表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/18

第二話 勇者

「…ここがレイスギルト帝国の【ギルティア】という街だ。たしかここに噂の勇者が居たはず…」

「勇者?」

 キルアが尋ねるとフェクドは答えた。

「魔王に反逆する者、といえばわかりやすいか?」

「へえ。そんなことよりもまずは宿に泊まろう…って金は?」

「お前は持っていないのか?」

 フェクドは「金くらいあるだろ」の顔でキルアに訊いてくる。


 (一文無しで家出して洞窟に引きこもってたやつに金なんかあるわけないだろ!! さぞいい暮らしをしていたんだろうな!! お前は!!)


フェクドのほうを向き、キルアは言った。

「あるわけないだろ。舐めてんのか」

 キルアがそう返すと、失望したような呆れたような、少なくとも「尊敬」ではない表情でフェクドは言った。

「……一緒に金策するか」

「……ああ」


 一文無しだったことが発覚し、キルア達は金を求めて仕事をしようとふらふらと歩いていると、髪の長い長身の男が声をかけてきた。男の身なりは悪くなく、端正な顔立ちで、どこかキルアと似たような空気を纏っている。


「最近、魔王についての情報収集をしているのですが、情報を持っていたら教えてください… あ、もちろんお礼はします!」

「(キルア、こいつが勇者だ。俺が情報を話してやってもいいが、どうする?)」

 小さくフェクドが言う。キルアは覚悟を決めた。

「俺を…勇者パーティーに入れてくれないか?」

「(…!? 特に理由もないだろ…! なのに何故…)」

 フェクドが小声で文句を言ってくるのを聞き、キルアは小さく、「今夜の宿代が浮くかもしれない。黙ってろ」と言い放った。

「もちろん情報もある。まあ、情報を持ってるのはこいつだけど」

「(俺を巻き込むな!)」

「(お前が情報を話してもいい、とか言うからだろ? 自業自得だ)」


 勇者は小競り合いするキルアたちをぼんやりと眺めたあと、微笑んで言った。

「ああ、もちろん大歓迎ですよ。貴方の名前は?」

「キルアだ。こっちはフェクド」

「俺はソルファです。詳しい話は宿でしましょう」

 そう言った後、ソルファは慌てて付け足した。


「あ、宿代は俺が出します」

 狙い通り、といった目線をフェクドに向けると、フェクドはやれやれと言った顔で彼を見た。


「キルアさん、貴方は、この旅についてどう思いますか?」

 道中、ソルファがキルア達に小さな声で訊く。

「俺は、別になんとも思わない。なにか事情があってのことなんだろう?」

 「事情があってのこと」と言われ、ソルファは苦笑いしながら小さく「…はい」と返答した。


 雑談しながら宿へと向かうと、宿屋の老婆がキルアに話しかけてきた。

「あなたはもしかしてエーペルの…」

 疑問じみた顔で見られ、頭の中でどう返すか考える。

「人違いだ。すまねえなお姉さん」

「(ぽっ)」

 どうにか「お姉さん」と言うことでごまかしたが、おそらくこの老婆は、キルアのことを見たことがある。記憶を探したが、この老婆が誰なのかは思い出せなかった。

「(まあいいか)」

 そう思いながらソルファが部屋を取るのを待つ。


「二人部屋一部屋空いてますか?」


 一体何のつもりなのだろうか。彼は俺の横にいるフェクドが見えなかったのだろうか、はたまた自分は床で寝るという意思表示なのだろうか。それとも、金欠なのだろうか。そうだとしたら申し訳ない。


 異議を唱えようとはしたが、代金はソルファ持ちだ。変に文句を言ってパーティーを追い出されたら今日の寝床はない。少しして勘定を済ませたソルファが来た。

「開いてるわよ。これ、部屋の鍵ね、勇者さん」

「ありがとうございます」

「ごゆっくり〜」


 …とりあえずフェクドは実体化させずに寝よう。そう思いながらソルファについていくと、思ったよりも少し広い部屋についた。部屋に入り、各々が荷物を置いたり外套や上着を脱いだりして整ったあと、ソルファが口を開いた。


「一旦細かな自己紹介をしますね。…先ほど俺の名前は『ソルファ』と言いましたが、あれは偽名なんです。本名は『ヴァルファリア=レイスギルト』。ヴァルフって呼んでください。長いので。…俺はもともと、レイスギルト帝国次期帝王だったんですが、蹴ったんです」

 そう聞いたキルアは、親近感を覚えた。

「…なんだか俺達、似ているのかもな」

 キルアのその発言を聞き、困惑したような表情をするヴァルフに、キルアは簡単な自己紹介をした。

「俺は、キルア=エペラー。エーペル皇国の次期皇帝…だった」

「なんだか似たもの同士ですね僕達。そういえば、さっきの青年は?」

 フェクドのことを訊かれ、少しどう説明するか考えた後、言った。

「俺の相棒…っていえばいいのか? 洞窟で野宿してたら俺に住み着いてきたんだ」

 キルアが適当に言うと、フェクドが実体化して言った。

「…俺が説明するよ。この脳足らずよりかはマシだろ」

 脳足らず、と言われたキルアは少しばかりか苛立ちを覚え、すかさずフェクドに言い返す。

「誰が脳足らずだ、若作り」

 若作りと言われ、少し腹が立ったような声色でフェクドが言い返す。


 顔を近づけ合い睨み合う二人を見て、話が長くなりそうな気配を感じたヴァルフが遮る。

「進まないから一旦終わって」

「「すみませんでした」」


 謝るとフェクドはくるりと回り、先ほどの解放感のある服から、小綺麗で上等な服を着た姿へと変身し、説明し始めた。


「えー、俺は、魔森に住んでた理神、ミレイの使徒だ」

「り…しん?」

 キルアが聞いたことがない、といった表情で呟くと、ヴァルフが軽く補足した。

「理を司る…と言われている神です。人間界では一部の人間から信仰されているようです」

 ヴァルフが補足したのを聞き、フェクドは満足げに語る。

「ああ。んで、ミレイが暇つぶしに作ってできたのが、俺だ」

 さすがに簡潔すぎる説明にキルアは「…さすがに端折ってるだろ?」とフェクドに訊いたが、フェクドは「端折らずにこれだ。それほど強大な力を持った神に俺は暇つぶしで生み出されたんだよ」と返した。

「そうなんですか…」

 ヴァルフが尊敬しているのか否か判別しにくい声で言った。

「んまあ、願えばなんでもできるから困ったことはないし、使徒の存在はそんなに明るみになってなくてな。話しかけられることなんか一回もなかった」


 明るく言うフェクドに、ヴァルフは丁寧に尋ねた。

「それなのに何故、キルアに住み着こうと思ったんですか?」

「こいつ、おもしれえんだ。エーペルからひとりでフラフラと歩いて魔森まで無傷で来て、なにもできないとか言って何年も魔森で魔物倒して生活して…はじめの目的すらも忘れてよ」

 『はじめの目的』と聞きキルアは、とっさにあるものを思い出し、懐からあの小さな包みを出した。

「はじめの目的…あっ! 包み!」

「俺に願えば良かったものを…ってお前、魔森に来るまで、誰かに案内されたか?」


 フェクドは呆れたようにそうキルアに尋ねた。キルアはフェクドに当時の状況を説明した。説明すればするほどフェクドの顔色が悪くなっていく。フェクドは焦ったように強く言った。


「その包みの封印は解いた…! 今すぐそれを開けろ!」

 話についていけない… と困惑するヴァルフにフェクドは慌てて謝る。

「すまない、こっちの話が続いてしまった。ヴァルフ、といったか。少し厄介なことが起きてしまった。手伝ってくれないか? 今のうちに戦闘の準備をしておいてくれ」

「は、はい!」

「こ、これは…」


 ヴァルフが戦闘の支度をする横でキルアが包みを開けると、そこには得体のしれない魔力が石となって入っていた。その石を見たヴァルフが小さく呟く。

「魔力石…なんでこんなものが、此処に?」

 魔力石。それは、魔族が死んだあとに残るもの。人間で例えると骨みたいな物だ。持ち主が死んだ後、魔力はその場に残留し、どんどんと固まっていく。だが、この現象が起こるのはごく稀で、保有魔力量がとても多い魔族でもならないことがあるほどだ。魔力量の少ない魔族だと魔力は残留することなく、空気と混ざる。


「この魔力、ラギの魔力だ…」

「ラギ?」

「俺の、側近の兵士のラギ=エペラー。…もしかして!」


 いや、そんなことはない! ラギが…


 心を落ち着かせようとするが、そんな俺の胸中など知らないヴァルフはいろいろと考察をしだす。

「包みの「死ぬなよ」がかなり古い年代に書かれたもののようです。おそらく、彼は昔に死んでいたと考えられます」

「ラギは…とうの昔に死んでいたのか…?」

「そういえば俺、エーペル古代史という歴史書にて、【ラギ=エペラー】という人物を目にしたことがあった気がする…」


 ヴァルフが無意識に言った言葉がキルアの心の中を巡る。キルアはもう自分に嘘を言い聞かせることもできなくなり、心が落ち着かず思った事全て口にした。

「それなら、あのときにみたのは一体誰だ? 俺が、ずっとずっと、ラギだと思ってたのは、誰…?」


 感情がぐちゃぐちゃになる。あのときの思い出は一体誰との思い出だった? 俺は誰と話していた? 俺は……


「だけど、最後に見たのは、ラギだ…」

「一体どういうことだ…? 説明を…」

 説明を求めるフェクドに、キルアはわめくように言った。

「説明なんかしてる場合じゃない! ラギは、まだ、生きている!」

 心を掻き乱されたキルアだが、心には謎の自信が湧きつつあった。その言葉を本当にしたい、幻想を現実にしたい、そう無意識に思い、言葉にする。


 なんだか口に出したら、本当になるような気がする。キルアは、そう強く思っていた。

キャラ・用語説明 +あとがき


【キルア=エペラー】

身長173cm

家出時17歳→洞窟からでたとき21歳

ラギの事は親友のように思っていた。

洞窟でいろんなものを捨てた。

無駄な荷物は持たない主義。


【フェクド=レジスト】

身長166cm

神の使徒。理神ミレイの暇つぶしで生み出された。

どれくらい生きているのかは不明。

荷物持ちにさせられるのが嫌でできるだけ移動中はキルアの中にいる。


【理神ミレイ】

神。フェクドを作ったやつ。


【ヴァルファリア=レイスギルト】

身長177cm

偽名はソルファ。

通称ヴァルフ。長いから。

しれっと荷物に官能小説を仕込んでいる。

長年歩いた帝王への道のせいで、タメ口を使おうとしても、だいたい敬語になる。


【魔力石】

魔力保有量が一定以上の魔族が死んだとき、たまに魔力が固まり、石となって残る。

原初の魔族は魔族よりもこの石ができる確率が高い。


【原初の魔族】

魔神ヴェルハが直々に生み出した生命体。

魔族とは似て非なるものだが、一部の魔族は、原初の魔族の子孫。


———

ここまで読んでくれてありがとうございます!!

まだBL要素はあまりないですな。

次ごろから雲行きが怪しくなると、作者は思いたいです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ