炎の錬金術師、やっぱり不運……それとも幸運?
――序文――
地球出身の少年ジェイズ。彼の夢は、自分の警戒部隊を作ること。
だが、彼の運命は思いもよらぬ方向へと動き出す……。
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第1章
広大な宇宙――そこは魔法と科学技術が並び立つ世界だった。
人類はすでに銀河をまたいで旅をし、新たな生命に満ちた惑星を次々に見つけ出している。
宇宙は四つの領域に分かれ、それぞれを統べるのは北・南・東・西の四大帝国だ。
物語の中心となるのは、南方領域の地球で生まれた一人の少年。
名はジェイズ。十七歳。明るく前向きで、胸の奥に固い決意を宿している。
彼の夢は――自分の「警戒部隊」を結成し、仲間と共に数々の冒険を成し遂げること。
警戒部隊とは、依頼の危険度に応じて行動する精鋭の集団。
最強の《S-コーション》から、下位の《E-コーション》まで階級が存在し、
その力は惑星の王や支配者からも一目置かれていた。
地球のある国――
中世風の街並みが残りつつ、最先端技術も行き交う小さな町。
朝食を頬張りながら、一人の少年が家から飛び出した。
「――行ってきます、じいちゃん! 走らないと遅刻しちゃう!」
「気をつけろよ! あの代物で怪我するんじゃないぞ!」
玄関先で祖父が声をかける。
ジェイズは二十一世紀製の古びたバイクに跨り、火の錬金術で停止していた機構を起動させた。
遺物同然のそれも、彼の炎があれば今なお走る。
金属を自在に成形し、武器や部品を生み出す――火の錬金術。
その力で鍛え上げた二振りの愛剣こそ、「太陽」と「月」。
「ここまで死ぬほど鍛えてきた。今度こそ絶対やり遂げる!」
心の中でそう叫び、アクセルをひねる。
道を駆け抜け、彼は冒険者たちの拠点――ギルドへ向かった。
「よし、着いた!……人、少ないといいけど」
扉を押し開けて受付に近づくと、一人の少女が明るく声をかけてくる。
名はリア。ジェイズを見るその瞳には、かすかな輝きが宿っていた。
「こんにちは、ジェイズ。また挑戦しに来たんでしょ? ちょうど一人だけ空いてるチームもあるよ」
「いや、リア。前にも言ったけど、俺は自分の部隊を作りたいんだ。頂点を目指して仲間と冒険して……いつかはこの惑星を出て、もっと広い宇宙へ!」
その瞳には、夢と希望がまっすぐに燃えていた。
「……はぁ。まあいいけど、これが最後の挑戦だからね。失敗したら、別の道を選ぶか、妥協するしかないんだから」
「わかってる。今度こそ成功してみせる!」
そこへ、もう一人の受付――マリアが会話に割って入る。
「ねえリア、新しい試験用デバイスが届いたの覚えてる? ジェイズに試してもらえば?」
「え、新しいデバイス? なんだそれ?」ジェイズは身を乗り出した。
「任務先へ直接転送できるテレポート装置。銀河の果てだろうと、どの惑星でも一瞬で到達できるの。
ただし、まだ実験段階だから送れるのは一人だけ」
「すげぇ……! マジで? それ最高じゃん!」
リアはマリアの腕をつかみ、声を落とす。
「ちょっと待って! あれは高ランク専用よ! ランクFにも届いてない子に使わせるなんて――」
「落ち着いて。誰にもバレなきゃ平気。それに……あんた、彼のこと好きでしょ。
これで試験が早く受けられたら、絶対感謝されるし、惚れ直されるって」
リアの脳裏に、甘すぎる妄想がよぎる――。
〈リアの妄想〉
『ああ、愛しのリア! 俺、ついにランクAに昇格した! これでSランク部隊を作れる!
すべて君のおかげだ! どう恩返しすればいい? ――結婚してくれ!』
〈妄想続き〉
「――(甘ったるい声で)あぁ、ダーリン♡ 移動で余った体力……私と“イイこと”に使ってみない?」
「リアァァァ! 結婚してくれ!」
「♥♥♥んんにゃあああぁぁぁ~~~っっ!!!♥♥♥」
〈妄想終わり〉
「……わ、私ったら……なに考えてんのよ!? 恥ずかしすぎるっ!」
リアは顔を真っ赤にして、いやらしい表情を浮かべていた。
「リスクを取らなきゃリターンはないわよ。ふふっ」
マリアは悪戯っぽく笑い、心の中で――本当の狙いは“実験機を使わせれば報酬が入る”という甘い話だと計算していた。
「……おい、何をコソコソ話してるんだ?」
ジェイズが怪訝そうに首を傾げると、リアは勢いよくカウンター下から大きな箱を取り出した。
「――決めたわ!」
「なにィッ!?」ジェイズは目を剥いた。
「この“テレポート v0.7 b435”を使って、君のランク評価ミッションを行うの! はい、このリストバンド型の時計を腕につけて。……よし、コンソールと同期完了!
まだ試作段階だから近場の任務しか検索できないけど……スキャン開始――検出任務数、なんと一二四五万六〇四件、範囲は六万光年!」
「そ、そんなに!? お願いだから……できるだけ簡単なのを!」
「評価試験だから選べないのよ。でも安心して。このバージョンには“テストミッションモード”が搭載されてて、君のデータを解析し、自動で適切な任務を選んでくれるの」
「便利だな……」
「準備完了。赤いセンサーを押して『ミッション開始』って言えば転送されるわ。
戻る時は青いセンサーを押して『ギルドに帰還』って言えばOK」
「……もし壊れたら?」
「最高級素材で作られてるから、まず壊れないわ。さらにAIサポートも搭載。
文化理解、翻訳、自動時刻調整、カメラ、ネット、YouTube……退屈しないわよ?」
リアが妙に営業口調で畳みかける。
「はぁ……まさに技術の粋だな」
ジェイズは深呼吸し、時計を見つめて頷いた。
「――よし、準備完了だ。行ってくる……リア、マリア、ありがとう」
「こちらこそ♡」
「はぁぁぁぁぁん♥♥♥」リアは感極まってとろけるような声を漏らす。
「――ミッション開始!」
瞬間、ジェイズの姿はかき消え、まるで悟空の瞬間移動のように光の粒となった。
「がんばってね、わたしのダーリンっ!」
涙目で叫ぶリア。その目は完全に恋する乙女のものだった。
通りかかったギルド職員が光を見て足を止める。
「……おい今の、ジェイズじゃなかったか?」
「そうよ……どうかしたの?」マリアは不安げに問い返す。
「いや、確かに消えたように見えたんだ。スキルじゃありえない……まさか“テレポート v0.7 b435”の不具合品を使ったんじゃ……? あれ、来週メーカーが回収に来る予定だぞ」
二人の顔が青ざめる。
「……ど、どんな不具合なの?」
「いや大したことじゃない。ファームウェアのバグで“ランクS任務しか選べない”ってだけさ。どうせ誰もそんな馬鹿な使い方しないしな。来週にはv0.8 b824で修正版が届くし……はっはっは!」
その瞬間、リアとマリアは同時にバタリと倒れた。
「――私の結婚式がぁぁ……」
「――わ、私のコミッションがぁぁ……クビになるぅぅぅ……!」
職員は首をかしげながらつぶやく。
「……え、ちょっと、大丈夫なのか?」
――遥か遠い場所。
ジェイズが目を開けると、そこは鬱蒼とした森の中だった。
周囲を包むのは鮮やかな緑。生命に満ち溢れ、空は地球よりも澄み渡って輝いている。
文明の気配はまるでない。車の音も、電柱も、街の匂いも。ここはもう地球ではない。
「……本当に転送されたのか……? 空がこんなに明るいし、緑も多い……」
ジェイズは驚きながら腕時計に目を落とした。
淡い光と共に、宙に浮かぶインターフェースが展開される。
【現在位置】
惑星:ARTARIUS R50
大陸:MEGADOLIAN
地域:北国の外れ
任務:小村アルビンを防衛し、黒竜を討伐せよ
任務ランク:S
完了率:0%
獲得資源:0
「……ふむ、ちゃんと表示されるんだな……“黒竜を討伐”……?」
「――ど、ドラゴンだとォォォッ!?」
全身がガタガタと震える。
“ドラゴン”など初心者向けの単語ではない。
「これ、評価試験だろ!? ドラゴン退治なんて無茶苦茶だ! きっと盗賊団の名前か何かに違いない……」
もう一度スクリーンを確認すると、赤く点滅している文字が飛び込んできた。
任務ランク:S
「ランクSだとォ!? ありえねぇ! 俺、死んだぁぁぁぁっ!!」
「や、やばい……予定と違う……! ミッション中止だ、青いボタンを押せば――!
……おいっ、なんで反応しねぇんだよ!? 戻れってば! 戻れぇぇぇっ!」
その頃、ギルドでは――
「どうしてあんな無責任なことを!?」
先ほど警告していた職員が怒鳴りつける。
「ランクSの任務なんて、CやBですら無理なんだ! Aでも死ぬ可能性が高い。
ましてや、まだ試験段階の子が行けるはずがないだろう!」
「だ、大丈夫よ……」マリアが必死に弁解する。
「青いセンサーを押せば戻れるはず。危険を感じればジェイズだってすぐに……」
しかし職員は重い表情で首を振った。
「……それは無理だ。Sランク任務はキャンセル不可。
依頼主は王や皇帝、大統領といった大権力者。莫大な金を払っている。――英雄の命を犠牲にしてでも、遂行しなければならない」
「そ、そんな……ジェイズ……!」
リアは口を押さえ、涙ぐんだ。
「とにかく、コンソールを確認しよう」
職員が端末を起動する。
「これで任務者の行動をリアルタイムでモニターできる。睡眠、食事、体調……」
「……って、誰よこんな変態機能つけたの!?」マリアが眉をひそめる。
「生命反応や危険度も表示される。ただ……残念ながら“生きてるか死んでるか”くらいしか役に立たんがな」
リアが画面の隅に映る数値を見て、青ざめた。
「……見て。ジェイズの心拍数……急上昇してる……一体なにしてるの……?」
その頃、森の中――
ジェイズは必死に走っていた。
背後から追いかけてくるのは、四本腕の巨大な熊の怪物。
頭には鉈のように鋭い角を生やし、悪魔のごとき咆哮を轟かせて木々をなぎ倒す。
「くそっ、なんで俺がこんな目に……!? どこから湧いたんだこの化け物!」
「グオオオオオオッ!!!」
ジェイズは立ち止まり、振り返った。
「……仕方ねぇ。戦うしかない!」
ポケットから金と銀の小片を取り出し、両手に握りしめる。
身体から熱が溢れ、指先に火花が散った。
「紹介しよう……俺の剣、“太陽”と“月”だ! こいつらでお前を斬る!」
黄金と白銀の光が迸り、二振りの剣が姿を現す。
森を照らすその輝きに、熊はさらに狂ったように咆哮し、突進してきた。
ジェイズは身をひねって一撃をかわし、剣を閃かせて鋭い爪の一本を切り裂いた。
「さぁ行くぞ、太陽、月! 本気を見せてやれ!」
剣はさらに光を増し、錬金の力と共鳴する。
彼は跳び、避け、斬り返し――森全体が震え、木々が次々と倒れていく。
「……早く決めねぇと!」
チャンスを見て跳躍。狙うは熊の角。
二振りの剣が最大限に輝き――
ガシャーン!
錬金の爆発が走り、怪物はよろめき、血を滴らせる。
「ビビったか? だが今度は俺が攻める番だ!」
「グオオオオオオッ!」
逃げようとした熊の首めがけ、ジェイズは宙を舞い、回転斬りで――
ズバァッ!
首が飛んだ。
ドサァッ。
大地が揺れ、巨体が倒れる。
膝をつきながら、ジェイズは息を荒げて叫んだ。
「よっしゃあああ! 生き残った! 俺をなめるからだ!」
そのまま草の上に仰向けに倒れ込み、時計を確認する。
……しかし進捗は0%のまま。
「……もしこれが任務なら終わってるはずだろ……」
大きな溜め息をつく。
その時――
パカラッ、パカラッ……。
馬の蹄の音が響いた。
「……騎士団か?」
顔を上げると、兵士たちが馬に跨って現れる。
先頭に立つのは、赤い髪を炎のように靡かせる美しい少女。
輝く鎧をまとい、威厳ある眼差しでジェイズを見据えていた。
「私は北国の王女にして第二皇女、カトリーヌ。……この怪物を倒したのはお前か? 名を名乗れ」
白い肌、大きな紅い瞳。気品と荒々しさを兼ね備えたその姿に、ジェイズは思わず息を呑む。
「(うわ……綺麗だけど、めっちゃ強そう……)」
ごくりと唾を飲み込み、答えた。
「俺の名はジェイズ。地球の東方の国から……間違ってここに来たんだ。助けてもらえないか?」
だがカトリーヌは怪訝そうに睨みつける。
服装も妙、言葉も妙。理解できない異邦人。
「――捕らえよ」
「はぁっ!?」
危険な笑みを浮かべ、カトリーヌは告げる。
「この“サーベルベア”は環境保護法で守られた希少種だ。……まさか知らなかったとは言わせない」
「えぇぇぇぇぇっ!? あの熊、保護動物だってぇぇぇ!?」
瞬く間に騎士たちに囲まれ、ジェイズは顔面蒼白。
――英雄から一転、環境犯罪者。
「……俺、終わった……」
――あとがき――
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次回は――王女カトリーヌとの出会い。お楽しみに!