第四話 閨中
「よう」
夢の中にて、キルアはフェクドに会った。夢の中ですら会うなんて、どういうことなのだろうか…なんとなく、このことはフェクドが意図的に起こしていることだろうと推測できる。とりあえずキルアは不満を口にした。
「何だお前、帰れよ」
「まあまあ、ちょっと俺の話をきいてくれよ」
「一体どんな話なんだ?」
「俺に手を…」
そういい、フェクドは気持ち悪く笑う。これ以上先は言わせないとばかりにキルアは「却下だ」と言った。
「っていうのは冗談で…」
フェクドが真面目な顔をする。キルアは茶化すのをやめて姿勢を整えた。
「あのアーティファクトについてだ」
キルアの目は見開かれる。フェクドは続けた。
「あの器をまじまじと眺めたのだが、今の技術ではないもので改造されている…というのはわかるな?」
「ああ。さすがにわかる」
「で、何であれが作られているのか…というところだが」
キルアが静かにしているとフェクドは尋ねた。
「お前は、原初の魔族『エターナル』を知っているか?」
「…書物で読んだことがある。魔剣【終焉】の持ち主の、大男だろう?」
フェクドは、少し間を開けて話した。
「ああ。……あのアーティファクトの素体は、『エターナル』のものだった」
「…さすがに嘘だろ? 死ねない呪いにかかっていたんじゃないのか? どうやってあれを殺したんだ?」
「あいつは、なんやかんやあって呪いを解いてもらった後に天使、翼野鈴華に首を落としてもらったんだ。んで、死体はあいつを殺した後に翼野鈴華が大切に保管してくれていたんだ」
「じゃあ、なんでこいつはここにいるんだ? その天使が保管していたんじゃないのか?」
「それが、襲撃があって保管していた建物が全崩壊。崩壊の知らせを受けた翼野鈴華が駆けつけたころには、あいつの死体はもう誰かに奪われた後だったらしい」
「あの器は本当にそいつなのか? エターナルって確かもう少し身長が低かっただろう? それに、器は青い目、エターナルは赤い目だろう?」
「身長は靴でいくらでもかさ増しすることはできる。目の色など、魔法でいくらでも変えることができる。それに、俺が見間違えるわけも、あの声を他の魔族と聞き間違えるわけがない…… 身長は同じくらいで、首を縫い付けた痕がくっきり残っていて、核(核とは、魔族の本質となる部分であり、弱点でもあり、本体である。『核』といっても俗称で、正しくは、『魂』である。)まで同じだったんだ。これだけ彼を示す証拠が出て、エターナルではないとは、言えない」
「なんで首を縫い付けた痕がわかったんだ?」
「そりゃあ俺、神の使徒だもん。透視くらい余裕さ」
「お前…」
「透視くらい余裕さ」って… こいつにできないことって、あるのか? というかこいつなんでこんなにエターナルのことについて詳しいんだよ! また後で訊いてみることにするか。
「証拠だってある。これを見ろ」
キルアが言おうとしたとき、フェクドはさっきの『器』をどこかから取り出した。
「…」
「自分の手で確認してみろ」
恐る恐る『器』を覆う鎧を外すとその首には、縫い痕と大小さまざまな大きさの切り傷があった。その傷は少し見えただけでも悍ましく、その悍ましさを表現するならば、どんなにおしゃべりな者でも一目見ただけで驚きわめいたあとに、数日は黙るほどだ。
だが、俺はこれを見ても驚くことはしなかった。なぜなら、俺は一度これを見たことがあるからだ。
だが、あのときに見たものとこの死体では違うところが一つあった。
あのときに見たものに追加でもう一本、首を一周する、乱雑に縫われた傷が増えていたのだ。
この傷は母様が見せてくれた本に載っていた、あの顔だけは綺麗な黒ずくめの男を思い出させる。
「なんで俺は気づかなかったんだ…?」
「鎧で身体のラインの確認がしにくいことや髪型や顔だな。エターナルはこんなに短髪でもないし、今の『器』の顔には化粧が施されている」
「たしか腰まで届くほどの長髪だったよな…?」
「ああ。よく知っているな、お前」
「昔、母様が見せてくれた本に肖像画が載っていたんだよ」
白くて可憐な女の子を想像していたときに、あんなに綺麗な顔をして首に悍ましい傷をつけた男を見せられて、記憶に残らないほうがおかしいだろ!
そっと『器』の頬に触れると、触れた手は白く、器の頬はより自然な色味になった。といっても、不気味なほどの白さが少しましになっただけで、白いのには変わらない。
「本当だ…化粧をしている…」
フェクドが指を一つ鳴らし、器にかかった魔法を解くと、目の色は青から赤へと戻る。
「そろそろだ」
キルアが「何がそろそろなのか」と訊こうとしたとき、遠くから声が聞こえた。その声はヴァルフのものだった。さっき起きたばっかりなのだろうか、彼の声は若干昨日よりも低かった。
「キルア、起きろ」
「ヴァ…ルフ」
そういいキルアを起こすヴァルフの顔は少し赤かった。薄ら赤くなった耳が長髪の中からちらりと覗く。
「なんでそんなに赤くなってるんだ? 熱か?」
キルアが尋ねるとヴァルフは呆れたような声で言った。
「右を見てくれ…」
あまりにもヴァルフが恥ずかしそうに言うため、キルアは急いで起き上がって恐る恐る右に視線を動かすと、キルアの隣でキルアの服を抱きかかえて眠るフェクドがいた。その姿はまるで昨晩彼に愛されたというようで、実に婀娜やかである。
「…おい、これは一体どういうことだ!?」
キルアが声を荒げると、フェクドはさらに誤解を生むようなことを口走る。
「昨日の続きか? 悪いけど流石に…」
少しずつ、ヴァルフが耐えられないというように赤くなっていく。キルアは必死に弁明しようとした。
「破廉恥な…」
「いや、これは…その…」
顔を赤らめて必死に弁明するキルアを見て、彼が変な勘違いをしていると気づいたフェクドは大きな声で無駄に早口で言った。
「おいおい、勘違いしてねえか!? 俺が言いたいのは、アーティファクトについてで、昨日の続きから話すとヴァルフが困ると思ったから初めから話そうという意味であって、キルアとの行為に関してのことでは断じてない!」
フェクドが説明したおかげでヴァルフの赤らんでいた部位は元通りの色に戻る。ヴァルフは目を伏せて「勘違いをしていたようで… すみません…」と深々と謝った。それを見たフェクドが別に気にする必要はないといった表情をして言った。
「この脳足らずが色っぽく解釈しただけだ、気にするな」
「誰が脳足らずだ、若作りが」
「アーティファクトについて、知りたくないか?」
話題をもとに戻したな…こいつ。と言おうとしたが、さすがにやめた。
「知りたい。教えてくれ」
ヴァルフがそういうと、フェクドが話し始めた。
「キルアに先ほど言ったところも含めて話そうか」
「ああ。頼んだ」
「あの『器』は、原初の魔族『エターナル』の身体でできていた。内包魔力も、核もだ。この通りだ」
そういうとフェクドはまたあの器を出した。
「顔には化粧、髪は短く整えられていた故、こいつがエターナルであると気づくまで少々時間がかかった。それとだ」
フェクドは器に指を差し、ヴァルフに訊いた。
「エターナルの死に様は知っているか?」
「確か…上級天使翼野鈴華に刎首されて死んだ…であってますか?」
「ああ。その通りだ。そうなると必然的に死体は」
「首と胴体が離れた死体になる」
フェクドはエターナルの身体を覆っていた鎧を外し、さっき見たツギハギとたくさんの傷がある首をあらわにした。
「傷だらけだ…」
「エターナルは、永遠の呪いによって死ぬことができず、ずっと自身の首に剣を当ててきた。その傷はおそらく自分でつけたものだろう」
そう話していたとき、目の前にいたエターナルの死体が起き上がり、口を開いた。
「お前たちは…誰だ?」
キャラ・用語説明 +あとがき
【キルア=エペラー】
身長173cm
家出時17歳→洞窟からでたとき21歳
ベッドで横にフェクドが横たわっていたとき、ちょっと殺意を覚えていた。
「俺の中で寝てくれよ、狭いんだよ!」
【フェクド=レジスト】
身長166cm
神の使徒。理神ミレイの暇つぶしで生み出された。
どれくらい生きているのかは不明。
あまりにもベッドがふかふかすぎて、キルアの中で寝る気になれなかった、と供述している。
「ベッドが狭いからなんだ! 別にいいだろこれくらい!」
【理神ミレイ】
神。フェクドを作ったやつ。
【ヴァルファリア=レイスギルト】
身長177cm
偽名はソルファ。
通称ヴァルフ。長いから。
宿屋のベッドのふかふかさは、レイスギルトが一番ふかふかだと思っている。
「朝からあんなものを見せられて俺はなんて反応したらいいんだ!」
【エターナル】
身長:185以上はある。
首の傷はおびただしい数あり、ホラーに耐性のあるものですらトラウマに残る可能性がある。
伝説の魔剣【終焉】の持ち主。
綺麗な顔をしているが、その下の首の傷が気になりすぎて、顔に目がいきにくい。
長髪(腰ほどまでで左右対称にそろえられている)
赤い目をしている。
【魔力石】
魔力保有量が一定以上の魔族が死んだとき、たまに魔力が固まり、石となって残る。
原初の魔族は魔族よりもこの石ができる確率が高い。
【原初の魔族】
魔神ヴェルハが直々に生み出した生命体。
魔族とは似て非なるものだが、一部の魔族は、原初の魔族の子孫。
【核】
魔族の本質となる部分であり、弱点でもあり、本体である。『核』といっても俗称で、正しくは、『魂』である。
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ここまで読んでくれてありがとうございます!!
ヴァルフ、朝からあんなものを見せられてかわ…かわいそうだね。
作者はふたつ一気に投稿するということでてんてこまいであります。