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スーツ。宇宙人の姿がみんな同じわけ

作者: コロン

しいなここみ様主催「朝起きたら企画」参加作品になります。

よろしくお願いします。





 

「30年費やしても…」


 この程度の進歩しかしない。


 哀れな惑星J1-70791。



 我々にとって30年という月日は瞬きの時間でしかない。しかしJ1に住まうモノにしたらそれなりの時間だそうだ。


 J1に住む下等生物たち。

 よくこんなところに生物が住めるもんだと感心してしまう。


 彼らは有毒物質に浸って生きている。

 しかし彼らの技術では、大気中の毒さえ検出する事が出来ないのだ。

 取り込めばゆっくりと、しかし確実に死を迎える酸素(どく)

 大気調整の術を知らない彼らは、マスクも被らずその毒を取り込み続け、本当の理由もわからないまま死んでいく。





 マスクだけではない。

 我々のように全身をすっぽりと覆い、個体差を無くすスーツを彼らは知らない。


 原始的な素材で出来たスーツに毒や光を調整する機能は全くない。何の機能も防御力もないスーツをただ身に着けているだけの彼らは、肌からも毒を吸収して死んでいくのだ。


 毒で満たされた大気で暮らす彼らの生命活動時間はとても短い。

 産まれて無事に生き延びる事も少なく、彼らはまだ病気や怪我をなかった事に出来ない。


 12時間で光と影が出来るJ1惑星の営みに合わせて生きるしか術を知らない彼らは、雨が降れば流され、大地が揺れば恐怖に慄き、日が照れば水に飢えて枯れてしまう。

 環境をコントロールする事など出来ないでいる。




 J1に暮らす生物は、エネルギーの補給はJ1で採取された動物や植物のみを繰り返し補給し続けなければならない。

 我々のように一度エネルギーを取り込むだけで、半永久的に生きる事は出来ないのだ。


 さらに驚いたことに、彼らはまだ性別というものを維持しているのだ。


 産まれる時点で身体の構造を2種類とし、その2種が揃うことで、新しい個体を作り出すという。

 それはJ1に住むほとんどの生物に共通するらしい。

 稀に我々と同じように一つの個体で新しい個体を作り出すことが出来るモノもいるそうだが、それらは雌雄同体といって構造が単純なものである。


 我々がとうの昔に手放した性別、病、生と死に迷い、苦しみながら暮らす彼ら。




 手を差し伸べてやりたいのはやまやまだが、知識のないモノに高度な知識を与えても正しく使うことが出来ない。

 過去に実験として我々のエネルギー源を少し与えてみたら、あろうことかJ1を破壊するシステムを開発したのだ。


「J1生物に我々の知識を分け与えるのは、J1生物の絶滅を早めるだけ」


 このことを経験し、我々はJ1に住まう生物等を劣等生物として見守る事にした。


 しかし彼らはわれわれを「侵略の為の地球調査に来ている」と思っているらしい。

 高度文明の我々が、毒に塗れた下等生物の居住地を侵略する理由はない。


 我々の登場に怯え、慄く下等生物たち。

 貧しい知識で精一杯、なんとか生きながらえているのだ。そのか弱さは、見るたびに胸が痛くなる。


 しかし、それももうすぐ終わりを迎える。





「さて…行くか…」


 私は手元にある航空券を見る。


 すでに世界中から観光客やビジネスマンに扮した仲間たちが、日本の成田空港に集まっている。

 この飛行機に乗るのは全て我々の仲間たち。

 パイロットも乗務員、客も。


 世界中に散らばった仲間たちが、今夜全員J1を離れる。

 そして仲間が乗った飛行機は離陸後、空中分解する予定なのだ。その時、我々は瞬間移動で星に戻る。



 そして38時間後…


 J1は消滅する。







 《ピッ。J1の消滅一分前です》


 私のいた日本。

 日本の人々は…朝起きたら…そこまで考えて笑いが込み上げた「アハハハ。私には関係ないか」ニンゲンと接する時間があったからだろうか。少しだけセンチメンタルになっていた。



 不意に脳内に青いJ1-70791chikyuの映像が流れ込む。



「さようなら。j1-70791chikyu」



 次の瞬間。遥か彼方、我々の母星から放たれたシンクロトロン放射が地球を貫いた。





 。。。


「書けた〜」


 2025年10月16日。日付が変わる少し前。


 しいなここみ企画の「朝起きたら〇〇になっていた」の参加作品を書き終えた私は[投稿]のボタンを押した。


「思ったより説明っぽい話になっちゃったけど…大丈夫だったかな…」


 そんな事を呟き、足元に丸まる猫を避けながらベッドに入る。

 目を瞑れば、ほかほかとしたお布団の温さにすぐに眠りについた。



 。。。





「地球人の中に、我々と同じ意思疎通能力を持つ者がいたらしい…」


 我々の共通思念がそのまま、とある小説サイトに投稿された。

 仲間の誰かが思念を漏らしたと言うわけではない。これを書いた作者が思いついたように見せかけて、我々の思念を公開したようだ。


「此奴を消さねばならぬ」


 それが我々の共通認識だった。



「最後の情けで、死ぬ前に朝日を拝ましてやろう。地球人はそういうのが好きなんだろう?」


 モニター越しに、すやすやと眠る人間を見ながらそう呟いた。


 。。。






 しいなここみの企画に参加したせいで。

 朝起きたら宇宙人に殺される事になっていた。




挿絵(By みてみん)

 スーツは背中チャック!


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― 新着の感想 ―
思いもよらぬことで殺意を抱かれてしまい…という事件は現実にもありますが、スケールが桁違いですね。 「最後の情け」を与えてくれる宇宙人にほんの少し「いいところもあるじゃないか」と思ってしまいました。
面白かったです。 これを読んだら? 明日の朝には? 大歓迎です。たぶん私が消えたあと応募してあったあれこれが選出されて、周りの人達が消えた私のことを夭折と惜しんでくれるでしょう(→おい… 感想のてい…
ちょっとコロンちゃん、あなた何者なの!? 干物? 獲物? 光り物? ……ふっ、まぁいいわ。 全く最近の地球人ときたら想像力が豊かね。 でも残念、我々中二病星人に比べれば、まだまだよ! とりあえず…
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