第十三話 魔法
目を開けると、真っ暗な部屋に居た。
「やっと起きた?」
話しかけてきたのは、さっきの商人の男? だろうか。水晶は持っていないが、目を開いている。暗闇の中でもはっきりと見える、水晶のような目。
「きみ、ヴァルファリア=レイスギルト君だよね?」
「!」
「ソルファって誤魔化してるらしいじゃん」
急に自分の本名を言い当てられ、どきりとした。服さえ着ていれば、基本はレイスギルトの者であることがばれることはない。だが、首元を見られると終いだ。なぜならレイスギルトの者であることを証明する儀式によって首にはレイスギルトの紋章と名前がタトゥーとして入っていて、そしてこれを真似ることも消すこともできないからだ。そして、今は、いつも首を覆っているマフラーがなくなっている。
「それだけは、言わないでくれ! 何でもする、このことだけは言わないでほしい」
「何でもする! いい響きだよねえ。じゃあこれからは俺の言うことに従ってもらおうか、ヴァルフ君」
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思えば久しぶりにフェクドと共闘するような気がする。久しぶり、と言っても死んで生き返るまでの時間をなくせば短い間だが。
「お嬢に手を出した罪、万死に値する!」
「今なら娼婦堕ちだけで勘弁してやるぜぇ?」
「…悪いが、お前たちには黙っててもらう!」
アルトにだけ捧げた身体を、見ず知らずの奴なんかにくれてやるものか。俺は魔法の詠唱を進めた。…まあこの程度のごろつきなら、これでいいだろう。
――雄大な水よ、精霊よ、大地に染まりし真水よ!
【ハイドロソード】
魔力で生成された水剣は、彼らを貫く直前、彼らの身体に魔法陣が出現し、跳ね返された。
「そこらの魔法なんざ、我らに効くわけ無いだろう! お頭のご加護がある限り、魔法は通さない!」
舐めてかかったのは良くなかったようだ。
「これなら、どうだ?」
【ファストスペル・フルグラビティ】
彼らの身体に現れた魔法陣を破壊することは出来たか。まあ、久しぶりの魔法にしては上出来だろう。どうやら、フェクドの詠唱が終わったらしい。
「お頭の魔法陣が!」
「差し込め、フェクド!」
――罪深き者共に、天の裁きを与えよ!
【ジャッジメント】
フェクドの真上から現れた眩い光の槍。あの時の光の槍。断罪の光。
「光属性なんて、聞いてないぞ!」
「防御陣を展開しろ!」
「間に合わない!」
【ファストスペル・リフレクト】
刹那現れた魔法陣。光り輝くさまは旧友を彷彿とさせる。本当に、旧友だったとは思わなかったが。
「…ボルカー?」
「へぇ〜、生き返りでもしたのかぃ? エターナル」
メスガキじみた声に幼女みたいな姿。昔から一つも変わらない少女は風貌にそぐわぬ飲み物を持って佇んでいた。
あとがき
n回目の導入。はっきりわかんだね。ボルカーはエターナルがアルトと出会う前の友達。
ファストスペルは便利な魔法。
高速詠唱したり、魔法を予約詠唱したり、魔法に続けて詠唱したり、便利な魔法。だが魔力消費量は馬鹿にならない。




