表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/6

秘境に咲く紫陽花

 

 六月の空が泣き出した。

 傘を叩く雨音は強まるばかりで、僕はため息をこぼす。

 山の天気は変わりやすい。

 知識としては入れていたが、こんなにも急転するとは思わなかった。


 晴山(はれやま)蒼弥(そうや)は、生粋の雨男だ。

 生まれた瞬間から反抗期を迎えていたのかもしれない。

 晴山という姓にも関わらず、山に来ると高確率で雨を降らせてしまう。

 今からでも遅くない。僕だけでも雨山(あめやま)と名乗ろう。

 そんな馬鹿なことを考えていると、苔の生えた古い山門が見えてきた。


 ここは、人里離れた奥地。

 突然、姿を現した立派な山門は、異様な雰囲気を漂わせている。

 雨宿りも兼ねて、 蒼弥(そうや)は山門へと足を踏み入れた。

 傘をたたみ、ふぅと息を吐く。

「疲れた……」


 何時間歩いたことだろう。

 慣れない山道の上に、途中から降り出した雨によって体力はかなり削られてしまった。

 ここが、どこなのかも分からない。

 現在地を確かめようにも、こんな山奥の僻地では電波も届かない。

 スマホを見つめていると、充電が切れて画面が真っ暗になった。

 暗い画面に映るのは、今にも泣きそうな自分の顔。

「……ほんと、最悪だわ」

 寝坊さえしなければ、こんな事にはならなったのだろう。


 今日始まる部活の合宿に参加するために、蒼弥(そうや)は知らない田舎町へと来ていた。

 高校からマイクロバスに乗って、他の部員と共に合宿所へと向かう予定だったが、寝坊により個人で向かうことになってしまったのだ。


 電車とバスを乗り継いで合宿所がある町へ。

 何とか合宿所の近くまで辿り着けたが、そこで判断を誤ってしまう。

 きっと、違う山道に入ってしまったのだろう。

 どんなに進んでも、目的の場所は姿を現さなかった。

 焦る心に突き動かされるがまま山道を登り続けたが、合宿所へ辿り着けず今に至る。


「……どうすっかな」

 道を引き返すにしても、この雨のなか山道を歩くのは危険だ。

 何より、体力がもう残っていない。

 スマホも使えず、非常食も無い。

 山門の先に人が居ると信じて、進むしかないのだろう。

 蒼弥(そうや)は疲労で重たくなった身体を動かし、山門の先へと歩き出した。



 霧に覆われた世界に足を踏み入れる。

 少し進むと、水色やピンクの淡い色が浮かび上がってきた。

 そして、澄んだ水面が姿を現す。

 見えてきたのは、紫陽花に囲われた池だった。

 澄んだ水面は透き通り、霧に浮かぶ花の色も美しい。

 蒼弥(そうや)は池の周りを歩き、その奥にある木造の本堂へと向かう。

 近づいてみると、少しだけ雨戸が開いていて、ほのかにお香の匂いもした。


「すみません。誰かいらっしゃいませんか?」

 声をかけても反応は無く、蒼弥(そうや)は本堂の正面に向かう。

 扉は閉ざされていたが、ある物を見つけた。


「……日付を書き、御朱印をお納めください……?」


 置かれた木箱の中には、書置きの御朱印が並んでいた。

 御朱印とは、神社や寺院を参拝した証として授けられるもの。

 御朱印帳にその場で書き入れる『直書き』と、事前に和紙に書かれた『書置き』の二種類があり、ここでは後者のみ頒布しているようだ。


 木箱には、『青』『ピンク』『紫』『白』の四種類が収められており、それぞれに紫陽花の絵が描かれている。

 達筆な筆字と、四色の独特な朱印。

 木箱の中で静かに佇む姿は、目を奪われるほど美しい。


 蒼弥(そうや)は財布を取りだし、初穂料を指定の場所に入れる。

 そして、『紫』の御朱印を手に取り、今日の日付を書き入れた。

 ただ、一つだけ分からないことがある。

 この御朱印は、どこに収めれば良いのだろう。

 辺りを見渡しても、それらしき場所は無い。

 本堂の扉を開けようと思ったが、鍵が閉まっていて開かなかった。


「一応、置いておくか」

 蒼弥(そうや)は最初に見つけた雨戸の開いた部屋の前へと戻り、畳の上に御朱印を置いた。

 そして、雨から逃げるように本堂の入口へと引き返す。

 雨足は弱まってきたが、まだ止みそうにはない。

「……はぁ」



「ねぇ、こんなところで何してるの?」



今年も残り僅かとなりましたね

美珠夏/misyukaの宮本です (。•ᴗ•∩)オス


今日から『虹の紫陽花』連載STARTです❀.*・゜

水曜日、日曜日の週2回。全6話!


2024年 最後にお届けする 不思議な物語

ゆっくりと、お楽しみください(*´︶`*)ノ

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ