第十六話 運命の出会い 上
それは、洞窟暮らしをしていたあの日に一回だけやったことだ。
いつも通り湧いてくる魔物を斬って、殺して、皮を剥いで肉を焼いて食べて、剣を磨いて、寝る。その日はただそれを繰り返そうと剣を磨いていた。
「切れ味も悪くなってきたなあ… 新しい剣でも作ってみようか… 今日は眠いから明日にしよう」
どうでもいいことばかり呟いて、小腹が空いてはそこの肉をつまんで食べるのを繰り返していたとき、誰も叩いてこないと思っていた扉が叩かれた。
警戒して、まだ磨いている途中の剣を持って、扉に正対した。扉の向こうには誰がいるのだ、そう思いながら剣の柄を握りしめた。
「誰だ!」
返答は、予想外なことに、幼い女の子の声だった。よく聞き取れなかったが、間違いなく、幼い女の子の声だった。
「すみませんっ! 今晩だけでいいんですっ! …泊まらせてください!」
ここは洞窟の奥。こんなところにこんな幼い子供は入ってこられないはずだ。どれだけ運が良くても、魔物の巣窟と化したこの洞窟で、魔物に出会わないわけがないだろう?
俺は適当に作った扉の木々の隙間から本当に相手が幼い子どもなのかを確かめたが、声の通り、幼い子どもだ。だが、どこか魔族とは違うような、そんな雰囲気があった。
危険はない、そう本能が告げている。本当に開けてもいいのか? そう思ったが、明日起きたときに子供の死体なんか見たくはなかった俺は恐る恐る、扉を開けた。
軋んだ音を上げて扉はゆっくりと開くと、子供を迎え入れた。
「ありがとう、ございます!」
きんきんとはしない、柔らかくて高い声が耳を癒やす。こんな声、久しぶりに聞いたような気がする。城に居たとき以来だろうか。城にはいつもエーペルの子供が勝手に侵入しては兵士に追い出されていく。そのときの声に、なんとなく似ているように感じた。
少女の腹が鳴った。こんな肉、あまり他人に食べさせたくは無いが…
「魔物の肉でいいなら、食べるか?」
「いいんですかぁ!?」
「それなら少しだけ待ってろ。しっかり焼くから」
「ありがとう、お兄ちゃん!」
お兄ちゃん、あまり馴染みのない響きだ。妹も弟もいなかったから、新鮮だ。
さっきよりかはいい匂いが部屋に漂ってきた。そろそろいい具合だろうか。骨董品と化した皿を引っ張り出して水で洗うとそこに肉を置いて少女に手渡した。
「美味しそう!」
「そうか…? まあ食え。腹下しても知らねえけど」
「だいじょうぶ、わたし、どんなお肉食べても、お腹こわしたことないから!」
少女が小さい口で図体に合わないでかい肉を頬張っているのをじっと眺めつづけた。
もつもつとよく噛んで食べている。なんだか昔を思い出すような、思い出さないような…
数分後、少女は肉を食べ終わった。すると、口を開いた。
「お名前、なんていうの?」
「キルアだ」
「わたし、クルア! あの、あのね…」
「どうしたんだ? 言ってみろ」
少女は俺の横まで移動してきて、耳元である言葉を囁いた。
「……へ?」
あとがき
キルア君、チョロすぎるだろお前




