの前で、ジェイズは一歩進み出る――「俺がやります」。

――中央ギルドの奥にある個室のオフィス。

ギルド長ヴァレンティナは、**教会の聖剣士アリス**に関する資料を黙々と確認していた。

挿絵(By みてみん)

その険しい表情からは、強い集中力が伝わってくる。だが、その女剣士にはどうしても引っかかる何かがあった。

そのとき、机の上に置かれた通信機が点滅した。

地球からの着信だ。

「ヴァレンティナです」

視線を書類から離さず、彼女は応答した。

「わ、私です、長! マリアです!」

弾むような声がスピーカーから響く。

「例のAランク冒険者について、徹底的に調べてきました!」

ヴァレンティナは姿勢を正し、興味を示した。

「よくやった。――それで、何がわかった?」

「えっと……正直、長は気に入らないと思います」

ヴァレンティナは苛立ちを隠さず、眼鏡をクイッと押し上げる。

「前置きはいい。早く言え」

「その女の能力は――」

一瞬の沈黙。

ヴァレンティナの目が大きく見開かれた。

次の瞬間、彼女の顔に緊張が走り、一筋の冷や汗が頬を伝った。

挿絵(By みてみん)

「……これはまずい。非常にまずいわ」

低く呟きながら問いかける。

「確証はあるの?」

「はい……完全に」

ヴァレンティナは口元に手を当て、表情を強張らせた。

「それが本当なら――あの女には、誰も勝てない……!」


災厄前の二日酔い

翌朝。

中央ギルド近くのホテルの一室は、まるでカテゴリー5の台風に襲われたかのような惨状を見せていた。

床に散乱した酒瓶。

無残に外れたカーテン。

そして、戦場のように散らばった衣服。

ベッド横で目覚ましが無慈悲に鳴り響く。

――ピピピピ!

「もう朝だぞー!」とでも言うように。

「う、うああああ……!」

ジェイズは頭を抱えながらよろよろと起き上がった。

乱れた髪、充血した目。

「ぐっ……頭が割れそうだ。昨日……何があった? 全然覚えてない……」

だが、腕時計を見た瞬間、彼の表情は一変した。

「や、やばい! もう行かないと!」

慌てて立ち上がろうとしたその足が、何かに引っかかる。

……いや、誰かに。

「な、なんだこれ……?」

そこには裸のまま、意識を失った女性の姿が横たわっていた。

「り、リタ……!? まさか、俺……こいつと一晩中……!?」

ジェイズは頭を抱え込み、顔を真っ赤にした。

「や、やばい! 起こさなきゃ! もうすぐ開会式が始まるんだ!」

――ビビッ。

テーブルの上で通信端末が震える。

「ひっ、ギルド長!? は、はいっ! ジェイズです!」

慌てて応答する。

「もう向かってます! ……え? リィアがまだ戻ってない? そんなはずは……彼女はいつも時間に正確なのに……」

慌ただしく服を着ようとするが、その拍子にまた何かに足を取られた。

「うわっ! ま、またかよ……!」

ベッドのシーツの中、もう一人の影が横たわっていた。

「……まさか……」

恐る恐る布団をめくる。

「り、リィアぁぁぁぁ!?」

絶叫が部屋に響き渡る。

「ば、ばかっ! このっ……!」

彼女の顔は真っ赤に染まり、怒りと羞恥に震えていた。

挿絵(By みてみん)


ギルドでの緊張

中央ギルドのロビー。

ヴァレンティナは腕を組み、苛立ちながら冒険者たちを待っていた。

「まったく……肝心な時に限って遅れてくるなんて! 伝えたいことがあるのに!」

「長、時間通りに来たのは私だけです」

エルフのラファエラが丁寧に答える。

「でもご安心を。ラウルとシャルロットもすぐに到着するはずです」

ヴァレンティナは深いため息をついた。

「冒険者というのは時間の感覚が本当にない……。でも、リィア、私の可愛いリィアは……」

その時、柔らかな声が割り込んだ。

「長、お待たせしました。遅れてすみません」

ヴァレンティナは駆け寄り、リィアを強く抱きしめた。

「私の子! 本当に大丈夫? 全然返事がなかったじゃない! 一体どうしたの?」

「えっと……ベッドが気持ちよすぎて……」

リィアは苦笑いしながら、額に冷や汗を浮かべた。

ヴァレンティナの視線がジェイズとリタへ移る。

「で、あなたたちは? どうして遅れたの?」

「えーと……まあ、この宿のベッドが素晴らしかったっていうか……」

ジェイズは目を逸らしながら答えた。

リタは黙ってうなずく。

「……リタ、どうして頷いてるの?」

「えっ!? あっ、な、何でもありません……」

「とにかく、あとはラウルとシャルロットだけね……。でも通信機に出ないなんて、どういうこと?」

その時だった。

「お待たせしました、長」

ラウルが堂々と入ってきた。

「ご心配なく、すぐにでも始められます」

彼の後ろには、首にマフラーを巻いたシャルロットの姿があった。

「すみません……」と小声で呟く。

ラウルの視線が、まっすぐラファエラへ注がれる。

「長」

ラファエラが一歩前に出て言った。

「始まる前に、少しお手洗いに行ってもいいでしょうか?」

「……仕方ないわね」

ヴァレンティナは肩を落とした。

「ありがとう。シャルロット、ついてきて」

「は、はい……」


トイレでの告白

二人きりになったトイレ。

ラファエラは真剣な表情で仲間を見つめた。

「……あの男、いい加減にしろってのよ。傷を見せて」

シャルロットは恥ずかしそうにうなずいた。

服を少し持ち上げると、ラファエラは目を見開いたまま動けなくなった。

「……嘘でしょう。身体中、痣だらけじゃない!」

「ごめんなさい……でも、どうしても彼から離れられないの」

シャルロットは涙をこぼしながら震えた。

「最初から分かってた。あんな“勇者”はクズだって!」

ラファエラの瞳に怒りが宿る。

「あなたがこんな目に遭う必要なんてない!」

彼女はシャルロットの前に立ち、両手を差し出した。

「回復魔法をかけるわ。急がないと戻れないから」

「ありがとう……ラファエラ……」

涙を拭いながら、シャルロットはかすかに微笑んだ。

挿絵(By みてみん)


開会式の前

開会式を目前に、ジェイズたちは控え室で集まっていた。

一方ヴァレンティナは、対戦相手の隊長について話そうとしていた。

「昨日、相手についての情報を確認した」

ヴァレンティナは真剣な口調で切り出す。

「数字の上では圧倒的だったが、それでも勝てる望みはあると思っていた。だが昨夜、マリアから極秘の連絡が入った。**教会の聖剣士アリス**に隠された力についてよ」

一同は固唾を呑み、その言葉を待った。

「長がそこまで険しい顔をするなんて……よほどのことなんですね」

ラウルが珍しく心配そうに言う。

「当然よ。なぜなら――」

その瞬間、会場全体に華やかなファンファーレが鳴り響いた。

花火が打ち上がり、無数のドローンと浮遊スクリーンが夜空を彩る。

開会を告げる壮大な演出だ。

メインステージの中央に現れたのは、二人の獣人の少女。

一人は愛らしい雰囲気を纏うウサギ娘。

もう一人は鋭い眼差しを持つオオカミ娘。

二人はこの大会の公式MC兼ナレーターだった。

「みなさん、こんにちはー!」

ウサギ娘が元気いっぱいに挨拶する。

「わぁー! すごい! 会場いっぱいに人が詰まってます!」

「ほんとね。十万人以上はいるんじゃない? 信じられない!」

挿絵(By みてみん)

オオカミ娘は目を輝かせながら声を弾ませた。


華やかな開会式

「そして本日、舞台に立つのは――」

オオカミ娘が鋭い笑みを浮かべる。

「八つの新人小隊! ……もっとも、隊長たちは新人じゃないけどな。彼らが全力を尽くして激突するぞ!」

「な、なに今の発言……?」

ウサギ娘は目を丸くした。

「ふふ、何でもないさ」

オオカミ娘はすぐに表情を整え、観客席へと向き直った。

「それではまず、この大会を支えるスポンサーの皆様をご紹介しましょう!」

「……今のは全然冗談じゃないんだから」

ウサギ娘は小声でつぶやき、頬をひきつらせた。

「南方帝国を代表し、ギルド大臣ヴァドゥルス・ヴァンダーホルド伯爵。そしてその夫人、ブレンダ・ド・ヴァンダーホルド!」

挿絵(By みてみん)

二人は宙に浮かぶガラスの貴賓席から優雅に手を振った。

伯爵ヴァドゥルスは金の肩章をつけた軍服をまとい、鋭い視線を放つ。

夫人ブレンダは銀色に輝くドレスを纏い、冷ややかな笑みを浮かべていた。

「高貴なお二人のご臨席に感謝いたします!」

オオカミ娘が誇らしげに声を張り上げる。

「……私の肉、そんなに美味しくないのに……」

ウサギ娘はまだ怯えたように小声で呟いた。

「さらに続きまして、大陸屈指のギルド代表者三名!」

オオカミ娘の声が響く。

「元SSランク勇者、アキレス殿! 現役Sランク冒険者、アレクシア殿! そして南方帝国最強と称される男――SSSランク、ハミル殿!」

「ト、トリプルS!?」

ジェイズの目が飛び出しそうになる。

「とんでもねぇ怪物だろ……敵には絶対回したくねぇな……」

「ですが残念ながら、ハミル殿は本日欠席とのことです」

ウサギ娘が声を整えながら補足する。

「代わりに、弟のヤミル殿がご出席くださいました!」

サイドの貴賓席から、ヤミルが柔らかく手を振り、観客から盛大な拍手を浴びた。

「そして……! 本日この場に、史上最も重要なお方がお越しくださっています!」

挿絵(By みてみん)

オオカミ娘が声を張り上げる。

「ご覧の通り、警備体制が厳重なのはそのためです!」

「そう……その方こそ……」

ウサギ娘が恭しく言葉を重ねる。

二人は同時に叫んだ。

「――南方帝国至高の皇女殿下! アレリス・ヴァルタリア様!!」

挿絵(By みてみん)

会場は一瞬にして静まり返った。

「驚いたか? まさかここまでとは思わなかっただろう」

オオカミ娘は挑発的に微笑む。

「十五歳にして、このような大会にご臨席くださるとは……私たちはその御足元にさえ及びません!」

アレリス・ヴァルタリアは、帝国席からゆっくりと立ち上がった。

その瞳は澄み切っており、どこか無垢な印象を与える。

だが、彼女の存在そのものが絶対的な威厳を放っていた。

白を基調とし、黄金の装飾が施されたドレスが風に揺れる。

地面に届くほど長い水色の髪が、花びらのように煌めいていた。

周囲には、巨躯の護衛四人が控えている。

「――南方帝国至高の皇族に栄光あれ!」

観客が一斉に叫び、雷鳴のごとき拍手が会場を揺らした。

「す、すごい……まさか至高皇族に、こんなに近くでお会いできるなんて」

ラウルは感激に目を輝かせる。

「それも皇女殿下ご本人だなんて……」

「本当に……美しい方ですね」

ラファエラもまた感嘆の声を漏らす。

「威厳と気高さを兼ね備えているわ……そう思わない、シャルロット、リタ?」

「ええ……若いのに、信じられないくらい……」

リタはうっとりと呟いた。

「ほんと……すごい方だわ」

シャルロットも柔らかく微笑んだ。

一方、ジェイズだけは黙ったまま、冷や汗をかいていた。

(やばい……できるだけ目立たない方がいい……)

「みんな」

ヴァレンティナが真剣な声で切り出す。

「今から大事なことを伝えるから、よく聞きなさい――」

だが、その言葉は甲高い声に遮られた。

「さあ、続いては次のプログラムです!」

ウサギ娘が元気いっぱいに叫ぶ。

「本日戦う八つの小隊を紹介します!」

「このウサギ女ぁぁ! 何度も邪魔しやがって!」

ヴァレンティナの怒号が会場に轟く。

「串焼きにしてやるわよ!」

「長っ、落ち着いてください!」

リィアが慌てて両腕を掴む。

「こういう流れなんですって!」

「それではご紹介しましょう! まずはB・コーション! ――黄色い稲妻!」

オオカミ娘が力強く叫ぶ。

「地球の小さなギルドに所属し、これまでEからBランクまでの依頼を計十二件達成! これからが楽しみなチームです!」

「そしてメンバーを紹介しましょう!」

ウサギ娘がマイクを振り回しながら続けた。


選手紹介(B・コーション)

「――まずはメンバーを個別にご紹介!」

ウサギ娘が軽快に声を弾ませる。

「魔槍の勇者、ランクB――隊長ラウル!」

「続いて、容赦なき剣士――ランクDのシャルロット。

 その剣技は、刃そのもののように鋭い」

「ランクCの神官、ラファエラ。

 回復魔法と浄化の術で、チームに安心をもたらす存在!」

「そしてランクDの魔術師、リタ!

 風属性の術を得意とする――見た目は華奢で無垢……でも油断したら命取り」

ウサギ娘がくすりと笑う。

「そして今年最大のダークホースは――!」

オオカミ娘が会場を煽る。

「ジェイズ!」

ウサギ娘が高らかに叫ぶ。

「金属を自在に操る、ランクEの錬金術師!

 ギルド加入から、わずか一か月あまり――なのに成し遂げたのは……」

二人は同時に叫んだ。

「――ランクS依頼の達成!!」

観客席がどよめきに包まれる。

「ま、マジか!? あの子が? ランクEだろ!」

「落ち着いて、みなさーん」

オオカミ娘が狡猾な笑みを浮かべる。

「誇張でも詐欺でもありません。すべて正式に記録されています」

彼女はジェイズに意味深な視線を送る。

「詳細はまだ伏せられているけど――アルタリウス星の北方王国が“達成”として認定。

 それが事実。公式証明には王印も押されている。

 どこの王国だって、信用を賭けた嘘はつかないさ」

「……本当だったのか」

ラウルは目を細める。

「このガキが、そこまでの難度をやり遂げたってのか……」

「ジェイズくーん!」

ウサギ娘が片目をつむってウィンクする。

「立って、みんなにお顔を見せてよ!」

数万人の視線に押され、ジェイズは真っ赤になって立ち上がる。

「ど、どうも……」

彼はちらりとヴァレンティナを見る。

彼女は誇らしげに頷いていた。

「長、こんなの聞いてませんよ……」

小声で呟くジェイズ。

「人気の重圧くらい耐えなさい! ははは!」

ヴァレンティナは腕を組んで笑った。

最上段の特別席では、至高皇女アレリス・ヴァルタリアが静かに見つめていた。

(……若すぎる。それでいて、あの成果)

皇女がそっと手を上げると、護衛の一人がすぐに膝をつく。

「はっ、殿下」

「――あの少年のこと、すべて調べて」

視線を外さぬまま命じる。

「分かった? すべてよ」

「御意。直ちに」


対戦相手の紹介(A・コーション)

開会式の熱気が最高潮に達する中、場内アナウンスが続く。

「それでは、対戦相手のご紹介!」

ウサギ娘がスタジアム中央でマイクを掲げる。

「A・コーション――『暁光ルス』! 惑星プラリスの聖ギルド所属!

 隊長は――教会の聖剣士アリス・ヴァルティエラ。“暁の聖剣”として知られる女傑!」

「強烈な正義感と責務の重さで悪党に恐れられる女だ」

オオカミ娘の声が重低音で響く。

「メンバーは――」

ウサギ娘が続ける。

「レオ、ランクFのローグ。鋭い刃と天性の隠密性が武器!」

「短剣二本。奇襲は上手いが、正面戦闘は最悪だな」

オオカミ娘が容赦なく斬り捨てる。

「ライラ、ランクFの見習い魔術師。魔導書に初級の呪文がいくつか」

「防御系の基礎魔法ばかり。実戦経験は薄い」

オオカミ娘は露骨に渋い顔。

「ドレン、ランクFの重戦士。巨大な盾を構え、ダメージを受け止めるタンク。ただし攻撃の命中精度は低い」

「最後はミナ、ランクFの弓手。長弓を使い、練習では正確……でも本番に弱いタイプ」

ウサギ娘が淡々と締める。

「ははっ、冗談だろ? 全員ザコじゃないか!」

オオカミ娘が高笑いする。

「っはははは!」

「そんな言い方しないの、オオカミちゃん」

ウサギ娘がたしなめる。

「このメンバーでここまで勝ち上がった――その時点で隊長の手腕は本物。ねぇ、アリス?」

アリスは自陣の控え区画で沈黙を保ち、部下たちも一切反応を見せない。

「無言かよ。挑発にも乗らないって? つまらない連中だね」

オオカミ娘は肩をすくめ、興味なさそうに鼻を鳴らした。


公開された“切り札”

「――あいつらが落ち着いていられる理由は簡単よ。隊長が“切り札”を持っているから」

ヴァレンティナが魔術拡声器で声を張った。

「その名も――神話系の加護!」

「えっ!? なんで今そこで割り込むのさ!」

ウサギ娘があからさまに戸惑う。

「血統で得る先天能力よ。教えて身につくもんじゃない、受け継がれるの。

 加護は全部で七系統……その中でも神話系は最稀少!」

「……続けてもいいですか、ヴァレンティナさん?」

ウサギ娘が引きつった笑みで問い直す。

「アリスの加護は――メドゥーサ」

挿絵(By みてみん)

ラウルのチーム全員が凍りついた。

「メ、メドゥーサ……? どういうことだ?」

ジェイズが唖然とする。

「最悪ね」

ラファエラが低くつぶやく。

「どうして毎回無傷で帰ってくるのか、その理由が説明できるわ……」

「ちっとも分かんないんだけど」

リタが眉をひそめる。

その時、アリス・ヴァルティエラが静かに立ち上がった。

澄んだが芯の通った声が響く。

「他人の能力を勝手に暴くなんて、礼儀知らずですね、ギルドの責任者さん。

 勝てないと分かって苛立っているんですか?」

「ぐるるる……! “ご婦人”だぁ? おばあちゃんにでも言ってな!」

ヴァレンティナが怒髪天。

「お、落ち着いてください!」

ウサギ娘が慌ててなだめる。

「アンタも覚悟しなさい、このウサギ女! 遮られる気分はどう?」

暴れるヴァレンティナを、リィアが必死に押さえる。

「追い出されますって! お願いします、落ち着いて!」

リィアが半泣きで懇願。

「え、えへへ……」

ウサギ娘は困り笑いを浮かべる。

「長、お願いします……」

ラウルが真剣な面持ちで口を開く。

「その能力、どれほど脅威なんです?」

ヴァレンティナは大きく息を吐き、冷静さを取り戻した。

「神話系の加護は、神や伝説級の存在を由来とする能力。

 アリスのはメドゥーサ――」

「目が合えば石化させる、あの怪物……?」

ジェイズが確認する。

「そう。しかも――一番厄介なのは彼女が完全に盲目だということ」

ヴァレンティナの声が低くなる。

「数年前のローカル依頼で両目を失った。なのに、どうやって加護を発動しているのかは誰にも分からない」

「それは……あまりにも危険だわ」

ラファエラが唇を噛む。

「長、どうします?」

「……分からない。

 正直、棄権も視野に入れている。――誰一人、失いたくない」

衝撃の言葉に、全員が息を呑む。

その時――

挿絵(By みてみん)

「俺がやります! 俺が、彼女に勝ちます!」

ジェイズが手を高く掲げ、はっきりと言い切った。

「「「ええええええっ!?」」」

一同の悲鳴が重なった。



――つづく。

七つの加護のうち、神話系は最も稀少。メドゥーサは“視線”で石化させるが、盲目のアリスがどう発動するかは謎。危機の中、若き錬金術師はただ名乗りを上げた。「俺が勝つ」。

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