第十七話 運命の出会い 下
今、この子はなんて言った? さすがに俺の聞き間違い、だよな?
「すまないが、もう一度言ってくれないか…?」
少女は顔を赤らめて俺をじっと見る。聞き間違いなんかではない、とその目は俺に伝えてきた。
「一回だけ、一回だけでいいの…!」
少女はじりじりと俺をベッド(だったもの)へと追い詰めていく。あれはとうの昔に木が腐って使えなくなったハリボテだ、あんなところでやったら間違いなく病気になる!!
「ちょっとだけ待ってくれ、クルア。このベッドは腐ってて使えないんだ。だから…」
「それなら床でいい!」
少女は不慣れな手つきで服のボタンをひとつずつ外すと、床に俺を押し倒した。なんというチラリズム。
「一回だけ、だから…」
視界が、透き通るような肌一色に染まった。少女のエメラルドのような目が俺をまっすぐと見て離さない。
甘い、甘い… さっきまで肉食べていたはずなのになんでこんなに甘いんだ?
「わたしたち魔精は、体内でブトフの毒を作ることができるの。大丈夫、すぐに眠たくなるから」
――――――
身体が痛い、全身がミシミシと音を立てる。頭がぼうっとしてはっきりしない。ブトフの副作用だったっけ…
「クルアは…」
どうにか起き上がって周りを見回すも、クルアの姿はどこにもなかった。あれは夢だ、幻覚だ、と自分を偽ろうとしても、痛む全身といつもより三割増に汚れて見える床が現実を突きつける。
「ベッド、作り直したほうがいいか…?」
さすがに腐ったベッドを放置するのはよくないと思ったが、触るのすら憚られそうなカビの巣に触れる勇気は出ず、気休めに床を掃除することにした。
「というか初めて部屋を掃除する気がする…」
何年かぶんの汚れが溜まりまくった床は作ったモップの毛をすぐに真っ黒にした。
――――――
「…キルア?」
やっと思い出した。あの時に俺の初めてをかっさらっていった、クルアだ。上目遣いで見てくる顔を懐かしいと思ったのは内緒だ。
「ああ、クルアか! 久しぶり」
「あの、あのね… キルア」
少しどもった話し方も昔と同じだ。それなら昔と態度は一緒でいいか。
「どうしたんだ?」
「わたしたちを、助けて」
――――――
ボルカーが扉を開けた瞬間、俺達は部屋の中に飛び込んだ。真っ暗闇の中にひとり、乱れた長い髪をだらりと垂らして椅子に座る、ひとりの男を見た。
「…フェクドと、エターナルか?」
ヴァルフはそう問い、俺たちを振り返って見た。繋がれた枷がガチャガチャと音をたてて引きずられる。
乱れた髪の間から見える首筋には、ヴァルフの出自を明らかにする厨二じみたタトゥーがびっしりと掘られていた。
【リセットキュアー】
無発声で発動させた魔法は、ヴァルフを縛る枷をすべて消し去った。
「(捕まえるぞ、エターナル)」
「(もちろんだ)」
俺達は目を見合わせて、ヴァルフを捕まえに動いた。
あとがき
表現規制との戦いだ! これは!!