第十八話 冒険の目的
べ、別にサボってなんかないんだから…!(謝罪)
はるか昔、原初の魔族が幅を利かせていた時代。魔界で『それ』は起きた。
魔界創世戦争、そう名付けられた、原初の魔族たちの間で起きた大虐殺。この戦争の中で特に酷い者を挙げるとしたら誰だ、と問われたとき原初の魔族たちは皆、とある男の名前を口にした。
「ギリク=レイスギルト」
ギリクは、死人を操る能力を持って生まれた、【罪人】の設定を背負わされた男だった。あるとき、だれかの好奇心で、罪人を閉じ込めていた檻が破壊された。そして、ギリクは設定をなぞっていくように、虐殺を始めた。
一人殺せば能力で傀儡にして操り、その傀儡を使ってまた殺し、傀儡が死んだらまた傀儡にするか地に捨てていく。
そうやって、魔界創世戦争は始まった。そしてあるときギリクはひとつ言った。
「ここに、レイスギルト帝国を建国する!」
自身の檻があった、あの土地に国を作る。ギリクはそう言った。支離滅裂な発言に不快感を覚えた者や好奇心が強い者たちが、ギリクの元に挑みに行った。そのほとんどは撃退され、生き残った者は自力で撤退したものだけだった。そしてその撃退された者たちはギリクの手によって操られ、操られなかった者は自分で命を絶った。
だが、そんな生活にも終わりが来た。
「貴方がギリク? 思ったよりガタイいいのね」
「誰だ」
「私はクルーウェル。魔王として、あなたを倒しに来たの」
「なかなか、面白そうじゃないか」
ギリクは手を上げて振り下ろすと、操っていた死体は地に還り、強力な魔力場が発生した。どす黒い魔力が帯をなしてギリクのもとへと収束していく。目の前に立つ少女からは原初の魔族とは違うほかの力も感じる。
「お前、ひとりじゃないだろ?」
「ああ、この子のこと? 私に取り憑いて離れないの。この力は使わないから、純粋な勝負をしましょう」
「勿論だ」
両者魔法陣を展開して詠唱を始める。長い詠唱からして、一撃で相手を葬り去るつもりだろう。
――永遠に貫く、氷の牢獄。我がクルーウェルの魔力を媒介にして、かの者を永遠の眠りに誘え。これは我の願いにして、かの者の本質。覆すことのできないそのすべてよ、ここに!
――それは大いなる闇、万物をも等しく包み込む久遠の闇、それは消えることなく、光が在り続ける限り… ここに存在する!
【クリスタル・カルチェレ】
【イビルハグ】
クルーウェルからは青く透き通る宝石のような氷の柱が、ギリクからは闇の魔力が帯をなして、お互いへと迫ってゆく。両者の魔力がぶつかったとき、それらの魔力は勢いよく相殺される。ギリクはファストスペルを詠唱しようとした、だが、クルーウェルは違った。
「油断してるの?」
クルーウェルは相殺された魔力の中、ギリクめがけて突進していた。詠唱に集中していたギリクはすぐに反応することができず、クルーウェルの手に胸を貫かれた。 クルーウェルがギリクから手を引き抜くと、ギリクはゆっくりと倒れた。
「私の勝ち」
「…また闘おう、クルーウェル」
そう言ったきり、ギリクが起きることはなかった。あるときまでは。
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「フェクド、エターナル」
小さくて暗い部屋に緊張が走る。ヴァルフはこの次に何を言うのか、ヴァルフの次の動きに注意しながら俺たちはじりじりと近づいていく。
「俺に何をするつもりだ?」
「…また、一緒に冒険しよう、ソルファ」
魔法によって枷を外されたヴァルフは、ゆっくりと立ち上がった。
「大丈夫だ、俺たちはいつで…」
「もう、いいんだ」
俺たちは、ヴァルフが戻ってくる。そう思って安堵しきっていた。安堵しきっていたせいで、思っていなかった言葉に、思わず言葉を失った。
「短い間で、俺が役に立ったことなんかあったか? ずっとずっと、何にも役に立ててない! フェクドのような破邪の力も、エターナルのような強い魔法も、キルアやルガスのような周りを和ませることも、何にもできない! こんなやつ、いてもいなくても同じじゃないか!」
「ソルファ!」
フェクドがヴァルフに強めの語気で言った。少しフェクドは苛立っているらしい。
「強くも、頼りにもならない俺なんかが居たって、足でまといにしかならない! そんなのだったら、さっさと抜けてし…」
「ソルファ」
「…なんだよ」
「お前はこの旅の目的を忘れたのか?」
俺はとりあえずそう言った。なんとなく、ヴァルフは自身のやりたいこととやるべきことがわかっていない気がしたからだ。
「目的…」
「魔王を、倒すんじゃなかったのか?」
「…」
ヴァルフは黙ってしまった。後ろからしれっと見ているボルカーが『だから話すなっていったよね? 責任は自分でとってよね』と目で伝えてくる。
「…俺は」
昔から、ある一人の男に憧れていた。ヴァルファリア=レイスギルトから見た、祖父の祖父である、ギリク=レイスギルトに。
レイスギルトの者であると証明する儀式中、ひとつの声が聞こえた。『俺の力が欲しいか?』と。
視界が揺らいで、ひとつの闇がこちらを「見ている」と、はっきり感じた。
「なにかが聞こえる、得体のしれない者が、こちらを見ている! これは一体何だ! 答えろ!」
「ああ! 儀式は成功したのです… タフラシア様、ヴァルファリア様は選ばれたのです…!」
「そうかそうか! それは素晴らしいことだ… ヴァルファリア、喜べ! お前は、選ばれたのだ」
ズズッと自身の身体を何かが這いまわるような感触に、俺は何故か魅入られていった。
――ヴァルフ、お前に俺の力を授ける。
「ヴァルフ? 俺は…」
――長いからだ。ヴァルフ、俺は、お前の元にずっといる。離れることはない
「貴方は、誰だ?」
――ギリク=レイスギルトだ。
目の前の闇が、視界を、身体を、覆ってゆく。俺は、大いなる闇に手を伸ばした。
やがて儀式は終わって、俺の首から下にはレイスギルトの紋章が刻み込まれた。日焼けしてない俺の白い身体を縛るように、真っ暗闇が激しく主張する。
「俺は…」
やっと思い出した、この冒険の目的を。俺は、ギリクの願いを叶えるために、俺をモノだとしか思っていないタフラシアに俺という存在を刻み込むために、冒険に出たんだった。
「…すまない、取り乱してしまった」
まあそんなものさ、と言うようにフェクドは俺の傷を癒やしつつも俺に服を差し出す。エターナルは宙を眺めて何やらニヤついている。
「エターナルは何してんだ?」
「…はっ、ギリクがお前から追い出されて迷子になっているのが面白くてつい眺めてしまった」
「迷子になっている?」
着替え終わってすぐに服をめくって確認すると、ギリクが俺に刻み込んだレイスギルトの紋章の殆どが消え去って、遠い記憶に薄く残っている白い素肌が見えた。
「原初の魔族が死ぬと通常、冥界へと送られる。冥界から魔界に戻ってくるには特殊な儀式を挟む必要があって、儀式には原初の魔族を呼び起こすための生贄が必要になるんだ… その生贄がキュアー系統の最上位魔法を喰らえばそのリンクは外れる」
エターナルが詳細を話す。フェクドは俺の顔を少し見ると俺にひとつ言った。
「…俺が戻してやるから、じっとしていろ。──我が創造主であるミレイ=レジスト、依代であるヴァルファリア=レイスギルト、そして我、フェクド=レジストの名のもとに」
フェクドはそう言うと俺の額に手を当て、詠唱を始める。「──罪人よ、過去の罪を、未来でどうやって償おうとする?」あの時とは違って、闇の中に光が灯っている。「──我が許可しよう、この地で、この世界での活動を」闇は俺の視界を覆ったあと、一つの人影を映して俺に触れる。
──我が創造主の手によって、再びこの世に戻れるとは思ってもいなかった。ヴァルフ、俺との約束は覚えているだろうか。俺は、お前を目的の地まで連れて行く。お前は、俺を二面性女と再戦させる。
ああ勿論覚えているよ、ギリク。俺は、お前をクルーウェルがいる魔王城へと連れて行く。そうだろう?
「そして… ──その姿を表すことを」
【アブソリュート・リザレクション】
閃光のもと俺の身体に刻まれたギリクは、前とは違う美しい柄となって現れる。暗闇のようだったそれは光を帯びて澄んだ赤色に変化した。
「…ありがとう」
小さく、だが聞こえない訳でもない声が零れた。誰に向けて言ったのかも、この一瞬で忘れてしまうほどに。
【ギリク君のうらばなし】
ギリク君は死体を操るネクロマンサー的立ち位置だが、死体自体はあまり好きではない。ただ殲滅が好きなだけでその他に理由などなく、自己愛が強いというわけでもなく、ただ『自分が壊滅させたもの』が好きなだけ。自ら手を下したモノ以外は眼中にない。
ヴァルフはなんとなく自分と似ていたのでお気にになった。
ちなむとヴァルフとギリクは血縁関係にありません。戦闘狂で変態なギリクを好むような物好きな奴は、ギリクと出会う前に他の変態を好んだ為、ギリクに子孫はない。ギリクの次のレイスギルトはただ自分で名乗りだしただけの一般魔族です。




