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第三話 器

「ヴァルフ、ここからエーペルまでどれくらいで行ける?」

 キルアがヴァルフに尋ねると、複雑そうな表情でヴァルフは言った。

「歩いていけば五か月、羽で飛ぼうとしても撃ち落とされるので飛ぶことはできません。テレポートならばすぐに着くと思いますが…細かな場所のイメージや膨大な魔力が必要になります…」

「よし、テレポートを使ってみるか」

 キルアが決心したようにそう言うと、ヴァルフは驚いて言った。

「…⁉ そんな魔力、どこに…」

「ここにある」


 そう言ってキルアはフェクドを指差した。指を差されて不機嫌そうなフェクドは言い返す。

「人に向かって指差すんじゃねえ」

「あ? 住まわしてやってんだから少しは俺の言う事聞け。そもそも人ですらないだろお前は」

 キルアが言い返すとフェクドは少し困ったような顔をしながらもキルアに尋ねる。

「へいへい、テレポート、か。…それくらいならできるが、使うか?」

「ああ。今すぐにでもラギの元へ行きたいからな」

 キルアが急かすようにフェクドに言う。


「わかった。それなら俺は一旦お前の身体に戻る。いいか、大事なことだから何回でも言うぞ」

 フェクドはそう言うとキルアの身体に再び戻った。キルアが相槌を打つと、フェクドはさらに続けて話す。

「『俺は◯◯ができる』と言え。〇〇にはしたいことを入れろ。そうすれば願ったことがなんでも叶う。もう一回言ってほしいか?」

「大丈夫。どうすればいいかはだいたいわかった。やってみる」

「やってみろ」

「『俺は、テレポートを自由自在に使える!』」


 そうキルアが願うと、身体になにか新しいものが宿ったような感覚がした。自分のものではない力が自分の身体に無理矢理入ってくる感覚はお世辞にも心地よいとはいえない。そしてその力は自分の身体に合わせて適応していき、やがて自分の力となった。


「ヴァルフ、捕まってろ」

 フェクドがそう言うと、少し遠慮した後、ヴァルフは荷物を持って俺たちに強く抱きついた。

「『テレポート』!」

 キルアがそう言うと、頭の中にテレポートの詠唱が流れてきた。その通りに詠唱を終えると、視界が真っ暗になり、身体中を感じたことない感覚が走り回る。


 少し経ち、視界が明るくなると、見慣れた光景が広がっていた。俺たちがいたのはエーペル城だった。俺達はエーペル城に無事テレポートすることができていたのだ。「ここは…」とヴァルフがどこか思い出そうとしているところ、キルアが言った。

「エーペル城だ。ソルファ、急にこんなことに巻き込んで、すまない」


 キルアは少し悪いことをした、といった顔でヴァルフに言う。ヴァルフはそう言ったキルアのほうを向くと笑顔を作り、言い返す。

「俺の「魔王倒したい」という欲望に付き合ってくれてる貴方達がこんなことで謝る必要はないですよ」

 丁寧にそう言うヴァルフは本気でそう思っているのだろう。キルアは適当に返す。

「そういうことにしておくよ」

「ありがとう」

「そうだ、フェクド。おじさんのことを言った瞬間に顔が青ざめたが、そのおじさんがなにかあったのか?」


 キルアがそう言うとフェクドは実体化して、話す。

「そのジジイが本当の「ラギ=エペラー」だよ」

 事実が飲込めないキルアにフェクドはさらに言う。

「多分お前がずっと喋ってた「ラギ」は亡霊を適当な器にぶちこんだやつだ。まあ、中身は本物だから気にしなくていい」

 その「器」は一体何なのか。疑問に思ったキルアはフェクドに尋ねた。だがフェクドは困ったような顔をして言った。


「…それが俺でもよくわからないんだ。原初の魔族に似ているようだがなにか違う。まるで魔族を改造したような…… 神が冗談でやったのかと思ったのだが、過去に未来のものを持ってきて歴史を変えているやつがいると、ミレイから聞いた」


 過去に未来のものを持ってくる… その術自体は知っていたが、非常に行使するのが難しい魔法だと聞いていた。自身が移動する分には今までキルアも聞いたことがあるが、恐らく今回の「器」は自身を移動させるものではない。キルアがいろいろと考えているところにフェクドは話が逸れたのに気づき、水を差すように言った。

「まあ、そいつは俺達の管轄外だから別に問題はない…話が逸れたな。ラギのもとへ急ごうか」

「ああ」


 キルアを先頭に、ラギがいるだろう場所へと向かうと、やはりそこにはラギがいた。キルアはラギへ話しかけたが、返事はない。キルアは再びラギに話しかけた。

「…! キルア」

 器は静かに振り向き、掠れた声でそう呟いた。そう呟く「器」は、キルアが最後に彼に会ったときよりも顔色は悪く、より死人感が強まっていた。器の声を聞いた途端、フェクドは戦闘態勢を取る。まるで、知り合いに会ったような、そんな表情をしながら魔力剣を構えるフェクドをみて、キルアは不思議に思う。


「フェクド、合ったことあるのか?」

「キルア、「器」から離れろ!」

 フェクドがキルアに一喝する。それを聞き、キルアは素早く跳ねて移動すると、キルアが居たところから少し遠くの床に毒が塗られたナイフが突き刺さっている。


「…ここで始末しようとしたんだけどなあ」

 器が呟いた。その言葉の節々からは面倒な事が起きたという鬱々とした気持ちがこもっていた。とてもラギだとは思えないその風貌を見て、キルアはフェクドに尋ねる。

「フェクド! こいつは一体…」

「未来から、過去を改竄しに来た、アーティファクトが器の中にいる! 倒さなければ…未来はないぞ!」

 フェクドがそう言った瞬間、器は襲いかかってきた。


「ラギを返せ!」

 キルアは大声で喚く。器は見下したような表情で「そうは言っても、彼、死んでるけどね」とキルアに言う。

 心の底から限りない負の感情が湧き上がる。キルアは感情をできるだけ押し殺しつつ、静かに剣を持ち、「器」に向かって攻撃する。

「そんな生ぬるい攻撃、効かないよ」

 器はその瞬間、キルアの腹に、カウンター攻撃した。

「キルア、避けて」

 頭に直接ヴァルフの声がする。キルアは急いで器から離れた。

「【フレイム・ビヘッド】!」

 ヴァルフの手元に魔力でできた斧が生成され、斧は器に命中。器が少し動いていたのもあり、胴体にダメージを与えることはできなかったが、斧は器の左腕に触れ、その腕は袖ごと地面にまっすぐ落ちた。切られて先がなくなった腕の付け根からは血が滴り落ちている。


「腕が…」

「! 仕方ない…」

 器はそう言い残し、ひとつの瓶を投げ捨て、亜空間へ消えていった。

 器が落としていった瓶を拾うと、頭の中に直接、ラギの思いが流れ込んできた。

『キルア、こんなことになって、ごめんね。俺、また魔界で生きたくて、彼から【器】をもらったんだ。はじめは、なんでこんなに優しくしてくれたんだろうって思ってたんだ。こんなに優しいやつなんか、本当は裏の顔があるのに、俺、馬鹿みたい。俺は冥界にいるから。道半ばで冥界になんか来たらだめだよ。また会おう、キルア』

「ラギ…」

 思わず声が漏れてしまった。フェクドが微妙に心配したようにキルアに近づき、「大丈夫…ではないか?」と訊く。

「いや、大丈夫。最後にまたラギに会えたから。それだけでいい」

 キルアがそう答えるとフェクドは「そうか」と小さく言い、再びテレポートの魔法を唱え、またあの宿屋へと戻った。


「あら、あなたたち。おかえりなさい」

「ただいま、お姉さん」

 宿屋の老婆に挨拶して鍵をもらい、部屋に戻ったキルアたちは、食事もとらずにベッドに横たわり、眠りについた。

キャラ紹介・用語説明 +あとがき


【キルア=エペラー】

身長173cm

家出時17歳→洞窟からでたとき21歳


【フェクド=レジスト】

身長166cm

神の使徒。理神ミレイの暇つぶしで生み出された。

どれくらい生きているのかは不明。


【理神ミレイ】

神。フェクドを作ったやつ。


【ヴァルファリア=レイスギルト】

身長177cm

偽名はソルファ。

通称ヴァルフ。長いから。


【アーティファクト】

不明。器の中に入りこんでいたが、最後に未来へと帰っていった。

器とリンクしていた為、器の左腕を斬り落とされたとき、こいつの左腕も斬り落とされた。

今はリンクを切っている。


【器】

原初の魔族を改造して作られた、らしい。


【魔力石】

魔力保有量が一定以上の魔族が死んだとき、たまに魔力が固まり、石となって残る。

原初の魔族は魔族よりもこの石ができる確率が高い。


【原初の魔族】

魔神ヴェルハが直々に生み出した生命体。

魔族とは似て非なるものだが、一部の魔族は、原初の魔族の子孫。


—————

ここまで読んでくれてありがとうございます!!


此処だけの話、作者はここのキャラ紹介のところ、間違えて第四話バージョンで打ち込んでいました。気づかなかったらここだけ第四話になっていました。セーフ、だと思いたいですな。

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